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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
56/183

30: 三人で

2024/12/21(土):誤字修正

///


 オレも王都に来る前と比べてかなり交友関係が広がったと思う。それでも片手で数えることが出来る程しかいないのだが。

 それでも、今のオレは圧倒的に充実している。冗談も言うことが出来るし、一緒に酒を酌み交わすこともできるそんな関係。そんな関係を今後も広げていくことが出来るのだろうか?


///




 オレたちが二人で冒険者として活動し始め、ステラと共に生活し始めて数日。


 初めは二人で依頼をこさなければならないことに少しながら不安と違和感を抱いていたが、今はそのようなことは無くなり、三人で依頼をこなしていた時のような自然体で活動することができている。


 基本的な戦い方も確立しており、今は戦闘をするごとに改善点を見つけ出して修正し、より洗練された形へと進化させている状況だ。


 そのおかげで、一つの依頼に要する時間も徐々に短くなっており、一日にこなすことのできる依頼の数も増えている。冒険者面においては順風満帆、その日暮らしの生活ではなく、ちゃんと貯金をすることもできている。もちろん、出来る限り節約するに越したことはないが、偶の贅沢なら問題ないぐらいの経済状況だ。


 そんな順調な冒険者生活に比べて、ステラとオレたちの関係性はさほど進展していなかった。


 「オレたちの」と一括りに言うのはルナリアとリーフィアに失礼かもしれない。正確に言えば、ステラと二人は多少は関係が縮まっているが、ステラとオレとの関係は全く進展していなかった。それはオレがステラの世話をせずに常に外で冒険者として活動しており、ステラと過ごす時間が二人よりも圧倒的に短いのが原因かもしれない。二人のようにステラを妹のように可愛がっていれば、オレもステラとの関係性を進めることが出来るのかもしれないが、まだ彼女との距離の取り方を図りかねている段階であり、なかなか砕けた調子で接することが出来ない。別に、人見知りと言う訳ではないが、年下の異性という事もあり意識してしまう。


 ステラの方もオレへの警戒を解くことなく、常にオレの行動に目を光らせている。オレがベッドに近づくと身体を硬直させ、目でそれ以上近づかないように訴えかけてくる。どんなにお腹が減っていようと、どんなに眠たかろうと、オレへの意識は途切れることなく、オレがその視界に入る内は常に緊張した状態にあるため、オレは気を遣ってあまり部屋の中には留まらずに、出来るだけ外に出ている。その方がステラとしてもリラックスすることが出来て疲れないだろうからしょうがない。オレが部屋の中に入るのは食事の時やステラが寝ている時などだけだ。


 そんなオレとは違って、ルナリアとリーフィアはステラからの信用を勝ち取り、少しずつではあるが着実にステラとの仲を進めて行っている。ルナリアは多少強引ではあるがステラの築き上げた高く堅牢な壁をものともせずにその中へと入り込み、いろいろとお世話をしている。ステラも初めの内はそんなルナリアに抵抗していたらしいが、すぐに無意味なことと悟り、今ではルナリアの好きなようにさせている。


 オレたちの中で最もステラとの関係性が進展しているのは間違いなくリーフィアだ。もしかしたらステラが目覚めた日に部屋に留まり、ステラの世話をしたのが関係しているのかもしれない。やはり、最初に自らにやさしくしてくれた人というのは鮮明に記憶に残り、安心感を抱かせるのかもしれない。


 まあ、リーフィアのステラへの接し方を見ているとそれだけが理由ではないという事が分かるのだが。リーフィアはステラを落ち着かせるために、常に母親のような愛情に満ち溢れた優し気な笑顔でステラを見守り、ステラの壁を低くさせていった。ルナリアのように積極的に動くことはあまりないそうだが、全ての所作に細かな気配りと安心する温かみがあるので、ステラとしても頼りやすいのかもしれない。現在、オレたちの中で唯一ステラと会話をすることが出来るのがリーフィアだ。名前を聞き出したその手腕は伊達ではない。


 そんなこんなで、ステラに関して全くと言って良いほど何もできないオレは今も外へと繰り出して、手ごろな酒場へと訪れていた。


「へえー、アレン君もいろいろと抱え込んでいるみたいね」


 ギルドに併設された食堂のウェイトレスのウィリムさんが勢いよく酒を飲みほす。


「最近はルナリアさんとリーフィアさんのどちらか一人とギルドに来られていたので、何かあったのかなと思っていましたけど……想像していたよりも大変そうなことになっているみたいですね」


 セレナさんが酒の肴を口に運び、それをゆっくりと酒で流し込む。


 そう、いつもは独りでブラブラと時間を潰していたが、今日は女性二人と食卓を囲んでいた。オレがたまたま入った店に二人がいて、ウィリムさんに誘われて今こうして三人で飲むことになった。


 二人は同じギルド内で働いているという事もあって仲が良く、こうして二人で頻繁に飲んでいるそうだ。お互いに血の気の多い冒険者を相手にしているため不平不満が絶えず、思い切り愚痴を言い合っているらしい。


