11: 初めての友達?
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知り合いとはどういう時に出来るのだろうか? 子どもの頃は何も考えずに気付いたら友達になっていたなんてざらにあったけれども、大人になってからはそう言ったことはほとんどない。
大人になったことでオレの中にある何かが変わってしまったのだろう。
ともあれ、オレにはほとんど知り合いがいない。これが普通なのかどうかという事は考えないでおく。真実を知ってしまったらオレの心に大きなダメージが与えられるかもしれないから。
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「――みんなだけズルいぞ。オレもその両手に持っているのと同じものを要求する」
フレイヤとセレナさんの関係をどうにか取り持ち、今回手に入れた大量のモンスターの死骸をギルドに売却した後、三人だけで楽しんでいた酒と串を要求した。これはオレに与えられた当然の権利であり、誰であろうと干渉させない。
因みにだが、大量のモンスター、しかも珍しいキラートレントを『魔法の鞄』から取り出した時のセレナさんの引きつった表情はオレの脳裏に鮮明に保存済みだ。今までもモンスターの引き渡しでセレナさんを驚かせてしまっていたが、今回は今までの衝撃度をはるかに上回ることが出来たと思う。
その要因としては、オレたち自身の技量が飛躍的に上がったという事とオレたちのパーティーにフレイヤが加入したという事もあって、その討伐量はそこらの冒険者パーティーとは比べ物にならないものとなったこともあげられるだろう。
「屋敷に戻れば晩御飯が待っているのだから程々にな」
フレイヤが『しょうがないな』という雰囲気を醸し出してくる。なぜにオレがそんな聞き分けのない子供みたいに扱われなければならないのか甚だ疑問だ。
それにオレに注意しながら、美味しそうに串に刺さった肉に齧り付く姿では説得力が微塵もない。
「晩御飯を残したらステラが可愛そうだから、ちょっとにしておくのよ」
肉を酒で胃に流し込み満足げな表情のルナリア。
「分かってるよ!」
オレがステラの用意してくれた料理を残す訳ないじゃないか。どんなに腹が膨れていようと、ステラの料理であれば腹がはちきれようと完食することが出来る。
「オレも注文してくるから待っていてくれ!」
オレは三人にそう言い残して、オレの腹を強烈に刺激する方へと走って向かった。
「ウィリムさん、オレもあの三人と同じものを!」
晩御飯時でそれなりに混雑していた食堂にオレの声が響く。
「アレンくん、そんなに大きな声で言わなくても聞こえてるわよ」
オレの声は周囲の活気にかき消されることなく無事にウィリムさんに届いたようだ。ウィリムさんだけでなく周囲の冒険者たちにも注目されてしまってはいるが、今はそんなこと関係ない。いち早くオレの求めるものを手に入れねば!
「すぐに持っていくからテーブルで待っていて」
やはり忙しいようで、ウィリムさんはそう言うと他のテーブルへと料理を運んでいく。オレは素直に空いているテーブルへと腰を下ろす。
「――あんた、アレンだよな? あのフレイヤとパーティーを組んでる」
オレが今か今かと待っていると、背後から知らない声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには知らない男が一人。その顔には全く記憶にない。どこかであったのだろうか? 悲しいかな、王都でオレの知り合いと言えるのはルナリアたちやセレナさん、ウィリムさん、ルガルドだけだ。そんな交友関係の少ないオレが稀少な知り合いの顔を忘れるということは無いだろう。
「ええっと、どちら様で? どこかでお会いしましたっけ?」
「ああ、いや俺たちは初対面だ。何度かあんたの顔をギルド内で見てはいたがな。あんたは色々とギルドでは有名だからな」
なんと、いつの間にかオレはこのギルドで有名になってしまっているらしい。しかしながら、当の本人であるオレにはその理由が分からなかった。
「……特段有名になるようなことはしていないつもりだけど」
「いやいや、有名になるだろ。
あのAランク冒険者であり貴族であるフレイヤが初めてパーティーを組んだ相手だぞ。それに加えて、二人も美人女冒険者ともだ!
