11: ゴブリン調査(4)
*少し残酷なシーンがあります。
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何かを達成した瞬間は何度味わっても気持ち良く、喜びを感じてしまう。それがどんなに小さなことでも関係ない。
失敗しなかったことに対する安堵。さらなる成長の可能性への期待。色々な感情が心の中に生まれてくる。
もしかしたらオレはそんな感情的になれる瞬間に「生の実感」を抱いているのかもしれない。
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「――よし、じゃあ二人とも昨日決めた通りだからな」
オレたちはゴブリンに見つからないように洞窟の前の大きな木に隠れて、これからの行動を確認していた。
ここまでの道のりは特に大きな問題もなく、昨日の帰りに取り付けていた目印のおかげで、それほど時間をかけずに洞窟へと到着することができた。昨日よりかは日も出ていて、湿気もさほど酷くなく、足元も水分がいくらかは蒸発していて足が泥だらけになることもなくなっている。そのため、昨日よりも断然動きやすくなっていて、ゴブリン討伐には適している状態だといっても良いだろう。
「わかっているわよ。
最初にリーフィアの『ファイア』でしょ」
オレたちが昨日立てた計画はとてもシンプルなものだ。まず初めに、洞窟の外からリーフィアが洞窟の中に目掛けて最大出力の『ファイア』を放つ。それによって洞窟の中にいるゴブリンたちは焼かれるだろう。そしてその後、『ファイア』によって生じた灼熱を『ウィンド』によって洞窟の奥まで送る。それによって奥にいるゴブリンたちもその熱によって蒸し焼きになるだろう。フィーリアの魔法によって大半のゴブリンたちは死に、運良く助かったとしてもかなりのダメージを負うことになる。
ただ、キングゴブリンはこれだけでは絶命しない。キングゴブリンもかなりのダメージを負うだろうが、絶対に生き残り、何が起こったのかを確認するために洞窟の外へとはい出てくるはずだ。そんな手負いの状態のキングゴブリンを待ち構えているオレたちが不意を突いて討伐する。こうすることによって大量のゴブリンと戦わなくても済むし、キングゴブリンとも圧倒的有利な状態で戦うことができる。
「一つ懸念があるとすれば、洞窟の中に人がいないかどうかってことだけだけど、村長が言うには行方不明になった村民はいないそうだし、グレイ村以外にこの森の周囲に村はないから大丈夫だと思う」
「そうですね。それにもし洞窟の中にいたとしても、おそらくですがあの大量のゴブリンの餌食になってしまっていると思いますよ」
オレたちはこれからの行動の最終確認を終えて、少しでも多くのゴブリンを殺すために洞窟の中へと外に出ているゴブリンが入っていくのを待った。
――数十分後。
「よし、かなりの数のゴブリンが入っていったな」
「そろそろ頃合いね」
「緊張してきました」
オレたちが息をひそめて洞窟を観察している間、十匹以上のゴブリンが洞窟の中へと入っていった。そのゴブリンのほとんどは血まみれの動物を手に持っていて、おそらく中では食事が行われているのだろう。その状況はオレたちにとってはとても好都合だ。なぜなら、食事・排泄・睡眠の三つはどんな生き物だとしても隙が生まれる瞬間であり、その瞬間を襲われて適切な対処ができる生き物はいないと言われている。実際に、慎重な冒険者の多くがモンスターを討伐するときには、それら三つの瞬間を狙うと聞いたことがある。少し卑怯な気もするが、この世は弱肉強食。綺麗ごとを言って逆にモンスターにやられてしまっては元も子もない。安全にモンスターを殺すことができる瞬間があるならば、その機会を狙うべきだし、その機会を故意に見逃すなんて馬鹿がやることだ。
「リーフィア、そろそろ頼む」
「はい! 全力で行きますね」
さらに一匹のゴブリンが洞窟の中へと入っていくのを見届けて、オレはリーフィアへ魔法を放つように指示する。リーフィアはオレの合図に頷くと、勢いよく立ち上がり、洞窟の中へ魔法を放ちやすい位置へと移動する。オレとルナリアはそんなリーフィアの後に続いて、どんなことが起きても良いように武器を手に持って構えて臨戦態勢に入る。
