2: 買い物(1)
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買い物。今までは一人で生活必需品を買うだけだった。
だが、今日は違った! 女の子と三人で買い物! これはオレに俗に言うモテ期が来たといっても過言ではないよな? な!
まあ、本当にモテていたとしても、どうしたら良いかわからないんだけど……
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「――じゃあ、さっそくアレンの装備を買いに行きましょうよ!」
金貨三十枚の分け方を話し合い、誰にも見られないように二人に金貨五枚ずつを渡した後、ちょうどお昼時になっていたので、オレたちはそのまま食堂で食事をすることにした。食べたのはヘレンさんにオススメされたオークの煮込み。甘辛く煮込まれてホロホロになったオークの肉は絶品で、パンと合わせると手が止まらなかった。ギルドに併設された食堂ではギルドで買い取った肉が使われているため、外部の食堂よりも肉が新鮮な状態のままであることが多い。そのため、「何を食べるか迷ったらギルドに行け」と巷で言われるぐらいだ。おいしくないものが出てくることはまずない。
オレたちが食事に満足し一息ついたころ、ルナリアが買い物に出かけることを促した。ルナリアはいかにも楽しそうで、早く行きたそうにしている。隣に座っているリーフィアも口元が緩んでいて、楽しみにしていることがわかる。今から彼女たちのものではなく、オレの装備を買いに行くのに。オレだったら人の買い物に付き合うなんて何が楽しいのかわからない。いや、そもそも、オレは人と買い物に出かけたことはないけれど……少し悲しくなってきた。
「じゃあ、行くとするか。
ちなみにだけど、ルナリアとリーフィアはオススメの装備屋とか知ってるのか?」
「うーん、私は特に知らないわね。
今までそんなにお金もなかったし、とりあえず使えればいいかなって思ってたし」
「私もそうですね。
特に魔法の杖はナイフとかよりは高価になるので、予算内で収まる杖が売っているところで買っただけですし」
「そうなのか……じゃあ、セレナさんに聞いてみるか」
冒険者ギルドの受付嬢は冒険者のサポート的な役割も担っていて、初心者冒険者が冒険者として活動していく上で必要な情報を提供してくれる。その情報の中には当然装備屋の情報も含まれていて、受付嬢に聞けばその地域で優良な店を紹介してくれる。
受付嬢の中には、オススメできないような悪徳な店を紹介し、店側からかなりの額の賄賂を貰っている受付嬢もいるけど、セレナさんはそんな人じゃないだろう。人を金づるとしか思っていない、オレがギルド職員時代に接していた受付嬢とは彼女は違う。彼女は本当にオレたちに親身になって助言してくれている。それはルナリアとリーフィアの態度を見ても明らかだ。女性は女性の態度に敏感らしい。男よりも隠された意図に気付くことができる。そんな二人がセレナさんを疑うことなく頼っているんだ。まず間違いなく、良い店を教えてくれるだろう。
オレたちはセレナさんの下を訪れる。セレナさんは仕事が一段落着いたようで、隣に座っている受付嬢と楽しそうに談笑していた。そんな時間を遮ってしまって少し申し訳なさを感じる。セレナさんはオレたちが近づいてきたことに気付き、いつもの笑顔でオレたちに話しかける。
「みなさん、どうされました?
