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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第四章 社畜、家を借りる
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15: フレイヤは貴族様

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 全く意識していなかったのに、不意にそのことを強烈に意識し始めることがある。そのような時、かなりの確率で意識していなかったときの方が良かった場合が多いのだが、皆はどうなのだろうか?

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 あれからというもの、オレたちは件の冒険者たちの動向を求めて活動していたが、これと言って有益な情報を得ることが出来ず、進展のない日々を過ごしていた。


 ルナリアとリーフィアが交代で王都内を調査してくれていたが、この広大な王都の中で特定の人物の情報を入手することはかなり難しいらしく、奴らの住処さえ未だに分からぬままだ。あれだけの馬鹿な行動に打って出ることの出来る奴らなので、住民の間でも有名になっているかと思っていたが、そんなことはなかったらしい。ひょっとしたら普段はまともなのかもしれない。若しくは、それ程レイチアやターナが魅力的だった可能性も捨てきれない。まあ、女性を前にしてだけ粋がっている男に同情の余地もないのだが。


 断っておくと、ルナリアとリーフィアにすべてを任せていたわけではない。オレも多少ではあるが奴らを捜索することに役立っていたと宣言しておこう。確かに、二人とはその労力の割きようは比べ物にはならないだろうけど、オレとしても毎日訪れる冒険者ギルドにて、奴らがいないかと確認したり聞き込み調査をしたりと頑張っている。


 ただ、結果は芳しくない。奴らも冒険者なので日々の金銭を稼ぐために冒険者ギルドに必ず訪れているだろうと思っていたが、一向にその足取りをつかむことは出来なかった。冒険者に最も詳しいと思われる受付嬢であるセレナさんに聞いてみても、特に心当たりはないようだ。


 「セレナさんならもしかして……」と思ったが、そもそもスレイブ王国で最も多くの冒険者が所属しているこのギルドには、毎日数多の冒険者が訪れており、自分の馴染みの冒険者でなければその動向なんて分からないらしい。王都よりもはるかに田舎のギルドで職員として働いていたオレには経験のないことだ。とにかく、もしかしたら来ているかもしれないし、若しくはここ最近は来ていないのかもしれない。そんな曖昧なことしか分からない。


 それでも、セレナさんに孤児院の事でのことを話して、彼女の協力を得ることが出来たのは今後の捜索を大いに進展させてくれる可能性を手に入れたといっても良いだろう。この功績をぜひ褒めて欲しい。


 レイチアとターナもアイツらを探してくれているようだが、結果はオレたちと同じようだ。二人に関係する孤児院が襲撃されたという事で、再度アイツらが接触すると思っていたが、その陰すら見ることは出来ていない。


 孤児院の方もあれ以来何事もなく平和な時間が過ぎているようだ。そのことに安堵しながらも、どこか不気味さを感じてしまうのはオレだけではないだろう。孤児院の一件で鬱憤が晴れていれば良いのだが、ああいう輩は一度味を占めると際限なく繰り返してくると言うのがオレの経験から導き出される結論だ。


「……まあ、気にしすぎても身体に悪いしな」


 オレは大きくため息をつきながら、今日の依頼を受けるために掲示板の前に足を運ぶ。


「今日もアイツらの情報はなかったわ。ウィリムさんも知らないって」


 オレの背後からルナリアがギルド内での捜査の結果を報告してくれる。多くの冒険者が利用する併設された食堂のウェイトレスであるウィリムさんなら、もしかしたら知っているかもしれないと思ったけど無駄足だったらしい。


 因みに、ルナリアの口元が少し汚れているのは見ていないふりをしてあげるのが、出来る男の対応だろう。オレの記憶が確かなら、その汚れは食堂で提供されている軽食のタレだったと思う。一口大に切り分けられた肉が串に刺された状態でこんがりと焼かれ、その上に秘伝のタレがふんだんにかけられている、小腹が空いているときなんかに丁度良い一品だ。かくいう、オレも何度もその味を堪能し、魅了されている一人だ。


 ……羨ましい。オレも食いたかったのに。


 オレはルナリアを少し責めるような視線を向けながら、依頼が終わった後に買って帰ることを決意する。


 そんなオレの心も知らずに、満足げなルナリアは掲示板に張り出された依頼書を物色していく。


 オレたちが良さそうな依頼がないかと探している時、不意に背後にあるギルドの入り口付近が若干騒がしくなったのを感じ取ったオレたちは、その原因を確認するためにゆっくりと振り返った。


 振り返った先には、特段何か事件や事故があったわけではない。ただ、そこには普段このギルドでは滅多にお目にかかることの出来ない人物が颯爽と歩いているだけであった。


「……フレイヤ・フォーキュリー」


 彼女を見る周囲に視線は尊敬と畏怖の念が込められており、誰しもが固唾を飲みながらただ見つめることしかできずに、完全に彼女に場が支配されている。これが最強の冒険者であり貴族でもある人物の風格なのだろうか。


