9: 這い寄る脅威
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経験者の言う事は聞いておくべきだ。自分にとって未知な物事についても、もしかしたら有益な情報を得ることが出来るかもしれないからだ。
しかしながら、相手によってはただ無駄な時間が過ぎることになるので注意が必要だ。
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「――それにしても大分暖かくなってきたわね」
先頭を行くルナリアが襲い来るオークを倒しながら呟く。その声はオークとの戦闘中であるという事を感じさせないくらい穏やかなものであった。
ルナリアによって軽々と殺されたオークは、無様に地面の上へと転がり動かなくなる。そんなオークの事なんて気にすることなく、次のオークへと視線を向けるルナリア。その様子を後ろから見ていると、モンスター相手だが、なんだかいたたまれなく感じる。もう少し、気にかけてあげても良いのではないだろうか。
「まだまだ朝は布団が恋しいですけどね。
今日もなかなか布団から出ることが出来ませんでした」
ルナリアと同じ口調で続くリーフィア。そんな彼女も次々にオークに向かって魔法を放っていく。
リーフィアの魔法の的となったオークは苦しむ間もなく一瞬で絶命し、糸の切れた操り人形のごとくその場に倒れていく。オークの肉は美味しいので出来るだけ肉を確保できるように『ファイア』は用いずに『ウィンド』で首を切るようにしているみたいで、血抜きの手間を配慮してくれているようだ。
リーフィアもルナリアと同様に、オークを殺しては次のオークへ、殺してはまた別のオークへと狙いを変え、オークの死骸の山を築いていく。
オレはそんな二人の様子を後ろから眺めつつ、二人が築き上げたオークの山を次々に『魔法の鞄』へと収納していく。
「……二人とも強くなりすぎだろ」
「弱いよりも強い方が良いのではないか?」
オークを回収しながらオレの独り言に応えるフレイヤ。戦闘狂である彼女がこうして大人しく回収役に徹しているのは実に珍しいことだ。普段の彼女なら、オークの群れを見つけるとオレたちの制止も聞かずに飛び出していき、その頬をオークの血で染めている事だろう。
しかしながら、今回はルナリアとリーフィアの「修行の成果を確認したい」という強い要望からその任を譲ったので我慢しているのだろう。実際、いつもよりソワソワしており、オークが向かってくる度に腰の剣へと手が伸びている。
「それはそうですけど。
ルナリアは一緒だったので分かってはいましたけど、リーフィアは成長しすぎじゃないですか?」
「我が家は武闘派だからな。当然、魔法士もそれ相応の者が仕えている。
リーフィアに魔法を教えている者はそんな精鋭の中でも一番の者だぞ。これぐらい出来て当然だと思うのだがな」
一発の『ウィンド』は一匹のオークで弱まることなく、そのまま後ろにいたオークへと襲い掛かる。そしてまた後ろのオークへと続いていく。そのように一発の『ウィンド』で複数のオークが倒れていく様は、魔法を少し使える――今のところ『ライト』だけなのだが――オレから見ると明らかに異常だった。
別に、『ウィンド』などの魔法で複数のモンスターを仕留めることが出来ないと言う訳ではない。範囲攻撃系の魔法も存在するのでやろうと思えば可能だ。
では、オレが何にそこまで驚いているかと言うと、リーフィアの魔法が周囲に影響を与えないように絶妙に調整されているという事だ。
複数のオークの首を切り落とした『ウィンド』は、最後のオークの首を通り抜けたと同時にその威力を失い霧散する。そのため、周囲にその脅威を振りまくことなく、安心安全な魔法となっていた。
「元々の才能も相当なものだったらしいからな。
教育係の魔法士が教え甲斐のある弟子だとかなり喜んでいたぞ」
「……オレも頑張るか」
秘かに目標にしていたリーフィアにかなりの差を開けられてしまった。まあ、元々雲泥の差だったのでぼやいたところで今更なんだけど。
「――アレン、物思いに更けている時に悪いのだが、後は頼んだ!」
