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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
50/183

24: これから

///


 計画性を持って行動する。このことは社会で生活する上で大切だと思う。なぜなら、それが自分の道標となって進むべき方向を指し示してくれ、無駄な時間を浪費しなくてよくなると思うから。

 常に命を失うような危険がある冒険者になった今でも、この考えは変わらない。「冒険者なんて明日死ぬかもしれないんだから」という言葉もあるかもしれないが、生存確率を上げるためにも必要だと思う。

 他の冒険者たちはどうなのだろうか……。


///




「――それで、どうするの?」


 ルナリアがまず初めに尋ねてきた。


「……どう、とは?」


 今のこの状況で尋ねてくることなので、何となく質問の方向性は理解することができるが、いろいろと話し合わなければならないことがありすぎて直ぐには見当がつかない。オレは頭の中で二つ三つほど答えを思い浮かべてはみたが、どれも違うかもしれない。結局、ちょっとの間考えた後、ルナリアに聞き返すことにした。


「どうって、これからの冒険者活動の事よ。まさか、こんな幼い子を一緒にモンスターの討伐なんかに連れていけないでしょ。近場での採集の依頼とかならまだ分かるけど。

 それとも、命の危険がある場所にこの子を連れて行くつもりなの? さすがにそんなことには賛同出来ないわよ」


「いや、そんなつもりはこれっぽっちもないよ」


「そうでしょ。

 なら、私たちが依頼をこなしている間、この子を一人でここに残しておくの? それはそれで、私は心配なんだけど……」


 確かに、ルナリアの言う通りかもしれない。この子をオレたちと一緒に依頼に同行させるということは、この子に危険を生じさせる行為だ。もし連れて行くのであれば、この子自身が自分の身を守ることができる力を持っているか、オレたちがこの子を常に守ることができる力を持っていなければならない。残念ながら、今のこの子がモンスター相手に十分に戦えるとは思えないし、戦えたとしてももっと回復してからになるだろう。


 加えて、オレたちにこの子を常に守ることができる力があるかと問われると疑問である。確かに、冒険者生活が板に突き出して、パーティーでの連携もより練度が高くなっているし、純粋な戦闘能力を成長していると言えるだろう。それに、かの巨大オークやグレイ村のキングゴブリンなどの凶暴なモンスターと戦って生き残って得ることができた経験が、今のオレたちにはある。ちょっとやそっとの事ならば生き残る自信はあるし、おそらく生き残ることができるだろう。そんな今のオレたちならこの子を連れて行っても、安全に活動することができるかもしれない。


 しかしながら、油断は禁物だ。野生の世界は何があるか分からない。突然、オレたちが今まで見たことがないようなモンスターが、オレたちの前に現れるかもしれない。そうなった場合、オレたちにはこの子を守る余裕が残されているのだろうか。襲い来るモンスターの攻撃を避けながら、この子を安全地帯まで導くことができるだろうか。


 答えは「絶対にそうできると言い切ることはできない」である。


 冒険者としての活動に「絶対」なんて言葉は存在しない。それは分かっている。分かってはいるが、オレたちがそのことに頭を悩ませ、心配してしまう状態にあるのであれば止めた方が良いだろう。不安を抱くということはそれだけ可能性があるということである。その可能性が高いうちはこの子と一緒には行けない。ある程度の安全が担保されている必要がある。


 かと言って、一人でこの子をここに残したまま、オレたち三人だけで行動するのも不安だ。三人で簡単な依頼だけをこなして、すぐにこの子の下へと帰ってくるという手もあるかもしれない。ただ、この子の今の状態を考えれば、回復するまでは誰かが常にそばにいてあげた方が良いだろう。不安定なこの子に何がってもすぐに対応することができる状態にしておきたい。


「……でもなあ……金も必要だしな……」


 当然のことながら、生活するためには金が必要だ。冒険者にとっての稼ぎの手段は依頼を受けてその報酬を受け取ること。今までのオレたちは三人で依頼を受け、三人でその報酬を折半していた。しかし、これからは、そこにもう一人分が追加される。いや、もしかしたら、成長過程にある子供にはオレたち以上に金がかかるかもしれない。


 確かに、巨大オークの件で大金を手にすることができたオレたちだが、金は無限ではないし、生活していれば金はどんどん無くなっていく。


 そう考えると、今まで通りに日々依頼をこなしていく必要がある。それに、今後のためにも貯金をする必要があるだろう。


「二人のどちらかにこの子のお世話を頼んで、オレともう一人で依頼をこなすのが良いかもしれないな」


「そうね。私もそれが良いと思うわ」


「女の子ですもんね。私たちの方がいろいろと役に立てるでしょうし」


 無事にルナリアとリーフィアの賛同を得ることができたようだ。


「じゃあ次は生活拠点をどうするかね」


 ルナリアが次の議題を挙げる。


「……このままこの宿じゃダメなのか?」


 ルナリアとリーフィアに出合って以来、この部屋で寝泊まりしてきたオレにとって、この部屋は王都で最も安心する場所であり、家と呼んでも過言ではない。それに、この部屋での二人との多くの思い出もある。そんな特別な思い入れのある場所であるこの部屋から離れることは寂しさを感じてしまう。出来るならば、このままここで生活していきたいと思っていたんだが。


「いや、さすがにもっと大きな部屋じゃないとダメでしょ。今まで三人で生活してきた時でさえも手狭だったんだから。そこにこの子が加わるのよ? もうちょっと広くないと窮屈すぎるわ」


