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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
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25: 目覚め

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 寝たら目が覚める。そんな当たり前のことが毎日訪れるということに幸せを感じる者は少ないだろう。もちろん、そんな些細なことに幸せを感じることの方が異常であり、感じない方が良いのかもしれない。

 ただ、そんな当たり前が当たり前ではない状況に陥ってしまっている他者の目覚めに対して、幸せを感じるのは当然の事だろう。再びその人と新たな一歩を踏み出すチャンスを得ることが出来るのだから。


///




 結局、あの後もオレのベッドで眠る少女は起きることなく、ぐっすりと寝ていた。


 オレたちは少女が起きるのを何気ない会話を楽しみながら待っていたが、外がかなり暗くなってきてオレたちにも眠気が訪れたため、とりあえず休むことにした。


 問題はオレがどこで寝るかという事。少女が眠るベッドに入り一緒に寝るという案は論外だし、かと言って、ルナリアとリーフィアのベッドで共に寝るのは狭すぎるし、もし広かったとしても、オレの欲が暴走してしまう恐れがあるためダメだ。そもそも、そんなことは分かり切っているので問題にはならない。


 オレが硬く冷たい床の上で寝ることは確定している。毛布に包まることが出来るとはいえ、この頃はかなり冷え込んできたので体調には気を付けなければならないだろう。


 しかしながら、そんなことよりも大切なことはオレが室内のどこで寝るかという事だ。少女のさっきまでの仕打ちやその性別も考えると、オレのような男かつ主人があまり近くにいない方が良いだろう。もしオレたちが気付かないうちに少女が起きてオレが近くにいることを認識した場合、気が動転してしまう可能性がある。そのため、オレは少しでもその少女から離れておくべきだろう。


 ただ、少女から離れた位置に寝ることになると、必然的にルナリアとリーフィアの近くに行くことになる。今までベッドで寝ていた時でさえかなり我慢していたのに、それ以上に近づいて寝ることになると、今まで以上に理性の修行を余儀なくされる。


 ――耐えることが出来るか? 大丈夫か? 一度快楽を味わったオレが……


 どうやら、オレの『ライト』の練度は今日を皮切りにかなりの速度で成長していきそうだ。もしかしたら王都一の『ライト』使いになることが出来るかもしれない。それはそれで面白そうだが。


 いろいろと考え抜いた末、少女に負担を負わせてしまうよりも、オレがどうにか頑張れば良いと思い、ただ、出来るだけ二人から離れようと、二人のベッドの足元で出入り口に近い部屋の隅っこで寝ることにした。


「じゃあ、お休みね」「お休みなさい」


 二人は相変わらずの寝つきの良さで、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。


 オレは床の硬さと冷たさから逃れるために、頭から毛布にくるまりながら、無心で魔法を発動する。


「『ライト』」


 オレの指先に小さな光が生まれた。ベッドで眠る三人を起こさないために、光が外に漏れないように細心の注意を払う。この頃はかなり上達してきたみたいで、『ライト』の光の強弱を意図的に調整することが出来るようになってきた。ただ、まだ完全ではないため、少しでも気を抜いてしまうと眩しくなりすぎたり、消えてしまったりしてしまう。


「……今度は点滅させてみるか」


 たかが『ライト』、されど『ライト』だ。ただ光が生じるだけだが、いろいろと探求のし甲斐がある奥深い魔法だと思う。


 オレはいつも聞いている二つの寝息と、新しく加わった微かに聞こえる寝息を楽しみながらも、黙々と『ライト』の可能性を広げるために休まず唱える。


 再度オレの指先が光を帯びる。ただ、オレが意図していたように点滅することはなく、数秒程光った後にゆっくりと消えてしまった。


「……また新しい目標ができたな」


 オレは自分の想像した結果にならなかったことによってやる気が刺激されてしまい、より一層集中して『ライト』を唱え続けた。


 ――数時間後。


 何度も『ライト』を発動させていたことによって魔力の限界が訪れたオレは、新しい目標を成就することはできなかったけれども、満ち足りた状態で眠りについた。




 人々が行動を開始し始めた頃。オレは朝食を調達するために外に出ていた。昼間や夕方と比べて開いている店はまだ少ない。しかしながら、朝食にぴったりな軽いものであったり、持ち運びができたりする料理を売っている店はこの時間からもやっていて、出勤前の人々や依頼に向かう前の冒険者たちの人気を集めている。


