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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第四章 社畜、家を借りる
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14: 後手になる対応

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 子供の頃、英雄譚が好きだった。才能あふれる英雄が悪者を次から次へと薙ぎ払い、この世界に平和をもたらしてくれる――そんな物語。子供であればそんな英雄の姿に心奪われて当然だろう。

 ただ、大人になって気付く。この世界にそんな物語のような英雄なんていないという事に。

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 マザーとの会話後、オレはマザーとレイチアに子供の相手を任せ、ターナとルナリアを伴って荒れた孤児院の片づけを開始した。とりあえず、投げ込まれた石や壊されたものを一か所に集めて、子供たちが再び孤児院内を安全に駆け回ることが出来るようにする。


 三人で取り掛かったため、片付けにはさほど時間はかからなかった。


 孤児院内の片づけを粗方済ませたオレたちは、最後に、取り外された門に着手したが、これはオレたちではどうにもならなかった。無理やり取り外されていた為、接合部が完全にダメになってしまっており、上手く元通りにすることが出来ない。何とか立たせることは出来るが、風が吹いてしまうとパタンと倒れてしまうため、無理に立てない方が良いだろう。もし子供たちが下敷きになったら大変だ。


 オレたちは門の修繕を諦めて近くの塀に立て掛け、孤児院の中で遊んでいるマザーたちの下に戻る。


「マザー、あらかた片づけは終わりました」


「あら、ありがとう」


 子供たちに囲まれたマザーが出迎えてくれる。


「ほら、みんなもお礼は?」


「「「お兄ちゃんたちあんがとう」」」


 幼さからまだ舌が上手く回らずに若干間違ってはいるが、それがまた良い! 可愛すぎる!


 オレの隣にいるルナリアもその顔を思う存分に弛緩させ、ニマニマしている。ルナリアはステラに対する態度からも分かる通り、大の子供好きだ。今にも子供たちの下へと駆け寄って、子供たちの頭をワシャワシャしようとしている。そんな様子を見て子供たちは何の嫌悪感も抱いてはいないが、大人のオレから見ると控えめに言っても完全にヤバい人だ。もしオレが子供たちの親ならば、絶対に子供たちには近寄らせないし、すぐに警備隊に報告しているだろう。


「では、オレたちは帰りますね」


 子供たちに後ろ髪を引かれつつも、辺りも少しずつ暗くなってきたし、そろそろ帰らなければリーフィアとステラが心配するだろう。


「今日は本当にありがとうね」


「いえ、お礼には及びませんよ。それよりも気を付けてくださいね。馬鹿な連中が今日だけで懲りるとは思えないので」


「それは了解しています。子供たちにはしばらくの間なるべく外には出ないように言い聞かせておきますよ。わんぱく盛りの子供たちには気の毒ですけど、命には代えられないから」


 マザーの言葉に反応した子供たちが駄々をこね始める。そんな子供たちを申し訳なさそうな顔でどうにか説得しているマザーを後目に、オレとルナリアは孤児院を後にした。




「――それで、どうします? その冒険者たちを探して捕まえますか?」


 帰宅したオレたちは夕食を終えて、居間で今日孤児院で起きた出来事について話し合っていた。ステラは夕食後にルナリアが風呂に一緒に入り、今は部屋で寝ている。風呂から出てきたステラは少しぐったりとしていたが何も見なかったという事にしておきたい。ルナリアのおかげでステラはぐっすりと熟睡しており、少しぐらい音を立てたとしても起きないだろう。


 孤児院を襲撃した犯人がおそらく以前レイチアとターナに絡んでいた冒険者だと聞き、そいつらを見つけ出そうと提案したリーフィアに対して、オレは首を横に振る。


「……いや、それは止めておこう」


「どうしてよアレン? 一刻も早くアイツらを捕まえて警備隊に突き出さないとまた被害が出るわよ」


 オレの反応が予想外だったのか、ルナリアがイスから勢いよく立ち上がりながらオレに詰め寄る。リーフィアの方を横目で見ると、ルナリアのように興奮してはいないが、視線で納得できる説明を求めていた。


「少し落ち着いてくれ。二人の気持ちはすごく分かる。オレも二人と同じ気持ちだ。すぐにでもアイツら捕まえて、犯した罪を償わせてやりたい。だけど、考えても見てくれよ。アイツらを見つけて捕まえたとして警備隊に何て言って引き渡すんだ?」


