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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第三章 社畜、奴隷を買う
31/183

5: 食べ歩き

///


 家でゆっくりと食事するのも良いけど、時には外で食べ歩くのも良いものだ。日頃、食べることがないような料理と出会うことができるし、食べながら歩くという行為に特別なものを感じて、いつも以上に料理が美味く感じられる。

 オレは今まで屋台なんて行ったことはなかったけど、さすがは王都だ。かなりの数の屋台があって、どれにしようか迷ってしまった。

 まあ、今日行くことができなかった屋台は、後日行ってみようと思う。


///




「――ハッ」


 鳥のさえずりが聞こえる森の中に、オレの声が鳴り響く。森の中は青々とそびえ立っている樹木が所狭しと生い茂り、夏になりより一層激しさを増した陽射しを遮ってくれている。そのため、森の中はまだ昼なのに薄暗く、陽射しに体力を奪われることもなくなり、居心地の良い空間となっている。


 そんな森の中で、オレたちは新しく手に入れた装備を試していた。


「いやー、それにしてもそのソードの切れ味はすごいわね。

 今までよりも簡単にモンスターを倒せているわよ」


 ルナリアがオレのソードの切れ味の凄さに感心しながら近づいてくる。オレの足元には胴体を斜めに一刀両断されて、大量の血を大地へと注いでいるオークの死骸が転がっていた。ルナリアが感心するのも無理はない。確かに、ルガルドの作ったこのソードはとてつもない切れ味だ。小動物やゴブリンなどの小型のモンスターであれば、今までも力を籠めれば切断することが可能だった。ただ、オークなどの身体に厚みがあるモンスターなどはどう頑張ってもゴブリンの時のように倒すことはできず、首などの太い血管が走っている箇所や心臓のあたりを切りつけたり、精々腕を切り落としたりなどが限界だった。


 まあ、その時のオレの武器はナイフだったので、刃渡り的に一刀両断することが困難だったというのもあるかもしれない。ただ、以前よりも刃渡りが長くなったということを考慮したとしても、このソードの切れ味には驚かされるばかりだ。今までとは違って、このソードは力を入れなくても、まるで刃がモンスターの肉に吸い込まれているかのように切れる。加えて、刃が骨に達した際も、ほとんど抵抗を感じることはなく、肉を切っている時と同じように刃が通過していく。


「後ろで見ていても、面白いぐらい簡単に真っ二つになっていますよ。

 逆に、切れ味が良すぎて怖いぐらいです」


 リーフィアが苦笑いしながら、二つにきれいに分かれたオークの死骸を眺めて呟く。確かに、このソードを使っていて、オレはモンスターを容易に倒すことができることに喜びをと優越感を抱きつつも、どこか恐ろしさも感じていた。このソードに慣れてしまうと、もう他の武器では満足できずに依存してしまい、オレの能力向上の妨げになってしまうのではないか。それに、このソードで切り付けたら、たちまち、切り付けられた相手は深い傷を負うことになるだろう。そのため、念入りに注意して取り扱わなければならない。最高の武器は場合によっては最悪の武器になりうる。そうならないためにも、オレがしっかりとしなければならない。


「はは、このソードの異常さは使っているオレが一番感じているよ。まるで、達人にでもなったみたいだ。

 でも、変わったのはオレだけじゃないだろう? 二人も今までとは比べようがないくらいに戦力アップしてるだろ」


「そうね、私もドワーフ製が、まさかこんなにすごいなんて思わなかったわ。

 今なら本当にドラゴンでも倒せそうね」


 ルナリアのナイフも一般的なナイフよりも切れ味が鋭く、今まで致命傷になるような攻撃をあまり繰り出すことがなかったルナリアが、モンスターに致命傷を負わせることが増えていた。そのおかげで、オレの役割は少なくなってしまい、オレはちょっと不完全燃焼気味ではあったが、体力を温存できるということを考えればパーティー的にはメリットしかない。


「私も二人ほどではないですけど、かなり魔法の威力が上がっていました。

 まさか、あんなにも強力な魔法が発動するなんて」


 リーフィアの魔法の杖はオレたちのように、特別すばらしいものというわけではない。だが、新しい魔法の杖を手に入れたリーフィアの魔法は目に見えて強力になっていた。彼女がゴブリンに『ファイア』を放った際、避けることができない大きさの灼熱の炎がゴブリンを襲い、一瞬にしてゴブリンを消し炭にしてしまった。追撃しようとしていたリーフィアがそれを見て、口を開けて止まってしまったぐらいだ。


「とにかく、みんな予想以上に戦力アップできたみたいだ。

 これならEランクの依頼も簡単にこなせそうだな」


「そうね、この調子でアレンも早くDランクになりましょうよ。

 そうすれば、もっと強いモンスターに出会えて、もっと稼げるようになるわよ」


「ちょっと気が早すぎないか。

 この前、やっとEランクに上がったばっかりなんだから。

 それに、この前みたいなことが早々起きることはないだろうし……」


「アレンさんの言う通りですけど……それでも、アレンさんならすぐにDランクになれそうな気がしますけどね」


 リーフィアが笑いながらルナリアの言葉を肯定する。まあ、確かに、今のオレたちならこの前の巨大オークでさえ簡単に倒すことができると思う。それぐらいの戦力を手に入れたんだ。ちょっとやそっとのモンスターなら後れを取ることはないだろう。そう考えれば、この前みたいな新種のモンスターや強いモンスターに出会うことが出来さえすれば、ランクアップも夢ではないだろう。


