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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
35/183

9: ゴブリン調査(2)

///


 予想よりも最悪な事態が起きた時にどう対処することができるか。それがその人が持っている真価だと思う。

 いつもスマートに対処することができる人でも、案外そういう時には冷静な判断が下せなくなるし、更に状況を悪化させてしまうことなんかもあるかもしれない。

 そうならないためにも、日頃から最悪の事態を想定して行動するべきなのか。でも、それだと人生を楽しめないと思ってしまうのだが……どうすればいいのだろう。


///




 ゴブリン調査二日目。オレたちは昨日と同じように朝早くに起床し、森の中へと足を踏み入れていた。


 今日は昨日と違い、空には多くの厚い雲が浮かんでいて夏の強烈な日差しを遮っているため、体感的な気温も低く、過ごしやすい。ただ、森の中にはより一層日の光が入ってこずに湿気が溜まり、濃い霧が立ち込めている場所もある。そのせいで、ジメジメとした空間特有の息苦しさがあり、ゴブリン調査に対するオレたちの意欲を削いでいた。


「じゃあ、今日はもっと深くまで行ってみようか!」


 オレは低下している意欲を奮い立たせるように、できるだけ明るい口調でルナリアとリーフィアに向けて呼びかけた。


「……そうね……でも昨日よりも早く帰りましょう」


「昨日よりも視界が悪いですし、足元も悪いので長居しても危険なだけですからね」


「ああ、オレもそのつもりだ。

 ある程度の所で目途をつけて帰ろう。

 オレも早く温泉に浸かりたいからな」


 オレは二人の提案を快く承諾する。まだ二日目だ。今日無理をして、もし怪我をしてしまったら、調査を続行することができなくなり、依頼を達成することができなくなる。そうなれば、オレたちはただ温泉に入りにグレイ村に来たことになるし、怪我を治すために用いた『回復のポーション』代分、赤字になってしまう。


 それに、オレたちだけではなく、グレイ村にとっても大きな損害になってしまうと思う。というのは、もし何らかの原因によってゴブリンがグレイ村に出没しているならば、それに対処するための冒険者を失ってしまうことになる。こんなに遠くの村まで、銀貨十枚という高いとは言えない報酬でわざわざ王都から来てくれるもの好き冒険者なんて、オレたち以外にはいないだろう。つまりは、オレたちだけがこの問題を解決できる存在だといっても過言ではない。そうである以上、オレたちはこんな所で怪我を負って離脱することは許されない。


 オレは気を引き締めながら、ぬかるんだ森の中を歩き出した。




 森の奥は浅い所よりも霧がひどく立ち込めている。足元に水たまりができてしまうほどだ。そんな中、オレたちは森の中を深い足跡を残しながら進み続けていた。


「それにしても、こう足元が悪いと嫌になるわね。

 早く体を洗いたいわ」


「靴も泥だらけで気持ち悪いです」


 歩けば歩くほどオレたちの靴には泥がへばりつき、足を物理的に重くする。そのせいで、オレたちの体力も徐々に奪われてしまい、肉体的にも疲弊してきてしまっていた。


 そんな状態でも、モンスターはお構いなしにオレたちに襲い掛かってくる。それに、森の深くということもあり、ゴブリンだけではなくてもっと大きくて強いモンスターと遭遇することが増えていて、常に気を抜くことができない。


 まあ、装備が強化されたオレたちにとっては容易に討伐することができてはいる。そのおかげで、オレたちの『魔法の鞄』の中にはどんどん討伐されたモンスターの死骸が溜まっていき、王都に帰った際にギルドに持っていけば換金することができるので、ある程度の金額を受け取ることができるだろう。本当にルガルドには頭が上がらない。ルガルド様様だ。このお礼に、王都に帰った際に何かおごってあげようかな。


 そんなことを考えながら、オレたちは今まさに現れて、オレたちの方へと向かってきたゴブリンを討伐する。ゴブリンもぬかるんだ地面に足を取られてしまっているので、そこまで動きは速くない。そのため、リーフィアの魔法の恰好の的だった。リーフィアの放った『ウィンド』によって、ゴブリンは何もすることができずに真っ二つとなり、大量の血を吹き出しながらその場に倒れていく。ここまであまりにも容易に討伐できてしまうと、ゴブリンといえどもちょっとかわいそうに思えてくる。