『ファイア』
リーフィアの握る『魔法の杖』から灼熱の炎が放たれる。その炎は勢いよく洞窟の中へと吸い込まれていき、そのまま洞窟の中で爆ぜた。その炎は一瞬で真っ暗だった洞窟の中を照らし出し、外にいるオレたちも目を覆ってしまうほどの光を生じさせる。そしてその後、オレたちの方にも熱風が漂ってくる。
『ウィンド』
リーフィアはすかさず『ウィンド』を放ち、生じた熱風を洞窟の奥へと届ける。おそらく洞窟の中は地獄のような状態だろう。突然生じた熱風がゴブリンたちを襲い、奴らの皮膚を焼く。加えて、呼吸をすれば熱風が身体の中に入り込み、内臓を焼き爛れさせる。外からも内からも灼熱によって襲われて、苦しみながら死んでいく。そうして大量のゴブリンの死骸が洞窟の中で作られているだろう。
だが、ゴブリンに同情はできないし、ここで手を緩めてはいけない。作戦通りにリーフィアは再び『ファイア』を高温になっている洞窟の中へと放ち、続けて『ウィンド』を放った。それを何度も何度も繰り返し行った。少しでもゴブリンを殺すために。この後の安全性を少しでも確保するために。
――数分後。
「リーフィア、そろそろやめて良いぞ。
これだけやったら大半のゴブリンは殺せただろうし」
リーフィアが『ファイア』と『ウィンド』を繰り返し放つこと十数回。そろそろ頃合いだと思ったオレはリーフィアに合図を出す。それを聞いてリーフィアは魔法を放つことを辞めて、『魔法の杖』を下ろした。かなり魔力を消耗したのだろう。リーフィアは顔中に汗を浮かべていて、肩で息をしている。それに少しふらついていて倒れ込んでしまいそうだ。
「リーフィア、ご苦労様。これからはオレとルナリアがやるから、後ろに下がって休憩していてくれ」
「……はい、そうさせてもらいますね」
リーフィアはフラフラとした足取りで、オレたちが最初に隠れていた場所へと下がっていった。そして木の下に座り込み、『魔力のポーション』を飲み干した。オレはそんなリーフィアの様子を後ろ目で見て、リーフィアの状態に特段の問題がないことを確認した後、未だに熱風が吹き荒れる洞窟の中へと意識を集中させる。
「――ッ! ゴブリンと雖もさすがにキツイものがあるな……」
「……そうね……まさかここまでとは」
オレとルナリアは目の前で起こっている光景に思わず目を逸らしたくなった。というのも、オレたちの目の前にはおぞましい光景が広がっており、洞窟の中で熱風に襲われて致命傷を負ったものの、すぐには死ぬことが許されず激痛に苦しみながら何とか洞窟から生を求めて這い出ようとしているゴブリンたちがいた。その身体は全身焼き爛れ、ひどいゴブリンは原形を留めていない。そんなゴブリンたちが次々に這い出てくるせいで、周囲には独特の不快な臭いが漂っている。
そんな地獄のような光景の中で唯一の幸運は、ゴブリンたちが洞窟の外に出た時点で力尽きていき、オレたちが命を絶つために攻撃を加えることをせずに済んでいるということだ。モンスターとはいえ、さすがにあんな状態の生き物に攻撃をすることは躊躇われるし、正直に言えばあまり近づきたくない。
ルナリアもオレと同じ意見のようで、ナイフを構えてはいるがその手には力が籠ってはおらず、目の前の光景をただ見つめているだけのようだ。リーフィアは後方で休んでいるため、おそらくはこの光景を鮮明には見ることができないと思われるので良かった。体力を消耗している時にこの光景はあまりのも衝撃的すぎる。
一匹目のゴブリンが洞窟の中から這い出てきて数分。次々にゴブリンが洞窟の奥から這い出てきては死に、這い出てきては死にを繰り返し、洞窟の入り口付近にはゴブリンの死骸の山が築かれていた。
「……なかなか本命が出てこないな」
「もしかしたら中で死んでるんじゃない?」
「いや、個体的にゴブリンよりも屈強になっているし、それに防具も身に着けていたんだ。そう簡単にはやられないとは思う。
かなりダメージを負ってはいると思うけど、絶対に死んではいないと思う」
