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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
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20: 贖罪

///


 罪と罰。それらは二つで一つであり、片方だけが単独で為されると社会秩序が崩壊すると考えられている。確かに、罪を犯した存在に対して何も罰を与えないと罪人は増長し、爆発的に罪人が増加するだろうし、何も罪を犯していない存在に無理やり罰を与えると、その社会に所属する人々はその社会を恐怖し、恨み、もしかしたら反逆するかもしれない。

 そう考えれば、今回のオレの罰は妥当と言えるだろう。それでも、どこかでまた彼女と触れ合いたいと考えてしまう。こんなオレは救われるのだろうか?


///




「――何してるのアレン。早くこっちに来てよ」


「アレンさんこっちに来てみてください。これなんかも良いと思うんですけど」


 人通りの多い街中に、二人の元気な声が響き渡る。二人は足取り軽く、右へ左へと立ち並んでいる商店の商品を色々と見物しながら、あれでもないこれでもないと二人で相談して自分たちのお眼鏡にかなうものを探している。


 そんな天真爛漫な二人の様子を周囲の人々は、ある者は子供を見る母親のような慈愛に満ちた表情で、ある者は二人の美貌に魅了されて惚けてしまった表情で、またある者はどうにか自らの店の商品を買ってもらおうと画策している商売人の表情で見ていた。


 そんな周囲から注目されている二人の後ろをオレは重い足取りで付いて回っていた。ただ、こうなってしまったのはオレのせいだ。なので、今の状況に関して不平不満を抱くのは間違いだ。二人の目を盗んで楽園を経験した代償は思ったよりも大きかった。ただそういうだけだ。


 そう、オレたちは今、オレが二人に内緒で夜の店へと行ったことの償いとして、様々な商店が多く立ち並ぶ王都の一画へと来ていた。


 二人に対しての罪悪感と償いのため、オレは素直に二人の後に従い、時には二人が選んだ商品が似合っているかどうかを答えたり、またある時には二人の好きそうな商品を売っている店を見つけて報告したりと、完全に主人に付き従う従者として行動していた。


「おっ、姉ちゃんたち良い目をしてるね! これは王都でもなかなか手に入らない遠方の品なんだ。

 値段はそれなりにするが、品質と珍しさは保証するぜ。今ここで買っとかないと次はいつ手に入るかは分からねえ。そんな一品だ」


 二人が興味を示した小物を販売している店主が、二人に買ってもらおうと積極的にその価値について説明している。二人も満更ではないようで、店主の説明を熱心に聞いて買おうかどうか迷っているようだ。


 二人の前にある商品を見てみると、それは確かに美しい細工がされた髪飾りで、細部まで丁寧に作り込まれていることが一目で分かる。店主が言うように一般的な髪飾りよりも高価ではあるが、その価格にも納得だ。これほど美しいものならば、もしかしたらこの価格よりもっと高価であったとしても、欲しいという人はいるだろう。そういう意味では、これを今買うべきなのではないか。そう思えてしまう。


「……でも、これ一つしかないのよね? それだったら二人で一緒に着けることができないわね」


「そうですよね。できればお揃いのものが良いですよね」


 どうやら、一点物は二人の考えには合わないらしい。二人は仲良く一緒に身に着けることができるものをご所望のようだ。店主もそんな二人の会話を聞いて少し残念がっていたが、すぐに気を取り直して別の商品を勧めている。


「アレンどう? 似合ってる?」


 ルナリアが店主に渡された髪飾りを着けてオレの方へと振り返る。


「ああ、似合っている。可愛いと思うぞ」


 そんな気の利かない言葉しか出てこないオレの語彙力のなさを恨みつつも、できる限りの賛辞を贈る。髪飾りをつけたルナリアは何時にも増して魅力的に見えた。そんなルナリアに見とれているオレを見て、自分も褒めて欲しくなったのかリーフィアも同じ髪飾りを着けてオレにアピールしてくる。


「私はどうですかアレンさん?」


 二人が着けている髪飾りは同じはずなのに、着ける人が違えば別物のように見えて、その人特有の魅力を倍増させているようだ。勝ち気で活発なルナリアが身に着ければ、その内に秘められた健気で儚げな女性らしさを感じさせ、大人しいリーフィアが身に着ければ、おっとりとした女性の色香を感じさせる。


 そんな二人を前にして恥ずかしさで二人を直視することができないオレは、明後日の方を向くことしかできなくなる。そんなオレの様子を面白がってか、二人はクスクスと笑いながら店主にその髪飾りの価格を尋ねる。どうやら、二人のお眼鏡に適ったらしい。


