18: 報酬(1)
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犯罪行為を勧めてくる奴とはどんな理由があっても関係性を保ちたいとは思わない。そんな奴は都合が悪くなると最終的にこちら側をどうにかして貶めようとしてくる。
時々、「犯罪行為しているオレカッコいい」と思うバカな奴はいるけど、何が良いのかオレには理解できない。他人に迷惑をかけるのがカッコいいと思っているのか、それとも、法に縛られないことがカッコいいと思っているのか……
誰か納得のいく説明をしてほしいと思う今日この頃だ。
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オレたちは誰一人欠けることなく王都に入ることができた。
「それで、どうする? 今日も大分遅いし、オレとしては早くベットで眠りたいんだが……」
もうすでに辺りは暗くなりかけている。激闘の後にも関わらず、ゆっくりと休憩せずに王都まで帰ってきたせいで、オレの体力は限界に近い。柔らかいベッドが恋しくなっている。
「そうね、私もアレンに賛成」
ルナリアもオレの提案に異論はないようだ。後ろにいるリーフィアもうなずいてくれている。彼女たちも思った以上に疲労していたのだろう。早く休むために、オレたちが宿へ向かおうとすると、後ろからそれを制止する声が聞こえた。
「――待つんじゃ! ワシの商会に荷物を運ぶのが最初じゃ」
レギエルが鼻息荒く詰め寄ってくる。そう言えばオレたちの『魔法の鞄』の中に荷物が入っていたんだっけ……仕方がないな。
「わかったよ、じゃあ案内してくれ」
レギエルは王都の商会が多く集まるエリアへと向けて歩き出した。オレはそれに追従する。ルナリアたちも仏頂面になりながらも付いて来てくれている。
「ここがワシの商会『金の歯』じゃ」
オレたちが紹介された建物は思った以上に小さかった。ただ、外装は派手なものが多く取り付けられていて、成金趣味が見て取れる。馬車といいこの建物といい、どうやらレギエルは外見だけはこだわるらしい。そのせいで、より一層、嫌悪感を抱いてしまうのだが。
オレたちは商会へと入り、指定された場所に手早く『魔法の鞄』から荷物を出していく。オレたちの思いは一つで、早くここから出ていきたかった。
「じゃあ、全部出し終わったんでオレたちはこれで」
「――まあ待て。
約束通り報酬をやるぞ」
レギエルがオレたちを引き留める。正直、報酬の事なんて忘れてしまっていた。それに今までのレギエルの様子を見ていると報酬を払うのを絶対渋ると思っていた。自分のことに関しては湯水のように金を使い、他人にはなるべく金を払わないで良いように腐心する。そんなケチの典型的なタイプだと。だが、現実は違ったみたいだ。まさか自分から申し出てくるなんて。オレの中で少しだけレギエルに対する評価が上がる。まあ、オレがこんな短期間で人のことを正確に評価できるなんて慢心しすぎか。オレは自分の行いを恥じる。
「ただし、報酬をやるには条件がある」
……オレの目に狂いはなかったらしい。ただの強欲ジジイだった。ここまで荷物を運び、護衛までしてやったのにこのジジイは無条件で報酬もくれないらしい。これ以上オレたちに何をさせようというのか。
横を見ると、ルナリアもリーフィアも呆れて言葉も出ないらしい。その顔に不快感を隠すことなく出している。ルナリアに交渉させるとまた喧嘩が起きそうなので、仕方なくオレが尋ねることにした。
「……条件があるなら別に報酬なんていらないんだが……ちなみに、その条件ってなんだ?」
レギエルはその言葉を待っていたかのようにニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、オレに得意げに答えた。
「お前たちが持っている『魔法の鞄』をワシにくれんか? 見たところお前たちはまだ初心者じゃろ。失くしたと言えば、もう一個もらえるんじゃから、ワシに渡しても困らんじゃろ」
「「「……」」」
オレたちは絶句した。このジジイは何を言い出すんだ。なんでオレたちがそんなことしなくちゃいけないんだ。そんなことをしてオレたちには何のメリットもない。むしろ、失くしたことによって生じるデメリットの方がはるかに多い。そんなこともわからないのか? それともわかって言っているのか? とにかく、このジジイがオレたちにとって有害で、もうこれ以上関わらない方が良い奴だということは重々わかった。