オレは気を緩めることなくキングゴブリンが出てくるのを待ち続けた。そしてついにその時が来た。
「――ッ! ルナリア!」
「わかってるわよ!」
洞窟の中から今までとは比べものにならない程大きな鳴き声が聞こえてきた。その声は明らかに怒気が含まれていて、自分をそのような状態に追いやった者に対しての憎しみが手に取るようにわかる。
オレたちはついにやってきたキングゴブリンに備えて武器を構える。未だにキングゴブリンの姿は見えてはいないが、段々とその鳴き声が大きくなってきている。ゴブリンたちとは違って、確実にその足で外に出てこようとしている。そして、元凶であるオレたちを殺そうとしている。
ついにその姿が見えてきた。洞窟の中にある黒い大きな物体が徐々に鮮明に視認することができてきて、とうとう以前見たキングゴブリンがオレたちの前に現れた。ただ、防具で覆われていない箇所が少し焼き爛れていて、以前のような力強さは感じられない。それなりにダメージを負っているようで、足を引きずっており移動速度もそれほど早くない。それでも、その身に纏う風格はゴブリンの比ではなく、周囲に威圧感を振りまいている。
「グギャーッ!!」
そんなキングゴブリンもオレたちを視認したようで、こちらに向かって手に持った棍棒を振り回しながら近づいてくる。
移動速度は速くないが、それでもその大きな体躯から振り下ろされる一撃は簡単に致命傷を負わせることができるだろう。ダメージを負っていてこれ程なのだから、完全な状態で対峙した場合はそれなりの苦戦を強いられていたかもしれない。
それでも今回はリーフィアの魔法のおかげでオレたちは圧倒的優位な状態で対峙することができている。オレとルナリアはキングゴブリンの大ぶりの攻撃を余裕をもって避けつつ、隙をついて防具で覆われていない部分に刃を立て、着実にダメージを与えていく。
キングゴブリンは自らの攻撃は当たらずに一方的にやられていることに激昂し、その攻撃はますます大振りになり、その結果、オレたちはさらに容易に攻撃を加えることができる。
避けては切り、避けては切りを繰り返すこと数分。キングゴブリンの動きが見るからに鈍くなってきた。繰り出される攻撃も弱々しく、それ等にはもう脅威は感じられない。身体中にオレたちが付けた傷があり、そこから血が滴り落ちている。
「ギャーーー!」
最後の力を振り絞ってかキングゴブリンがオレへと向けて一撃を繰り出してくる。
「――悪いなっと」
オレはその一撃を難なく避け、キングゴブリンの首元に向けて刃を滑らせる。
「ギャッ!」
オレの反撃がキングゴブリンの首を見事にとらえ、大量の血が噴き出してくる。全身の力が抜けて立っていられなくなったキングゴブリンは、手から棍棒を落としてその場に跪いた。
「ルナリア!」
「わかってるわよ!」
オレとルナリアはその好機を見逃さず、キングゴブリンを仕留めるために攻撃を繰り出す。もうすでに反撃する力のないキングゴブリンは、オレたちの攻撃をどうにか避けようとするが、全く意味を成してはいなかった。オレたちの攻撃がどんどん身体に刻み込まれていく。
そしてついに、オレが繰り出した一撃がキングゴブリンの首元に深く刺さり、そのまま首を切断し、宙高くに舞い上げた。首を失ったキングゴブリンはそのままゆっくりと前に倒れていく。
――少しの間、沈黙が流れる。
オレたちの周りには首を失ったキングゴブリンと大量のゴブリンの死骸が転がっていた。
「やったわね!」
「そうだな。
完勝といっても良いぐらい上手く行ったな」
ルナリアがオレの方へと歩きながら、嬉しそうに声をかけてくる。オレもその声に応えながら、三人とも無事に今回の戦闘を終えることができたことに達成感を抱いていた。後方を見れば、オレとルナリアがキングゴブリンを倒したことを確認して、リーフィアが微笑みながらゆっくりとこちらに向かってきている。その様子から体力は十分に回復していることが分かる。
オレとルナリアは喜び合いつつ、リーフィアがこちらに来るのを待っていた。
読んでいただき、ありがとうございました。




