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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第四章 社畜、家を借りる
65/183

5: ビッグトード狩り(1)

///

 オレの人助けも大分板についてきたものだ。

 なかなか人のピンチに遭遇することなどないと思っていたが、オレの周りだけ違うのだろうか? それともみんなが気付かないだけで今も誰かが危機に瀕しているのだろうか?

 まあ、オレに助けることが出来るのならば良いのだが……

///




「――それで、アレンはこんな昼間からワシの所に来ていて良いのか?

 お前も一緒に家具を選んで来たら良いだろうに」


「いや、普通ならそうしたいんだけどな。買い物となると二人について回るのは骨がいるんだよ。

 それに、荷物持ちも二人には『魔法の鞄』があるから必要ないし、二人の方がオレよりもそういうセンスもあるし……な、オレいらないだろ?」


「……お前、それ言ってて悲しくねえのか?」


「……」


 新しく借りた家に引っ越した次の日、ルナリアとリーフィアが家具を買いに出かけている間、オレはドワーフの鍛冶屋――ルガルドの店に来ていた。


 因みに、ステラは大人しく家で二人の帰りを持っている。オレが家にいるとステラも何かと羽を伸ばせないだろうと二人に提案し、それが受け入れられたため、こうしてオレはルガルドの下を訪れて談笑していた。


 まあ、オレが一方的に愚痴を聞いてもらっているだけなのだが。ルガルドは以前オレに売ってくれたソードを研ぎながらオレの話に耳を傾ける。


 いくらドワーフ製の業物だからと言って、手入れが必要ないと言う訳ではない。いや、一般的な刃物よりも手入れをしなくても切れ味が落ちないのは確かだが、少しずつではあるが切れ味が悪くなっている。


 そのため、定期的に研ぎに出さないといけないのだが、高度な技術の結晶であるドワーフ製の刃物を、そんじょそこらの鍛冶師に任せることはできない。そもそも、そんなことは製作者であるルガルドが許してくれなかった。


 オレがこのソードを購入した時、ルガルドから一つだけ条件が与えられ、それが他の鍛冶士に研ぎを頼まないことだった。オレはある程度の数の依頼をこなすと、ソードの切れ味が落ちていなくとも必ずこうしてルガルドの下を訪れ、ソードをルガルドに見てもらう。


 そうしている内にルガルドとの仲もかなり深まり、今では砕けた口調で話し合うことが出来るまでになっていた。


「それにしても、アレンが奴隷の主人か……お前もいろいろ苦労が絶えないな」


「まあ、何とかやってるよ。

 ほとんどルナリアとリーフィアが面倒を見てくれているけどな」


「ハーフエルフのステラだっけか?

 あの二人ならまず間違いなんて起きないだろうけど、外は違うから気をつけろよ。いつもニコニコしている奴に限って、ひどい仕打ちをしてくるからな」


「ああ、それは重々承知しているよ」


「分かっていれば良いんだ」


 ルガルドにはオレが奴隷を購入し、その奴隷がハーフエルフであるという事を打ち明けていた。人族ではなくドワーフでありステラと同じような経験をしてきたであろう彼ならば、ステラがハーフエルフだと知っても侮蔑的な態度を取らないという信頼があった。逆に、ルガルドならば親身になって相談に乗ってくれるだろうという確信も。


 ルガルドにステラのことを伝えた時、最初はオレが奴隷を買ったという事に不快感を露わにしていたが、オレから事情を聴いている内にその不快感は奴隷商へと向けられ、オレの行動を称えてくれた。そして、「何かあったらオレを頼れ」とぶっきらぼうにオレに言ってくれた。一見、その態度は不愛想ではあるが、その実、ルガルドが本当にオレたちのことを気にかけてくれているという事が伝わってきた。ルガルドとの付き合いが深まれば深まるほど、彼の不器用な優しさを感じ取ることが出来る。


「――ほら、これで終わりだ。

 ついでにこれも持っていけ」


「……良いのか? そりゃあ、貰えるならオレとしては嬉しいんだけど……結構な価格で売れると思うぞ?」


 ルガルドは研いでいたオレのソードとは別に、真新しいナイフも手渡してきた。このナイフも装飾などは一切施されてはいないが、刃の部分がとても美しく、オレの顔を綺麗に映していた。