「そんなの孤児院を襲撃した犯人ですって言うに決まっているじゃない」


「……その証拠は?」


「そんなの私たちが証言すれば――」


「いや、それだと決定的な証拠にはならないよ。オレたちが証言しても決闘のいざこざで言いがかりをつけているだけだと思われるのが関の山だ。オレたちやレイチアではなくて、無関係の第三者による客観的な証拠がないと、警備隊は動いてくれないと思う」


 王都の警備隊がみな品行方正と言う訳ではないと思うので、懐に幾ばくか忍ばせてやればオレたちの思うように対応してくれるかもしれないが、その手段を用いてしまえばオレたちも犯罪者の仲間入りだ。それに、そのような手段で御することが出来る奴は自身のために簡単に人を裏切るので、もしかするとオレたちが罠にはめられてしまうかもしれない。


「それにさ、何かと忙しい警備隊が孤児院のためにわざわざ動いてくれるとは思えない。孤児院の建物の様子から推測するにあまり重要視されていなさそうだからな。対応してくれるならばマザーも警備隊に報告しに行っていると思うけど、マザーにその様子はなかった。という事は報告しても無駄である可能性の方が高いと思う」


「じゃあどうするのよ? このまま何もせずにただ指をくわえていることしか出来ないの? そんなの私は耐えられないわよ」


 ルナリアが不機嫌そうに椅子に座る。


「私もルナリア同じです。ただ相手が尻尾を出すまで待っているだけだと、いざという時に対応が出来ないと思うのですが」


「分かってる。だけど、今の状況だと確実に捕まえることは出来ない。だから、アイツらを見つけ出して、その動向を出来る限り注視しようと思う」


 アイツらを牢獄にぶち込む証拠がない以上、オレたちにできることはアイツらの動向に注意して、これ以上の被害を受けないように予防することだけだ。もしアイツらの犯行現場を捉えることが出来たならば、さすがの警備隊も動かざるを得ないだろう。そのために、オレたちはアイツらを探し出すことが、今のオレたちにできる最大限の事だと思う。


「後手後手になってしまうのは仕方がないけど、今はそれしかない」


「……釈然としないけど仕方がないわね」


 ルナリアが不承不承ながら頷く。不機嫌に眉を斜めにしたその顔には、子供たちと接していた時の面影はない。


 現状において、一番の危険はオレたちがアイツらがどこにいるかを認識することが出来ずに、好き放題行動されることだ。反対に言えば、オレたちがアイツらの行動を認識していればすぐに対応できるので、一番安全だとも言える。


「もし私たちが監視していることに気付かれてしまったらどうしますか? そうなってしまえば、さすがに冒険者たちも行動に移さないと思うのですが」


「それはそうだけど、被害が出るよりかは良いだろう?」


 いくら馬鹿なアイツらでも、投獄されるという危険を顧みずに行動するとは考え難いため、オレたちが見ていることに気付いたらそう簡単には行動に移さなくなるだろう。更なる被害を事前に防ぐことが出来ると思えば、わざと監視していることに気付かせるのも良いかもしれない。


「とにかく、あれ以来姿を見ていないアイツらの居場所を探すのが最重要事項だな。あとは、孤児院だけじゃなくてオレたちも標的にされる可能性があるから、周辺には注意しておこう」


「そうね。孤児院と同じでこの家も人通りが少ない場所に建っているから、狙いやすいものね」


 こんな時に王都の外れの物件を借りたことの弊害が出てきた。普段なら家が閑静な場所にあるということにありがたみを感じているのだが、現状では不安材料でしかない。もしここが襲撃されたとしても、警備隊はおろか周囲の人も気付かないかもしれない。


「ただ、冒険者たちに気を取られ過ぎるとオレたちの生活が成り立たないからな。ステラを一人にするのは心もとないけど、二人のうち一人はいつも通りオレと依頼をこなして、もう一人が王都内でアイツらを探すことにしよう」


「分かったわ」「分かりました」


 その後、オレたちは冒険者たちがどこにいるかについて予想を話し合った。王都から出て行ってしまっているとは考えにくいので、この広い王都のどこかにいるのは確かだろう。


 結局、それ以上の意見を出すことが出来ないまま時間が過ぎていき、眠くなったオレたちは就眠するために各々の部屋へと向かった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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