3: 出会い(別視点)
どうして、こんなことになってしまったんだろう? 大丈夫だと思っていたのに、こんなことになるなんて……考えもしなかった。もし出来るのであれば、あんなことが起こる前に戻りたい。
「――リーフィア、この依頼にしましょうよ。
ちょっと遠出になるけど、気分転換にいいんじゃない?」
「そうね、ルナリア。
久しぶりに王都から離れてみるのもいいかもしれないわね」
私たち二人組冒険者パーティーのリアトリスは、王都に拠点を置いている。仲間のリーフィアとは幼馴染みで、一緒に王都に出てきて冒険者になった。まだまだ若手で学ぶことの方が多いのだけど、それなりに頑張っていると思う。
そんな私たちは王都周辺の依頼をよく受けている。どんな依頼でも王都から半日程度歩くぐらいのものだった。だから、今回はちょっと遠出してみようと提案してみた。何か特別な理由があったわけではない。せっかく冒険者になったのだから、遠出するような依頼を受けてみたいと思っただけ。幸いなことに、リーフィアも反対することなく、私の提案に賛同してくれた。
私たちが選んだ依頼は簡単なもの――森に生える薬草を採取するという依頼だ。森は王都から離れた所にあるので、そこまで歩いて向かい、指定された量の薬草を採取して王都に戻ってくるだけ。採集の依頼は討伐の依頼よりも報酬が安いことが普通なのだけど、この依頼は少し離れた森まで行かなければならないという理由から、比較的報酬が高い。それに加えて、指定された薬草は王都の周辺では手に入らない珍しい薬草で、その用途も多く重宝されているため、売ると結構な金額になる。結果的に、時間はかかってしまうがそれなりの実入りはあると思う。そのことも、私たちがこの依頼を受けることに背中を押してくれた理由でもあった。
「そうと決まれば、いろいろ準備しないと」
「じゃあ早く買いに行きましょうよ」
私はリーフィアと一緒に食料や野宿に必要なものを買うために、冒険者たちがよく利用する店が多く並んでいるエリアへと向かった。そこで、私たちは初めての遠出ということもあり、未知の体験ができることへのワクワク感から、多少興奮気味に商品を選んでいた。
「ねえ、リーフィア。野宿にはこの虫除けが必要じゃない?
私、昔から虫だけは嫌なのよね」
「そうね、虫除けは必須ね。
食料はどうする? やっぱりこのパンかな? 遠出の時はみんなこれを食べているみたいよ」
「そのパンはあまりおいしそうじゃないけど、仕方ないわね。
あ、リーフィア、こっちのも見て――」
準備を終えた私たちは王都の出入り門を通過し、王都の外に出た。私とリーフィアの頭の中は「これから、まだ体験したことのない新しいことができる」という思いでいっぱいだった。何にも不安に感じることはない。私たちはモンスター討伐の依頼を、今まで何度も達成してきた。モンスターが出てきたとしても、今回もきっと大丈夫だろう。二人でなら何とかなる。
それに、薬草は森の浅い所にも生えているらしい。森の奥深くは分からないが、森の浅い所にはそうそう高ランクのモンスターは出てこない。いたとしても、ゴブリンやオークぐらいだろう。そんなの私たちの敵じゃない。むしろ、オークが出てきてくれたら、その日の食事が豪勢になる。私たちにとってはそのぐらいの相手だ。
私たちは心を弾ませながら、森へ向けて上機嫌に歩き出した。
私たちは森の前へと到着した。ここまで来るのに、リーフィアも私も慣れない遠出で多少は疲労していたが、それ以上に楽しい体験を数多くすることができた。その体験も残り半分。今日、依頼されている薬草を採取すると後は王都に戻るだけ。そのことに若干の物足りなさと寂しさを感じながらも、私たちは依頼に取り掛かる。
「リーフィア、じゃあ行きましょう。
たぶん薬草はちょっと入った所にあるはずよ」
「そうね、明るいうちには森から出てこられると思うから、その後で食事にしましょうか。
今日はルナリアが料理当番よね。期待しているわよ!」
ここまでは何にも問題はなかった。だからこの後もきっと大丈夫だろう。いつも通り依頼を達成するだけ。私たちは薬草を探すために森の中へと入った。
でも、すぐに問題が生じた。予想以上に薬草が見つからない! 森へ入ってすぐの浅い所には薬草が全くなく、私たちは徐々に森の奥へ奥へと入らなければいけなくなった。
「リーフィア、そっちはどう?」
「ダメ、ルナリア、全然ないよ。
どうしよう、早く見つけないと暗くなっちゃう」
「そうね、でもどこに生えているのかしら?」
「もうちょっと奥に入ってみる?