 冒険者であるオレとしては耳の痛い話が多かったが、いつもお世話になっているので、大人しく二人の話を聞いて相槌を打ったり共感したりと二人のストレス発散に付き合った。


 その後、二人はスッキリしたのか愚痴を言い合うのを止めてオレの最近の様子を聞きたがり、オレは二人に奴隷を買ったことを話した。ただ、その奴隷がハーフエルフであるという事だけは伏せている。二人の性格を考えるとステラに対して表立って悪意や敵意を向けることはないのかもしれないが、それでも何があるか分からないのがこの世の中。わざわざここで全ての真実を伝える必要もない。それぐらいこの王都では人族至上主義が蔓延している。


「どうやって距離を縮めればよいのか分からなくて……」


 オレは溜息を飲み込むために酒をあおる。仕事上、人と触れ合う時間の多い二人ならば何か良い方法を知っているかもしれない。


「そんなのアレンの人となりを見せるしか方法はないんじゃないの。そうやって信頼に値するかどうか判断してもらうのよ。どう取り繕っても最終的にはバレちゃうだろうし、アレンも疲れるだけでしょ。それなら最初から曝け出した方がお互いのためだと思うの。

 それで後はなるようになるわよ。好かれるか嫌われるか分からないけど、それでも本性を知っているだけ付き合い方はかなりマシになるんじゃない?」


 ――あっ、その肉はオレが狙いをつけていたのに。


 皿の上にあった残り一つの肉を美味しそうに飲み込んでいくウィリムさん。


「私もそれが一番だと思いますよ。その年頃の女の子はもう十分に敏感ですから、下手に誤魔化しても見透かされますからね。

 それにアレンさんならきっと大丈夫だと思いますよ。いつもギルドで対応させていただいている私が保証します。最初はどうしても警戒してしまうでしょうけど、アレンさんと接している内にきっと分かってくれます」


 セレナさんがオレを安心させるようにオレに微笑みかける。その手には小さなコップが握られており、まだ半分以上酒が入っている状態だった。オレが二人の女子会に参加してからセレナさんは未だにお代わりをしていない。前回のような豪快な飲みっぷりは今日はお預けのようだ。あれはあれで好きだったのだが、そうするとまたセレナさんが羞恥で悶えてしまい数日間ギルドで気まずくなってしまうのでしょうがない。セレナさんもどうやらあの時のことを意識して飲むペースを抑えているようだ。


 ただ、そんないつも通り礼儀正しく落ち着いたセレナさんの姿を見たオレは悪戯心が刺激されてしまう。年上の女性にそんなことをするべきではないのかもしれないが、セレナさんの慌てた表情も見ておきたい。嫌味にならないように注意しながら、揶揄うことを決断する。


「……今日はずいぶん飲むペースがゆっくりですね。

 お代わりはいらないんですか?」


「――っん!?」


 効果は抜群。セレナさんはちょうど口に含んでいた酒を吹き出しそうになっていた。


「……ケホケホ……アレンさんって思いのほか意地悪なんですね」


 酒を全て飲み込んで落ち着いたセレナさんが恨めしそうな眼付きでオレを上目遣いで睨んでくる。しかしながら、セレナさんの頬は赤く染まっており、上目遣いも相まってとても可愛らしく映る。頬が赤い原因は酒のせいだけではないだろう。オレは脳にそのセレナさんの姿を深く記憶しつつ、素直に謝っておく。


「えー、なになに、二人とも仲良さげね」


 そんなオレとセレナさんのやり取りを見ていたウィリムさんが間に入ってくる。この人は面白いことを見つけると居ても立っても居られないらしい。今もニヤニヤしながらセレナさんに身を寄せている。


「そ、そんなんじゃないわよ! 変な邪推はしないでよね」


「ええー、でもさ、セレナがそんな顔をするの初めて見たし、さっきもやけにアレンのことを褒めていたじゃない。

 それにいつも冒険者の愚痴ばっかり言っているのに、アレンのことは特別そうに扱っているし」


「……そんなことないわよ」


 どうやら口はウィリムさんの方が達者のようだ。ハキハキとしたセレナさんが嘘みたいに弱々しく反論することしかできていない。


「でもさ、アレンもモテモテね。

 パーティーのあの二人に加えてセレナもだなんて。大人しそうに見えるのに人は見かけによらないわね」


 セレナさんの肩を抱き寄せて反応を楽しんでいたウィリムさんがオレへと標的を変える。セレナさんはウィリムさんの腕の中で俯き、無言になってしまっていた。


「二人ともウィリムさんが考えているような関係じゃないですよ」


 オレは出来るだけ平静を保ちながら、動揺が表情に出ないように努める。


「ふーん、そうなんだ。

 じゃあ、私が立候補しちゃおかな」


「えっと――」


「――ダメです!」


 オレがどう反応しようか迷ってしまい返答に困っていると、セレナさんがすごい勢いで顔を上げてウィリムさんに食って掛かる。


「セレナとはそんな関係じゃないんでしょ? それなら私がどうしようと関係ないと思うのだけど。アレンも一人の立派な男性なんだから、そういう相手が欲しいだろうし」


「それでもダメなものはダメなの!」


 ……セレナさん、そんなに反応しちゃうとウィリムさんの思うつぼですよ。


 オレは再び結果の見えた口戦を始めた二人をボンヤリと眺めながら、酒を一気に胃に流し込んだ。

これにて第三章本編は終了です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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