 野菜中心のサンドイッチにあっさりとしたスープ。その他にも様々なお腹を刺激する料理が並んでいて、どれにしようか悩んでしまう。


「……起きたら好みも聞かなきゃな」


 未だに眠っている少女に何が好きで何が嫌いなのかということを聞いておかなければならない。もちろん、あの子の主人として過度な好き嫌いで、栄養に偏りのある食生活を送らせることは容認できない。しかし、わざわざ嫌いなものを毎日食べさせたりするのもかわいそうだ。


 そもそも、オレは人族で彼女はハーフエルフ。味覚に違いがあるのかもしれない。それに、種族的に絶対に食べることが出来ないものがあるのかもしれない。それを無視してまでオレたちの価値観を押し付ける訳にはいかない。


「やることがいっぱいあるな……」


 とにかく、少女が起きたらいろいろとやることがありそうだ。オレはいくつか朝食を見繕いながら、三人が待つ宿へと足早に戻る。


「――ただいま、買ってきたぞ」


「あ、お帰り」


「アレンさん、ありがとうございます」


 部屋の扉を開けるとルナリアとリーフィアが出迎えてくれた。


 二人はもうすでに身支度を整え終えていたが、今日はいつもとは違い、ルナリアはいつも通り冒険者として活動する際に纏っている装備を着込んでいたが、リーフィアはローブを着ておらず、ゆったりとした普段着だった。


 というのも、今日はオレとルナリアが二人で依頼をこなす予定になっているからだ。リーフィアは宿でお留守番。少女のお世話をしてもらうことになっている。


「じゃあ、アレン、ちゃっちゃと食べてギルドに行きましょう。

 早くしないと良い依頼が無くなっちゃうかもしれないわ」


 今日も朝からルナリアは元気いっぱいのようだ。少女を起こさないように声量は配慮されていたが、口調から彼女のやる気が伝わってくる。


「この子のことをお願いな、リーフィア。

 起きるまでは退屈だと思うけど」


 オレは二人に買ってきた料理を渡し、その味を堪能する。


「大丈夫ですよ。私はルナリアと違ってじっとしていても苦痛じゃないですから」


「何よ、人をイノシシみたいに言わないでよ……まあ、その通りだけど」


「ごめん、ごめん、そんな顔しないでよ」


 微笑むリーフィアと少し不満げな表情のルナリア。本当に仲の良い二人だからこそできる戯れだ。オレはそんな二人のやり取りに口元を緩ませる。


「それに、魔法士なので部屋でも出来ることはいっぱいありますから。

 二人もいろいろと大変だと思いますけど頑張ってくださいね」


「今日は二人で活動する初日だから、そんなにしっかりとは出来そうにないけどな。

 とりあえず連携の確認からだと思う」


「そうね、リーフィア抜きなんて初めてのことだからいろいろと大変そうだけど。

 まあ、何とかなるでしょ!」


「オレがもっと多くの魔法を使えたらな……『ライト』だけじゃ昼間は何も役に立たないから」


「まあ、それはしょうがないでしょ。

 まだ、魔法を習ってからそんなに経っていないんだし」


「そうですよ。『ライト』を使いこなせているだけでもすごいと思いますよ」


 二人はこう言ってくれてはいるが、今後のことを考えると『ライト』以外の攻撃魔法を早く使えるようになっていた方が良いだろう。時間を見つけてリーフィア先生に『ファイア』を習おうと思う。


「それじゃあ、腹ごしらえも終わったし、そろそろ行こうか」


 オレは朝食をきれいに食べ終えて立ち上がる。ルナリアも丁度食べ終わったようで、オレに追従する。


「ねえ、アレン、どんな依頼を受ける?」


「そうだな――」


「……ん……」


「「「――!!!」」」


 オレがルナリアの問いに返答しようとしていたその時、ルナリアとリーフィアのベッドとは違うもう一つのベッドから、小さな声が聞こえた。もしもう少し会話に熱中していたら聞き逃していただろう、そんなか細く弱々しい声。


 オレたちはみんな少女の方へと視線を向ける。そこには身を捩らせながら目元を手で擦る少女の姿が。その姿はとても可愛らしくて幼さを感じさせ、見ているだけ温かな気持ちにさせてくれる。


 そんな少女の様子を見守っていると、次第に少女の瞼が持ち上がり、小さな瞳が顔を出した。


 どうやら、オレとルナリアの出発はもう少し後になりそうだ。オレたちは少女を驚かせないようにゆっくりとベッドの方へと歩み寄った。

読んでいただき、ありがとうございました。

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