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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
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幕間 ルナリアとステラ

お待たせいたしました。

「それじゃ行ってくるけど、くれぐれも優しくよ」


「分かってるって」


 リーフィアが今日何回目かの同じ言葉を投げかけてくる。リーフィアは私をそんなに信用できないのだろうか。私だってそれぐらいの分別は持っているつもりだ。子供の頃もよく同じくらいの年齢の女の子たちの世話をしてきたし、いろいろと相談にも乗ってあげたことがある。そのおかげで女の子に対する扱い方は人一倍上手であると自負すらしている。まあ、男の子たちからは「脳筋」だの「悪魔」だのと言われていたが、そんな失礼なことを言ってきた連中のことは今は気にしない。


 とにかく、今私の目の前に横たわる少女――ステラは女の子なのだから、私だってリーフィアに負けないぐらいには出来ると思う。


「じゃあステラ、今日一日よろしくね!」


「……」


「……あれ、もしかして緊張してる? 

 大丈夫よ、緊張なんかしなくて。私は別にあなたに危害を加えたりしないから。だから安心して私にお世話されてよ」


 私の言葉虚しく、ステラは未だ黙り込んでいる。


 こんな状態の子からよく名前を聞くことが出来たわね。ステラと一対一で接することにより、リーフィアの凄さを改めて理解できた。さすがリーフィア。ただ、私だってステラとの距離を今日一日で縮めてみせる。まずは一言二言でも良いから会話をすることを目標に頑張ってみよう。


「……ええっと、まずは身体を綺麗にすることからか」


 私はリーフィアから受け取った紙を確認する。これは今朝、リーフィアがアレンと出かける前に渡してくれた。ステラに対して何をするのかが書かれている。栄養が偏らないような食事のメニューや窓を開けて新鮮な空気や日差しを部屋の中に取り込むなど、事細かに指示されている。最重要事項や絶対にやってはいけないことには大きく丸印が書かれていて、リーフィアの過保護さが窺える。


 それにしてもよく一日でここまでステラに関する情報を得ることが出来たものだ。今日リーフィアの凄さを実感するのは早くも二度目だ。二人が帰ってくるまでに、一体何回この体験を経験するのだろうか。まあ、私は私にできることをするしかない。今はリーフィアが用意してくれたこの紙に従ってステラをお世話するだけだ。


 この紙に従えば、まず私がやるべきことはステラの身体を綺麗に拭き、清潔な服に着替えさせてあげることらしい。ステラの体型に合う着替えなんて私は持っていなかったが、それはさっきリーフィアから受け取っている。派手な装飾がなく、ステラ用としては地味すぎるように感じるが、別に外に出かける訳でもないしベッドで寝ているのにはこれぐらいが良いのかもしれない。だけど、いつかステラが元気になったら可愛らしい服を買ってあげよう。ステラならきっと似合うと思う。そしてみんなで楽しくどこかに出かけてみるのも良いかもしれない。


「とりあえず今は身体を拭くことからね。

 ステラちょっと寒いかもしれないけど我慢してね! すぐに終わらせるから」


 私はベッドに片膝をついてステラの顔を覗き込む。そこには昨日リーフィアによって綺麗に拭かれたため、街中で初めて見た時よりもきれいになった肌があった。だけど、その肌は綺麗になっていても、その二つの瞳の色は未だに濁ったまま。せっかくこんなに可愛いのにもったいない。


 私は私の伸ばした手をどうにか避けようと身体を動かすステラを無視して布団をめくり、服を脱がしていく。


「ほら、暴れないの。

 まだ体調も万全じゃないんだから、お姉さんに任せなさい」


 しばらくの間、ステラは抵抗を続けていたが、私がそんなことでは止まらないことを悟ったのか今は静かに拭かれている。私はリーフィアとは違ってこんな扱いしかできないけど、決してステラのことを心配していないと言う訳ではない。心の中ではステラに対する様々な感情や、ステラの身体にこんなにもひどい傷を刻んだあの奴隷商や人族ではないというだけでこんな幼気な子までもこのような境遇に貶めるこの国に対する怒りが渦巻いている。ただ、そんな感情は表に出してもしょうがないし、出したところでそれらの問題が改善されるわけでもない。それならば、ステラが少しでも明るさを取り戻すように私が明るく振る舞っているべきだろう。周囲が明るければそれに影響されてステラも明るくなると思う。それに、優しさならばリーフィアがいるし私の役割はそれとは別だと思う。


