13: 犯人は
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何か事件が起きた時、いろいろと考えを巡らせて複雑な答えを導き出すことがあるが、オレに言わせてしまえば難しく考えすぎだと思う。事件はもっと簡単で、犯人の動機も単純で瞬発的なものであることの方が多いと思われる。
同じ生物なんだから、さほど奇想天外なことは思いつかないだろう。
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椅子にマザーを座らせる。マザーはオレたちを安心させるために、どうにか取り繕おうとしていたが、その息遣いは荒く、誰が見ても動揺していた。
オレたちはマザーが落ち着くまで何も喋ることなくただ待ち続けた。
部屋の中を見渡せば、扉の辺りには部屋中の家具が集められており、おそらく襲撃者が部屋に入ってこられないようにしていたのだろう。
「……落ち着きましたか?」
「ええ、もう大丈夫よ」
数分後、マザーの息遣いはかなり元の状態に戻っていた。
「では、さっそくで申し訳ないですけど何があったか教えていただいても良いですか? ゆっくりで構わないので」
マザーは大きく息を吐きながら肩の力を抜き、速い鼓動を落ち着かせる。
「……あれは一時間ぐらい前だと思うのだけど、外から突然何かが壊れる音がしたの。最初は子供たちがまた悪戯したのかと思ったのだけど、それにしては大きかったし、こんな寂れた所では普段絶対に聞くことが無いようなものだったのよ」
「おそらく、それは外の門が倒れた音でしょうね。入口に横たわっていました」
「そうなのね。元々おんぼろだからしょうがないけど……まあ、何はともあれその音の原因を確認しなきゃと思って外に行こうとしていた時に、ちょうど男たちの声が聞こえてきたわ」
目を瞑りながら語るマザーの声は微かに震えていた。
「何を言っているかまでは詳細には分からなかったのだけど、かなり大きな声の怒声だったわ。人数は三人くらいかしら。『決闘が』とか『卑怯者が』とかこの孤児院に関係が無いような単語が聞こえたの」
「――っ! それってまさか」
「ええ、間違いなくアイツらだろうな」
心当たりがありすぎる。オレたちの頭の中には共通する男たちの顔が浮かんでいた。
「その様子だと貴方たちには犯人が分かっているようね」
「……ええ、証拠はないですけど多分間違いないと思います」
「そう……とりあえず話を戻すと、私はすぐに異常を察知して子供たちを安全なところへ避難させようとしたの。幸いにも、年少組はみんなこの部屋で私と一緒に遊んでいたし、他の子供たちも異常を察知してみんな孤児院の中に戻っていたから、とりあえず一番安全なこの部屋にみんなを集めたの。私が最後にこの部屋に入って鍵をかけようとした時に色々と孤児院の中のものが壊れていく恐ろしい音がしたわ」
「孤児院の中もかなりひどい状態でした。外から大きな石がいくつも投げ込まれていたので、それが原因だと思います」
「本当に良かった。少しでも避難が遅れていれば、あれが建物じゃなくて子供たちに向いていたと思うと本当に恐ろしくて」
マザーは両手で身体を抱き、前のめりになって嗚咽する。マザーの目から大粒の涙が冷たい木の床にとめどなく零れ落ち、大きな染みを作り上げていく。
そんなマザーを介抱するためにレイチアとターナが両側からマザーに優しく抱き着き、温かさでマザーの身体の震えを溶かしていった。
マザーの言うように、今回の件において怪我人が出なかったというのは幸運なことだったと思う。もし子供たちがこの部屋で遊んでいなかったら、もし子供たちが異常を察知していなかったら、もし男たちが外から石を投げるだけでなく孤児院の中に入って来ていたら、誰も怪我せずに切り抜けることは出来なかっただろう。
「……それで、男たちが襲ってくると思ったから、時間を少しでも稼ぐために扉の前に子供たちと一緒に家具を運んだの」
レイチアとターナのおかげで何とか話せるまでに冷静さを取り戻したマザーは、流れる涙を手で拭いながら続けた。
「しばらくの間ものが壊れる音が建物中に響き渡っていたわ。その後、音がしなくなっても私たちは出て行くことが出来なかった。もしまだ外でその男たちが待っていたらと思ったら怖くて、私は何があってもこの子たちを守ってあげないといけないの。そうやってこの部屋に隠れて怯えていたところにあなた達が来てくれたと言う訳よ」
