8: ゴブリン調査(1)
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結果はすぐに出ることもあれば、すぐに出ないこともある。すぐに出ないと、早く結果を出そうと焦ってしまうことが多々あるが、そんな時はミスをしがちだ。だから、結果が出なくても焦らずに、ゆっくりとで良いから着実に前進すればいいと思う。そうすれば、最終的には良い結果を出すことができるから。
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「こんな朝早く集まってもらって悪いのお」
オレたちがグレイ村へと到着した翌日。オレたちは朝早くから村長の家に集まっていた。まだ外は日が出てきて間もなく、周囲の光景をボンヤリとしか映し出せていな。気温も昼間に比べてはるかに心地よく、時折吹く風のおかげで汗をかいたとしてもすぐに乾き、不快感を肌に残すこともない。グレイ村の周囲に広がる森からは鳥の綺麗な鳴き声や飛び立つ羽音、風に吹かれて揺れる樹木の音が聞こえ、爽やかな朝を感じさせる。
「いえいえ、事情は理解していますから気にしないでください」
田舎の村の朝は早い。
それには田舎ならではの事情がある。街や都市から離れれば離れるほど、それだけ行商人が訪れる頻度は低くなってしまう。行商人が年に数回しか訪れない村なんかもあるらしい。それに、行商人が村への道のりの最中に何かトラブルがあり、急遽訪れることができなくなったり、わざわざ田舎の村に訪れて商いをすることによって利益よりも出費がかさんでしまい、採算が取れなくなってしまい村を訪れなくなったりなど、行商人が予定していた時期に必ず訪れるとは限らない。行商人に頼り切ってしまうと、その分もしもの時に深刻なダメージを負うことになってしまう。
そのため、田舎の村は自給自足が基本であり、村では様々なものがつくられている。その中でも、生き物が生活する上で欠かせない食料を作りだす農業は盛んに行われていて、村民の大半が従事している。その農業において、作物の成長に欠かせない水やりや収穫は朝の内に行われるため、村民の大半も朝早くに起きて行動を開始する。
それに加えて、田舎の朝が早い理由として、村の中の設備の問題も関係している。王都などの大都市では所々に街頭が設置されていて、夜になってもある程度明るく、活動することができる。一方で、グレイ村のような田舎の村にはそのような便利なものは設置されていることは稀であり、夜になると暗くて外を歩くこともできなくなる。そのため、できるだけ早く仕事を終える必要があり、自ずと朝早くから作業を開始しなければいけなくなる。
そのような事情を理解しているので、朝早くに村長の家に集まらなければならないことに不満を抱くこともない。それに、朝はモンスターの活動も比較的落ち着いているので、これからオレたちがやらなければならないことを考えると好都合だ。
「――それで、依頼について詳しく聞きたいのですが」
「ええ、わかっております。
実は――」
村長の話によると、ここ最近、頻繁に周囲の森からゴブリンが出てきて村に侵入しようとしてくるらしい。村は策で囲まれているため村に中に実際に侵入されたことはないそうだが、今後も絶対に侵入されることがないとは限らない。それに、柵の周りに出てきたゴブリンを討伐するために村から働き盛りの若者を派遣しなければならず、大幅に仕事量が減ってしまい、村の生産力に影響を与えているとのこと。それらを考慮して依頼を出したそうだ。
村長としては、森から村に出てくるゴブリンの増加が偶然なのかどうかを知りたいらしい。もし偶然ならば、一時的に防衛を強化することによって、村の生産量に致命的なダメージを与えずにどうにか対処することができるが、もし偶然ではなく継続的にゴブリンが出没するのならば、長期間にわたり防衛を強化しなければならず、生産量が大幅に低下してしまう。少しでも損害を負わないように、早い段階で今回のゴブリンが頻繁に出没する原因を特定し、適切な判断を下したいそうだ。
もし何らかの原因によってゴブリンが出没しているならば、その原因を特定するだけでも良いらしいが、村長としてはその対処もして欲しいようだ。実際には「対処をしてほしい」とオレたちに言うことはなかったが、節々からどうにかしてほしいという思いが伝わってくる。まあ、オレたちに対処することができるのであれば何とかしてやりたいが、オレたちもボランティアでやっている訳ではない。オレたちの手に及ばない問題なら、即座に逃げてくるだろう。人でなしかもしれないが、命があっての人生だ。村長には申し訳ないがしょうがない。おそらく、村長もそんなことぐらい理解しているだろう。だからオレたちに「無理やりにも対処しろ」とは言ってこない。
「ゴブリン以外は何か変わったことはないの?」
「そうさな……そういえば、ラビットなんかの野生動物もよく見かけるようになったらしいのお。猟をやっとる者が喜んどった」
「なるほど……どうやら影響を受けているのはゴブリンだけじゃなさそうね」
「村長さん、他にはないんですか?
