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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
53/183

27: ルナリアと

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 自分のことを過大評価してはいけない。そのせいで、何かしらが出来なかったときに無駄に傷つき、気疲れしてしまうから。それに、自分は良くても他人に迷惑をかけてしまう可能性もある。

 加えて、過小評価も程々にしておかなければならないと思う。なぜなら、難易度の簡単なものばかりをこなし、難しいものへと挑戦しなくなってしまい、それ以上の成長の可能性を失ってしまうから。

 謙虚に、かつ正確に自分の能力を把握することが一番大切だと思う。


///




「じゃあ、これとこれ……あ、あとこれも良さそうね」


 ギルドの掲示板に張り出された数多くの依頼の中から、ルナリアが同時進行するのに適した依頼を選んでいく。その手に取られた依頼を見ると、一つの討伐系の依頼を主軸として複数の採集系の依頼を並行して遂行していくようだった。どの依頼も難易度としてはそれほど高くなく、頑張れば今日で終えることが出来そうなものばかりだ。この丁度良い配分はさすがルナリアだと思う。リーフィアと長年冒険者として活動してきた経験から、彼女はパーティーメンバーの力量を正確に把握し、その力量に照らし合わせて依頼の難易度を調整することが出来る。


 一見、この能力は地味なものだと思われるかもしれないが、冒険者にとっては最も重要な能力の一つであり、この能力があるのとないのとでは生存確率がかなり変わってくると言っても過言ではない。


 冒険者は自信過剰な者が多い。そうでなければ冒険者社会で上手くやっていくことが出来ないという事もあるが、自分の力量に絶対的自信を持っており、ナメられたら終わりだと考えている。そのため、自分の力量を適切に把握している者はかなり少ないと思われる。いや、若しくは、自分の力量を把握しているものの、プライドが邪魔をしているのかもしれない。ともかく、冒険者たちは自分の力量以上の依頼を受けようとするものが多く、それによって負傷してしまったり、最悪の場合には依頼中に死んでしまったりする者も多い。


 そんな事態をどうにか回避するために、ギルド側もランク制を用いてどうにか将来有望な冒険者たちの命が無駄に散らないように対応してはいるのだが、その甲斐虚しく、毎年一定の死者を出してしまっている。


 確かに、高難易度の依頼の方が報酬も高く、その日を生きる冒険者にとって、その方が魅力的に見えるのだろうが、オレとしては例え他の冒険者たちにナメられたとしても、安全が少しでも確証された依頼を受けたい。この考えは冒険者としては失格なのかもしれないが、背に腹は代えられない。命は一つ。大切にしていきたい。


 自信過剰な冒険者。臆病者のオレ。そんな中、ルナリアは冒険者やオレとは違って絶妙な感覚を持っている。力量的には頑張れば問題なく達成することができ、その上で報酬もある程度満足することが出来る額を確保できる依頼を見つけ出してくる。若しくは、報酬額が少なくともパーティーが得するような体験ができる依頼――例えば、この前のグレイ村の依頼がそうだ。それまで温泉に魅力を感じていなかったオレに、温泉の素晴らしさを体験させて、オレを魅了した。


 今考えているだけで、あの温かいお湯に身体を浮かべている感覚が思い出される……入りたいな……どこかに温泉はないのかな。


「アレン、これぐらいで良いよね?」


「……ああ、問題ないと思うぞ」


 温泉のことを考えていたせいで、返答が少し遅くなってしまった。オレはルナリアが差し出してきた複数の依頼書を受け取り、その内容に目を通す。この内容なら問題なく今日中にこなすことが出来ると思う。


 オレはルナリアから受け取った依頼書を受付に持っていく。ちょうどセレナさんの所が空いていたので、迷わずそこに進んだ。


「こんにちは、セレナさん」


 セレナさんは前の冒険者たちが持ってきた依頼の対応をしていた。書類とにらめっこしている真剣な表情のセレナさんは仕事のできる女性という感じがして美しく見える。この前の飲みの席でグデングデンに泥酔してしまったセレナさんも良かったが、やっぱりセレナさんと言えばこちら側だと思う。


「――あ、アレンさん……こんにちは……」


 ただ、いつもハキハキとした口調のセレナさんとは違い、今日は口ごもっていた。目線も合わせてくれずに、いたるところへ飛んでいる。


「ええっと、今日も依頼を受けに来たんですけど……」


「そ、そうなんですね……かしこまりました……で、ではお預かりしますね」


 そんないつもとは違い落ち着きのない様子にオレが戸惑っていると、ルナリアが後ろからオレの方へと歩み寄り、ヒソヒソとオレにしか聞こえないように話しかけてくる。


「多分だけど、この前の飲み会の時のあれが原因じゃない……セレナさん、かなり酔っぱらっていたでしょ。あのことが恥ずかしかったんじゃない?」


「そうなのか? あれはあれで本音が聞けて良かったと思うけどな……」


「アレンはそうでも、セレナさんとしては違うでしょ。セレナさんは真面目なんだから、あれを醜態だって思っていても不思議じゃないでしょ。まあ、私もそんなに気にするほどじゃないとは思うけどね……とにかく、今日はそっとしておきましょう。私たちが気にしていない様に見せて、これ以上刺激しないようにしないと」


