12: ゴブリン調査(5)
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心配事が無くなるとその分余裕が出てくる。そうすると、いろいろなことが良い方向へと進み始め、更に余裕が生まれてくる。
そうなるように、目の前の問題に全力で対処することが重要なのかもしれない。欲張らずに少しずつ。一歩一歩で良いから前に進む。オレもそのことに気を付けながら頑張っていきたいと思う。もうあんな前進のない生活に戻らないために。
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「やりましたね!
後ろで見ていましたけど完勝でしたよ」
リーフィアがオレたちの労をねぎらってくれる。
「リーフィアの魔法のおかげだよ。
あれのおかげでかなり楽ができたしね」
「そうね。大量のゴブリンたちを相手にしなくて良くなったのは、やっぱり大きかったわね」
この作戦の最功労者はやはりリーフィアだろう。リーフィアは魔法で大量にいたゴブリンをほぼ全て倒し尽くしてくれた。そのおかげで、オレとルナリアは余計な体力を消耗することなく、万全の状態で本命のキングゴブリンと対峙することができ、無事に討伐することができた。もしあの大量のゴブリンと対峙することになっていれば、かなりの苦戦を強いられていたに違いない。怪我無く終えることができたのはリーフィアのおかげでしかない。
オレたちの言葉に恥ずかしくなったのか、リーフィアは頬を赤く染め、それを隠すようにキングゴブリンの死骸へと足早に歩み寄る。
「それにしてもこれがキングゴブリンですか……初めて見ましたけど近くで見ると大きいですね」
「そうだな。それに大きさだけじゃなくて力も、ゴブリンとは比べ物にはならなかったぞ」
オレはそう言いながら、キングゴブリンの胴体と首を『魔法の鞄』へと収納していく。キングゴブリンの討伐証明の部位は確かゴブリンと同じでその耳だったはずだ。オレがギルド職員時代は持ち込まれることはなかったから少しうろ覚えだけど、たぶん間違いないだろう。
ただ、今回はグレイ村の村長にキングゴブリンを討伐したという分かりやすい証拠を提示した方が良いと思うので、耳以外の部分も持っていくことにする。それに、キングゴブリンが身に着けていた防具を王都に持って帰ると、それを売ることができて小銭が稼げる。今はそうでもないが、今後、お金がどうしても必要になってくるかもしれない。その時のために貰えるものは貰っとくべきだ。
「――じゃあ、リーフィアも回復したみたいだし、洞窟の中に探検に行きましょうよ! あんまり期待はできないけど、何か良さそうな物をため込んでるかもしれないわ」
ルナリアは待ちきれないのか、まるで子どもが大人にするかのようにオレたちを洞窟の中へと急かす。どうやら楽しみでしょうがないようだ。オレとリーフィアはそんなルナリアの姿に苦笑しつつも、先行するルナリアを追って洞窟の中へと踏み入った。
――結果を言ってしまえば、洞窟の中には何も目ぼしいものはなかった。洞窟の中はオレたちが思っていた以上に広く、いくつもの部屋があった。しかしながら、それらには価値のあるものは転がってはおらず、あったのはゴブリンの食料だと思われる小動物の死骸や何のために集められたのか分からない木や石、それに苦悶の表情を浮かべている大量のゴブリンの死骸だった。洞窟の最深部にあった一番大きな部屋――おそらくはキングゴブリンの部屋だと思われる――にもこれといった物はなく、ゴブリンたちのものよりも上質で大量の食料と動物の毛皮でできた寝床しかなかった。
そのため、勇んで洞窟の中へと入ったルナリアは見るからに気落ちしていた。まあ、確かにここまで何もないなんて、オレも驚いた。金貨や上質な武器とまでは言わないが、銭貨ぐらい落ちていてもいいと思う。
「元気を出してよ、ルナリア。ここはかなりの田舎なんだから、何もなくてもしょうがないわよ」
「……そうだけどさ……初めてのゴブリンの巣よ。それもキングゴブリンがいた! ちょっとは期待しちゃうでしょ……」
「ルナリアの気持ちもわかるけどさ、こればっかりはしょうがないでしょ。
今回は運がなかったと思ってあきらめましょう」
リーフィアが意気消沈したルナリアを慰めてくれている。だが、ルナリアの精神的な回復はまだ先になりそうだ。足取りも打って変わってトボトボと元気がない。そんな状況の中、オレたちは今回のグレイ村の問題の原因を解消したことを報告するために、村に向けて洞窟を出て森の中を歩き出した。
「おーい、開けてくれ」
オレたちは無事に森を出て村へと帰ってくることができた。辺りはまだ明るく、日もまだ沈んではおらず、村からは村民の声が聞こえてくる。