どんな些細なことでもいいのですが……」
「うーん、そうじゃのお……他には特に変わったことはないと思うのお。
村人からも何も報告はされていないのでな」
「そうですか、ありがとうございます」
「スマンのお、情報が少なくて」
村長がオレたちに頭を下げてくる。まあ、確かに情報は少ないが、それだけほんの少しの変化しかまだ起きていないということだろう。それにも関わらず、その少しの変化に気付き、依頼を出したということは、それだけこの村長が優秀だということだ。普通なら気にしないことでも、村の未来を考えて、もしもの時のために最大限対処する。簡単なことのようだがなかなかできるものではない。
「まあ、とりあえず、オレたちで森の中を探索してきます。
今日で原因が分かれば良いですが、そうそう分かるものじゃないと思うので、しばらくお世話になると思います」
「その辺は大丈夫じゃ。肉も例年に比べて量が多く取れているからのお」
その後、オレたちは村長から周囲の地形・環境や森の中でよく見かける生き物やモンスターなどの情報を聞いた。そして、オレたちは村長からゴブリン調査で役立ちそうな情報を聞き終わると、村長の家を出て森へと向かった。
「それにしても、何にも異常はないわね」
木々が生い茂っているせいで昼間なのに陽の光が遮られ、ジメジメとした空間が広がっている。所々に横たわる大きな岩には苔がびっしりと生えていて、どこか神聖さを感じてしまう。
「本当ですね、これといって何かしらの問題も見受けられませんし、一般的な森と変わらないです」
「アレンは何か気付いた?」
「いや、オレも異常らしい異常は感じられないな。
確かに、これまでゴブリンと結構遭遇しているけど、このぐらいは誤差の範囲内だと思うし」
オレたちは調査初日ということもあり、まだ森の奥深くまでは入ってはいなかった。そのため、村にゴブリンが頻繁に出没するようになったことを偶然とは断定できない。しかし、今のところ、オレたちはどちらかと言えば偶然じゃないのかと思っていた。確かに、村長が言うように、オレたちは今の段階で野生動物やゴブリンと何度も遭遇し、討伐している。でも、それが何らかの特別な原因による結果だとは考えにくい。というのは、今は夏で野生動物やモンスターが活発的になる季節であり、森の外へと出てくることはよくあることだ。
もちろん、そのことは村長も知っているだろう。オレたちよりも経験豊富で責任ある立場にある村長が違和感を抱いたのだ。オレたちの感覚よりも確かだろうし、銀貨十枚という金額は特段裕福ではないグレイ村にとって無駄にできる金額ではなく、少しでも余計な出費を抑えて貯えに回したいと思っているであろうにも関わらず、わざわざ報酬を出してまで依頼したんだ。オレたちが未発見の原因があるのかもしれない。
「もうちょっとこの辺りを念入りに探索してみよう。
何かあるかもしれない」
「わかったわ。
ただ、日が落ちる前には絶対に森の外に出ないといけないから、そんなに時間は掛けられないわよ」
「今日はまだ初日ですし、焦っても何も良いことはないですから、じっくり調査しましょう」
オレたちはその後も調査を続けたがこれといった成果を上げることはできなかった。ただ、数匹のラビットを獲ら得ることに成功したため、今日の晩飯が少し豪華になることは確定した。オレたちは日がまだまだ高い位置にある時間帯に余裕をもって森を出ることができ、無事に村へと戻った。
「おお、どうでしたかのお?
何か原因は発見できましたかのお?」
オレたちは今日の調査の北国のために真っ先に村長の家へと訪れていた。オレたちがノックをすると、村長がすぐに戸を開けてくれてオレたちを中に入れてくれた。そして、オレたちが着席したのを見届けると、期待した面持ちで今日の成果を聞いてきた。
「村長、すみません。今日はこれといった収穫はなかったです」
「そうですか……まあ、初日ですしのお。怪我なく戻ってきてくれただけでも良かったですかな」
村長は少しばかり残念そうにしていたが、その後、すぐにオレたちにねぎらいの言葉をかけてくれた。
「明日はもうちょっと森の奥まで入ってみようと思います。
そうすれば、何か見つけることができるかもしれませんので」
「おお、そうですか、それはありがとうございますのお。
ただ、気を付けて、無事に戻って来て下されよ」
オレたちは森の中の状況を村長に伝え終わると、今日獲ったラビット一匹を村長に渡す。それを見て村長はとても喜び、オレたちはそのまま村長と一緒に晩飯を食べることになった。村長が出してくれた料理は、ラビットと村で朝に採れた野菜とを一緒に焼いたシンプルなものだったが、採れたて野菜のため甘みがしっかりとしていてかなり美味しかった。
晩飯後、オレたちは村長の家を後にして、温泉へと向かう。昨日、温泉を体験したことで、オレもルナリアとリーフィアと同じくらいこの時間が楽しみでしょうがなかった。
「はぁ……生き返るー」
オレは女湯にルナリアとリーフィアが入ってきてオレの煩悩を刺激する前の少しの時間、夜空を見上げながら人生二度目の温泉を堪能するのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。




