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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第二章 社畜、冒険者になる
19/180

13: 巨大オーク(1)

///


 前に勝てなかった相手ともう一度戦わなければいけないという状況は、何が何でも避けたいと思う。だって、勝てなかったのだから。オレがいくら努力していようと、相手もそれ相応の努力をしていたら差は縮まらないのが現実だ。

 それでも、戦わなければいけない時が来るかもしれないから、オレは全力で努力する。オレの求める『自由』のために。


///




 日が頭上で赤々と輝き、大地に明るい光を運ぶ。日と大地の間には雄大で真っ白な雲が漂っているが、日の光を完全に遮ることはできず、雲の隙間から光の柱が降り注いでいる。季節もかなり夏に近づいてきたようで、外を歩いているだけで汗ばむようになってきた。


 そんな中、オレたちは今日も依頼をこなすために王都の外に出てきていた。今は依頼を一時中断し、木陰で休憩をしているところだ。


『――ライト』


 オレの人差し指の先の方に、小さな光の玉が現れる。ただ、その光の玉はリーフィアの指先から放たれているものよりも圧倒的に小さく、輝きも半分ほどだ。おそらく、オレの放った魔法が完全な形じゃないんだろう、オレよりもリーフィアの方が先に、光の玉を出したにも関わらず、オレの光の玉が先に消えてしまった。


「……ふぅ、まだダメだな」


 オレは自分の不甲斐なさにため息が出る。


「そんなことないですよ。

 こんな短期間でここまでできれば、いい方だと思いますよ。

 それに魔力量は確実に増えています!」


 リーフィアが落ち込んでいるオレを励ましてくれる。彼女はオレと出会って以来、毎日欠かさずこうして魔法について教えてくれている。この頃は座学が終わり、いよいよ実際に魔法を発動する練習をしている。オレは熱心に練習をしているが、なかなか結果がついてこない。


 ただ、魔力の量は確実に増加しているということだけは実感できる。魔法を発動するために必要となる魔力は、魔法を限界まで発動し続けることにより増やすことが可能であり、毎日欠かさずに魔法を未完成ではあるが発動し続けているオレの魔力量は、初心者にしてみれば結構なものになっているらしい。魔法を発動することが出来る回数は確実に増えていた。


 この魔力の多さが魔法士の一つの指標だといっても過言ではないらしく、どんなに多くの種類の魔法が使えたとしても、魔力量が少なければそれだけで侮られることも多いとのこと。


 オレは魔法をまだ完全には使えないが魔力量は多い。一方は悪いがもう一方は良いという、そんなはがゆい状態が続いている。


「それに、一つ目の魔法の習得が一番難しいと思いますよ。

 一つ覚えちゃえば感覚がつかめるので、二つ目以降は簡単に覚えられます」


「そうは言ってもなぁ……そもそも『ライト』なんて超基礎的な生活魔法なんだから、簡単に覚えられると思たんだけど」


「なによ、アレン、もう諦めたの?

 最初は誰でもそんなもんでしょ」


「いや、わかってはいるけど……」


 ルナリアが焼いたオークの肉を挟んだパンを口に運びながら、オレに話しかけてくる。ちなみに、そのパンで二個目だ。前衛ということもあり身体を常に動かしているからか、彼女は良く食べる。口いっぱいにパンを詰め込んでいる彼女の姿は小動物をほうふつとさせ、いつもの勝気な一面とギャップがあってとてもかわいらしい。


「――それに、そんなに焦ってたら、できるものもできないわよ。時間はいっぱいあるんだからゆっくりやれば良いじゃない」


「……」


「アレンさん、ルナリアの言う通りですよ。ゆっくりやりましょう。

 それに、生活魔法は絶対に覚えていた方が良いと思いますから」


 リーフィアの言う通り、生活魔法は冒険者にはとても重宝されている魔法だ。その仕事柄、冒険者は町の外で活動することが多く、時には何日間も帰ってこない場合もある。その場合、大抵は野宿をすることになるのだが、その時に大いに活躍するのが生活魔法である。汚れた身体をきれいにすることができる『クリーン』が代表的だが、オレが今覚えようとしている『ライト』も何かと需要が高い。


