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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
55/183

29: リーフィアと

///


 趣味嗜好は人それぞれ。それに他人が意見するべきではないと思う。

 ただ、それが他人に迷惑をかけていない限りという条件付きではあるが。あまりにも迷惑なものであった場合は注意ぐらいされてもしょうがない。

 オレにはそんな過度なものがないことを願うばかりだ。


///




「――結局、名前しか分かりませんでしたね」


 オレとリーフィアはギルドで適当な依頼を見つけ、今は王都の外に出ていた。


 今日はルナリアが部屋に残ってステラの世話をして、リーフィアはオレと一緒に冒険者として活動する日だ。


「まあ、オレからしたら名前が分かっただけでもスゴイと思うけどな。オレだったら何日掛かっていたか……」


「それは適材適所ですよ。今回は私の方がアレンさんよりも適任だったというだけですよ」


 リーフィアが苦笑しながらオレのことを慰める。今はその優しさが昨日の件で浅く傷ついたオレの心にしみてしまい、より一層情けなさを感じてしまう。


「――でも、食欲はちゃんとあるようだったので良かったですね。もしかしたら食べ物が喉を通らない事態も想定していたんですけど、杞憂で何よりでした。あらかた傷は治っているので、後はとにかく食べて栄養を摂ることが大切ですからね」


「そうだな……すごく警戒されていたけどな」


 昨日、オレたちがステラとの顔合わせを終わらせて食事を始めた際、当然のことながらステラにも彼女用に用意していた料理を渡した。最初はオレがその前までの失態を取り戻そうとゆっくりと皿を彼女の前へと持って行ったのだが、結果は自明の理。あまりにも分かり切っていた結末だったが、それでも成功するかもしれないという数パーセントに賭けてみるも失敗。オレの心に傷を増やすだけだった。


 その後、ステラとの関係が一番進んでいるリーフィアが料理をステラの下へと届けた。最初は警戒していて料理を受け取ることはなく、料理とリーフィアとを交互に見つめ続けていたが、結局は食欲に負けてしまったのか、リーフィアの手から弱々しく料理を受け取るとチビチビと頬張り始めた。その間も、オレたちに対する警戒は解かれることなく、視線はオレたちに固定したまま、食べ進めるという奇妙な光景が繰り広げられていた。


 ただ、ステラのその姿は見ているオレたちを和ませるものだった。周囲を警戒してチビチビと小さな口で頬張るその姿は、さながら小動物の食事風景であり、オレたちの保護欲をかなり刺激するものであった。ルナリアとリーフィアはその様子を見ながら何度も「可愛い」と呟いていたほどだ。


 そのことをステラ本人が聞くと不快に感じてしまいそうなので直接本人に伝えることはしていないが、ルナリアとリーフィアの間では、ステラは「可愛い妹」ポジションとして認識されていて、絶賛甘やかし中である。今日はルナリアが「絶対にお姉ちゃんと言わせる」と意気込んでいた。


「それはそうと、セレナさんはどうしたんですか? なぜか視線が一回も合わなかったのですが」


「ああ、そのことか……」


 オレはリーフィアにセレナさんがあんなことになっている理由を説明。昨日、ルナリアと一緒にギルドに訪れた時も同様に目を合わせずに恥ずかしがっていたこと。今日の様子は昨日よりも微々たるものだが改善されていたこと。いつもハキハキとしているセレナさんが羞恥に悶えるという珍しい姿は格別だということ等々。


「――じゃあ、明後日には元通りになっているかもしれませんね。あの状態のセレナさんは新鮮なので、もったいない感じがしますけど……また、皆で飲みに行きましょうね!」


 リーフィアには珍しく、悪戯を思いついた子供のような笑顔を浮かべている。


「あまり揶揄ってはいけないぞ。セレナさんにとっては消し去りたい過去なのかもしれないからな。そっとしておく方が得策だろう」


「それはそうですけど……日頃しっかり者のセレナさんがあんなに顔を赤くしているなんて、なかなか見られないですよ! それに可愛いじゃないですか」


 ……リーフィアの新たな一面を垣間見てしまったのかもしれないな。いつもおっとりとしているリーフィアに、まさか嗜虐的な癖があるとは。これからのリーフィアへの対応を再考した方が良いのかもしれない。まあ、人の癖に対して他人がとやかく言う権利はないが、それが出来るだけオレに向けられないようにしなければ。


 苦笑しながらリーフィアを見つめていると、リーフィアが眉をひそめてこちらに向き直る。


「……アレンさん、何か失礼なことを考えていませんか?」


「そ、そんなことないぞ。そんなことある訳ないじゃないか」


 オレは心の中を見透かされていたことに動揺しつつも、どうにか誤魔化すために捲し立てる。そんなオレの様子を黙ってジト目で見つめ続けるだけのリーフィア。ただ、ここで認めてしまえばその後が怖い。何としてもやり過ごさなければ。