 オレは絶命したゴブリンの死骸に近づき、討伐を証明するための部位を剥ぎ取る。剥ぎ取りが終わり、オレが『魔法の鞄』に部位を入れようとした時、突如、ルナリアが何かを発見したのか大きな声を出した。


「ねえ、あれを見て!」


 ルナリアはゴブリンが出てきた方を指さしながら、オレたちに告げる。オレがルナリアの指し示した方を見ると、そこにはさっきのゴブリンのものだと思われる小さな足跡が刻まれていた。


「……ゴブリンの足跡みたいだけど……あれがどうかしたのか? こんな環境なんだから、別に珍しくもないだろ」


 ルナリアがなぜ大きな声を出してまでオレたちにそのことを告げたのか、その意図がオレには分からずにいた。リーフィアもオレと同じらしく、ルナリアへ説明を求める視線を送っている。


 そんなオレたちの様子に満足したのか、自分だけが発見したことを誇らしげに自慢しているかのような得意気な面持ちで、ルナリアはオレたちに説明してくれる。


「あの足音を辿れば、ゴブリンがどこから来ているかがわかるでしょ!

 そしたらそこに、グレイ村にちょっかいを出している原因の手がかりがあるかもしれないじゃない! 行ってみて損はないと思うわ」


「……確かに、ルナリアのいう通りかもしれないな」


「ルナリア、すごいです! 良く気付きましたね!」


「ふふん、まあ、私にかかれば、これぐらい当然よ!」


 リーフィアに褒められて、ルナリアはより一層気分が良くなり有頂天になっていた。まあ、この広い森の中を闇雲に探し回ったとしても、今回の問題の原因を見つけ出すことは不可能で、それこそ、この森の中から、隠された一つの小さな石を見つけ出すようなものだ。そう考えれば、今回のルナリアの功績はかなり大きい。それが原因に直接結びつく保証はないけれども、原因に繋がるかもしれない糸口を見つけたんだ。


「よし、じゃあ足跡を辿ってみようか。

 幸いにも、足元がぬかるんでいるおかげで足跡もはっきりと残っているし、それほど苦労しないだろう」


「了解」「了解です」


 オレたちは原因を発見できるかもしれない糸口を見つけたことによって意欲も回復し、軽やかな足取りでゴブリンの足跡を辿っていく。ゴブリンの足跡は等間隔で森の中を右へ左へと彷徨っているように刻まれていることから、ゴブリンがフラフラと徘徊していたことがわかる。おそらく、獲物を探し回っていたのだろう。そんな時にオレたちと遭遇し、居ても立ってもいられず襲い掛かってきて、逆に、リーフィアの魔法の餌食になってしまったのだ。


 しばらくの間、ゴブリンの足跡はただ森の中をさまよっているだけと思われるような不規則なものだった。しかしながら、ある時を境にその不規則性はなくなり、ある場所から一直線に伸びているかのように、足跡がまっすぐに続いている。


「足跡の刻まれ方が変わったな」


「そうね……多分だけど、ゴブリンの巣があるんじゃない?」


「かもしれないな」


 ゴブリンは集団を形成して巣をつくる。一匹一匹は弱いゴブリンでも大量に集まると脅威となり、調子に乗って鼻が高くなってしまった初心者冒険者が、ゴブリンだと侮って何も用意せずに巣に挑み返り討ちにされることも多々ある。そんな侮ることができないゴブリンの巣がこの足跡の先にあるかもしれない。オレたちの間に一気に緊張が走った。


「どうする? 行ってみるか?」


「……そうですね、もし巣があるなら場所だけでも特定しておきたいです。

 その方が、今後の役に立つと思うので」


「リーフィアの言うとおりね。行ってみましょう。

 こんなところで足踏みしてても、何も進展しないわ」


「わかった。

 ただ、もし巣があっても遠くから眺めるだけだぞ。少しでもヤバくなったらすぐに逃げるからな」


 オレの言葉に二人も素直に頷いてくれた。


 オレたちは足跡を辿ることを再開する。その足取りは今まで以上に慎重なものとなり、もし急にゴブリンと遭遇しても対処できるように、手には各々武器を持って、この足跡の先にいるかもしれない大量のゴブリンに気付かれることがないように歩いた。


