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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第二章 社畜、冒険者になる
25/183

19: 報酬(2)

///


 あなたは大金を突然手に入れたら何をしますか? 自分の欲望を満たすために使うか、それとも何か慈善活動に使うか。オレは今までいろんなことを考えてきたけど、なかなか決めきれない。


///




 ――朝。


 いつもより少しだけ遅く起きたオレたちはギルドへと向かっていた。目的としては回収した冒険者の遺体をギルドへと引き渡すことと巨大オークを買い取ってもらうことだ。


 一夜経って、ルナリアの機嫌も元通りのようだ。昨日みたいな乱暴な足取りではなく、いつものような軽やかな足取りに戻っている。同様に、リーフィアもいつものようにおっとりした表情でオレの横を歩いていた。


 オレは内心ホッとしながら、今日も多くの冒険者で賑わっている冒険者ギルドに到着した。


「相変わらずだな」


「そうね、あっちで待ってましょうよ」


 ルナリアは受付とは反対の方向に併設されている食堂を指さした。どうせ今から並んでも一時間ぐらいは確実にかかってしまう。その間、ずっと立って並ぶよりかは座ってゆっくりしながら待っていた方が賢い選択だろう。幸い、オレたちは急ぎの用事もないわけだし。リーフィアもそう思っていたようで、オレたちはルナリアの提案に反対することなく食堂の方へと向かった。


 食堂はチラホラと席が埋まっていて、中には朝から酒を飲んでいる冒険者もいる。依頼が上手くいったのか上機嫌だ。そんな冒険者たちを後目に、オレたちが席に座ると、綺麗なウエイトレスさんが注文を取りに来てくれた。


「あなた達、見慣れない顔ね。ここは初めて?」


「そうなんですよ、初めて利用します」


「そうなのね。あっ、私はここで働いているウィリム。

 この食堂で何かあったら私に言ってね。ちなみにこの食堂のオススメはオークの煮込みよ」


 おそらく全ての男が魅了されるような大人っぽい綺麗な笑顔で話しかけてくる。オレも隣にオレのことを白い目で見ているルナリアとリーフィアが居なかったら何杯でもオススメされた料理を頼んでいただろう。オレはどうにか正常な意識を保ちながら、できるだけ紳士的でカッコよく挨拶をする。


「アレンって言います。最近、王都に来て冒険者になりました。ちなみに彼女募集中でッ――」


 最後まで言い切る前に、両足に激痛が走る。テーブルの下を見てみるとルナリアとリーフィアの足がオレの足に重なっていた。顔を上げて二人を見るとニコニコしている。その笑顔がより一層オレに恐怖を感じさせる。


「私はルナリアって言います。ちなみにアレンとパーティーを組んでいます」


「私はリーフィアです。ちなみにアレンさんとは同じ宿、同じ部屋に住んでいます」


 二人のウィリムさんに対する自己紹介はどこかトゲトゲしさが感じられる。そんな二人の挨拶にも動じず、ウィリムさんはニコニコと笑っているだけだ。いや、あれは楽しんでいるだけなのかもしれない。危険な人だ。


 オレの予想通り、ウィリムさんは笑顔のままオレに顔を近づけてきて、二人には聞こえないぐらいの声量で囁きかけてきた。


「随分とオモテになりますねぇ~。

 見ていて面白いです!」


 オレは何か言おうとしたが、二人の顔が徐々に強張っていくのを見て、すぐに顔を離した。


 結局、朝飯は済ませていたので料理は注文せずに、果実水だけを注文した。果実水が運ばれてくるまでの間、何とも言えぬ気まずい雰囲気がオレたちのテーブルを支配していた。二人は何も喋らずに、ただオレのことを見つめているだけ。