「……まあ、良いですけどね」


 どうやらオレは許されたらしい。


 危なかった。もう少しで告白してしまうところだった。これも冒険者として修羅場を経験していたおかげかもしれない。


 リーフィアは未だに不満気だが、これ以上追及する気はないらしい。まあ、追求しなくてもオレの考えていたことなんてお見通し何だろうけど。


 オレたちは城門で手続きをして、王都の外へと繰り出した。


 今日の依頼はゴブリンの討伐が主だ。王都近隣で数匹のはぐれゴブリンがうろついているらしい。そのゴブリンたちを見つけて討伐する。運が良ければすぐに達成することが出来るだろう。それに加えて、ラビットや大鹿などの動物の討伐。こちらは王都内にある飲食店からの依頼だ。その店はオレたちも何度も利用したことがあり、美味しい料理が出てくる良店なので即決で依頼を受けることを決断した。その他は、常時ギルドに掲載されているような細々とした採集の依頼で、こちらはついでなので、達成できたら良いなというぐらいの気持ちでいる。


「普段はルナリアがリーフィアをかばうようにしているけど、今日はルナリアが不在でオレ一人だからな。陣形はどうしようか?」


 魔法士であるリーフィアはオレやルナリアに比べて動きは俊敏ではない。もちろん、リーフィアも冒険者である以上、一般の女性よりかは体力があるし、素早く動くことが出来る。ただ、前衛職のオレたちに比べてしまうと、どうしても劣っているので、独りでモンスターに相対させるには心もとない。それに、安定して強力な魔法を使うためにはそれなりの時間を要するし、守られていた方がルナリアとしても安心して魔法を使用することが出来るだろう。


 そのため、今まで三人の時はルナリアが常にリーフィアの前に立ち、モンスターのヘイトをリーフィアに向けないようにしていた。そして、ルナリアとリーフィアの反対側にオレが陣取り、モンスターを挟み込むようにして攻撃していた。しかしながら、今回はそれができない。オレが守りながら戦うという手もあるが、それだとオレの攻撃は一辺倒なものにならざるを得ない。かと言って、三人の時のようにモンスターを挟み込むように陣取ってしまうと、万が一モンスターがリーフィアの魔法が完成する前に近づき、接近戦に持ち込まれてしまうかもしれない。さすがにリーフィアもオレが助けに行くまでは耐えることが出来るだろうが、何があるか分からないのが冒険者だ。油断は禁物。驕りは身を亡ぼす。


「そうですね……いつも三人で活動している時と同じで良いのでは? ただ、いつもより少し私に近づいてもらった方がありがたいです。その方が私も安心できますし、アレンさんもそうでしょ?」


「……それでいくか」


 オレは少しその場で思案したが、今はリーフィアが提案した案以外に良い方法を思いつかなかった。結局、オレはルナリアの案に乗ることしかできない。


「はい。

 それに私だって自分の身ぐらい自分で守れますよ。こう見えて逃げ足は速いので」


「ただ、無理だけはするなよ。何か問題があったらすぐに報告すること」


「分かっていますよ。

 無理しても良い事なんて何もないんですから」


 心配事はどうしても残るがこればっかりはどうしようもない。実際に戦闘を行ってみて、その場その場で改善していくしか方法がないと思う。まあ、今日は王都の近郊で活動するので、強力なモンスターとは出くわさないだろうし、周囲には他の冒険者もいることだろう。何かあったとしても、すぐに王都に戻ってくることが出来る。


「実践あるのみだな」


 オレは一抹の不安を心の奥に仕舞いこみ、依頼目標を探索することに注力し始めた。




「――『ウィンド』」


「キュッ!?」


 乾いた風が草木を揺らす中、それとは比べ物にはならない勢いで鋭利な風の刃が逃げ惑うラビットを襲う。リーフィアの放った魔法は空気を切り裂きそのまま一直線に大鹿に命中して、血しぶきを上げさせる。


 見事に頭に命中したようで、大鹿はそのまま動かなくなってしまった。オレは倒れた大鹿の方へと駆け寄りながら、功労者であるリーフィアを称える。


「さすがリーフィアだな、ちゃんと頭に当たっているよ。これなら安く買い取られることもないだろう」


 モンスターとは違って、野生の動物は討伐証明部位さえ持ち帰ることが出来れば良いと言う訳ではないので、冒険者によっては敬遠されがちな相手だがリーフィアの『ウィンド』があれば容易に仕留めることが出来る。威力的には『ファイア』には劣ってしまうものの、ナイフで裂いたように最小限の接地面積で致命傷を与えることが出来るため、『ウィンド』は使い勝手が最も良い魔法と言っても良いだろう。


「そんなにおだてても何も出ないですよ」


 言葉とは裏腹に、オレに褒められたことが嬉しかったのかリーフィアは少し得意げに微笑んでいた。


 オレは血抜きを終えた大鹿を『魔法の鞄』に仕舞う。


「オレも早く攻撃魔法が使えるようになったらな……」


「じゃあ、久しぶりに私が直接指導しましょうか? 

 幸いなことに依頼も無事に達成できそうですし、それに私もアレンさんがどのくらいのレベルにいるのか気になります」


「お願いしようかな。

 日頃の鍛錬の成果を見てもらうとしよう。オレの『ライト』の練度に驚くと思うぞ」


「ふふ、期待していますよ、アレンさん」


 こうして、リーフィア先生の指導の下、オレは攻撃魔法の習得に向けて練習を始めたのであった。


 因みにだが、リーフィアはオレが自由自在に『ライト』を操る姿を見て驚きの表情を浮かべていた。予想以上にオレは魔法を上手く使いこなしているのかもしれない。

読んでいただき、ありがとうございました。

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