そもそも、『魔法の鞄』に関する法律について知らないのか? 現在、『魔法の鞄』は冒険者ギルドと国のみが配布することができる。冒険者ギルドが配布できる相手は冒険者登録をしている冒険者に限られ、年に十回以上、所有者本人が依頼を達成することができなければ没収されてしまうという制限が設けられている。これは以前、『魔法の鞄』を使いたいだけの者が冒険者登録をするだけして、『魔法の鞄』がいろいろな犯罪行為に使用されたために設けられた制限だ。
国もこれと同じ理由で貸し出す相手を制限していて、一般的に商会は使用することができず、国によって認められた特定の商会にしか貸出されない。ある作物を買い占めた商会がそれを他国へと持ち出し、国内の物価が急激に上昇させるというスパイ行為が行われたことがあったらしい。それ以降、そのような被害を出さないために商会への貸し出しは原則禁止。国から認められた信用にたる大きな商会のみに許可が出されている。
レギエルの『金の歯』はどう考えても小さな商会で、許可は出されていないはずだ。そんな商会に法律を破ってまで肩入れするほど、オレたちはバカではない。それに、法律を犯した者には重い罰が待っている。違反した商会は取り潰され、商会の代表とその家族は死罪になる。加担した冒険者も例外ではなく財産は没収され死罪。そんなリスクが『魔法の鞄』には伴っている。ただ、闇の市などでは高額で売買されているらしく、国も対処に追われているらしい。
「どうじゃ、魅力的な提案じゃろ。
ほれ、わかったら早く渡さんか」
「……うるさいわね」
「なんじゃ、うれしさで言葉も出んか?」
「――うるさいって言ってんのよクソジジイ!」
ルナリアがついに我慢できずに怒鳴り散らしてしまった。まあ、二人の相性は最悪だったし、ここまで我慢できたことを褒めるべきかもしれない。オレもレギエルの発言にはかなり頭に来ていた。いつもおっとりしているリーフィアさえ眉をひそめて、今にも飛び掛からんとしている。
「何が不満なんじゃ! 『魔法の鞄』を渡すだけで報酬が受け取れるんじゃぞ。
おぬしら冒険者なんぞ手に入れることができないほどの大金じゃ。
そんなこともわからんのか?」
「――だ、か、ら、渡さないって言ってんの! ちゃんと耳ついてんの? そもそも、『魔法の鞄』に関する法律も知らないの? そんなことその辺の赤子でも知ってるわよ。『魔法の鞄』を渡すのは犯罪なの。死罪よ。わかる? 捕まって殺されるの。そんなことも知らないでよく商人なんかやってるわね。それとも、わかって言ってるの? それだったら真っ当な商売をすることをお勧めするわ。とにかく、私たちには『魔法の鞄が』必要だし、あんたには渡す気はない! 報酬もいらない! もうこれ以上私たちに関わらないで!」
ルナリアの捲し立てに気圧されたのか、レギエルは口を魚のようにパクパクとさせるだけで何もしゃべることができていなかった。そんな行動停止したレギエルを後目に、ルナリアは商会の出口へと足早に向かう。
「アレン、リーフィア、何してるの。はやく行くわよ!」
オレとリーフィアはその言葉に我に戻り、レギエルの様子を横目に見ながらも彼女の背中を追って商会を出た。
外はもうすでに真っ暗になっていた。綺麗に並んだ建物の中から明かりがこぼれだしていて、温かさを感じさせる。そんな家へと人々が足早に帰っていくのが見える。それに加えて、煽情的な姿をした女性たちが道に多くみられる。おそらく娼婦だろう。今から娼館に出勤して男たちの欲望を満たすようだ。オレもいつかはお世話になりたい。
「何なのよ、アイツ。
時間の無駄だったわ!」
ルナリアはまだお冠のようだ。いつもより足取りが乱暴で、道行く人たちの注目を集めている。オレとリーフィアはその後ろを恥ずかし気に追いかけながら、何とかルナリアの機嫌を直そうといろいろと話しかけた。
「まあまあ、ルナリア落ち着いて。
ここはスレイブ王国で一番人が多い王都なんだから、あんな奴もいるよ」
「そうですよ、あんなの気にしていたら身が持たないよ」
「……」
「そうだ、ルナリアは何が食べたい? あんな奴のこと忘れてパーッとやろうぜ」
「……お酒と肉」
「わかった、じゃあはやく行こうぜ。
晩飯時だからはやく行かないと座れないかもしれないからな」
その日は無事に生き延びることができたことに感謝しつつ、盛大に飲んだり食べたりした。オレたちが宿屋に戻ったのは日が変わったころで、それまでの疲れと王都に戻れた安心感から、みんなベッドに倒れ込むとそのまま数分もせずに眠りに落ちた。
オレも今日だけは二人を意識することなくゆっくりと眠ることが出来そうだ。
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