 オレは足跡を辿れば辿るほど、この先にゴブリンの巣があるという確信が強くなっていく。というのは、オレたちが辿っている足跡とは別に、何十匹分もの同じ大きさ・形の足跡がオレたちの辿っている方向と同じ方向に伸びていたからだ。


 当然、ルナリアとリーフィアもそのことに気付いていたようで、二人は足音を辿れば辿るほど息が荒くなっていく。それでも、何とか気配を悟られないように、速まる鼓動をどうにか落ち着かせようと時折深呼吸をしながら、オレの後に続く。


「――あれだッ!」


 オレたちがゴブリンの足跡を辿ってしばらくすると、山のふもとの木があまり生えていない開けた場所に出た。そして、そこには大きな口を開けた洞窟があり、その洞窟は小動物が作ったとは思えないぐらいの大きさで、洞窟の中をはっきりと視認できないぐらい真っ暗で深い。明らかに、何らかのモンスターが集団生活を行っていそうな洞窟だ。その証拠に、オレたちの周囲の足跡は全てその洞窟から伸びている。


 オレたちはゴブリンに気付かれないために、木々が生い茂る森の中へと身を潜めて、洞窟の中の様子を窺う。


「――どうやら当たりだったみたいだな」


 オレたちが監視を始めて数分後、一匹のゴブリンがその洞窟から出てくる。周囲を見渡し、幸いにもオレたちの存在には気付かなかったようで、オレたちが隠れているのとは反対の方向に向かって歩き出した。手には鈍器のようなものを持っており、おそらくはあれで見つけた獲物に襲い掛かろうとしているのだろう。


 その後も、オレたちは洞窟を監視し、その洞窟から十匹以上のゴブリンが出てくるのを確認した。こんな短時間でそんなにゴブリンが出てくるのを確認できるなんて、どうやら、洞窟の中には大量のゴブリンが生息しているらしい。これならグレイ村に出没するゴブリンが増加していても頷ける。


 解決するためにはこの洞窟に生息する全てのゴブリンを討伐しなければならない。何も準備していない今では到底達成することができない。まあ、今日はどのくらいの規模なのかを確認できただけでも良しとすべきだろう。


 オレは十分な情報を得ることができたと思い、監視を辞めて村へ帰るために二人へと視線を送る。二人はオレの意図を理解して軽く頷いた。そして、オレたちがその場を離れようと立ち上がり、洞窟に背を向けて歩き出そうとした時、洞窟の中から、今までとは違う大きく響く足音が聞こえてきた。


「「「――ッ!」」」


 オレたちは急いでその場に伏せて様子を窺う。洞窟内からは段々と一定の間隔で響いている重低音の足音が近づいてくる。オレたちは固唾を飲んで洞窟から出てくる生物を注視していた。オレたちの頬には汗が流れ、喉はカラカラになってしまっている。音を出している正体が見えるまでどのくらい時間がたったのだろう。少なくとも、オレにとってその時間はとても長く感じられた。


「――来た!」


 ついに、洞窟からそいつが姿を現した。


「――キングゴブリン!」


 オレたちの前に姿を現したそいつは通常のゴブリンよりも二回りほど大きく、屈強な筋肉をその身に纏っていた。その口から覗かせる牙も大きさと鋭さが増していて、容易に獲物を切り裂くことができるだろう。そして、一番オレたちの視線を集めたのは、通常のゴブリンよりも凶暴さが増している姿の上に、冒険者から奪ったと思われる立派な防具を纏っていることだった。


「……あれはちょっと厄介ね」


 ただでさえゴブリンよりも強くなっているのに、その上に防具を纏っているとは……ルナリアの言うように、討伐の難易度がかなり上がってしまっていることは明らかだった。


 キングゴブリンはしばらくの間、周囲を見渡し、異常がないことを確認して満足したのか、洞窟の中へと戻って行った。


 キングゴブリンの姿が見えなくなると、オレたちは強烈な緊張感から解放されたが、しばらく誰一人も言葉を発することなくただその場に隠れていることしかできなかった。ようやく、オレは気を取り戻し、二人へと視線を送る。二人はオレの視線に気づいたようで、弱々しく頷いた。それを合図に、オレたちは無言で立ち上がり足早にその場を離れて、グレイ村を目指す。その道中、オレたちは一言も発することなく、ただ黙々と歩き続けた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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