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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
41/183

15: 報告のその後に

///


 何かを成し遂げた後は食事が楽しみでしょうがなく、テンションが上がってしまう。例えそれが慣れた場所であったとしてもだ。

 仲間といろいろな話で盛り上がることができるだろうし、酒で疲れを癒すこともできるだろうから。


///




 今日も今日とて王都の冒険者ギルドは多くの冒険者たちで賑わっている。ここ最近は人数の少ないグレイ村に滞在していたオレたちにとって、その光景は久しぶりということもあり、あまりの人の多さに少しばかり目眩を起こしてしまいそうになる。


 まあ、そんな症状もこの王都で二、三日程度過ごしてしまえば慣れてしまうだろう。良くも悪くもここはスレイブ王国の中心地であり、最も多くの人間が生活している場所だ。王都の外に出ない限り、否応なしに彼らと関わることになる。


 そんなことを思いながら、オレは今回のグレイ村の依頼達成の報告とキングゴブリン討伐による報酬を貰うために、受付へと続く長い列に並んでいた。


「王都は相変わらずね。

 グレイ村と違ってせわしないわ」


「それでこそ『王都』って感じますけどね。

 まあ、ルナリアの言っていることはよくわかります。もっと落ち着いていたらより住みやすいんですけどね」


 ルナリアとリーフィアが久しぶりの王都に対しての愚痴を言い合っている。二人はオレよりもはるかに王都生活が長いはずだが、グレイ村に行ったことで王都の不便な面を明確に認識することができるようになったのかもしれない。


「あれ、アレンさんたちじゃないですか!

 お久しぶりですね」


 ようやくオレたちの順番が回ってきた時、受付の担当はセレナさんだったらしく、オレたちの顔を見て嬉しそうに挨拶してくれた。よく考えれば、オレが王都で冒険者になって以来、セレナさんにばかりお世話になっている気がする。まあ、セレナさんはオレみたいな駆け出し冒険者にも優しく親身になって接してくれるので、全くいやな気はしないんだけど。


「お久しぶりです、セレナさん。

 今日は依頼達成の報告と討伐報酬を貰いに来ました」


「確か、皆さんはグレイ村に行っていたんでしたね。

 その様子を見ると無事に依頼をこなせたみたいで良かったです」


 セレナさんはオレの提出した村長のサイン入りの依頼達成証明書を受け取りながら、オレたちに微笑みかける。


 そして、すぐにセレナさんは証明書に目を落とし、不備がないかを確認し始める。


「――はい、確認できました。

 こちらが今回の依頼の報酬です。ご確認ください」


 オレたちの前に十枚の銀貨が並べられる。長期間拘束されてしまう依頼にしては安すぎる報酬だが、それ以上に今回の依頼では良い経験ができた。お金には変えることができない貴重な経験が。それを考えれば、今回の依頼は最高の依頼だった。


 オレは銀貨を数えて十枚あることを確認し、ひとまずそれらを自分の『魔法の鞄』に仕舞う。


「それでは討伐報酬の方に移りましょうか。

 ここに置いていただけますか?」


 セレナさんは受付台の上に専用のトレイを置いて促す。


「わかりました。

 ちょっと多いですがお願いします」


 オレたちはこの依頼の間に討伐したゴブリンやオークの討伐証明部位を、次々に置いていく。その量が予想よりもはるかに多かったのか、セレナさんは口を開けて驚いた表情をしていた。あのいつも美しい微笑みを絶やさないセレナさんのこんな表情を見ることができるなんて。貴重なものを見ることができた。オレは脳裏にその表情を焼きつけつつ、最後に、キングゴブリンの耳をトレイの上にできた山に乗せる。


「……本当にすごい量ですね。

 それに、これはキングゴブリンですよね? よく大物に遭遇しますね」


 セレナさんは気を取り戻し、オレたちが置いた大量の部位を識別していく。大半がゴブリンのものであったため、セレナさんはトレイにできた山をすごい速さでさばいていき、瞬く間に山は無くなってしまった。


「……はい、これでラストですね。

 ちょっと計算しますので、しばらく待っていてください」


 そう言ってセレナさんは奥へと下がって行った。オレたちはそのまま受付の前で、他愛のない話をしながらセレナさんの帰りを待つ。


「ねえ、アレン。今日は何食べる?

