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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第六章 社畜、貴族になる
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36: 一件落着

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

///

 会話とはお互いの意志を交換し合う理性的な営みだ。

 すぐに暴力に訴え出る者も多いが、オレとしては会話での解決を強く勧める。なぜなら、暴力は疲れるからだ。無駄なことに身体を使うぐらいならば、もっと有意義なことに使いたい。

 まあ、会話が出来ない相手だと結局のところ暴力で解決するのが手っ取り早いという事もあるのだけれど。

///




「――で、いったそばからこれだもんな。

 分かってはいたけど、もう少しゆっくりさせてくれよ」


 昼には天高くから強烈な光で海面を照らしていた陽が水平線の向こうへと沈みかけ、海の色を青から赤へと変えた夕方頃、相変わらず賑わっている大通りから少し離れた路地裏にて、オレは大きなため息を吐く。


「気持ちは分かるけどしょうがないじゃない! 相手はこっちの事情何て知らないんだから」


「アレンさん、気の毒ですがこれも今回の旅行の役目なのですからしっかりとお仕事しないといけませんよ」


 ルナリアとリーフィアが意気消沈しているオレを気遣いながらも、『諦めろ』と無体な言葉を投げかけてくる。ちなみに二人はいつでも攻撃を繰り出せるようにオレに視線は向けずに真正面を向いていた。


「はあ、これも近衛騎士になんかなった浅はかなオレへの罰だと思って我慢するか」


「それは聞き捨てなりませんね。王国で最も高貴で美しい私の近衛騎士ですよ? なりたいという者が吐いて捨てる程いる栄光ある役目なのですから、その自覚を持ってもらわないと」


「じゃあ、そいつらに喜んで変わってやるぞとお伝えください」


 オレは溜息を吐きながら武器を構えると、オレの仕事を増やした張本人――こちらに武器を構えて今にも襲い掛かってきそうな十人ほどの如何にも怪しげな連中に視線を向ける。


 なぜオレたちがこうなっているのか?


 王女をアイラから引きはがした後、王女が街中を見て回りたいと言い出したのでしぶしぶ了承したオレ。最初はマリネの名物と言われているものを食べたり、そこで聞いたマリネ観光で来たならここに行くべきだという場所を巡ったりと、楽しそうにはしゃぐ王女の後からついて回っていた。オレがさすがに疲れたのに加えて、そろそろ陽が傾き出したので帰ろうと提案したため、王女の要望で最後に冒険者ギルドを見て帰ることに。


 マリネの冒険者ギルドは依頼を終えて戻ってきた多くの冒険者たちで賑わっていた。建物自体は王都ほどではないがかなり巨大であったが、その中の多様性という面では王都なんて比にならないくらい様々な装いをしている冒険者で溢れかえっている。マリネの特色が強く反映されており、見ていた楽しかったので来てよかったと思った。


 そうしてマリネを堪能したオレたちが宿へ向かっていると、不意にこちらを観察している者たちの視線に気が付いた。先日の奴とは別件の様ではあるが、敵であるということには間違いないので、わざと人混み外れた路地裏に移動し、どうにか誘え出せないかと淡い期待を抱いていたのだが、何とこんな見え透いた罠に堂々と引っ掛かってくれるとは。本当、もう少し元気な時に来てくれれば良いものを。


「で? お前たちは何者なんだ?」


『……』


 オレの言葉は虚しく真っ赤な空へと霧散していく。どうやら目の前の相手どもは適切な言葉のやり取りの方法が分からないらしい。相手から質問されたら無言ではなく、言葉を返さなければ嫌われてしまうというのに。もしかしたら、友達がいないのかもしれない。


「まあ、絶対に吐くことになるだろうけどな」


 可哀そうな連中の技量は、明らかにオレたちよりも劣っている。どう転んだってオレたちが負けることなんて無い。もしかしたら油断させるための策かとも思ったが、周囲に別の気配はないし、何かスゴイ策を持っている様子もないので、どうやらそう言う訳でもないようだ。


「あーあー、君たち武器を置いて投稿したまえ! 今ならちょっと痛い目を見るだけで許してやるぞ」


『……』


 オレの慈悲深さに対して戻ってきたのは、構えている武器に力を入れて臨戦態勢に入るというなんと野蛮な所業。このまま、戦闘をせずにこの場を収めることは不可能なようだ。


「しょうがない。

 フレイヤさんや、やってしまいなさい!」


「なんだ、その妙に年寄りじみた口ぶりは?

 まあ、言われなくてもやってやるがな」


『――ッ!?」


 連中の誤りは多数あるけれど、王女の護衛としてフレイヤがいるという事を認識していなかった事だろう。いや、もしかしたら認識していたのかもしれないが、ここまでの実力を有しているとは思ってもいなかったのだろう。確かに、噂は良く誇張された状態で耳に入るので半分くらいで考えるのが良いとは言うけれど、今回は例外だったという事にしておいて欲しい。


「あーあ、私たちの出番がなくなっちゃったじゃない」


「せっかく準備万端でしたのに、残念です」


「いやいや、リーフィアの魔法だとここ一帯を焼け野原にしてしまうだろう?」


「アレンさん、私もこんな街中で『ファイア』を使うほど戦闘狂ではありませんよ。

『ウィンド』で周囲の建物に被害を出さないようにみなさんが痛がる前に肉塊にしてあげますので」


「……さすがに王女の前で肉塊はヤバいだろ」


 リーフィアの発言にドン引きしていると目の前の喧騒が落ち着いた。


「ふう、もう少しやりがいがあると思ったのだがこんなものか」


 どうやらフレイヤ一人でも戦力過多だったようだ。連中はこれといった抵抗を行うことが出来ないまま無残にも地面に這いつくばっており、フレイヤから受けた攻撃により苦悶の表情を浮かべている。


「それじゃあ、鎮圧も終わったことだし、拷問タイムと行きましょうか」


 ルナリアが獰猛な顔つきで連中のリーダーらしき男の下へと歩み寄る。


「ほら、何時までも呻いていないで、何が目的なのか正直に吐きなさい!」


 ルナリアの蹴りが男の鳩尾に入り込む。


 男に同情する訳では無いが、手負いの状態で鳩尾に追撃されて呼吸も碌にできない状態なのだ。そんな状態で喋ることなんて出来ないだろう。


「ふーん、私の問いに答えないなんていい度胸じゃない。

 そっちがその気なら私も容赦しないわよ」


 そう言ってルナリアの視線が男の下の方へと向いた気がした。


「早くしないと大切なものが無くなっちゃうかもね?」


 ルナリアの邪悪な笑みがオレたち男どもの背筋を冷たくさせる。オレは思わず後ずさりしてしまった。


「――まっ、待ってくれ!」


 男もルナリアの言葉を想像してしまいガタガタと震えながらルナリアに懇願する。喋るのも辛そうなのだが、もし答えなければそれ以上の辛いことが自分の身に起きてしまうので、必死になって許しを乞うていた。


「なによ、喋ることが出来るんじゃない」


 ルナリアは不機嫌そうではあるが、これ以上男に追撃を与えることは止めたようだ。男から離れると、オレに男達を縛る様にと指示を出す。オレはその言葉に素直にしたがい、這いつくばっている男たちを縄で縛りあげていく。


 こうしてオレたちは無事に襲ってきた不届き者を捕まえることが出来たのであった。

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