5: フレイヤ加入
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最初は一人だったオレも、今や多くの気心の知れた仲間に囲まれるようになった。
これからも、まだ見ぬ新たな仲間と出会うことが出来るのだろうか。
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「――アレン、そちらを頼む」
「分かりました」
冬真っ只中の凍てつくような風ではなく、柔らかなそよ風が吹く季節。大地では枯れて茶色になった草たちの下から、新しい緑が芽吹こうとしている。それに合わせて、生き物たちも目を覚まし始め、静かであった大地に再び活気が戻ろうとしていた。
それはモンスターも同じ。
冬の間は森の奥深くで息をひそめていたモンスターたちも、少し暖かな風と冬の間に何も食べなかったことによる空腹に誘われて活動が活発化してきており、こうして人目に付く所にまで出没している。
「こっちは大丈夫よ! リーフィアは?」
「準備できました! いつでもいけます」
「よし、離れるぞ!」
フレイヤの合図で一斉に後ろに飛び退くオレたち。
『ウィンド』
そんなオレたちの後ろから、勢いよく風が吹く。
オレの髪の毛を後ろから前へと強烈になびかせる風がオレたちの横を通り抜け、前方にいる大量のオークへと襲い掛かる。
突然現れた猛風に四肢を切り裂かれるオークたち。逃げる暇なく大地の上に転がるオークたちの口から悍ましいうめき声が吐き出される。
しかしながら、そんな不気味な光景も長く続くことは無い。次々にその命は燃え尽き、力なく大地の上に転がっていく。
「まだ息のあるアークを殺していくぞ」
フレイヤが虫の息のオークたちにとどめを刺していく。オレとルナリアもそれに続く。
そして数分後、オレたちはオークの群れを全滅させたのだった。
「――やっぱりフレイヤがいると戦闘が楽で良いわね」
大量のオークが横たわる中、ルナリアが剥ぎ取りをしながら呟く。
オレとしてもルナリアの意見に同意だ。フレイヤのおかげで、かなり戦闘がやりやすくなった。それはフレイヤの腕が素晴らしいという事もあるが、それよりも戦闘時の精神面での安心感の方が強い。フレイヤのおかげで、どれほど強いモンスターでも、どれほど数が多くても慌てることなく落ち着いて対処することが出来る。
「いやいや、そんなに褒められても何も出ないぞ。それに、リーフィアの魔法も凄かったと思うのだが」
フレイヤは照れながらも嬉しそうだ。オークを解体するその手つきからそのことが伝わってくる。
「やっぱりこの季節になるとモンスターが活発化してきますね。まあ、美味しくいただけるのでありがたい事なんですけど」
リーフィアの言う通りだ。これがゴブリンだったら嬉しくはなかっただろう。ゴブリンはその肉も美味しくなければ、ギルドに持ち込んだとしても報酬も少ない。二重の意味で旨味のないモンスターだ。
一方で、オレたちの目の前に転がるオークは違う。報酬はゴブリンよりも高いのだがそれほどでもなくうまみがない。しかしながら、その肉は違う。焼いても良し、煮つけても良しで、王都でも人気の肉の一つだ。
フレイヤの屋敷で居候を始めてから数か月、オレたちは久しぶりにギルドで依頼を受け、こうして王都の外に出ていた。
今までは季節が冬という事もあり、モンスターも中々人目に付く所には出てこないだろうと考えて、屋敷でフレイヤと稽古三昧の日々だった。
今回はその成果を実際に確認するという目的もある。フレイヤとの地獄のような稽古がオレたちをどのくらい強くしたのか。単純に興味があった。
フレイヤはそんなオレたちの付き添いだ。いや、それよりも彼女は冬の間に溜まったモンスターと戦闘できないというストレス解消の為についてきたのだろう。ギルドに着くなり、真っ先に掲示板の前へと並び、オークの群れの討伐という今回の依頼を持ってきた。
「ふむ、私としてはまだ身体を動かしたりないが、そろそろ時間だな」
遠くで沈みかけの日を見つめながら呟くフレイヤ。
オレたちは『魔法の鞄』に急いでオークの死体を収納し、王都へと向かう。
「今日の晩飯はオークづくしだな」
――早く屋敷に戻り、料理担当の人にこのオークを渡さなければ! そして最高のオーク料理を堪能するのだ。
