12: 情報
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情報とは何にも勝る重要なものだと思う。
情報を持っていれば、できるだけ事態を悪化させないように立ち回ることが出来るかもしれないし、前もって問題を解決することが出来るかもしれない。
いくら莫大な金を持っていたとしても後手後手の対応では身を破滅させるだけだろう。
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「――やはり懸念は当たっていたか」
本日、オレたちが感じた事――確実にモンスターの出現数が増加しているという報告を聞いたゴルギアスの表情は晴れない。
「ええ、父上が仰っていた通り明らかに異常でした」
「大きな問題に発展する前に気付くことが出来て良かったが、どうしたものか。まだ原因がはっきりしない段階では何も手立てが打てんな」
神妙な面持ちで考え込むゴルギアス。
「申し訳ございません。
原因までは今日の内では掴めず、突き止めるまでに少々時間が掛ってしまうかもしれません」
ゴルギアスの様子を受けて、フレイヤが申し訳なさそうに頭を下げる。
「い、いや、別に責めているわけではない。
モンスターの出現数が増えている、それを確認できたことだけでも十分だ」
娘の態度にゴルギアスが慌てて取り繕う。
「それに、冒険者ギルドからもこれと言った情報は報告されてこなかったからな。四人で行動しているお前たちが発見することが出来なかったとしても、それは仕方がないことだぞ」
昼は貴族たちにこき使われ、夜は娘の機嫌を取ろうと奮闘する。世の中の下級貴族の父親というものはかくも大変なのか。
オレがゴルギアスに少しばかり憐みの籠った視線を向けていると、当の本人と視線が合った。
「……何を見ている?」
「いえ、何も」
「……」
「……」
仮にも貴族家の当主に対して向けて良いような視線ではなかったからといって、そんなに睨まないで欲しい。
「当主様、明日も頑張って調査するので任せてください!」
「魔法の鍛錬にもなりますし、一石二鳥ですから」
オレとゴルギアスの雰囲気を感じとって、ルナリアとリーフィアが気を利かせてくれる。
「……よろしく頼むよ」
こうして明日からも調査を続行することを約束し、オレたちはゴルギアスの私室を後にした。
「――それで、どうするの?」
「どうするとは?」
オレの部屋にはルナリアたち三人の姿があった。誰から言い出したのか忘れてしまったが、ここ最近、就寝前にこうしてオレの部屋へと集まって明日の予定などを話し合っている。
なぜオレの部屋かと言うと、オレと同室のステラとコミュニケーションを図るという意図もある。オレたちは日中の間は屋敷にいないことが多いし、ステラもメイド見習いで忙しく、なかなか顔を合わせる時間を確保することが出来ない。
加えて、ステラはオレのことを一番に考えているため、ルナリアたちに対しては優先度がそこまで高くなく、時間があると常にオレの傍から離れない。ステラに好かれているという事はかなりうれしいのだが、それではステラの今後の為にもならない。
そのため、こうしてオレの部屋に集まることによってステラとも交流を図り、ステラの情操教育に一役買っていると言う訳だ。
「もちろん明日からの調査の仕方よ。
今日だけでもそれなりの成果を上げることは出来たと思うのだけど、それでも確信に迫ることは出来なかったじゃない。それなら、明日からはもっと奥へと踏み込むべきだと思うの」
「私もルナリアの案に賛成です。
今日のモンスターたちは森の奥からこちらに向かってきているような感じでした。何か原因があるなら、森の奥にあると思うのです」
確かに、リーフィアの言う通り今日討伐したモンスターたちは森の奥から抜け出してきたような印象だった。それこそ何かから逃れるように。それならば、森の奥にモンスターたちが逃れようとしているものがあると考えて間違いないだろう。