 手続きをしているセレナさんの方を見ると、その俯いている彼女から垣間見える顔は若干ではあるが赤く染まっていた。


 手続きが終わり、オレたちの方へと向き直った時も、セレナさんの視線は彷徨い、決してオレたちとは視線が合うことはなかった。オレたちはそのことを指摘することなく、何食わぬ顔でその場を乗り切る。できれば、帰ってきた時にはいつものセレナさんに戻っていて欲しい。


「――じゃあ、行ってきますね」


「……気を付けてくださいね……」


 いつもと違うセレナさんに見送られながら、オレとルナリアは四人分の食い扶持を確保するために王都の外へと向かった。




「――アレン、そっちはどう? 私はもうちょっとかかりそうだけど」


 空に漂う分厚い雲が日の光を遮り、草原に乾いた風が流れる。オレが初めて王都に訪れた時と季節も大分移り変わり、今や汗ばむことも少なくなってきて、じっとしていたら体温が徐々に奪われていくようになってきた。


 そんな中、オレたちは仕留めた二匹のラビットをそれぞれ解体していた。夏とは違い素材もそんなにすぐには痛まないものの、処理は出来るだけ早い方が良い。どうしても、体内に血が残っていれば肉が臭くなってしまうし、内臓から腐敗が徐々に進行してしまう。『魔法の鞄』に入れてしまえば腐ることなく保管することはできるが、処理にはそれなりの場所が必要になり、王都の中で処理をすることはまず無理だ。それならば、王都の外にいる内に解体してしまった方が肉の鮮度も保てるし、場所にも困らない。


「オレの方は今終わったとこだよ」


 オレは綺麗に解体したラビットの肉を『魔法の鞄』に収納し、未だ解体作業を続けるルナリアの方へと向かう。


「やっぱり、アレンは解体作業が速いわね。それに丁寧だし」


 そういうルナリアの手元には所々不格好になってしまっているラビットの姿があった。ルナリアはどちらかと言えばラビットのような小動物の解体が苦手なようで、いつも苦戦している。オークなどの大きなモンスターなどだとそんな様子は見受けられないので、単純に細かい作業が苦手なのだろう。まあ、苦手と言ってもそこら辺の冒険者たちよりかはうまいと思うが。


「まあ、これが仕事だったしな……あの頃は早朝から深夜までこればっかりやらされていたからな。それは上手くなるよ。

 ルナリアも数をこなせば、オレぐらいできると思うよ」


「……それ、どれだけ数をこなさなきゃいけないのよ。想像もしたくないのだけど」


 オレの言葉にルナリアが苦虫を噛み潰したような表情をしていた。確かに、オレと同じペースでやるのは精神的にも肉体的にも辛いと思うのだが、今後、長い間冒険者として活動していく予定のオレたちならば、そんなに焦らなくてもいつかは上達すると思う。


「まあ、焦らなくても良いんじゃないか? 幸いなことにオレもいるんだし、解体はオレが主体となってやるよ」


「それだと、アレンに甘えてばっかりで私が成長しないでしょ! 私だってアレンと同じぐらい出来るようになるんだから」


 ルナリアは解体を終わらせて、『魔法の鞄』に処理済みのラビットを収納する。やはり、ルナリアは前向きで、見ているこっちが眩しくなるほどだ。その姿勢は素直にオレも真似しなければいけないだろう。


「じゃあ、解体も終わったことだし、依頼の方をどうにかしましょう。幸いなことに、採集系の依頼の方は二つとも終わっているから、後は討伐系の方ね」


「オーク五体の討伐だろ。肉屋に卸すために処理もやらなくちゃいけないんだったな。まあ、二人なら何とかなるだろ」


「そうね、オークなら安全に討伐できるでしょ。

 せっかくだから、リーフィアがいない時の私たちの役割を確認しながら討伐していきましょ。今後、こういう事が増えていくだろうからね」


「そうだな。魔法士がいない時の動き方を身体に叩き込まなくちゃな。

 まあ、一応だけどオレも魔法は使えるけど、まだ攻撃魔法は使えないからな」


 リーフィアの不在により、オレたちの陣形はかなり変化せざるを得ない。一般的には魔法士がパーティーにいる方が稀なのだが、リーフィアと常に一緒に行動してきたルナリアと、冒険者になって以来ずっと一緒に行動してきたオレ。そんなオレたちにとっては魔法士であるリーフィアが共にいるのが当たり前であった。


「どちらかが引きつけて、そのスキに背後に回って攻撃する。それの繰り返しで良いんじゃない? それが一番早く倒せるでしょ」


「そうだな、それでいくか」


「――ッ! そうこうしている内にあそこにオークがいたわ。

 ちゃちゃっとやっちゃいましょう!」


 オレとルナリアは丁度よく現れたオークへと向かって、武器を手に駆け出した。

読んでいただき、ありがとうございました。

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