その思いがオレたちの頭の中を支配しており、王都へ戻る足も速くなる。
そのおかげで、王都へは日没前には戻ってくることが出来た。
オレたちはまだ時間があることを確認してギルドへと向かう。
「あっ、アレンさん!」
久しぶりのセレナさんの声。
依頼に出る前は珍しくセレナさんが受付にはおらず、別の受付嬢に依頼書を渡したので、会うのは久しぶりのことで、またその屈託のない笑みを拝めて嬉しいばかりだ。
「出かける前もセレナさんを探していたんですけどいなかったので」
「この季節になると色々と忙しくて、今日は事務所に籠っていたんですよ」
「そうだったんですね。もしかして体調を崩してしまったのかと思って心配しましたよ」
「ご心配ありがとうございますね」
フフフと笑うセレナさん。その笑顔に依頼による疲れも吹き飛んだ。
「――アレン、随分と親密のようだな」
オレとセレナさんとの世界に突然割って入る声。
「フ、フレイヤ様!?」
「どうやら自己紹介は必要ないようだな」
「ア、アレンさん! どうしてフレイヤ様がここに?」
セレナさんが慌てている。そのせいで、受付から身を乗り出してオレの腕をつかみ揺らしてくる。
オレは頭を揺らされたことによって目眩を覚えながらも、なんとかセレナさんを宥めつつ、セレナさんの拘束から逃れることに成功した。
「いろいろ訳があって、今はフレイヤの屋敷に居候させてもらっているんですよ。その流れで一緒に依頼を受けていたんです」
「……どうしたら貴族様の屋敷に居候させてもらうことになるんですか」
セレナさんのあきれ顔。
あまりにも突拍子もないことに、逆に落ち着きを取り戻したセレナさん。しかしながら、そんなセレナさんに更なる爆弾をフレイヤが投下する。
「別に今日が特別だと言う訳ではない。今日から私もアレンたちのパーティーに加入するからな」
「ど、どういうことですかアレンさん!?」
やっと拘束から逃れることが出来たのに、またフレイヤさんに掴まれてしまった。それも今回は胸ぐらだ。すごい勢いで前後に揺さぶられる。
「お、オレも初耳ですよセレナさん」
フレイヤから一緒にパーティーを組もうという申し出は今までなかった。オレもセレナさんと同様で初めて聞いたことであり、かなり驚いている。
「フレイヤ、それ本気で言ってる?」
「ああ、もちろんだが、ルナリアは反対か?」
「私としてはもちろん歓迎だけど……」
「本当に良いんですか? 私たちはまだそこまでランクが高くないので足かせになってしまいそうなのですが」
「そんなことを気にしていたのか。私としては何も問題はない。
それに、私もそろそろパーティーを組みたいと思っていたからな。今までは信用に足る者がいなかったので組んでこなかったが、三人となら話は別だ。ぜひともお願いしたい」
彼女の場合、その美貌に加え、戦闘能力もズバ抜けており、更には貴族という事もあっていざという時の権力もある。それら三つの利点を手に入れたいと思う者や不順な動機で近づいてくる者も多かったのだろう。
パーティーを組むという事はそのメンバーに自身の命を預けると言っても過言ではない。そんな重要な役割を果たすメンバーに禄でもない奴らを選ばないという事は当然だろう。
「じゃあ、フレイヤが一番ランクが高いからパーティーリーダーになる?」
「いや、私としてはアレンのままの方がありがたい。いかんせん、私は今までソロでやってきたからな。リーダーになったとしても不慣れで何をすれば良いか分からない」
「それじゃあ、リーダーはアレンさんのままという事で、早速手続きをしましょうか」
……
いつの間にかフレイヤがオレたちのパーティーに加入することが決まったようだ。完全にオレとセレナさんは蚊帳の外なんだが。オレとセレナさんは二人で三人の様子をただ見守ることしかできていなかった。
「セレナさん、そう言う事なので手続きをお願いします」
「……はい、かしこまりました」
セレナさんが力なく椅子に座り、手続きに必要な書類を出す。
フレイヤはその書類に必要事項を書きながら何やらセレナさんと話していたが、オレの耳には届いて来なかった。
まあ、何はともあれ、フレイヤがオレたちのパーティーに加入した。
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