9: 決闘騒動(1)
///
自分がやっていなくても、自分と同じ分類に所属する者が他人に迷惑をかけているのを見ると、本当に申し訳なく感じてしまうことがある。
なんでそんなことをするのかを問いただしたい気持ちに駆られてしまうのだが、皆は違うのだろうか。
///
「――それで今日はお二人だけなんですか?」
セレナさんの聞き取りやすい声が冒険者ギルドに響く。
オレとルナリアは依頼を受けるためにギルドを訪れ、二人でこなすのに良さそうな依頼を見つけ出し、いつも通りセレナさんに受付をしてもらっていた。
昨日の豪勢な晩御飯のせいで少しだけ寝坊してしまったため、オレたちが準備を整えてギルドを訪れた時点でもう昼過ぎになっていた。そのせいで良い依頼が残っていないかと思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。
思えば、冬に冒険者たちは他の季節ほど精力的には活動しない。わざわざ寒い中、活動したいと思う奴らなんて世界を見渡してもいないだろうし、寒さで身体の動きが鈍るこの季節に無理するのも馬鹿らしい。金に困っている者か冒険者としての感覚を鈍らせたくないという者だけが、この季節に活動している。
それらの理由から、冒険者ギルドはさほど活気だってはおらず、珍しくまったりとした雰囲気に包まれていた。セレナさんも自分の仕事を全て終わらせ、時間的に余裕があるため、こうしていつもよりも長く談笑することが出来ている。
「昨日は後輩の女の子たちと一緒でしたけど、今日は違うんですか?」
「今日は特に一緒に行動する約束はしてないんですよ。まあ、何れまた一緒に活動することはあるかもしれないですけど」
「それは朗報ですね! 実は私、あの二人のことを心配していたんですよ。ただでさえ女性冒険者は少なくて男性冒険者ばかりなのに、その中に右も左も知らない女の子が飛び込んできたら、酷いことになる可能性が高いですからね」
「私たちの時もそうだったわね。断っても断っても、言い寄ってくる奴らが本当に多かったわ」
ルナリアが腕を組んでうんざりした表情でつぶやく。その言葉から過去の様子がありありと想像することが出来た。
そんなルナリアの言葉に、セレナさんも同じような表情で頷く。
「本当、ああいうのをギルドで取り締まれたら良いんですけどね……なかなか上が動かないんですよ」
どこのギルドも抱えている問題は同じのようだ。
「その点、アレンさんたちならあの二人を安心して預けられるので、他の変な方々に目を付けられる前に知り合えて良かったなと思っていたんですよ」
前から思っていたのだけど、オレへの評価が高すぎるのではないか? ルナリアやリーフィアの時にもそうだが、オレってそこまで人畜無害そうに見えるのだろうか? いや、二人には前に花街通いがバレてしまったので、多少は評価が下がっているのかもしれないが。セレナさんもそのことを知ったら、今の態度が変わってしまうかもしれない。
……でもさ、オレも男である訳だし、ちょっとぐらい良いじゃん! オレだってそういうことをしてみたいお年頃なの。もしオレが花街へ行ったことに気付いたとしても、そこは目を瞑って欲しい。オレだって罪悪感がない訳じゃないのだから。
そんな男の我儘を心の中で呟きながら、受付の方へと意識を向けるとそこにはニコニコ顔のセレナさんが。
オレが最低なことを考えていたとも知らず、オレへ信頼を寄せてくれているセレナさんの様子にさらに心が痛くなる。
「――それで、あの二人はもう依頼へ?」
オレは心をチクチクと刺激される感覚を忘れるために、セレナさんへと話題を振る。
「ええ、朝早くに元気に出て行きましたよ。『今日もビッグトードを狩る』って気合が入っていました」
「あの二人、かなりビッグトードのお肉が気に入ったみたいね。
まあ、確かにあの味は毎日でも味わいたいと思うほどだけど」
本当に朝早くからご苦労なことだ。今日の朝も前日のビッグトードの味の余韻に浸っていたオレたちとは大違いで、二人は働き者らしい。
もしかしたら冒険者として初めて自分たちの手でモンスターを討伐できたことに、嬉しくなり興奮しているのかもしれない。まあ、その気持ちも分からなくもない。かくいうオレも初めて自分の手で討伐できた瞬間というのは、忘れることが不可能なほど鮮明に覚えている。それほど特別な経験だった。それは二人の場合も同じだろう。
「怠け者よりかは働き者の方が良いでしょう」
「それもそうですね」
「それに二人はまだ冒険者になったばかりで、いろんなことが楽しいんだと思いますよ。最初に色々と経験していればそれだけ将来の役に立つでしょうし」
