1: 初めての野宿
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旅初日。今日はラビットと長い死闘を繰り広げた。明日から食材にもっと感謝をしようと思う。
初めて外で寝るのは緊張するが、『旅』って感じで楽しい。
これからも上手くやっていけそうだ。
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空は青く晴れわたり、オレの頬を掠める春風がとても気持ちよく感じられる。歩いていても寒くも暑くもない。そんな旅をするにはうってつけの季節の中、オレは王都へと向けて、野道を歩いていた。
「こんなに歩くのは久しぶりだな」
町を出てからどれくらい経過しただろう。出発してからずっと歩き続けているオレはさすがにちょっと疲れてきた。今まで、ギルド内でばかり仕事をしてきたからな。その弊害かもしれない。これから冒険者になろうとしているのに、これぐらいのことで疲れていてはダメだろう。冒険書ともなれば依頼のために遠くまで出向くこともあるだろうからな。その時のためにもっと体力をつけておかなければ。
「まぁ、急ぐ旅でもないし、のんびり行くか。
このあたりで休憩しよう」
オレは道中に生えている木を見つけ、その下に向かった。暑くないとはいえ、休憩の時ぐらいは木陰で身体を休めた方がいいだろう。少しでも体力を回復しておかなければ、ここぞという時に困る。なんせ、オレは旅初心者だ。常に最悪な事態を想定して行動するべきだと思う。少しばかり気にしすぎかもしれないが、命は一つしかないんだ。慢心するよりかは注意深すぎる方が良いだろう。
オレは木の下に座り込み、身体を休めながらも、周囲を警戒することを怠らない。なんせ、ここは囲いで覆われている街の中とは違う。何にも守られていない外の世界なんだ。もちろん、外にはモンスターや野盗など、オレを殺そうとしてくる悪意に満ちた存在がいっぱいいる。そんな連中にとって、一人で旅をしているオレは格好の獲物だろう。それに加え、オレは平均的な体型だ。お世辞にも強そうには見えない。
そんなオレが警戒をしなければ、すぐに死んでしまうだろう。せっかく自由に生きることができるようになったんだ。それをこんな序盤で手放すことなんてできない。
「――まぁ、戦闘経験なんてろくにないオレが、襲われた際にケガなしで切り抜けることができるかは疑問だけどな」
襲われそうになる前に怪しい奴をいち早く察知して、素早く逃げる。それが今のオレにできる唯一の対策だ。戦闘は最後の手段と考えていた方が良いだろう。無理に迎え撃とうとしても、オレには上手く対処できないだろうし、相手の方が一枚も二枚も上手だろう。この弱肉強食の世界では引くことも立派な生き残るための術だ。例え、笑い者になろうともオレは生き残る。
オレは旅の準備の際に用意した小型のナイフを手でクルクルと弄びながら、王都があると思われる方角へと目を向ける。当然のことながら、まだ王都なんてこれっぽっちも見えはしない。ただ、この道をずっと歩いて行けば、いずれは王都に辿り着く。そこはオレにとっての新天地であり、始まりの場所になるだろう。そう考えると、まだ見えないにワクワクが止まらない。
「あと十日ぐらいあれば到着するだろうな。
あぁ、はやく行きたいな」
オレは逸る気持ちをどうにか抑えながら、警戒を続けた。
オレが休憩を始めてどのくらい経っただろう。オレがそろそろ王都へと向けて歩くのを再開しようかと思い始めた時、野原からこちらへと近づいてくる小さな物体を見つけた。
オレは急いで立ち上がり、手に持っていたナイフを構えて物体の方を注視する。
「ラビットだ!」
こちらにゆっくりと向かってきている正体はモンスターでも野盗でもない。一般的に食材として重宝されている生き物――ラビットだった。ラビットの肉は臭みもなく柔らかいため、人気の食材の一つだ。どこでも定番の食材として取引されている。体長は三十センチぐらいで、短く柔らかな毛で覆われている。草食のため人間を襲うことはないので、比較的安全に狩ることができる。ただ、跳躍力が高く動きが速いので、素人ではその動きについて行くことが出来ないらしい。
そんなラビットが自らこっちに向かってきてくれるなんて。今日の晩飯は決まりだな。旅初日から豪華な食事になりそうだ。
オレは、間抜けに近づいてくるラビットが晩御飯になった姿を思い浮かべれば思い浮かべるほど出てくるヨダレを、何とかこぼさないようにしながらも、その哀れなラビットを狩る絶好の機会をうかがう。
そいつはおそらくこちらには気づいているのだろう。しかし、オレには狩ることができないと思っているのか、特に警戒することなくこちらへとムシャムシャと草を食べながら、徐々に近づいてくる。
「ナメやがって」
オレは我を忘れ、ラビットに襲い掛かった。オレの繰り出したナイフでの一撃はラビットの首筋へと向かう。
――やった!