今日は食堂に行かれたので、依頼は受けないと思っていたんですけど」
「実は、今回の報酬を使ってオレの装備を整えようと思いまして。
それで、オススメの店を教えて欲しくて」
「ああ、なるほど、大丈夫ですよ。
武器と防具はこの店がオススメですよ」
そう言ってセレナさんは一枚の地図を取り出して、地図に描かれている多くの建物の中から一か所を指し示した。そこは冒険者に必要な品々を取り扱っている店が並んでいる区画とは離れた場所にある建物だった。
「ここなら良い武器や装備があるのでオススメですよ。
ただ、ちょっと店主にクセがありまして、買うためには店主に気に入られないといけないですけどね」
セレナさんはどこか呆れたように笑っていた。セレナさんが教えてくれているのでオススメなのは間違いないだろう。ただ、セレナさんの表情を見るに、その店主に気に入られるのはかなり難しいらしい。そんなにクセのある人物なのか。
「まあ、アレンさん、一回行ってみてください。腕は保証しますので。
もしダメだったら、もう一回来ていただければ新しい店を紹介しますね」
「……わかりました。とりあえず行ってみます」
「はい、お願いします。
他に何か聞きたいことはありますか?」
「武器や防具のほかに魔法の杖も欲しいんですけど、良い店はありますか?」
「えっ、アレンさん魔法も使うんですか? すごいですね!」
セレナさんはオレが魔法を使うことにかなり驚いているようだ。確かに、初心者冒険者で魔法を使って戦闘する者は少ない。大概の冒険者は武器を用いて戦闘をする。それこそ、魔法を使う者なんて魔法士ぐらいしかいないだろう。
「まあ、あんな大きなオークを倒しちゃったアレンさんですもんね。魔法が使えても不思議ではないでしょうけど。
わかりました、魔法の杖でしたらここがいいと思います。
ここの店主は変わり者ではないのですんなり買えると思いますよ」
オレが使えるのはまだ生活魔法の『ライト』ぐらいだ。リーフィアのように攻撃魔法を使えるわけではない。だけど、セレナさんは当然そのことを知らないし、どうやらオレが攻撃魔法も使えると思っているらしい。オレはセレナさんに真実を伝えようか迷ったが、セレナさんがオレをすごい人を見るような目で見てくるので言い出しづらい。まあ、正直に言ってしまえば、セレナさんのような美人がそんな視線を向けてくれることにちょっとばかり快感を抱いてしまって、このままでもいいかと思っただけなんだけど。
結局、セレナさんの勘違いを訂正することなく、そのまま店の場所を聞くことにした。セレナさんが教えてくれた店は冒険者の必要な品々を取り扱っている店が並んでいる区間の真ん中あたりにあるようだ。立地を見るに結構人気の店らしい。
「わかりました、ありがとうございました」
オレはセレナさんにお礼を言って、受付を離れる。そして、ルナリアとリーフィアと一緒に冒険者ギルドを出て、店が立ち並ぶ方に向けて歩き出した。
「じゃあとりあえず、魔法の杖を最初に買いに行こうか。
ここからだとそっちの店の方が近いみたいだから」
「それでいいわよ」「わかりました」
「ちなみになんだけど、リーフィア、どんなのを買えばいいと思う?
オレは魔法の杖に詳しくないから教えて欲しいんだけど」
「そうですね、ピンからキリまであるので何とも言えないですけど……ただ、アレンさんは魔法士になりたいんじゃなくて、武器を使いつつ魔法も使う万能型を目指しているんですよね? だったら、そこまで値段の高い杖はいらないかもしれないですね。
もちろん、高い方が魔法の威力や効率性は良いですけど、ある程度の魔法の練度がないと効果がないので。アレンさんはまだ『ライト』しか使えないので宝の持ち腐れになっちゃうかもしれないです。
なので、中ランクぐらいの魔法の杖を買うのがいいと思います」
なるほど、確かに、今のオレではいくら高価な魔法の杖を持っても、その性能を十分に発揮することは不可能だろう。それならば今後の成長を見据えて、今のオレに適正な魔法の杖よりワンランク上のものを買うのが賢いのかもしれない。
「――まあ、でも、結局はアレンさんが『これ』と思ったものが良いかもしれないですけどね。
やっぱり、自分の気に入ったものの方が愛着も湧きますし」
「そんなもんか……」
「そんなものですよ」
オレたちは魔法の杖に関することをいろいろと話し合っていると、すぐにセレナさんに勧められた店に着いた。店の外観は綺麗で細部まで手入れされているのがわかる。店の中も同様で、掃除が行き届いていて、壁にきれいに魔法の杖が並べられている。
「いらっしゃいませ!」
奥から元気な女性が出てきた。多分この店の店主だろう。
「すみません、受付嬢のセレナさんの紹介できたんですけど。
魔法の杖が欲しくて」
「まあ! セレナさんの紹介なんですね。
わかりました、ちょっとサービスさせていただきます――」
オレは並べられている魔法の杖から『これ』と思うものを探し、無事に見つけることができた。幸運なことに、オレが選んだ魔法の杖はどうやら中ランクの魔法の杖だったらしい。オレが求めていた魔法の杖に合致する。柄や装飾は他の魔法の杖に比べて地味で、実用性を重視したデザインだ。ただ、その無骨さがオレにはカッコよく感じられる。
それに、この杖は他のものと比べて短く、常時腰に装備することが出来る程の長さで、前衛として戦闘することの方が多いオレにとって好都合なものだった。これならば、戦闘中に邪魔になることはない。
「オレはこれにしようと思います」
「お客さん、なかなかお目が高いですね!