「は~い、注文の果実水よ」


 ウィリムさんの明るい声が沈黙を打ち破る。オレはこのタイミングに乗じて、二人にさっきのことを忘れさせるかのように陽気に振る舞う。


「じ、じゃあ、列が空くまで楽しく飲んでいようよ! な!」


 そんなオレの様子を見て二人は呆れたように溜息を吐く。


「まあ、いいわ。別に私たちが怒るのも筋違いってものよね」


「そうですね。

 今はまだそうかもしれないので、この辺で許してあげます」


 なぜか、浮気がばれてしまった男の気持ちを味わっているみたいだ。いや、オレは浮気なんてしていないのだが。


 とにかく、二人の機嫌が直ってきたみたいだ。これ幸いと、オレはいろいろな話題を提供する。王都でおいしかった食べ物、最近の天気などなど。その中でも、二人はオレが巨大オークにどのように倒したかについて興味を示した。


 オレは巨大オークを倒した方法を二人に説明する。


「……『ライト』ってそんな使い方があったのね。ただの生活魔法だと思ってたけど」


「そうですね、そんなこと今まで考えてもみなかったです」


「それに、あんな硬いオークをどうやって倒したのかと思ったけど、まさか、口の中からナイフを刺すなんて……アレンって度胸あるわね。一歩間違えたら、そのまま腕を食いちぎられてお終いよ」


「私たちが手も足も出なかった相手に一人で立ち向かったなんて、スゴすぎです!」


 オレは二人からの称賛をくすぐったく感じる。どうにも、人から褒められるのは慣れてないので苦手だ。照れくさくてどうしていいかわからない。


 そういう風にオレたちが食堂で時間を潰していると、行列も収まってきたみたいだ。受付の前で並んでいる冒険者は数人程度になっている。オレたちはそれを見て、残っている果実水を一気に飲みほすと、列へと並んだ。




「……次の方、どうぞ」


 セレナさんの声が響く。オレたちはその声を合図に前へと一歩前進する。


「おはようございます、セレナさん」


「あ、おはようございます。無事に帰ってきていたんですね。いつ頃戻られたんですか?」


「昨日の夜に戻ってきました」


 オレたちは何気ない会話をする。ただ、これ以上セレナさんの時間を奪っても申し訳ないので早々にオレは本題を切り出した。


「――セレナさん、実は冒険者の遺体を回収しまして、それを引き取ってもらいたいんですけど……」


 セレナさんの表情が一瞬で引き締まる。冒険者ギルドにとって冒険者の遺体を引き取ることは日常茶飯事だ。それは冒険者という特殊な仕事に就いている者とやり取りをしているためしょうがないことなのかもしれない。オレも昔はよく冒険者の遺体を頻繁に回収していた。田舎のギルドでさえよくあったことなんだから、王都のギルドではなおさらだろう。それでも、冒険者の遺体を見ることには慣れることはできない。なぜなら、冒険者の遺体の大半が見るに堪えない惨い状態だからだ。綺麗な状態の遺体なんて持ち込まれることはほとんどない。


「……わかりました。

 では、私の後に付いて来ていただけますか? 遺体保管専用の場所に遺体を出していただきたいので」


「わかりました」


 オレたちはセレナさんの後を一言もしゃべらずに付いていく。これから向かう場所が場所なので、自然と明るい雰囲気は霧散していた。


「――では、ここにお願いします」


 オレたちが案内された場所は、何も装飾が施されていない殺風景な空間だった。窓もないため外の明かりすら入らず薄暗い。誰かが楽しむためではなく、ただ命を失った者を保管するだけの場所。


 そんな空間の中央に、オレは二人の冒険者の遺体をそっと丁寧に置く。セレナさんはその遺体の状態を見て眉をひそめている。オレの後ろで、ルナリアとリーフィアの息を飲む音が聞こえる。


「――アレンさん、回収していただきありがとうございます。

 こちらの遺体の身元はギルドが責任もって調べますのでご安心ください」


 後のことはギルドに任せて、早くこんなところから出よう。オレたちはセレナさんと共に保管置き場から足早に退出する。


 ギルドの受付に戻ると遺体のことでセレナさんがオレたちに尋ねてきた。


「アレンさん、あの遺体はどのあたりで見つけたんですか?」


 オレは正直に正確な位置を答える。それを聞いてセレナさんが手元の紙へと記入していた。あれは遺体を見つけた冒険者への事情聴取に用いられる用紙だ。死因などを記録し、それを元に家族に状況を伝えてり、今後のギルド活動に役立てられたりする。