 『ライト』はその周囲を明るく照らす魔法で、夜や洞窟などの暗い所を探索するのにもってこいの生活魔法だ。松明でいいと思うかもしれないが、実際に火をつけるわけではないので、換気されていないところでも使うことができるし、煙も出ないので臭いも身体や衣服につかない。


 オレたち『自由の光』にはもうすでにリーフィアという優れた魔法士がいるのだから、今更オレが魔法を覚えなくてもいいと思うが、それでも、魔法を使うことはオレの夢だし、使えないより使えた方が良いと思う。巨大オークに襲われたあの時みたいにリーフィアが戦闘不能になれば、大幅な戦力ダウンにつながってしまう。そう考えると、オレが覚えていた方が良いに決まっている。リーフィアの魔法を主軸としながらも、オレはリーフィアの手が及ばない細かい所で頑張る。つまりは、前衛もでき後衛もできる万能型。それがオレの目指すべき冒険者像だと思う。


「――じゃあもう一回やるか……『ライト』」


 オレは気を取り直して、もう一度指先に集中する。オレは全身から指先へと魔力が送り込まれている時の全身に虫が這っているような独特な感覚を味わいながら、魔法を唱えた。


 今度はさっきよりも長く発動していることができたし、輝きを明るかった。でも、まだまだ、リーフィアの『ライト』には遠く及ばない。オレの見習い魔法士生活はまだまだ続きそうだ。


 ――夕方。


 オレたちは無事に依頼を終えて、王都の門の前に並んでいた。今日も門前は混んでいて、大分時間が掛かりそうだ。


 オレたちは時間を潰すために、今日の連携の良かった点や悪かった点や、今日の晩飯をどこで食べるかなど、いろいろな話題について話し合っていた。そんな中、ふっと周囲のある冒険者たちの話し声が聞こえてきて、オレたちの意識をそちらへと向けさせる。


「そういえば、聞いたか? あのウワサ」


「あぁ、あれか? 巨大なオークが出たってやつ」


「それなら、オレも聞いたぜ。

 でもよ、何かの間違いじゃねぇのか?

 人に伝える時にちょっとばかり誇張しただけだと思うぜ」


「オレもそう思うけどよ――」


 オレは前に出合ったアイツの姿を思い浮かべていた。オレが二人に出合うきっかけとなったアイツ。何とか命からがら逃げることができたあの時のことを考えると、今も身震いがしてくる。オレが一人物思いに更けていると、不意にオレの服の端が両サイドから引かれる。オレの服を引くそれぞれの手はかすかに震えていた。


 オレが彼女たちの方を見ると、彼女たちもオレと同じことを考えていたんだろう、顔は少し青くなっている。


「ねぇ、アレン、今のって……」


「あぁ、多分アイツだろうな」


「できれば、もう出会いたくないですね」


「そうだな……」


 その後、オレたちの沈んだ気持ちはなかなか元通りに戻ることはなく、沈んだままの状態で王都の門をくぐることになった。結局、オレたちが元気を取り戻したのはおいしそうな香りに誘われて入った定食屋で料理を食べ終え、腹いっぱいになった時だった。




 ――夜。


 オレは二人が寝たことを確認し、いつものようにコソコソと魔法の練習を始める。ちなみに、オレたちが初めて一緒の部屋に泊まってからずっと、オレたちは一緒の部屋を使い続けている。オレとしては別の部屋を借りたかったが、なかなか空き部屋が出ないらしい。それに、冒険者になって稼ぎ始めてとはいえ、無駄遣いできるほど稼いでいるわけではない。そんな状態なので、節約できるならできるほどありがたいことはない。


 そんなこんなで、オレは未だ彼女たちと同じ部屋に泊まっている。夏が近づてきたことで、だんだん薄着になっていく彼女たちの煽情的な寝姿に耐えなければいけないけど、精神修行だと思えば丁度いい。それに、この頃は魔法の自主練を始めたので、気を紛らわすこともできるようになってきた。


『……ライト』


 オレはベッドの上に座り込み、光が漏れて二人を起こさないように頭からルナリアの香りがする掛布団をかぶりながら、小声で魔法を唱える。


『……ライト』


 今度の『ライト』は明らかにさっきのライトより良くなっている! オレは自分の成長を感じながら、魔力が切れるまで何十回と続けて『ライト』を発動させる。そして、魔力が切れ朦朧とした意識の中、オレはベッドに倒れ込み眠りについた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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