オレはそう思った。しかし、ラビットはあたかも予想していたかのように軽々とオレの攻撃を避け、オレを一瞥する。その目つきは、もう一回やってみろと言わんばかりのものであり、それが一層オレを興奮させる。
「ブッ殺す」
オレとラビットの長い戦いが始まった。
――数時間後。
「はぁ、はぁ……や、やってやったぜ……」
オレは血まみれのラビットを見下ろしながら、肩で息をする。長い戦いはオレの勝利で終わった。ただ、予想以上にラビットの動きが速くて、時間が掛かりすぎてしまった。日はかなり傾き、辺りは暗くなり始めている。オレ自身も身体中に疲労が溜まり、もうこれ以上動くことが出来そうにない。王都に少しでも早く行きたかったが、時間的にも体力的にも今日はここらで休むしかなさそうだ。
――夜。
オレは疲れ切っていた。
今まで何気なく食べていたラビットがあんなにも素早く、捕まえにくいなんて……次からラビットを食べるときはもっと感謝しよう。そう心に誓う。
オレは風よけにちょうど良い岩の前に腰を下ろし、焚火で内臓や毛皮を処理したラビットを丸焼きにしながら、ボーっと今日のことを考える。今日だけで、今まで経験したことのないことがたくさんあった。この経験は今後、絶対にオレのためになるだろう。そんな貴重な経験ができたんだ。
今思えば、オレはあの町でたくさんのものから守られて生活してきたのだろう。そのことを実感できたことは良かった。この気づきはオレを人間として成長させてくれると思う。
「よし、焼けたな」
オレが物思いに浸っていると、ちょうど良い具合にラビットが焼けていた。香ばしい香りが風に乗ってオレの鼻を刺激する。オレはラビットをパチパチと音をたてている焚火から取り上げ、そのまま齧り付く。
「――うまい!
まじかよ、うますぎるだろ」
焼きたてのラビットは、町で食べたのよりもうまみが強く、噛めば噛むほど味が噴き出てくる。自分で捕ったラビットがこんなにうまいとは。この味を覚えたら、もう普通のラビットは食べられないかもしれない。
そんなことを考えながら、オレはガツガツとラビットに齧り付く。そうしていると、ラビットは瞬く間に小さくなっていき、ものの数分で無くなってしまった。オレは名残惜しさを感じながらも、極上のラビットで満腹になった幸福感に包まれていた。
「――さぁ、晩飯も食べたし、野宿の準備でもするか」
野宿。
もちろんオレに野宿の経験なんてない。あるのはギルドにいる時に習った知識だけ。夜は夜行性のモンスターが活発に行動を開始する。ただ、モンスターの多くが火を避けるらしい。だから、焚火を絶やさないようにすればモンスターに襲われることはない。ただ、モンスターが火を避ける一方で、野盗どもは火を目印に人がいるかどうかを認識する。一人で寝ているところを襲われたら、ひとたまりもない。モンスターと野盗。その両方に注意しなければならない。
「やっぱり、初心者に一人旅は難しすぎるか……」
オレはぼやきつつも、今更悔やんでも仕方がないと焚火に薪を大量にくべる。人よりもモンスターに殺されるなんて嫌だからな。それに、野盗なら命だけは助けてくれるかもしれないし、言葉の通じないモンスターよりかはまともだろう。
オレは覚悟を決め、焚火の前に寝転ぶ。そして、ラビットとの死闘による疲れからか、オレはすぐに意識を手放した。
読んでいただき、ありがとうございました。