むさくるしい冒険者たちから羨望と嫉妬の眼差しを一身に集めているのがあんただろ」
オレは興奮した様子で詰め寄ってくる男から出来るだけ距離を取るために身体を反らす。
「分かったから、オレがこのギルドでどんな立ち位置なのかは理解したから落ち着いてくれ」
「ああ、悪い、つい興奮しちまった」
悪い人では無いのか、オレの言葉ですぐに冷静さを取り戻す。
「それで、そんなオレに何の用なんだ?」
「実はな……俺をあんたの弟子にしてくれないか?」
……
「……弟子といっても、別に冒険者としてのではないよな?」
「ああ、冒険者としては俺の方が一応あんたよりも先輩ではあるからな。いや、別にあんたの技量がどうこうと言っている訳ではないんだ。確かに、あんたは俺の後輩だが俺よりも実力的には上だと思っている。だけど、俺にはもっとあんたに教えて欲しいことがあるんだ」
「と言うと?」
ここまでの熱量で詰め寄ってくるなんて、よっぽどオレの中に何かしらの才能を見出したのだろうか? オレとしては自分自身のことを凡人だと考えており、特に秀でた人間だとは思っていない。社畜時代の経験により、人よりもストレス耐性や不眠不休で働くことには自信があるが、それらは別に褒められた才能ではない。
「女にモテる方法を教えてくれ! こんなことを頼めるのはあんな三人の美女を侍らせているあんただけなんだ!」
明らかにオレよりも屈強な男が勢いよく頭を下げる様子に、何事かと周囲からの視線が集まる。
「頼む! 俺にあんたの技を少しでも教えてくれないだろうか? オレに出来ることなら何でもする。だから頼む!」
「……誤解をしているようだから伝えておくけど、オレは別にあの三人と男女の仲にあると言う訳ではないぞ」
「えっ!? そうなのか?」
オレの言葉に男は頭を上げた。男は期待していた物がなかった時のようなキョトンとした表情をしていた。
「ああ、だから別にオレに弟子入りしたからって何も得るものは無いと思うぞ」
あの三人と恋仲になることが出来る者がいるのならば、ぜひともオレも弟子入りして、女性の扱い方というものを伝授して欲しいところだ。
「そうだったのか……それでも、あんたがあの三人とパーティーを組んでいるのは本当なんだろう? それだけでも俺からすれば凄い事には変わりないからな。ぜひとも弟子入りさせてほしいのだが?」
「いや、お断りなんだけど」
「……なぜに?」
いや、一般的な感覚を持っている奴ならば、むさくるしい男に弟子入りされるなんて嫌だろう。それに、オレ自身もよく分かっていない女性の扱い方なんて教えられる気がしない。
「お願いだ、アニキ! 俺を男にしてくれ!」
「あ、アニキ!?」
「ああ、ぜひともアニキと呼ばせてくれ」
勝手に話が進んでいるようで若干怖いのだが。
「俺はクリニド、よろしくお願いします!」
「いや、とりあえず周りの視線がきついから顔を上げてくれ」
「うっす!」
「と、とにかくだ、オレに師事したからと言って何か教えてあげられることなんて無いし、オレよりも適切な人はいると思うから。
だから、アニキなんて間柄じゃなくて、普通の関係で良いんじゃないか?」
「……アレンがそう言うなら」
こうしてオレに新たな知り合い――暑苦しい年上の冒険者が出来た。
「――アレンくん、出来たわよ!」
クリニドがオレの提案を受け入れてくれたのと同時に、ウィリムさんが頼んだ酒と串を持ってきてくれた。
「じゃあな、クリニド。オレはルナリアたちを待たせているからもう行くわ」
「ああ、またな」
オレは酒と串を両手に持ち、たっぷりと注がれた酒が零れない様に少しだけ飲んでのどを潤しながら、急いでオレを待つ三人のもとへと向かった。
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