 私は久しぶりに味の濃いものが良いんだけど」


「そうだな。

 ここ最近は調味料が沢山使われた料理を食べていなかったからな」


 グレイ村では調味料はかなりの貴重品だったため、提供された料理にふんだんに調味料が用いられているということはなく、素材本来の味を楽しむような薄味のサッパリした料理がほとんどだった。野宿中においては、『魔法の鞄』に調味料は入っていたが、凝った料理を作ることはできなかったため、結果的にあっさりとしたシンプルな料理しか作ることができなかった。


「私も味の濃い料理で良いですよ。

 でも、サラダなんかも食べたいです」


 どうやら、リーフィアもオレとルナリアの主張に賛成のようだ。いつもはあっさりとした料理を好むリーフィアも、長期間のあっさり料理生活に飽きてしまっていたらしい。


 その後も、「どこで食べるか」とか「何を食べるか」とかを喋り続けていた。


「――お待たせしました。

 みなさん、こちらが報酬です」


 セレナさんが報酬を持って戻ってきた。


「量は多かったのですが、ほとんどがゴブリンだったのでそこまで高額にはなりませんでした。

 まあ、それでも量が量でしたし、キングゴブリンのもあったのでそれなりにはなっていると思います」


 セレナさんは苦笑いしながら説明してくれた。セレナさんが言う通り、量の割には低額だが、それなりの金額だった。オレはしばらくは豪遊しても余裕があるほどの金額を受け取る。


「それで、みなさんは何の話をしていたんですか? 随分盛り上がってましたけど?」


 いつもなら報酬の受け渡しが終わった後は、オレたちは速やかにカウンターを去り、セレナさんは次の冒険者の対応に移るのだが、今日はオレたちが列の最後尾だったということもあり、会話をする余裕があった。


「今からどこで食事しようか話していたんですよ。

 依頼中は濃い目の料理を食べることができていなかったので、ガツンとくるような料理を食べようかと」


「疲れた身体には濃い目の料理が効きますからね。

 濃い目の料理の後にお酒を飲むと最高ですよね!」


 セレナさんは自分が言ったのを想像して微笑んだ。どうやら、セレナさんはかなりの酒好きらしい。珍しく口元が緩んでいる。


 オレがセレナさんの珍しい姿をいっぱい見ることができたことに対する喜びに浸っていると、後ろにいたルナリアがセレナさんに話しかけた。


「良かったらセレナさんも一緒に来ます?

 いつもお世話になってるのでごちそうしますよ」


「いやいや、それは申し訳ないですよ。

 私は当たり前のことをしているだけなんで」


「そんなことないですよ。

 私とルナリアが駆け出しのころから色々とお世話してくれたじゃないですか。

 そのお礼もかねて一緒に行きましょうよ」


 ルナリアとリーフィアがセレナさんをすごい勢いで誘う。セレナさんも悪い気はしないみたいで、むしろ一緒の行くことに乗り気みたいだ。


「まあ、確かに今日はこれで仕事も終わりですし、帰って一人で食べるよりもみなさんと一緒に食べる方が楽しいですけど……」


 セレナさんはうれしそうな声で喋りながら、オレの方をチラチラと期待したような目で見てくる。どうやら、セレナさんはパーティーのリーダーであるオレの許可を取ろうとしているようだ。


「良いでしょアレン? セレナさんが一緒の方が楽しいわよ」


「それにセレナさんは受付嬢なので、良いお店をいっぱい知っていると思いますよ」


 ルナリアとリーフィアもオレを説得しようと詰め寄ってくる。


「……いや、オレは別に一緒でも全然問題ないぞ。

 セレナさんには日頃からお世話になっているし、特に断る理由もないからな」


 オレは二人の圧に多少押されながら、セレナさんが同行することに対して承諾する。正直に言ってしまえば、オレとしてはありがたい提案だった。言葉通り、セレナさんにはいろいろと良くしてもらっているので、どこかのタイミングでお礼をしたいと思っていた。


 それに、セレナさんは誰が見ても美人だ。そんな人と一緒に食事ができるなんて、緊張感はあれども嫌悪感は微塵もない。


 ただ、このことが他の冒険者たちに知れ渡ってしまったら、オレが刺されてしまわないかという心配事がある。ギルドの受付嬢はそれぐらい人気だし、狙っている冒険者たちも少なくないだろう。


 オレは今後の身の安全を案じながら、嬉しそうに喋る三人の様子を見つめていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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