そう言って、フレイヤは腰から剣を抜きながらオーク目掛けて凄い勢いで駆けていく。どうやら我慢の限界だったらしい。正直なところ、こうなることは分かっていた。むしろ、よくここまでもったと言っても良いだろう。
フレイヤが参戦したことにより、更に死骸の山が大きくなる惨状を見つめながら、オレたちがこのような事をする起因となった、ゴルギアスの依頼について思いを巡らせていた。
「――モンスターの大量発生ですか?」
初めてゴルギアスと顔を合わせた時と同じ部屋、ゴルギアスの自室に場所を移動して椅子に腰を下ろしたオレたちに依頼内容について告げられる。
「……この時期なので例年通りのことなのでは? 暖かくなってきたのでモンスターも活発になっているので」
ゴルギアスがオレたちに求めることは、近頃モンスターが王都周辺に頻出しているのでその原因調査とのこと。
しかしながら、フレイヤも述べたように、冬が終わり暖かくなってきた今の時期には冬の間に鳴りを潜めていたモンスターたちが活発に動き出す頃だ。冬の間、ろくな物を口にしていなかった腹をすかしたモンスターが、食料を求めて街や村の周辺に頻繁に出没することは当たり前の事であり、さほど気にする必要もないと思うのだが。
「私もそう思ったので、王都に来る商人たちに聞き取り調査を行ったところ、確かに例年に比べてモンスターに遭遇する頻度は高かったそうだ。
その報告を受けて、実際に部下を連れて私も調査に向かった」
「父上も実際に行かれたのですか?」
「ああ、憂さ晴らしもかねてな。そうすると、確かに遭遇する割合が高かった気がするのだ」
「父上がそう仰るのであれば、その通りなのかもしれませんね」
ゴルギアスは貴族としては珍しく、モンスターの討伐についても対応を行っている。それは他の貴族たちに押し付けられた仕事らしいが、事務仕事よりもそう言った身体を動かす仕事の方が得意なゴルギアスにとって、それは寧ろご褒美なのだとか。ネチネチと嫌味を言ってくる貴族たちの相手から距離を取ることが出来るので、それも嬉しいのかもしれない。
そんな王都周辺のモンスター事情に対して知見のある彼が違和感を抱いたのだから、何かが起きているのだろう。ゴルギアスの言葉を受けて、フレイヤは眉間にしわを寄せる。
「本当は私が動けば話が早いのだがな。しかしながら、他の業務の対応で手が回らんのだ」
ゴルギアスは溜息を吐きながら、その巨体を椅子に沈める。
「そこで、お前にはなぜモンスターが増えているのかを調べてきて欲しい。もちろん、少しでも王都への被害を軽減するために、調査に遭遇したモンスターは出来るだけ討伐して欲しい」
「モンスターの数を減らしつつ、原因調査ですか……」
フレイヤは少し考えた後に、オレたちの方へと視線を向ける。
「多少は危険を伴うと思うのだが、三人はどうする?」
依頼の詳細を聞いて、ギルドで依頼を受けるのと変わりないというのがオレの印象だ。もちろん、モンスターが例年よりも多く出没しているのだから、それなりのリスクはあるだろう。しかしながら、それはギルドで別の依頼を受けたからと言って、免れることが出来ると言う訳でもない。王都の外で活動をしている限り、結局は被るリスクだと思う。
「私は参加したいわよ。フレイヤとの稽古の成果を確認する絶好のチャンスだもの」
オレよりも前にルナリアが反応する。
「私も出来れば参加したいです。早く師匠に教えてもらったことを試してみたいので」
ルナリアに続いてリーフィアも賛同する。
二人の視線がオレに向けられる。
「……オレも参加で良いと思う」
若干、二人が攻撃的になってしまっていることに苦笑しつつ、教育者がそういう性分なので仕方がないと思うことにする。
結局、オレも特に反対する理由もないので、ゴルギアスの依頼を受けることにした。
「……お前は受けなくても良いのに」
「――父上!」
「……依頼への参加を感謝する」
そうして依頼を受けて早速モンスターの調査へと向かったオレたち。
数時間後、目の前に広がるのはオーク死骸の山。ここまでの山を築くことになるとは思いもしていなかった。
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