「ステラは何か食べたいものある? 何かあったらすぐに言ってね。次回の時に用意しとくから。

 因みに、私はオークの肉が好きなの。あれを食べたら力が漲ってくるのよ! いつか一緒に食べに行きましょうね。美味しい店を知っているから、ステラもきっと気に入ると思うわよ」


「……」


「はい、身体は拭き終わったわ。

 これが今日のステラの服よ。ちょっと地味だけど我慢してね」


 私は慣れた手つきでステラに服を着させていく。これも小さい頃によく年少組にやっていたことだ。親たちはいろいろと忙しくしていたので、私とリーフィアが親代わりになっていた。こうしてステラの世話をしていると村で生活していた頃を思い出す。みんなは今どうしているだろうかな。久しぶりに顔を見たいけど、ここからだとかなり遠い。今のステラではその旅路に耐えることはできないだろう。


「うん、可愛いわ!」


 私は服を着せ終えたステラを見て何かしらの不備がないかを確認する。どうやら、完璧にできたらしい。特に違和感はない。そこには、可愛らしいハーフエルフの女の子がちょこんと静かに座っているだけ。


「次は朝食ね。

 ちょっと待っていてね。すぐに準備するから」


 私はベッドから出て、机の上に昨日の内に準備していた食べ物を並べていく。リーフィアの紙に従って、肉ばかりにならないように注意することを忘れない。肉を食べれば何でも解決すると思うのだけど、野菜を中心に出すように指示されている。リーフィア曰く、病み上がりにはその方が良いらしい。いや、それは分かるけど体力を早く戻すのにはやっぱり肉が必要だと思う。


「さあ、準備完了。

 遠慮せず食べてね!」


 私は並べた料理の中から、胃にやさしそうなものを選び取って再びベッドの上に座る。そしてスプーンで一口分すくうとステラへと差し出した。


 ステラはしばらくの間、食べようかどうか逡巡していたが、食欲に負けて差し出された料理を小さく口の中に含ませた。


「ふふ、おいしい?」


「……」


「はい、あーん」


 今度は素直に口を開けて私が差し出すスプーンを持つステラ。その姿がこれまた可愛くて、顔がほころんでしまう。今すぐにも抱きしめたい! そして頬ずりしたい!


 ステラは口の中に何もなくなると、私がスプーンを差し出す前に口を開けて次を待っているようになった。


「はいはい、ちょっと待ってね」


 私はその姿に身悶えながら、小さな口に次々にスプーンを差し出していく。


 ステラはその小さな身体に次々と料理を取り込んでいく。


「はい、これで最後ね」


 そして、私が用意していた料理を全て食べきった。病み上がりにしてはかなり食べた方だと思う。これならすぐに体調も良くなるかもしれない。


「お腹いっぱいになった?」


「…………ん」


「――ッ!」


 ステラが返事してくれた! 今絶対にしてくれた! 聞き間違いじゃない。確実に今のはそうだ。


 それは言葉ですらなかったのかもしれないが、初めてコミュニケーションを図ることに成功したと言っても良いだろう。いや、言っても良いはずだ。確実にステラは私からの問いかけに対して反応を示してくれた。


 そんな小さな進歩に喜びつつも、そんなステラの可愛さに、私の心の中にステラと出会ってから芽生えていた思いが強烈に刺激されていた。


 ――絶対にステラに「お姉ちゃん」と呼ばせてみせる!


 こうして私の「ステラにお姉ちゃんと呼んでもらう計画」が始動した。


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