オレは少しだけ先輩風を吹かせながら、可愛い後輩二人のことを思いやる。そんなオレを見て、セレナさんが口に手を当てながら微笑んでいた。
「ふふ、さすが冒険者になって早々に修羅場を経験した先輩は違いますね」
「か、揶揄わないでくださいよセレナさん」
「いえいえ、揶揄ってないですよ。アレンさんたちはここ王都でも珍しいくらいの経験をしていると思いますよ。新人冒険者としては他の人たちよりも頭三つは飛びぬけています」
「すぐにランクも上がってたし、アレンはもっと胸を張って良いと思うんだけど。私とリーフィアの時はもっと時間が掛かったもの」
そんな和気あいあいとしたオレたちの会話を、突然大きな声が遮る。
「――だから、ついて来るなって言ってるっす!」
オレたちは喋るのを止めて、その声の方へと身体を向けた。その声はギルドの中からではなく、ギルドの外から聞こえてくる。
「……今の声って、もしかしてターナか?」
「おそらくそうだと思うわ」
レイチアとターナに出会ってまだ間もないが、彼女たちはどうやら運が悪いらしい。高確率でトラブルに見舞われている。ただ、今回は前回のビッグトードの時とは異なり、王都の中での出来事なのでモンスター相手ではなく、人間相手だろう。
オレは二人の運の悪さに苦笑しながら、徐々にエスカレートしていくターナの声に大体のことを察する。
「……とりあえず助けに行くか」
「そうね、それが良いかも。
こんな王都の中でもしもの事なんてないとは思うけど、本物の馬鹿は少なからずいるから」
オレとルナリアはおそらく他人に絡まれているのだろう二人を助けるために、足早にギルドの外へと向かった。大事にならないようにと願いながら。
「――だ・か・ら、私たちはアンタたちのパーティーに入る気なんかこれっぽっちも無いって言ってるっすよ! 何度同じことを言わせるんすか?」
「不愉快なので早くどこかに行ってください。正直に言って迷惑ですから!」
「そんなこと言わなくても良いだろ?
せっかくオレたちのパーティーに入れてやるって言ってるのによ!」
「そうだぜ。初心者のお前たちのために言ってやってるんだから、大人しくオレたちについて来れば良いんだよ! 初心者で、しかも女のくせにオレたちに逆らってるんじゃねえぞ」
「大人しくしていればオレたち三人が色々と教えてやるからよ! 何なら夜の相手もしてやるぜ」
……どうして王都にはこういったクズが多いのだろうか? オレとルナリアが声のする方へと視線を向けると映ったのは、こちらへと向かってくるレイチアとターナに、三人のいかにもクズそうな男冒険者がまとわりついている様子だった。
男たちは二人の明確な拒絶に臆することなく二人に話しかけ続けており、時折、二人の身体に手を伸ばしていた。
レイチアとターナは伸びてきた汚らしい手をどうにか避けつつ、男たちを引き離そうとしている。そんな彼女たちにはオレたちが見たことも無いような表情が浮かんでおり、男たちへの強い嫌悪感が見て取れる。
そんな表情を向けられれば、誰しも脈がないことを悟り引き下がるだろうに、男たちはそんな様子もない。もしかしたら、他人の感情を読み取る能力が男たちには備え付けられていないのかもしれないな。
レイチアとターナは稀少な女性冒険者という事もあり、こういう事態が発生するという事はある程度予想はしていたが、ここまで酷い奴らに目を付けられるなんて予想外だ。男たちは自身の欲望を隠すことなく、二人に向けていた。男たちの視線は二人の胸や脚、お尻など固定されている。
二人はそんな視線を感じて手で身体を隠す。その行動が男たちの性癖に刺さったのか、気持ちの悪い笑みを浮かべながら、更に距離を接近させようとする。
そんな男たちの気持ちの悪い行動に、同じ男として何とも情けなく、レイチアとターナに申し訳なくなってしまう。
ただ、エスカレートしていく男たちの行動に、もうこれ以上見ているだけではマズイことだけは分かる。ああいった連中は自分たちの思いを叶えるためならば、いかなる手段も用いる正真正銘の馬鹿。それこそ犯罪さえ厭わないだろう。
「――っあ! アレンさん!」
ターナがオレの存在に気が付いたようだ。二人は男たちへと向けていた表情を一変させ、安心したような表情でオレたちの方へと走ってくる。
オレとルナリアは馬鹿から助けるために、二人の方へと駆け寄った。二人の後ろで、欲望や憎しみなどの様々な感情を顔に浮かべた男たちから目を離さずに。
お待たせいたしました。
深夜頃にもう一話更新予定です。