それは見た目は地味ですけど、性能はなかなかのものですよ」
オレの目利きに間違いはなかったようだ。価格も金貨一枚なので決して安いものではないが許容範囲内だ。
同じぐらいの性能でも長さが短く小型化されている杖の方が高くなっている。それは性能を落とさずに小型化するのに高度な技術が必要になるという事と、そもそも小型化された杖があまり必要とされることがないため、作られる総数が少なく稀少な一品であるという事が関係しているのだろう。どの世界も高度な技術と稀少性には高値が付く。
「私はこれにします!」
どうやらリーフィアも魔法の杖を買うらしい。オレが選んでいるのを見ていて、自分も欲しくなったのだろう。まあ、今使っている魔法の杖は妥協して買ったものらしいし、せっかくお金を持っているのだから適切な杖を持つべきだろう。
彼女が持っていたのは適度に装飾が施されている高ランクの杖だ。その杖なら長らく使い続けることができるだろう。価格は金貨二枚と高いが、高ランクの杖なのでしょうがない。
オレたちは合計金貨三枚を女性店主に支払い、店を出た。リーフィアは新しい杖を手に入れてご満悦だ。表情は緩み、足取りも軽やかだ。そういうオレも魔法の杖を手に入れて、念願だった魔法士のなったみたいで少し興奮しているが、それ以上に、次に行く店のことを考えて緊張してしまう。どんな対応をされるんだろう? 無事に装備を売ってもらえるのか? そんな考えがオレの頭の中をグルグルと駆け巡る。
オレたちの目的地にある建物はとても小さくて、陽の光が隣の建物で遮られてしまい壁にはコケがびっしりと生えていた。どう良く言っても、営業中だとは思えない外観で、いたるところがボロボロになっている。今まで見てきた店とは明らかに違い、この店だけが別の空間にあるみたいだ。
「……ここみたいだな」
「「……」」
あまりの怪しさにオレたちは言葉を失ってしまった。本当にここがオススメの店なのか? セレナさんが間違えたのではないか?
オレは意を決して扉を開ける。店の中は薄暗く、人の気配はなかった。武器や装備が置いてはあるが、綺麗に整頓されておらず乱雑に積まれている状態で、大量のホコリをかぶってしまっている。
「すみませーん、誰かいませんか?」
……
何も返答がない。店主がどこかに出かけているのか、それとも、もうすでに閉店してしまっていて誰もいないのか。オレたちは人がいるかどうかを確認するために、何度も大声で店の奥へと語り掛ける。
「……アレン、誰もいなさそうよ」
「……そうだな……ギルドに戻るか」
オレたちは諦めてギルドに帰ることにした。オレたちが振り返り、扉を開けて店を出ようとしたとき、後ろから男の声が聞こえた。
「何だ、何か用か?」
オレたちはその声に反応して足を止めて振り返り、声の主の方を見る。
「……ドワーフ」
オレたちの前にはスレイブ王国で見るのはめずらしい種族――ドワーフの男が面倒くさそうな表情をしてたたずんでいた。
読んでいただき、ありがとうございました。




