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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
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16: セレナさんと

///


 人と仲良くなるためには、一緒に食事をするのが良いのかもしれない。そこに酒があったなら、なお好ましい。仕事上では見ることができない、その人の素顔を見ることができるから。

 ただ、出てきた素顔によって幻滅してしまう可能性も無きにしも非ずではあるが。


///




「――本当に私が決めてもいいんですか?

 確かに、私は職業柄いろいろな店を知っていますけど……みなさんの馴染みの店の方がリラックスできませんか?」


 セレナさんが申し訳なさそうに尋ねてくる。


「いや、ぜひセレナさんにお願いしたいです。

 オレは王都に来てまだそんなに経っていないのでそんなに店を知らないし、ルナリアとリーフィアのオススメの店はあらかた行ったので」


「まあ、そういうことなら……確認ですけど、濃い目のガツンとくる系の料理で大丈夫ですか?」


「ええ、そんな感じでお願いします」


「わかりました……では、あそこに行きましょう!」


 セレナさんはオレたちが求めている内容に適当な店を少し考えた後、どうやら合致する店があったようで、嬉しそうにオレたちに告げる。


「じゃあ、ちょっと待っていてください。

 すぐに着替えてみなさんと合流するので」


 そう言って、セレナさんはカウンターを離れて奥の方へと下がって行った。奥へと向かうその足取りはとても軽やかで、セレナさんがこれからの食事を本当に楽しみにしていることがわかる。どうやら、セレナさんにとって食事はかなり重要なものなのかもしれない。それとも、ただ単に酒が大好きなだけかもしれないが。


 ともあれ、セレナさんがオレたちとの食事を快く思ってくれているということがわかり、オレは安堵していた。一見、上辺では喜んでいるようでも、内心ではオレたちとの食事を快く思っていないかもしれない。そんな人と食事を共にすることは苦痛だし、せっかくの食事もまずくなってしまう。


 今までの経験上、セレナさんはオレが見てきたあの性根の腐った受付嬢とは違うと思う。ただ、どうしてもギルド時代の経験のせいで、オレの中の受付嬢に対する偏見が邪魔をしてしまっていた。セレナさんをそんな偏見の眼差しで見てはいけないと頭では理解しているのだが、心がそれを阻む。もう二度とあんな思いをしないようにと。


 しかし、今日、オレはそんな偏見から完璧に脱却して、澄んだ眼差しでセレナさんを見つめることができるようになった。セレナさんはオレを貶めるような存在ではないという確信がオレの中に確立されている。


 まあ、もし今までのも全て演技で騙されていたとしても、それはもうしょうがないと思う。オレに人を正しく見る目がなかったということだし、オレはともかくルナリアとリーフィアを欺くことができるなんて、すごい演技力だと称賛するしかない。それこそ、舞台女優や貴族の社交界で頂点に上り詰めることができるかもしれない。


「――みなさん、お持たせしました」


 オレがセレナさんについてあれこれ考えていると、奥から仕事着を着替えて私服姿のセレナさんが元気に歩いてきた。その姿は受付嬢としての姿を見慣れているオレにとっては新鮮なもので、思わずセレナさんを見つめてしまう。露出は控えめで、装飾や色もそこまで華美ではないが、周囲の人々が思わず二度見してしまうぐらいセレナさんに似合っていて、元々美しいセレナさんをより一層美しくしている。事実、ギルド内にいた冒険者たちもその姿に目を奪われてしまっているようだ。


「まさか、セレナさんの私服姿がここまでかわいいなんて!」


「本当です!

 その服はどこで買ったんですか?」


 ルナリアとリーフィアもその姿に興奮しているようで、矢継ぎ早にセレナさんを称賛している。


 それに対して、セレナさんは少し恥ずかしいのか頬を少しばかり赤く染めながら、二人とお気に入りの洋服屋などについて話している。


「二人とも、そのぐらいにしてそろそろ食事に行かないか?

 今日の目的はそれだろ? その時にセレナさんにいろいろと聞けばいいんじゃないか?」


 オレは興奮して半ば暴走気味の二人を制して、セレナさんを二人から解放する。


 二人から解放されたセレナさんはオレに目線でお礼を言うと、気を取り直してオレたちに告げる。


「それでは行きましょうか。

 案内するので私に付いて来てください」


 そう言ってギルドの外に向けて歩き出したセレナさんを追って、オレたちはこれからどんな料理を食べることができるのかを想像して、ヨダレが口から零れてしまわないように注意しながら歩き出した。




「ここです! 私がみなさんにお勧めする店は。

 ここならみなさんが満足することができる料理が提供されていますよ」


 セレナさんが案内してくれた店は、普段オレたちが中々踏み入ることのない区画にあった。店の外観は綺麗で、毎日ちゃんと清掃されていることが見て取れる。そんな建物の中からは外観からは想像できないぐらい暴力的な美味しそうな匂いが漂ってきていて、オレたちのお腹を強烈に刺激している。


 オレたちはセレナさんを先頭に店の中に入り、席に着いた。そして、まずは人数分の酒を頼み、これから始まる食事会に勢いをつける。


「それじゃ、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 オレたちは運ばれてきた酒を勢いよく掲げ、乾いた喉を潤すために口へと運んだ。オレとルナリアはいつも通り、酒が無くなるまで一気に飲み干し、「ぷはーっ」というおっさん臭い声を出しながら空になった器をテーブルの上に置く。リーフィアは上品にチビチビと飲んでいる。


 意外だったのはセレナさんで、オレの予想ではリーフィアと同じように少しずつ上品に飲むのかと思っていたが、その予想は見事に外れ、オレとルナリアのようなおっさん臭い飲み方をしていた。いや、むしろオレたちよりもおっさん度は高いかもしれない。セレナ線は一気に酒を流し込むと、その綺麗な顔からは想像ができないような声で「うぃーっ」と幸せそうに息を漏らしている。


「みなさん、ここのオークのもつ煮込みは絶品ですよ!