「ちなみになんですけど、ああなった原因を知っていますか?」


「そのことなんですけど……見てもらった方が早いと思うので、モンスターの解体場に行きませんか?」


「……わかりました」


 セレナさんは何かを察したかのような顔をして席から立ちあがると、今度はモンスター解体場へと案内してくれた。モンスター解体場は冒険者たちが持ち込んだモンスターを解体し、市場に流すことができる状態へと加工するための場所だ。普通、冒険者は立ち入ることはないのだが、モンスターの大きさが受付台の上に収まらない時に、直接運び込むことがある。


 解体場にはさっきの場所とは打って変わり、モンスターの肉が所狭しと並べられている。そこでは今も数人の解体人がモンスターの肉を解体している途中だった。そんな光景を横目に、セレナさんは空いているスペースに移動し、オレたちの方に振り返った。


「では、この辺に置いてください」


 オレは言われた通り、空いているスペースに巨大オークを置く。置かれた巨大オークは死んだ状態でもその禍々しい存在感を放っていて、指定されたスペースからかなりの部分がはみ出していた。


 セレナさんもこれほどの大きさだとは予想していなかったんだろう。オレが置いた巨大オークを見て驚愕していた。何か声がすると思って周囲を見てみると、職務に没頭していたほとんどの解体人たちも作業の手を止め、こちらを見ている。


 オレはそんな視線を無視しながら、未だに驚いて固まっているセレナさんへと話しかける。


「――それで、あの冒険者の死因ですけど、おそらくコイツにやられたんだと思います。実際に、殺されている瞬間は見ていないんですけど、コイツに食べられそうになっていたので」


「……なるほど……わかりました。

 これって……もしかしてアレンさんたちが倒したんですか?」


 セレナさんが疑わし気に確認してくる。まあ、確かに、こんな大きなオークをFランク冒険者がいるパーティーが倒せるとは思えないよな。でも、実際にオレたちが倒したんだし、何も隠すことはない。オレは正直に伝える。


「はい、オレたちが倒しました」


「ほとんどアレン一人で倒したけどね」


「そうです、そうです」


 ルナリアとリーフィアがどこか自慢げに付け加える。


「……そうですか。どうやら嘘じゃなさそうですね。

 わかりました、こちらの買い取りはちょっと上の者と相談したいので待っていてもらえますか?」


 オレたちはその申し出を快く了承し、解体場を後にする。




 ――数十分後。


 オレたちがギルド内で暇をつぶしているとセレナさんに呼ばれた。どうやら買い取りが終わったらしい。


「お待たせしました。

 まず最初に結果だけを申し上げますと、あのオークの買い取り価格は金貨三十枚になります」


「「「!!!」」」


 オレたちは絶句した。それもそうだろう、金貨三十枚なんてそんな大金今まで聞いたことも見たこともない。何十年も遊んで暮らせるぐらいの大金だ。そんな大金がたかだかオーク一匹につくとは思えなかった。


「ふふ、驚いていますね。

 あちらのオークは今まで見たことのないぐらいの大きさで、今後、研究のために用いられることになりました。そんな歴史的な発見でしたので、これぐらいの金額になったんです」


 セレナさんが理由を説明してくれているようだが、正直、頭に入ってこない。金貨三十枚という衝撃が強すぎてそれ以外の情報を処理することを脳が拒否している。


 ――兎にも角にも、オレたちは大金を手にしたらしい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本作内の金額設定


白金貨一枚 = 金貨百枚      

金貨一枚 = 銀貨百枚       

銀貨一枚 = 銅貨十枚       

銅貨一枚 = 賤貨十枚  

     

                     

イメージしにくいかと思うので日本円に換算しました。私の想像としては以下の通りです。


白金貨 = 100,000,000円

金貨 = 1,000,000円

銀貨 = 10,000円

銅貨 = 1,000円

賤貨 = 100円

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