表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
39/183

13: 宴会とその夜に

///


 酒を飲むと気が大きくなって普段しないことをしてしまう。

 事実、日頃は優しい人が酒の席では他人を罵倒している光景をよく見かけた。オレはああならないようにしようと思って注意している。そのおかげで、今のところは酒での失敗はまだない……と思う。

まあ、言いたいことは「酒は節度を持って」ということだ。


///




 ――夜。日が完全に沈み、真っ暗な空には多くの星が輝く。地上では多くの生き物が活動を止め、静けさで覆われている。


 しかし、今日のグレイ村はいつもとは違い、夜だというのに明るく、多くの村人の笑い声で賑やかな空間が広がっていた。いつもは仕事の後にそれぞれの自宅へと帰り、そのまま朝になるまで外に出ることがない村人たちも、今日は仕事道具を自宅に置いて、村の中央付近にある大量の松明で照らされた広場へと続々と集まってくる。ほぼすべての村人がここに集まってきているらしく、この村にこんなに多くの住民がいたなんて少し驚いた。


 そんないつもとは違う空間の主役はオレたち三人。最近のグレイ村に降りかかっていた問題―頻繁的にゴブリンが出現する―を見事解決し、村に平穏を取り戻したことに対するお礼として今回の宴会が催された。そのため、今まで言葉を交わしたことがなく、オレたちを遠巻きに見ているだけだった村人たちにも声をかけられ、今回の件についてお礼を言われた。


 そんな中、村長が広場の中央に用意された台に上り、全員の注目を集めるために大声で呼びかける。


「皆のもの、楽しんどるか!」


 宴会で振る舞われた豪勢な料理や酒に集中していた村人たちも村長の方を向き、その手に持った食器を掲げて村長の呼びかけに応える。みんな久々の酒なのか飲むペースが大分早く、もうすでに出来上がってしまっている者もいた。


「皆も知っていると思うが、今回の宴会が開催されたのは、この頃この村で起きていた問題が解決されたからじゃ。もうゴブリンの恐怖に怯えることもなく、元通りの生活を送ることができる!」


 村人たちから大きな歓声が上がった。その大きさに松明の火が揺らめく。


「そんな平和を村に取り戻してくれた者たちがおる。

 それがこの者たちじゃ!」


 オレたちは村長に呼ばれて台に上げられ、多くの村人の前で紹介される。今までこんなに多くの人の前に立ったことがないので、小心者のオレとしては少し緊張してしまう。


「アレン、ルナリア、リーフィアは王都からやってきてくれた冒険者じゃ。

 三人は森の奥にゴブリンの巣があることを発見。そして、なんと、なんと! そこに巣食う大量のゴブリンたちを一掃してくれた!」


 村人からは大歓声と惜しみない拍手が送られる。それが向けられた相手は当然オレたちだ。さっきまでの緊張は吹っ飛び、称賛されていることに対する気恥ずかしさで俯いてしまった。隣を見れば二人も恥ずかしさからオレと同じように下を向いている。その頬はほんのりと赤く染まっている。オレたちが温泉から上がってしばらく経過しているので、その赤みは温泉のせいじゃないだろう。


「さらに、さらに! 何とそれだけではない! その巣の主も討伐してくれたそうじゃ! そして、その亡骸も持って帰ってきてくれた。今からその亡骸をここに出してもらおうと思う。

 皆のもの、その亡骸が見たいか?」


 あちこちから肯定の声が聞こえてくる。多くの村人たちが興味津々で今か今かと待っているようだ。その他の者たち、おそらくモンスターの亡骸に対して少しの恐怖感を抱いている村人たちも、遠巻きではあるが注目していた。


 村長がオレに対して合図を出す。オレはその合図に応じて『魔法の鞄』からキングゴブリンを台の前の開けた場所に出した。


「これが三人が討伐したゴブリンたちの主、この村を苦しめていた元凶、キングゴブリンじゃ!」


 …………


 オレが出したキングゴブリンの大きさと屈強な肉体が予想外だったのか、さっきまでのやかましさから一転、その場を静寂が支配した。


 ――数秒後。


 その場所で爆発が起きた。叫び声、驚きの声、歓声など様々な言葉にならない声がその空間から生じる。その音はあまりにも大きかったため地面が揺れるほどだった。


 キングゴブリンをもっと近くで見ようと前に出てくる者たちで周囲は混雑してしまう。そんなことは気にせずに、村長は村人に向けて叫ぶ。


「脅威は三人のおかげで取り除かれた! 今日は飲んで食べて、とにかく楽しめ!」


 そう言い終わると、村長は台から降りて料理や酒が置かれている場所へとオレたちを案内してくれる。オレたちは素直に村長の後を追って、給仕をしてくれている人たちから料理と酒を受け取った。


 そしてキングゴブリンの周囲で盛り上がっている村人たちを背に、オレたちはそれぞれ宴会を楽しむ。依頼達成後に飲む酒は格別で、どんどん杯が進んでしまう。それに加えて、コップが空になるとすぐに給仕係の人がお代わりを注いでくれるため、オレはすぐに酔ってしまった。