 数分後。商品が売れたことに満足げな店主と良い商品を手に入れて満足げな二人、合計三人のホクホク顔がそこにはあった。


「じゃあ、あっちにも行ってみましょう。

 ちょうど可愛い服があるみたいだから」


「いつもは冒険者としての服装なので、ああいう可愛いデザインはなかなか着る機会がないから気になります」


 どうやら、髪飾りの次は服のようだ。ここで「まだ買うの?」なんて野暮なことは言葉に出さない。この時間はオレにとっての償いであり、そもそも女性との買い物でそんなことを発言してしまえば一気に機嫌が悪くなってしまうことは明らかだ。それに、二人の普段見ることができない新しい姿を見ることができるので悪い気はしない。


「……分かったよ。二人の御心のままに」


 オレはそう言って、再び二人の後を追って目的地である服屋へと歩を進める。その服屋は恰幅の良い女性が店主のようで、二人と楽しそうに服についての会話に花を咲かせていた。そんな女性三人によって為されている会話に、男のオレが介入する余地があるわけもなく、聞き慣れない単語が飛びかい、一瞬「別国の言葉か?」と思うようなその空間に、置物のようにただ立っていることだけしかできない。


「――それで、この服はどんな男でも魅了されてしまうと噂なんだよ。

 まあ、全員が全員そうなる訳じゃないだろうけどね。それぐらい着た者を魅力的にする服ってことだよ」


「確かに、結構攻めてるわね」


「ちょっと露出が多くないですか?

 気になる人にだけ見られるなら良いですけど……関係ない人からも注目されそうで少し恥ずかしいですね」


 二人はどちらかと言えばその服を身に着けることに抵抗があるようだが、それ以上にその服の効果に興味があるのか、それぞれ手に取って店の奥に設置されている試着室へと消えて行った。


「あんた良かったじゃないか! すぐにより魅力的になった二人に会えるよ」


「はは、そうですね」


 女店主はオレの方へと喋りかけると、すぐに試着室の方へと行き、サイズなどの着心地を二人に確認していた。


 オレとしてはもちろん楽しみではあるが、居た堪れない気持ちでいっぱいだった。なぜなら、この店は女性ものの服しか扱っていないようで、様々な女性ものの服で埋め尽くされていて、店の中には女性客しかいない。そのため、男のオレは明らかに浮いた存在であり、注目されてしまっている。


 オレはそんな状況に耐えながらも、二人が早く試着室から出てくることを願う。


「アレン、ちょっとこっちに来てよ」


「似合っているか確認してください」


 オレの語彙力が試される試練の時間が訪れたようだ。オレはゆっくりと試着室に向けて歩きながら、必死になってオレの頭の中にある美辞麗句を思い浮かべ、二人を前にしても淀みなく発することができるように何度も何度も口ずさむ。


 十回ほど練習を重ねた時、ついに試着室の前へと到着した。オレは覚悟を決めて、普段見慣れない服に身を包んで、オレの感想を今か今かと待ち望んでいるだろう二人の姿を拝むために、試着室の扉へと手をかけた。




「……そろそろ、何か食べないか? さすがに疲れたし腹がペコペコなんだけど」


 この償いが始まって数時間後。オレはさすがに慣れない商店巡りからくる疲労感と、ここまで何も食べていないことからくる空腹感から、前を上機嫌に歩き、立ち並ぶ店を物色し続ける二人に向けて弱々しく提案をする。


「ええー、まだあっちの店も見てみたいんだけど」


「……ルナリアの言うことも分かるけどさ、一旦休憩にしても良いんじゃないか?

 まだ閉店するには時間があるみたいだし……」


「まあまあ、アレンさんの言う通りちょっと休みましょう。

 私もいろいろと見て回ったのでお腹が空きましたし」


「リーフィアがそう言うなら仕方がないわね。

 じゃあ一旦休憩にしましょうか」


 リーフィアの助力もあり、無事にオレの提案は採用された。良かった。これで少しは活力が戻ってくるだろう。そう思いながら、オレたちは食堂が多く立ち並ぶ方へと歩を進めようとする。その時、通りに男の大きな罵声が響き渡り、オレたちの意識をそちら側へと向けさせる。


「――さっさと歩け! このゴミが!

 従わないんならこのまま殺すぞ!」


 あまりに酷い言い様に、オレたちの頭の中から「休憩」という言葉は綺麗さっぱり消え去り、三人とも無意識のうちにその声のした方へと向かった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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