 そんな中、フレイヤは特に気にすることなく、オレたちの方へと悠々と歩いて来ていた。


「すまない、私にも見せてくれるか?」


 フレイヤはオレたちの前で立ち止まると、はっきりとギルドに響く声をオレたちへと向ける。


 オレたちはそんな彼女の言葉に、ただ頷きながらその場を譲る。


 フレイヤはそんなオレたちの様子に苦笑しながらも掲示板の前に踏み出し、依頼書を吟味し始めた。


 数分が経過しただろうか。やっとのことで正気を取り戻したオレは、勇気を振り縛って冒険者としても地位としても雲の上の存在であるフレイヤに話しかける。


「ええっと、フレイヤさん、この前は助けていただきありがとうございました」


「ん? ああ、以前決闘騒ぎを起こしていた君たちか」


 フレイヤはすぐにオレたちを思い出すことが出来なかったのか、少し考えた後にやっと口を開いた。


「いや、礼には及ばない。神聖な決闘を汚す輩を止めたに過ぎないからな」


「それでも私もアレンもあなたのおかげで救われたので、お礼だけでも言わせてください」


 ルナリアの言うように、もしフレイヤがあの場にいなければ、もしフレイヤが助けてくれなければ、オレとルナリアはアイツらにやられてしまっていただろう。それを防いでくれた彼女はオレたちにとって命の恩人であり、いくら感謝しても足りないだろう。


「そうか、それならば一応受け取っておくことにしよう。その方が君たちにとっても良さそうみたいだしな。あれから問題はないか?」


「ええっと、それはその……」


 オレとルナリアは困った表情でお互いの顔を見合う。この場でフレイヤをオレたちの事情に巻き込んで良いのか迷っていた。


「ふむ、何か問題があるらしいな。少しあちらで話すとしようか」


 そんなオレたちの様子を見て何かを察知したフレイヤは食堂の方に視線を送り、オレたちを誘導する。


 オレたちはそんなフレイヤの言葉に抗うことなく、食堂へと先を行くフレイヤを追いかけるように歩を進めた。




「――それで、君たちの抱える問題を教えてもらおうか?」


 フレイヤは運ばれてきた果実水でのどを潤した後、オレたちへと視線を向ける。


 オレたちは対面に座り、フレイヤと同じく果実水でのどを潤していた。


「助けていただいた上に、それ以上のことにフレイヤさんを巻き込んでしまって申し訳ないのですが……」


「そんなことは気にしないで良い。確かに決闘は当事者間の問題だから、私が首を出すのはお門違いかもしれないが、君たちが今抱える問題は明らかに決闘後に生じた問題だろう? 私の感がそう言っている。粗方、あの冒険者たちが復讐でもしてきたか? そんなところだろう」


 少しの間、オレたちはフレイヤに事情を話すかどうかを無言で確認し合った。確かに、現在オレたちはこれといった有益な情報を入手することが出来ておらず、八方ふさがりの状態だといっても過言ではない。そんな中、彼女に助力してもらうことによって少しでも進展することが出来るかもしれない。


 結局、オレたちはフレイヤに縋るような思いで孤児院での出来事を話すことに決めた。


「……なるほど、ゲスな輩とは思っていたが、まさかそこまでするとはな」


 オレの話を聞いたフレイヤが眉をひそめながら、怒りの籠った声で呟く。その声の迫力に少し身体を震わせながらも、気圧されていることがバレないようにと気丈に振る舞う。


「私たちでどうにかその足取りがつかめないかと頑張ってはみたものの、これといった進展もなくて……」


 ルナリアが悔しそうに唇を噛みながら、オレたちの進展のない現状を吐露する。


 数分程の間、フレイヤは静かに目を瞑り何かを考えていたが、パッと目を開けるとオレたちの方へと視線を向ける。


「事情は分かった。さすがに犯罪に走ったものを見過ごすわけにはいかない。この件は私も対応に当たろうと思う。我が家の人員を用いて迅速に対応しよう」


「フレイヤさんの家ですか?」


「ああ、フォーキュリー家の名において必ずやその輩どもを捕まえてみせる」


 まさか、フレイヤ本人だけでなく、フォーキュリー家をも協力してくれるとは思いもしなかった。貴族という立場を使えば、警備隊にわざわざ証拠を突き付ける手間も省くことが出来る。そう考えれば、フレイヤの言葉はオレたちにとって暗闇に刺した一筋の光であることは間違いないのだが、それ以上にオレは貴族をオレたちの問題に巻き込んでしまった事に対する責任感に圧し潰されそうになっていた。


 フレイヤは純粋に良心で言ってくれているのだろうが、平民であるオレにとっては貴族を相手にするという事はそれほどまでに感じてしまうことだ。


 確かに、フレイヤも貴族ではあるがそれ以上に高ランク冒険者としての印象が強い為、あまり貴族であるという事を意識することはない。


 ただ、彼女から出た言葉によってオレは彼女がフォーキュリー家の貴族であるという事を再認識させられた。彼女は冒険者である前にスレイブ王国の貴族であるのだという事を。


 オレは大事になってしまったことを悔いながらも、少しでも事態が進展するならば貴族だろうが何だろうが関係ないかと開き直り、これからについて話し合い始めた。

いつも読んでいただきありがとうございます。


GW用に新しい作品を書きました。

5/6に全話掲載予定です。(全7話ぐらい)

よろしければそちらもどうぞ。

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