もしかしたらいっぱい生えているかもしれないよ」
私は正直怖かったけど依頼を達成するためには仕方がないと思い、リーフィアの提案に乗った。
「――見て、ルナリア、あったわよ!」
リーフィアが薬草の方へと駆け出す。私はその姿を追いながら、やっと依頼を達成できたことに安堵した。「これで帰れる」と。
だけど、辺りはもうすでに真っ暗になっていて、五メートル先も良く見えない。生い茂った木々が風に吹かれて不気味に揺れている。私はこの時に初めて強い不安感に襲われた。この場に長く留まるのはマズイ! 早く森の外に出なければ。
「ね、ねえ、リーフィア、早く森を出ましょう……ちょっと怖いわ……」
「ルナリアは意外と心配性ね。
大丈夫、何かあっても私が守ってあげるか――」
リーフィアが言い終わる前に、近くの木々が激しく揺れた。それは明らかに風のせいではない。生き物によって生じた揺れだ。
――何か来る!
そう思って武器を構えた時には、そいつはもうすでに私たちの前にいた。巨大なオーク。こんな巨大なオークなんて見たことがない。たぶん私たちの手に負えない。戦わずに逃げなければ。
「――に、逃げなきゃ! リーフィア!」
私の声が合図となって、私たちは一緒にオークに背を向け、森の外へと向けて一目散に逃げ出した。でも、オークも私たちを獲物として認識したようで、私たちの後をその巨体からは考えられないスピードで追ってくる。
「ヤ、ヤバいわ、リーフィア、追いつかれる」
「――わかってるッ」
「ど、どうしたの!?」
振り返ると、リーフィアがその場で倒れていた。腕からは血が流れ出ている。その光景を見て、私は思わず叫んでしまっていた。多分オークが投げたものが運悪く当たったんだ。これじゃあもう逃げられない。
私はリーフィアに急いで駆け寄りながら、どうしようかと考える。でも、どうしようもない。このままじゃあのオークに殺される未来しか待っていない。
リーフィアをこんな目に合わせたそいつはすぐにやってきた。リーフィアがもう逃げられないと確信しているのだろう。慌てた様子もなく、ただ悠然とこちらに向かって歩いてくる。その目は明らかに捕食者のものであり、私たちのこれからを予言していた。
どうしてもっと警戒しなかったんだろう。最悪の事態を考えて行動していたらこんなことにはならなかったのに。あの時、森の外へ引き返していたら。いろんな後悔が私に押し寄せる。でも、もう遅い。オークという死神は着実に私たちの方へと近寄ってくる。
私は最後の勇気を振り絞り、横たわっているリーフィアの前に立ち、オークと対峙した。何としてでも私が守らなきゃ。今動けるのは私だけ。リーフィアは私が守らなきゃ。何とかしなきゃ。
私は近づいてくるオークに向けて武器を構えながら、必死に声を絞り出す。
「――く、来るな」
私の必死な願いにも関係なく、オークは変わらずこちらへと向かってくる。
私の脚は恐怖で震えていた。これから私たちの身に起きることを考えると恐ろしい。でも、どうにかしなきゃ。
そんな時、突如として誰かの震えた声が聞こえた。
「――た、た、助けはいりますか?」
読んでいただき、ありがとうございました。