 そんなオレの周りにはいつの間にか若い女性が集ってきており、まるで王様のようなハーレムがオレを中心に形成されていた。それにこの娘たち、やたらと身体をオレに密着させてくる。オレが恥ずかしくなり離れようとしても、オレの腕を取ってオレの動きを止め、更にはその腕を胸元近くに持っていく。驚いてその娘の顔を見ると、ニコリと微笑みかけてくれる。その微笑には何とも言えぬ力があり、オレは胸元から腕を抜くことができなくなってしまった。


 オレはこの状況をどこか楽しみつつも、どうにか脱却するためにルナリアとリーフィアに助けを求めようと二人の方を見た。しかし、どうやらオレの作戦はダメなようで、二人は遠くでオレの周りにいる娘たちよりも年上の女性たち、おそらくはこの娘たちの母親たちに囲まれて、楽しくおしゃべりをしていた。あちらからはちょうどオレが見えないようで、オレが出しているSOSの信号にも気づいていないようだ。


「アレンさんはどんな女性が好みなんですか?」


 オレがよそ見をしていると、腕を取っている娘がオレの意識を向けさせるために尋ねてきた。


「いやー、そうですね……優しい子が良いですかね」


 オレは当たり障りのない無難な返しをして、どうにかこの場をやり過ごそうとする。


「そうなんですね。

 ちなみに私はどうですか? アレンさんのタイプですか?」


 空になったオレのコップに酒を注ぎながら、さらに踏み込んだ質問をぶつけてきた。


 ――何この娘? めっちゃグイグイ来るやん! 全くオレの狼狽を気にしておらず、その質問を皮切りに周りの娘たちも「私はどうか?」と次々に尋ねてくる。


 オレは若い娘たちに圧倒されて借りてきた猫のようになってしまい、大人しく娘たちに弄ばれていた。


「アレンさんがあのキングゴブリンにとどめを刺したんですよね?」


「やっぱり強かったですか?」


「あんなに凶暴そうなモンスターを倒すなんて、アレンさん素敵です!」


 酒がかなり回ってきてしまったからだろう。オレは娘たちからの質問や称賛に応えている内に、この状況がとても楽しくなってきた。


 よく考えれば、若い娘たちに囲まれながら酒を飲むなんていう経験はそうできるものじゃない。それに上辺だけかもしれないけれども、全員がオレに好意を向けてくれている。ちょっとくらい有頂天になったとしても仕方がないし、ハメを外しても良いんじゃないか?


 オレはルナリアやリーフィアに対して抱いていた罪悪感から解放され、この状況を思う存分楽しもうと開き直る。オレは注がれていた酒を一気にあおり、酔いに任せて娘たちとの会話を楽しんだ。




「……うぁ……」


 オレは簡素なベッドの上で目を覚ます。まだ焦点が合っていない目で周囲を見渡すと、ここはオレが借りている家だということが分かった。どうやらオレは宴会中に酔いつぶれてしまって、誰かにここまで運んでもらったらしい。家の明かりは消されていて真っ暗で、窓の外にはまだ星が輝いている。まだ夜明けには大分ありそうだ。


「……それにしても飲みすぎたな」


 まだ酔いが完全には冷めてはおらず、頭のフラフラ感と酒を飲んだとき特有の高揚感が少し残っている。ただ、だいぶ正気を取り戻すことができているみたいで、思考もはっきりとしている。


「まあ、依頼も達成できたことだし、明日は何も予定がないから良いか」


 オレはもう一度眠りにつくためにベッドに寝転がり、目を閉じようとした時、誰かが家のドアをノックする音が聞こえた。最初、オレは聞き間違えだと思い、無視していたのだが、数秒後に再びドアがノックされた。


 こんな夜中に誰だろうと思いつつ、オレはドアを開けるために身体を起こし、ドアに近づく。もしかしたら、オレをここまで運んできてくれた人が様子を見に来たのかもしれない。


「はい、どちら様ですか?」


 オレがドアを開けた先に立っていたのは、宴会の時にオレの腕を取っていた若い娘だった。


「……どうしたんだ、こんな夜中に?」


「アレンさんの様子を見に来たんですよ。かなり酔っぱらっていたので心配だったので……でも、その様子だと大丈夫みたいですね」


 彼女はオレの質問にニコリと人好きするような笑顔を浮かべながら答える。


「ああ、今は酔いも大分治まっているからな。

 もしかしてオレをここまで運んでくれたのは君?」


 オレは立ち話も何だと思い、彼女を家の中に招き入れる。


「そうですよ。アレンさんってば歩けなくなるぐらい飲んじゃうんですもん。ここまで運ぶの大変だったんですよ?」


 彼女はおどけた様子でオレを叱る。


「それはゴメン」


「いいですよ。私も役得でしたから」


 この家にはイスがないため、オレたちはベッドに腰かけた。


 宴会の時と同じで彼女のオレとの距離感がかなり近い。彼女の体温を感じることができるぐらいにオレたちは密着している。


 さっきまでは暗くてよく見えなかったが、近くで彼女を見ると宴会の時とは装いが変わっていた。その装いは露出度がかなり高く、いたるところから彼女の白く美しい肌がちらちらと見える。一言で言ってしまえば、エロい! エロすぎる!