「まあ、ランクアップの話は良いとして、そろそろ帰ろうぜ。

 もう腹がペコペコだ。早く王都でおいしいものが食べたい」


「そうですね、私もお腹がすきました。

 今日は何を食べますか?」


「今日は屋台街に行ってみましょうよ! いろんなものを食べ歩くの。私もあんまり行ったことがないから行ってみたいわ」


「屋台街か……」


 王都には多くの屋台が立ち並ぶ一画がある。そこでは多い時には百以上の屋台が所狭しと並び、様々なものを販売している。中には、はずれの屋台もあり、とても食えたものではない料理を販売していることもあるみたいだが、それでも大半の屋台はまともで、異国の料理を販売している屋台もあるとか。是非食べてみたい。


 オレとリーフィアはルナリアの言葉によって想像を膨らませて、すっかり屋台街に行く気になっていた。


「そうだな、今日は屋台街で食べ歩きだ。

 そうと決まれば早く王都に帰ろう」


 オレたちはゴブリンを回収し、意気揚々と王都への帰路へ着いた。




 陽が落ち始め、あと一時間もすれば完全に地平線に隠れてしまうだろう。多くの人々が家へと帰るために街中を歩いている。そんな人々を誘惑するかのように、様々なおいしそうな匂いが風に乗って漂っている。その匂いに誘われて、一人、もう一人と、家とは違う方向――屋台街へフラフラと足を進めている。


 オレたちもそんな人々の一員だった。まあ、オレたちは最初から屋台街を目指しているわけなんだけど……オレたちの食欲を強烈に刺激する香ばしい匂いが、そこら中から漂ってくる。


「ねえ、アレン、速く行きましょうよ!」


 ルナリアがオレの腕をグイグイと引っ張る。ルナリアの目には前方にある肉串のみが写っていて、今にも駆け出していきそうだ。


 オレはそんなルナリアの様子を微笑みながら見守っていたが、正直、ルナリアの見つめている肉串にはオレも目をつけていた。肉汁とタレが炭火へと滴り、白い煙と共にジュウジュウと耳に心地よい音を届けている。


 オレたちはその肉串を売っている屋台へと並び、一本ずつ購入した。


「うまっ! ねえ、これめちゃくちゃ美味いわよ!」


 ルナリアが歩きながら肉串に齧り付く。口の端からは肉汁がしたたり落ちている。その様子を見ていたオレとリーフィアも、ルナリアに釣られて肉串を頬張る。


「――ッ! 確かに、おいしいですね!

 何本でも食べることができそうです」


「そうだな、もう一本ずつ買っておけば良かったかもな……このタレが絶妙な塩梅だな。コクがあるんだけどしつこ過ぎない。こんなの初めてだ」


 オレたちは口々にこの肉串を絶賛しながら、次に買うものを捜し歩く。元々みんな腹ペコな状態で屋台街に繰り出したが、今食べた肉串のせいで食欲が刺激されて、より一層お腹が空いてきてしまった。そのため、オレたちの目の前に並ぶ全ての料理がオレたちには美味そうに見えてしまい、どれを食べるか迷ってしまう。


「アレンさん、次はあれにしませんか?

 今度はスープ系が食べてみたいです」


 リーフィアが指さした屋台はたくさんの野菜が入ったスープを売っている屋台だった。たくさんの野菜を一緒に長時間じっくりと煮込んでいるのだろう。野菜は原形をとどめておらず、半分溶けているような状態だ。そのドロッとしたスープがオレたちに旨味が凝縮された様子を想起させる。


「おっちゃん、三杯ちょうだい!」


「はいよ、毎度あり」


 その屋台は恰幅のいい中年男が一人で切り盛りしていて、ルナリアの注文にも威勢よく応えてくれた。


「姉ちゃんたち、見ねえ顔だな。うちは初めてかい?」


「そうよ、遠目からもおいしそうだったから、買うことにしたの」


「おっ、嬉しいこと言ってくれるね!

 うちのスープは一見地味だけど、食ったら絶対満足するからな」


「大した自信だな」


「はは、兄ちゃん、自信がねえと王都で屋台なんかできねえよ」


 オレたちは店主からスープを受け取ると、その場で食べ始める。スープを食べた瞬間、オレたちは言葉を失ってしまった。そのスープは野菜の雑味が完全に取り除かれていて旨味しか残っておらず、口に入れた瞬間にその旨味が一気に駆け抜け、全身に染み渡っていくようだった。


 その顔を見ると満足してもらえたみたいだな」


「……確かに、あんたの自信も頷ける味だな」


「はは、ありがとよ。

 また食いに来てくれよな」

 

 オレたちはスープを飲み干して、半ばそのスープに心奪われたままの状態で店主に別れを告げる。


 日が地平線に隠れ、辺りはもうすっかり暗くなってしまっていた。屋台街も今日最後のかき入れ時なのか、屋台からは商品を売り込む大きな声が聞こえてくる。その声に釣られて多くの人々が屋台の周りに集まってきている。オレたちはそんな騒がしい人混みの中を次なる料理を求めて、屋台が畳まれるまで食べ歩き続けた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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