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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第六章 社畜、貴族になる
182/183

35: 我儘王女

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 ふだん真面目そうなやつの方が、心にため込んでいるものは大きそうだ。

 真面目に振る舞い、世間からの見られ方を常に意識していると、その分本来の自信を押し殺さなければならない。

 心にたまったものが一気に解放された時がかなり怖いので、ため込まずに適宜発散していて欲しい。

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「――それで? 王女様を害そうとした者の正体は分かりましたの?」


 王女に殺気が向けられたオレたちは宿に帰ったのだが、その後は特に不穏な気配を感じることは出来なかった。オレたちは交代でもしもの事態に備えるために起きていたが、幸いなことにそのような事態は発生することなく、静寂な夜が過ぎて行った。


 なぜか王女もワクワクして夜番に参加したそうにしていたが、さすがに王女をそのような役割を任せることが出来るはずもないし、そもそも王女だともしものことがあっても対処することが出来ないということで、静かに寝ていてもらうことにした。王女は不満気ではあったが、無視して布団に押し込んでやると可愛い寝息が聞こえてきた。


 何事もなく迎えることが出来た朝、オレたちは昨日の事を領主のシュノーケルへと報告に来たのだが、生憎なことにシュノーケルは不在の様で代わりにアイラへと報告していた。


「それが相手が誰なのかはおろか、何人なのかもわかっておらずらしいのですよ」


 狙われた張本人である王女は、一切の不安や焦りを感じさせることのない落ち着きようでお茶を飲んでいる。その顔にだけには取ってつけたような困り顔を浮かべているのだが、彼女の態度を鑑みるに、その表情が偽りのものであるという事は明白だ。


「昨日の一度からは特に相手も動きが無く、何も情報を得ることが出来ませんでしたので、何か情報がないかあなた達にお聞きしたいのですよ。マリネについて一番詳しいのはあなた達でしょうから。あなた達であれば私に危害を加えようと画策している不届き者についてご存じでしょう?」


「まあ、私たちがこのマリネの明るい所も暗い所も知っているのは事実でしょう。ただ、私たちでもさすがにそれだけの情報で特定することはできませんわよ。このマリネにどれほどの怪しい者達がいると思っているのです? それこそ吐いて捨てる程いますのよ」


「いや、それは王国の領土としてどうなんだ?」


 さすがに王女を害そうとしている者が大勢いると聞いて突っ込んでしまう。確かに、王都からはかなり離れているが、それでもそのような者たちを放置しているのはさすがにダメだろう。そのようなことを事前に知っていれば、王女がここを訪れることを止めたのに。


「それはそうなのですが、捕らえても捕えても一向に減らないのですよ。他国の者たちが入国する際はかなり厳しく審査しているのですが、相手も上手に皮を被っていますので。それに、王国内の勢力についても、様々な者たちが混在するここマリネでは上手く溶け込むことが出来るのですよ」


「マリネの特徴である多種多様さが不届き者たちを隠す良い材料になっているのか。それはいささか拙いな」


 フレイヤが困り顔で腕を組む。


 フレイヤの言う様に、王女を護衛するオレ達にとっては最悪な状況であろう。


「ん――っ、もう帰りませんか? さすがに王女に危険があるかもしれないというのに暢気に観光なんて出来ませんよ」


 オレは最善の答えを出したのだが、王女はオレの答えがお気に召さなかったようだ。プックりと頬を膨らませている。


「嫌です! せっかくここまで来たのです。もっとマリネを堪能しなければ王都になんて帰れません。

 今回のために私がどれだけの公務を頑張ったか。私の傍にいたあなたなら分かるでしょう?」


 確かに、この旅行のために王女はかなり公務を頑張っていたのは事実だ。碌に休む暇もなく朝から晩まで王女として求められた役割を果たしている姿には、素直に称賛を送りたいし、今回のために頑張ったのだと訴えられるとその思いに出来る限り応えたくなる。


 しかしながら――


「その思いは分かりますが、現実を見てください。

 何者かもわからない相手に狙われているかもしれないのですよ? 生きていればまたマリネに来ることは出来るだろうから、今回は大人しく帰りましょう」


 仮にも近衛騎士として王女の身を守る役割を担っているオレが、王女の安全以上に尊重する必要のあるものなんて何もない。例え、それが王女の想いに反するとしてもだ。


「堅物です! 私の近衛騎士は堅物すぎます!」


 王女がオレを指さしてルナリアやフレイヤたちにアピールしている。ルナリアたちは苦笑しながらもオレの意見に賛成の様で、子供の我儘を優しく見守る母親のような視線を向けるだけであった。


 これはどうやらオレの意見が通りそうだなと思い、聞き分けの悪い王女を諦めさせるために追撃の言葉を投げかけようとした時、予想していなかった方から王女へ助けが差し出された。


「まあまあ、王女様がここまで仰っているのですから考え直してみてわ?

 当然、マリネを統治する私たちも最大限の手助けをいたしますわよ」


「――アイラッ!」


 先ほどまで難しい顔で王女の話を聞いていたアイラが、やれやれと言った感じで王女の側に立つ。


「いやいやいや、手助けをしてもらえるのはありがたいですけれど、命の危険がある以上その選択は出来ませんよ」


「それは王都にいても同じではなくて?

 王女であればどこにおられても不遜なことを考える不届き者はいましてよ」


「……それはそうですが」


「それに、こうなった王女様は何が何でも動きませんよ」


 そう言ってソファに深々と座り込み、オレが王女の案に応じない限り動かないという強固な意志を感じさせる。


 フレイヤに視線を送るも、仕方なさそうに首を横に振り、オレの役割を引き継いではくれないらしい。


 しばらくの間、無言の中でオレと王女の攻防が繰り広げられたが、王女の我儘の前ではどうすることも出来なかった。


「……はあ、分かりましたよ。もう少しだけマリネに滞在しましょう。

 でも、限界だと判断したら首に鎖をつけてでも帰りますからね」


「アイラ、これでもう少し貴方と一緒にいられますね!」


「離してください。暑苦しいので」


 王女がアイラに抱き着いて頬ずりしている。


 そんな王女に対して、アイラは鬱陶しそうに王女から逃れようと身体を押し返しているが、王女の力が思いのほか強いようでなかなか解放されることなく抱き着かれたままであった。


 オレたちはその様子を溜息を吐きながらしばらくの間は傍観していたが、アイラの堪忍袋の緒が切れそうになっていることを察知し、王女を引きはがすのであった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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