すべてを話し終えたマザーは大きく一息つくとこちらを見上げる。
「今回も貴方たちに助けてもらう結果になったわね。以前もレイチアとターナを助けてくれたようだし。前のお礼を出来ていないのに……本当にありがとう」
「そんな、オレたちは当たり前のことをしただけですよ」
「そうよ、レイチアもターナも私たちの可愛い後輩なんだから助けるのは当然。今回のことだって同じよ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。本当にレイチアとターナは良い人たちと巡り合ったなって思う」
マザーが両脇にいる二人を慈しみ深い眼差しで見つめて抱きしめる。三人は血のつながりこそないが、その光景を目にしていたオレには本当の親子のように見えた。
ただ、今からオレが打ち明けることがその温かな光景を壊してしまうかもしれない。マザーや二人が作り出す家族団欒の象徴である孤児院が半壊される原因を作り出したオレを、マザーは受け入れてくれるだろうか。
「……マザー、今回の件でお伝えしたいことがあるのですが」
「何かしら?」
「おそらく、今回マザーたちが襲われてしまった原因はオレです」
「……聞かせてもらえる?」
「ええっとですね――」
オレはマザーに洗いざらい告白した。レイチアとターナが以前に冒険者たちと揉めた事、その冒険者たちから二人を助けるために決闘騒ぎを起こした事、その決闘で冒険者たちと禍根を残してしまった事、おそらく今回の件はその冒険者たちが犯人である事、それら一連の出来事を鑑みて、オレが間接的に孤児院を危機に貶めた原因である事。
場合によっては、もう二度とこの孤児院の敷居をまたぐことは出来ないだろうな。二人とも接触することを禁じられてしまうかもしれない。それ程のことをオレは引き起こしてしまっている。
「――と言う訳です。本当にすみませんでした」
「……」
「オレがもっと強ければ、もっと上手く対処できていれば、こんなことにはならなかったと思います」
あのフレイヤのように他者を寄り付かせないような力があれば。そう後悔したところでもう遅い。起きてしまった事はどう頑張っても戻すことは出来ない。その後悔を抱えながら生きていくしかないのだ。
「――アレンさんのせいじゃないっす! 私たちがアイツらから逃げられなくって」
「そうです、アレンさんは困っていた私たちを助けてくれただけです! それに悪いのはアイツらです。アレンさんは全然悪くなんか無いです」
二人がマザーの腕を掴んで揺らす。それは子供が大人に何かを懇願するように見えた。
二人はオレを必死に庇ってくれているみたいだ。その姿にありがたさを感じつつも、マザーの方を見る。オレの話を聞いていた時は目を瞑っていたマザーは、今は二人を変わらぬ視線で見つめていた。そして、オレの方にもその温かな視線を向けてくれた。
「……もう二人とも、そんなにしなくてもちゃんと分かっていますよ。アレンさんは何にも悪くなんかありません。悪いのはその冒険者たちです。アレンさんたちはその被害者なだけです。だからアレンさんもそんなに気にしなくても良いのよ? あなたはその時にできる精一杯のことをしてくれたのだから」
その言葉にオレは救われた。今までオレの心の中にあったシコリが全て洗い流された感覚だ。オレは自分の視界が揺らめいていることに気付く。
「――お姉ちゃんたち、もうお話終わった?」
オレの瞳から水分が零れそうになった丁度その時、部屋の外に出ていた子供たちが扉を小さく開けて、そこから顔だけを出しながらこちらの様子を見ていた。
「もう終わったから入ってきても良いわよ」
「やったー!」
マザーの返答に子供たちが勢いよく部屋の中へとなだれ込んでくる。子供たちはマザーやレイチア、ターナの周りに集まり、その手を引いて遊びに行こうと催促している。その元気な様子から、子供たちが今回の件でさほど傷ついていない事が分かったので安心した。
そんな安堵と共にオレの心にはある思いが生じていた。
――この光景を壊そうとしたあの冒険者たちにその罰を必ず負わせる、と。
オレは心に固く誓い、子供たちに揉みくちゃにされ始めた皆を助けるために行動を開始した。
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