オレは村へと入るために門番の男に話しかけた。オレの声を聞いて、男は櫓から顔を出してオレたちの姿を確認すると、すぐに門を開けてくれた。
「アレンたちか。その様子じゃ今日も無事みたいだな」
「ああ、おかげさまでな」
村長を除けばこの村で一番頻繁に顔を合わせているのがこの男だ。そのため、オレたちが初めてこの村に訪れた時よりもかなり打ち解けていて、今ではこうして何気ない会話もできるようになっていた。
「それはそうと、今日はゴブリンの巣に行ったんだろ? どうだったんだ? 成功か?」
男は今日の成果を聞くために矢継ぎ早に尋ねてくる。悪戯心が刺激されたオレは直接的な発言は避け、門をくぐって村に入りながら、男に向けて告げる。
「今夜は宴会になるかもな。楽しみにしとけよ」
「――ッ! マジかよ!」
今のオレの顔はさながら「良い男」の顔だろうか。いや、ただのニヤついた若造か。オレとはかなりキャラが違うし、気障すぎたかもしれない。
そんなオレの心の中とは関係なく、男はオレが言わんとしたことを正確にくみ取ったようで興奮している。オレたちはそんな男を背に、事の顛末を村長に報告するために村長宅へと向かった。
どうやらオレたちが訪れたのは丁度良いタイミングだったようで、村長は家にいたためすぐに会うことができた。村長はこんなに早くオレたちが帰ってくるとは思っていなかったのか、オレたちを見て一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの表情に戻ってオレたちを出迎えてくれた。そのまま村長はオレたちを自宅へと通して、席を勧めてくれる。
「――それで、今回の件はどうなりましたかのお?
まあ、その顔を見れば結果はわかりますがの」
どうやらオレたちの顔に今回の結果が出ていたようだ。門番の男には全く気付かれていなかったのに。これが年の功というやつなのかもしれない。
「まあ、村長にはバレているみたいだし、結論を言うと今回の依頼は完全に達成しましたよ。巣にいた大量のゴブリンもキングゴブリンも全て討伐することができました。これで今後この村に出現するゴブリンの数は平常通りになると思いますよ」
「おおっ、それはそれは……本当にありがとうございました。
これで安心して生活を送ることができますわい。わしも心配事なしでゆっくりと寝ることができそうじゃ」
村長はオレたちの報告を聞いて本当に安心したようだった。
それもそうか。自分の判断でグレイ村の未来が左右されてしまう。もし間違った判断を下してしまえば、村が崩壊して多くの村民が死んでしまうかもしれない。そんなグレイ村に関する全ての責任を負っている立場にあるんだ。今回の件が解決されるまで常に緊張状態にあり、村長が言っていた通り、夜も熟睡することができなかったのかもしれない。
そんな状態に自身を追いやっている原因が取り除かれた今、心配事はなくなったといっても良いだろう。税や冬を迎えるために準備など、気に掛けることはまだあるのかもしれないけれども、それは毎年のことだから慣れているだろうし、計画的にやっていれば問題は生じないと思う。
「それで、どうしますか? 一応、確認のためにキングゴブリンの死骸を持ち帰っているのですが……今見ますか?」
「そうじゃの……いや、今はやめておこうかの。
依頼達成のお礼を兼ねて、今夜に宴会をしようと考えとるので、そこで見せてもらうことにしようかの。村人の前で出してもらえれば、皆びっくり知ること間違いなしじゃ。そっちの方が面白そうじゃろ?」
村長はオレたちに向けてニヤリと悪戯っぽく微笑んだ。オレが予想していた通り、村人たちの前でお披露目することになった。そうすることで、村人たちも心配事を払拭することができるし、宴会で日頃の疲れや溜まった不満を解消できる。まさに一石二鳥だ。
「わかりました。では、オレたちはそれまでゆっくりしていますね」
「ああ、そうしてくれ。温泉にでも入って今日の疲れと汚れを落としてくるといい」
「それは良いわね! こんなまだ日の高い時間から温泉に入れるなんて」
「夜に入るのも良いですけど、明るいうちに入るのも趣があって良いかもしれませんね。楽しみです!」
「そうと決まれば早く行きましょうよ」
どうやらオレたちの今後の行動は決まってしまったようだ。まあ、オレもこの村に滞在してから温泉の魅力に憑りつかれてしまっているので、楽しみで仕方がないんだけど。
「どうやら、相当気に入っていただけているようですの。宴会までにはだいぶ時間があるので、ゆっくりと入ってきてくだされ」
オレたちは村長宅を出て、そのまま足早に温泉へと向かった。
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