 武器としては使えないぐらいの長さで、討伐部位の剥ぎ取り時やモンスターの解体時に重宝しそうだ。


 一級品であるため然る場所に出せばそれなりの価格がつけられると思うのだが、本当に良いのだろうか。少しばかり罪悪感を抱いてしまう。


 ただ、ルガルドはオレの言葉に応えることなく、そのまま自分の作業へと戻って行った。


「……ったく、本当に素直じゃないんだから。ありがたく使わせてもらうよ」


 オレはルガルドの後ろ姿にお礼を言い残して店を後にした。




「うーん、どれにしようかな」


 オレはルガルドからソードと新しいナイフを受け取った後、冒険者ギルドを訪れていた。


 今日はルナリアとリーフィアの二人は家具を買うのに出かけているため、オレだけで依頼を受けることになっている。二人からは休んでも良いのではないかと言われたが、オレとしては少しでも貯蓄の足しにしたいと思い、一人で依頼を受けることにした。


 巨大オークの報酬やグレイ村関連で得ることが出来た報酬のおかげで、まだまだ財布に余裕はあるが、貧乏性が抜けないオレはどうしてもせっせと働いてしまう。


 それに今回の家の件でかなりの額が消えていったため、その消えていった分をどうにか取り戻そうとしている自分がいる。まあ、働かない奴よりも働く奴の方が良いだろう。


 今回は独りなのでそれほど難しい依頼を受けることはできない。危険の少ないFランクの依頼を受けるとするか。


「おっ、これが良さそうだな」


 オレはそう思い掲示板の依頼書を手に取る。


 王都周辺に出没するゴブリンの五匹以上の討伐。


 ゴブリンはどんなに討伐しても時間が経てば再び王都周辺に出没してくるため、こういう手の依頼は常に出されている。熟練の冒険者にとってはゴブリンを討伐しても旨味が少ないため嫌われているが、駆け出しの冒険者にとっては戦闘に慣れるためには持ってこいの相手であるため、こういった依頼は重宝されている。


 オレにとっては少し手ごたえのない相手ではあるが、怪我をすることが出来ない状況なので仕方がないだろう。


 オレは依頼書を受付にいたセレナさんに渡し、王都の外へと向かう。


 幸いなことに、王都から数十分歩いた所でゴブリンを見つけることが出来た。オレはさっき研いでもらったソードを勢いよくゴブリンに滑らせる。ゴブリンは抵抗することなくそのまま真っ二つとなり地面に沈んでいった。


「――うっわ! これめちゃくちゃ使いやすいな」


 オレは新しく貰ったナイフの切れ味に驚きながらも、剥ぎ取った素材を『魔法の鞄』に入れて次の獲物を求めて歩き始める。


 次にオレの獲物となるゴブリンはすぐに見つかった。冬本番が始まろうとしている今、モンスターもそれほど活発ではないのだが、蓄えを十分に確保できずに飢えたモンスターがこうしてフラフラと食料を求めて徘徊している。


 オレは先ほどと同じようにいとも簡単にゴブリンを討伐し、素材を『魔法の鞄』に収納しようとした時、遠くの方で何人かの声が聞こえた。


 まあ、オレと同じように討伐依頼に来ている冒険者たちだろうと思い、さほど気には留めていなかったのだが、何時まで経ってもその声は止まることなく、次第に切羽詰まっているのか大きくなってくる。


「……ちょっと見に行くか」


 オレは少し心配になり、様子を見に行くことを決意した。何もなかった場合は無駄足になってしまうが、何かあった場合に行かずに後悔するよりかは良いだろう。


 オレは少し速足になりながら声の方へと向かう。


 徐々に何が行われているか見えてきた。視線の先では数人の冒険者たちが大きなモンスターと対峙している。彼らの装備を見るにまだまだ駆け出しの冒険者だろう。冒険者たちが対峙しているモンスターはビッグトードであり人間の倍以上の大きさがあった。普通、この時期にはビッグトードはもうすでに冬眠しているので、お目にかかることはまずないのだが、おそらくはさっきのゴブリンのように十分に蓄えることが出来なかったので未だ地表に姿を現しているのだろう。ちなみにから揚げにするとめちゃくちゃ美味い!


 その大きさの割にはさほど脅威ではなく、コツをつかんでしまえば簡単に討伐することが出来るモンスターなのだが、初心者にとってはそうではないのだろう。冒険者たちの表情には明らかに焦りの色が見えた。


 ――これは加勢に入った方が良さそうだな。


 オレはソードを抜いて冒険者たちに駆け寄る。ギルド職員時代に何度もその巨体を解体していて見慣れているのでオレに焦りはない。


「おい、大丈夫か?」


「――ッ!? 誰ですか?」


 女性冒険者の一人がこちらに振り返り、突如として現れたオレに驚く。


「今はそんなことは良いから!

 一緒に戦うぞ」


 オレは時間を無駄にしないように意識的に命令口調で話しながら、冒険者の意識をビッグトードへと向けさせる。


 さあ、今日の美味しい晩御飯のための戦いを始めようか。


読んでいただき、ありがとうございました。

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