 それに彼女からは良い匂いが漂ってくる。おそらく温泉に入ってきた後なんだろう。ほんのりと甘い香りがオレの思考を奪っていき、オレはだんだんクラクラしてきた。


 宴会時とは比べものにもならないぐらい今の彼女は魅力的で妖艶だった。女性経験のないオレにとっては刺激が強すぎる。ルナリアとリーフィアと一緒に生活するようになって長い間禁欲生活を強いられていたせいもあるだろうが、オレの理性が激しく暴れている。少しでも気を抜いてしまうと、今にも理性が決壊して獣になってしまいそうだ。


「そ、それじゃあ、そろそろ家に帰ったらどうだ? 夜も遅いし。送っていくよ。」


 オレは動揺を隠すために少し早口になりながら彼女に帰宅を促す。しかし、彼女はオレの申し出を承諾することなく、更に艶やかな身体を密着させてきた。


「家には帰りませんよ。まだ、やることがあるので……」


 そう言う彼女の瞳は妖しく魅力的に輝いていた。その瞳にオレは吸い込まれてしまい、言葉を発することができない。そのまま、彼女はオレをベッドに押し倒し、オレの上にまたがる。


「どっ、ど、どういうことだ?」


 オレは今の状況に狼狽してしまう。


「こんな田舎の村に男の人が来るなんてそうそうないんですよ。それもキングゴブリンを倒せちゃうくらい強い男の人なんて。今後の村の繁栄のためにその人の子種を頂くことなんて普通ですよ」


 彼女は妖艶な笑みを浮かべてオレに語り掛ける。彼女の手はオレの上着に伸びていて、脱がそうとしている。


「それに、本当に感謝しているんですよ? もしあのキングゴブリンがこの村を襲って来ていたら、私たちは壊滅していたと思います。アレンさんはそうならないように救ってくれたんです。お礼がしたいと思って当然じゃないですか。でも、私にはアレンさんに対して何も差し上げることができません。唯一できるのはこの身体を使って癒しを与えることだけです」


 そう言う彼女から感じることができる体温はさっきまでよりもかなり高い。よく見れば彼女の頬は真っ赤になっているし、手も微かではあるが震えていた。どうやら彼女もこの状況に緊張しているみたいだ。


 そんな彼女の様子を見たオレは一気に冷静さを取り戻した。そして、オレは上着を脱がそうとオレの身体を這っている彼女の微かに震える手を優しく取り、諭すような口調で彼女に語り掛ける。


「君も緊張してるんだろ? こんなことは止めよう」


「……ここまでした女に恥をかかせるんですか?」


 彼女は責めるような口調だった。表情も先ほどまでの妖艶な感じとは異なり、眉間にちょっとしわが寄っている。


「そう言う訳じゃないけど、お互い幸せにはならないだろ? こんなことは君の好きな人にしてあげる方が良いと思う」


「……本当にカッコイイと思ったんだもん」


 彼女が頬を膨らませてすねたような口調で呟く。その可愛らしい姿に理性を刺激されて、続きをお願いしたくなるが、どうにか我慢して彼女をオレの上からどける。


「夜も遅いから家まで送るよ」


 オレはベッドから立ち上がり、ドアを開けて彼女を促す。


 彼女は少しの間ベッドに座ったままだったが、オレにその意思がないとわかると、諦めて素直にオレの言葉に応じた。


「……送ってくれなくてもいいです。一人で帰れますから」


 彼女はオレに顔を見せることなく告げる。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。その淡々とした口調に少しだけ彼女の不機嫌な様子が反映されていた。


 それもそうか。ここまで勇気をもって来てくれたんだ。オレが拒んだことによってプライドを傷つけられたに違いない。そう思いながら、オレは彼女にかける気の利いた言葉が思いつかずに口ごもる。


 オレがただ黙って彼女を見ることしかできずにいた時、彼女が急にオレの方へと振り返る。


「――ッ!?」


「私はいつでも大丈夫ですから、アレンさんが抱きたくなったときは言ってくださいね」


 一瞬、オレは何が起こったのか理解できなかった。彼女の顔が近づいてきたかと思うと、唇に柔らかな感触が走っていた。


 オレの顔から離れた彼女は唇を舌で舐めながら、今までで一番妖艶な表情でオレに告げる。そして、そのまま彼女は暗闇の中を歩いて行った。


 オレはしばらく放心状態でその場を動くことができずに立ち尽くしていた。数分後、やっと正気を取り戻すことができたが、すぐに自分がキスをされたという事実を認識して悶えてしまう。


 オレは家の中に戻ってベッドに寝転がる。ただ、今日はもうこれ以上眠れそうにない。目を閉じればさっきのキスの感触と彼女の艶めかしい表情が、鮮明に頭に浮かんできてしまう。そのせいで、オレは悶々としてしまい寝付くことができない。


「……今から呼び戻そうかな」


 オレは彼女を返してしまったことを若干後悔しながら、暗闇の中、一人で長い夜を過ごした。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