 香辛料がふんだんに使われていますし、長時間甘辛く煮込まれているので酒が進みます」


 そう言って、セレナさんは店員を呼んでオススメの料理をいくつも注文する。もちろん、お代わりの酒も忘れずに注文していた。


「これのために今日も頑張ったーっ」


 セレナさんはお代わりの酒もすごい勢いで飲み干していく。その光景を見て、ルナリアとリーフィアも苦笑いしている。ただ、本当に美味しそうに酒を飲んでいて、その姿に驚きこそすれ、嫌悪感は抱かない。


「ささっ、これを食べてみてくださいよ。

 病みつきになりますから」


 セレナさんは小皿にオークのもつ煮込みを取り分けて、オレたちの前に差し出した。


 もつはいわゆる生き物の臓物であり、独特の癖があるため好き嫌いが激しくわかれる食べ物だ。加えて、もつは足が速く、新鮮な物しか食べることができないため、なかなか市場に出回ることはない。店でも処理の面倒さから捨てられてしまうことの方が多い。


 そのため、オレは今までにもつを食べたことはない。今回が初めての挑戦だ。恐る恐るオレはもつを口に運ぶ。


「――う、うまい!」


 口の中に広がる、もつ独特の味と甘辛いタレが丁度よく混ざり合った得も言われない味。そこに香辛料のスパイシーさが加わり、味をピリッと引き締めている。


「ふふ、そうでしょう、そうでしょう。

 この味を知ってしまったら週に一度はまた食べたくなりますよ。

 ささっ、アレンさん。酒で流し込んでみてください」


 セレナさんはオレがおいしそうにもつを食べている様子を見て、微笑みながら酒を勧める。


「「――おいし!」」


 どうやら、ルナリアとリーフィアも気に入ったようだ。すごい勢いで皿のもつが消費されていく。


 そんなもつに夢中になっているオレたちの様子を見ながら、セレナさんはうれしそうにクイッと酒を飲んでいた。




「そうなんですよ。ギルドマスターは仕事に厳しすぎるんですよ! ちょっと失敗しただけですぐに『減給だ!』とか言っちゃってくれるんですよ。本当に嫌になっちゃいますよね。

 それに、同僚は同僚で少しでも出世しようと蹴落とし合いなんてしてるんですよ! いや、普通にまじめに働けないんかいとか思っちゃいますよね」


 セレナさんはその後もすごいペースで酒を平らげ、とうとう、ぐでんぐでんに酔った状態になってしまい、オレたちに対して仕事の愚痴を喋り続けていた。相当溜まっていたようで、オレたちが遮る暇もないくらい矢継ぎ早に愚痴っている。


「――それでですよ! 男性冒険者たちの私を見るあのいやらしい目! 本当にやめて欲しいんですよね。単純に気持ち悪いですし、簡単な女と思われてそうで腹立たしいです! 私にも選ぶ権利ぐらいありますから。

 それに、女性冒険者たちもですよ! あの値踏みをするような目でいつも見てくるし、絶対に私がいないところで悪口を言ってますよ! ね、絶対そうでしょ?

 いや、私も分かってますよ? 仕事柄ただチヤホヤされているように見えますもんね。でも、同性だったら普通分かるでしょ! そんなのは鬱陶しいだけだって。

 確かに、中にはいますよ。チヤホヤされるのがうれしくてたまらないって受付嬢も。でも私は違うじゃん! 見たらわかるじゃん!」


 セレナさんは飲み干したグラスをテーブルに勢いよく置く。その音に周囲の客がチラリとこちらを見て、またすぐに視線を戻して各自の話題に没頭していく。


「――みなさんだけですよ。私の心のオアシスは!

 アレンさんは私をいやらしい目で見ないですし、ルナリアさんとリーフィアさんは私と気さくに話してくれます。本当にありがとうございます!」


 真っ赤な顔をして、半分目が閉じかけているセレナさんがオレたちに向かって頭を下げる。


「ほら、セレナさん。

 水を飲んで少し落ち着きましょう。ちょっと飲み過ぎですよ」


 オレはセレナさんに水を渡す。セレナさんは素直に受け取り、ゆっくりと水を飲み干した。


「やっぱり、アレンさんは優しいですね。

 少しときめいちゃいました」


 そう言って、セレナさんはオレの方にしなだれかかってくる。


 ダメだ。これはもう完全に出来上がってしまっている。オレはセレナさんから香る優しい匂いに耐えながら、どうにか離れようとしたが無駄だった。酔っ払いとは思えないぐらいの力が込められている。力任せにすれば振り払うことができるだろうが、そうするとセレナさんが怪我を負うかもしれない。そう思うと、自然とオレの腕から力が抜けていく。


 少しの間、オレがどうにか離れようと頑張っていると、セレナさんから規則的な吐息が聞こえてきた。セレナさんの方を見ると、どうやら眠ってしまったらしい。オレは抵抗を止め、静かにセレナさんの身体を支える。そして、オレは視線をルナリアとリーフィアの方へ向け、二人にアイコンタクトで退店の意思を示した。


 二人はオレの意図を察し、溜息を吐きながら立ち上がる。そして、店員に今回のお代を支払い、店を後にした。


 オレはセレナさんを起こさないように静かに抱き寄せて、二人の後を追って歩き出した。

読んでいただき、ありがとうございました。

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