「私もこの件に関しては嫌な胸騒ぎがする。
原因究明は早ければ早いほど良いだろう」
「では、明日からはもっと奥に足を踏み入れることにしますか」
オレは腕の中で眠たげに目をこするステラの頭を優しくなでる。もうすでに夜が更けてしまっていて、オレもかなり眠い。そんな中、まだまだ子供であるステラが今にも寝てしまいそうだということも仕方がない事だろう。むしろ、よく今まで寝ずにいれたものだ。主人であるオレよりも先に寝ることは出来ないという事らしいが、成長のためにもオレの事なんて考えずに寝て欲しい。
ステラは睡眠へと誘う悪魔と化したオレの手からどうにか逃れようとしているが、結局は頭を撫でられる気持ちよさに抗うことが出来ずに、徐々に瞼が落ちていく。
オレはそんな愛らしいステラの様子を堪能していた。
「……私にも撫でさせてくれないか?」
フレイヤが羨ましそうにこちらを見てくる。
最近のフレイヤはステラと顔を合わせた当初と比べて、かなり落ち着いたと思う。それは、あまりステラへと構いすぎるとかえって嫌われると学習したのだろう。時折、不審者のようになってしまうが、それでもかなり抑えていると言ってよいだろう。
「……ステラが起きないようにな」
オレは腕の中で小さな寝息を立て始めたステラの頭をステラの方へと向ける。フレイヤは恐る恐る手を伸ばすとステラの滑らかな髪の感触を堪能する。その時のフレイヤの表情は本人の名誉のためにも言及しないでおこう。
その後、ルナリアとリーフィアもステラを撫で始め、穏やかな夜が過ぎて行った。
「――それで、アレンは何をしているんだ?
アレンたちはわざわざ依頼を受けなくても良いんだろう?」
次の日の朝、オレたちの姿は冒険者ギルドにあった。
そこで出くわしたのが、昨日知り合いとなったクリニドだ。
オレたちのパーティーにフレイヤがいることを知っているクリニドは、オレたちがギルドを訪れていることが疑問のようだ。
「別に依頼を受けに来たわけではないよ。ただ、何かしらの情報が得られればと思ってな」
「ああ、なるほど」
クリニドの考えている通り、オレたちが今回の件でギルドに訪れなければならない理由はさほどない。唯一あるのは、討伐したモンスターを買い取ってもらうという事だけだ。ただ、それも別に今すぐにしなければならないという事ではない。モンスターの出現率増加の原因が分かった場合においても、ギルドに報告するよりもゴルギアスに直接報告した方が早い。
そんなオレたちが今回朝からギルドを訪れた目的は情報だ。オレたち四人でいくら頑張ってもそれには限界がある。それならば、オレたちの何十倍もの人数が集う冒険者ギルドにて何かしらの情報がないかと探した方が効率的だろう。
冒険者ギルドは日々さまざまな情報が飛び交っている。酒が美味しい店や良い夜の店など今回の件に関係しないものの他、当然依頼に関するものも多くやり取りがされている。少しでもそうした情報を得ることが出来たならば、今後のオレたちの行動に大いに役立つだろう。
「俺たちも昨日から依頼を受けてはいるが、これと言って収穫は無かったな。モンスターの数は多いと思ったけど」
クリニドはこう見えてパーティーのリーダーらしい。他のメンバーらしき冒険者は周囲には見受けられないが、おそらくギルド内にいるのだろう。一人でいるところに運よくオレを見つけて声をかけて来たそうだ。
「まあ、何かあったら情報を回してくれるとありがたいよ。ギルドに報告した後で良いからさ」
今回の依頼において、情報を持ち帰りギルドに報告することに意味があるのだから、ギルドに報告する前に情報を貰おうなんて強欲なことは考えていない。それはクリニドもしっかりと認識しているようだ。パーティーのリーダーとしてその判断は正しいだろう。
オレは残念な表情をしながらこちらへと近づいてくるルナリアたちに気が付き、クリニドに別れを告げながら彼女たちの方へと向かった。
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