「それに、この子が成長することを考えると、今は何とかなっても将来的には絶対にもっと広い部屋が必要になりますよ」


「……それもそうか」


「リーフィアの言う通りよ。

 それに一番重要なことは、この部屋にはベッドが二つしかないということよ。今は百歩譲って子供だからアレンと一緒に寝ても問題がないのかもしれないわ。若しくは、私たちと一緒に三人で寝ても窮屈だけど何とかなると思う。でも、将来的にはそれだと問題が出てくるわよ」


「私としては今でもアレンさんとこの子を一緒に寝かせない方が良いと思うんですけど。こんな小さな時から一緒に異性と寝かさせられるなんて、トラウマになっちゃうかもしれませんよ?」


 まあ、確かに異性である主人と一緒に寝るなんて、この子にとってはイヤなことだろう。それこそ、変態貴族が自分の奴隷に性的な奉仕をさせているのと変わりない行為なのかもしれない。いや、オレに幼い子から性的奉仕をされて喜ぶという異常性癖はないのだが。オレはどちらかというと、ヴァネッサさんのような大人の女性が……。


「……今変なことを考えているでしょ?」


 どうやら、ヴァネッサさんのことを考えていることが顔に出てしまっていたようだ。二人の視線が買い物に付き合う前の冷たく鋭いものに戻っている。部屋の温度も少し下がったように感じる。そのせいか、ベッドで眠るハーフエルフの少女も身体を少しだけ震わせた。


「ふ、二人の言う通りだな。オレも広い部屋に引っ越した方が良いと思うよ」


 オレは取り繕うように二人の意見に賛同する。引っ越し自体は色々と溜まっているオレにとっても嬉しい事なので、特に反対する気持ちはなかった。


 二人は少しの間、オレのことを疑うような視線で見つめていたが、根負けしたのか大きな溜息を吐いた。


「……まあ、アレンが何をしようと勝手だけど、これからは幼い女の子の主人として自覚ある行動をしてよね」


「このぐらいの年齢の子は繊細ですからね。色々とすぐに感じ取っちゃいますから、変なことをしているとすぐに嫌われちゃいますよ」


「……分かってるよ」


 どうやら、ヴァネッサさんに会うというオレの計画は当分先送りにしなければならないようだ。さすがに一時の快楽のために、一生を共に暮らすことになるだろうこの子に嫌われたくはないし、この子の主人として少しぐらいカッコイイ姿を見せたい。そして、この子に尊敬される主人でありたい。


「でも、今よりも広い部屋に引っ越すとなると、やっぱり金が必要になってくるな」


「そのことなんだけど、二人で依頼を受けるとなると、どうしても依頼の進行速度も遅くなってしまうわ」


「それに、戦闘面のことを考えても、あまり凶暴なモンスターの討伐依頼なんかは受けられそうにないので、結果的に報酬の安い依頼になっちゃいますね」


「……そう考えると、どうにか頑張って数をこなすしかなさそうだな」


 今までは一日に一つの依頼をこなすのが普通だったし、多くても二つまでだった。しかしながら、これからは少なくとも二つ以上はこなしていく必要があるだろう。それに、今までみたいに王都から遠く離れなければならない依頼は受けることができなくなるだろう。近場で複数の依頼を同時並行しなければならない。まあ、一方の依頼の対象であるモンスターや薬草などを探しているうちに、もう一方の依頼の対象と出くわすことなんて今までもあったことだし、特に珍しい事ではない。


「今後の計画は大体良いわね」


「ああ、そうだな」


 かなり大まかではあるが、これからオレたちがどういう風に行動していくかという方向性は見えてきた。そのおかげで、自分がちゃんと前に進むことができているかという不安に駆られることもない。今まで経験のない事ばかりで前途多難に思えるが、まあ、何とかなるだろう。昔みたいにオレは一人ではない。頼もしい仲間が二人もいるんだ。


「それじゃあ、これからするべき一番大切なことを確認したいんですけど」


 話し合いが一段落着いた時、リーフィアがその時を待っていたかのような口ぶりで話し始める。ただ、オレにはリーフィアの意図が分からなかった。だって、そのことを今まで話し合ってきたのだから。話し合いにリーフィアもちゃんと参加していたし、何か聞き漏らしていたことがあったのだろか。


「ん? それはもう話し合ったんじゃないのか? 一人がこの子に付き添って、もう二人が依頼を受けるということ。近い将来にもっと広い部屋に引っ越すということ」


「いえ、そんなことよりもっと大切なことがあるじゃないですか」


「勿体ぶらずに教えてよ」


 ルナリアがリーフィアに答えを急かす。どうやら、ルナリアもリーフィアが意図する答えに少しも見当がついていないらしい。


「この子の名前ですよ」


「「…………確かに」」


 そう言えば、オレたちはこの子の名前を誰も知らない。言い訳をすれば、名前なんかよりもこの子の容態の方が心配だったし、そもそも、この子に名前を尋ねたところで、口を利くことができるような状態じゃなかった。


 あの奴隷商に聞いておくべきだったという考えもあるかもしれないが、あの時はアイツと一刻も早くこの子を遠ざけたかったし、オレたちもあれ以上会話をしたくもなかった。それに、アイツが出来損ないと蔑み、死んでも構わないと思っていたこの子の名前なんて気にするだろうか? むしろ、「ハーフエルフのクセに名前なんて生意気だ」とか馬鹿みたいなことを言いそうだ。そう考えると、かなりの高い確率で名前を知らなかっただろう。


「まあ、それもこの子が起きてからだな。今はこの子が早く回復することを願おう」


 オレたちはベッドで眠る、未だ名前すら知らないハーフエルフの少女を温かく見守りながら、今日の晩飯のことや明日の天気などの他愛もないことを話し始めた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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