33: 海都マリネ
お久しぶりです。
10年物のPCがついに寿命の様で、一文字入力するのに1分かかってしまい間が開いてしまいました。
しばらくはこのペースが続きそうです。
///
海とは何処まで続いているのであろうか?
果てしなく水平線が伸びている景色、暗く底の見えない水の中。どんなに目を凝らしてもそれらの果てを見ることは出来ない。
オレたちがその果てを見る瞬間は訪れるのだろうか?
///
海都マリネ――スレイブ王国唯一の海に面した都市であり、他国との貿易の窓口としてかなり発展している。港には多くの商人が集まり、自身の富と名声のために日々しのぎを削っている。そのおかげか、ここでは手に入れることが出来ないものはないと言われるほどで、様々な珍しい商品が並べられている。
加えて、商人だけでなく、他国からスレイブ王国へと入国する際の窓口としても活用されており、多くの旅人や冒険者がこの港を利用する。そのような者たちは総じて血の気が多く、所かしこで喧嘩が発生しており、通りの活気に湧き立てている。
そのような活気盛んな者たちに向けた商売もかなりの盛り上がりを見せており、特に花街はスレイブ王国内で一番の店の多さとなっている。
商人、旅人、冒険者、娼婦等の様々な者たちが混在している都市であるということがここマリネ最大の特徴であり、王都から離れているにも関わらず目覚ましい発展を遂げている要因であろう。
「――大変申し訳ございませんでした!」
そんなマリネに到着したオレたち。
街並みを見て回れると心の中でワクワクしていたオレの前には、珍しい商品や活気あふれた風景は無かった。
代わりにあるのは中年男性の頭頂部。
かなり広い客間に中に都市の繁栄を象徴するように豪華な美術品や他国の珍しい品が整然と並べられている。そのような空間の中、オレたちは用意されたソファに座り、目の前で頭を下げる男の様子をただ黙って見つめていた。
「そんなに謝らなくても良いわ。まさかこんな少人数で来るとは言っていなかったこちらにも落ち度がないとは言えませんから」
オレたちが何も出来ない中、主賓である王女が柔らかな笑みを浮かべて謝罪する男――マリネの領主であるシュノーケル・マリネへと慈悲深い対応をする。
「ご寛大なお言葉、感謝いたします」
頭を上げたシュノーケルの顔には安堵の表情が浮かんでおり、ほっと胸をなでおろしながらソファに腰を下ろした。
王女の方もこの話はこれで終わりと言わんばかりに用意された他国のお茶で喉を潤す。
なぜオレたちがこのような状況に置かれたのか。
マリネに到着したオレたちは、王女の希望で貴族専用の検問所を使用することなく、他の商人たちの列に並んでいた。オレたちの番になった時、王女であると警備兵へと告げたのだが、これが悪かった。王女がこのような場所にいる訳がないと警備兵を怒らせてしまい、王女の名をかたる不届き者として多くの警備兵に囲まれてしまう事態になってしまった。結局、王女が王家の紋章が施された品を警備兵へとわたし、その品を届けられたシュノーケルによってすぐさま解放されることになった。そして、そのままシュノーケルの屋敷へと通され、マリネの街並みの様子を見る前にシュノーケルの頭頂部を見ることになってしまった。
「相変わらず活気あるみたいね」
「いえいえ、王都ほどではございませんよ。
それよりも王女様、ご滞在中は本当にこの屋敷ではなく街の宿にお泊まりになるのですか? もちろん街の治安は警備兵を配備致しますので安全かと思われますが、ここには多くの者どもが滞在してございます。万が一という事もあるのですが」
「その辺りは手紙で送った通りよ。
ある程度の危険は承知の上だから問題ないわ。少しくらい危険な方が普段の堅苦しい王宮内で傷ついた心に潤いを与えてくれのよ。それに――」
王女の視線を感じる。
因みにだが、フレイヤは当然の事、ルナリアとリーフィアもソファにちゃんと座っている。平民であることを理由に最初は難色を示されるかと思っていたが、警備兵が起こした問題に加え、王女の特に気にしていない様子も要因になったのかもしれない。シュノーケルも特にそのことに触れることは無かった。
「なるほどドラゴン殺しの英雄殿ですか。確かに英雄殿が傍にいらっしゃるのであれば大丈夫やもしれませんな」
どうやらシュノーケルもドラゴンの事は知っているようだ。王都からかなり離れているから知らない、若しくは民衆と同じように王国軍が討伐したのだという噂を信じていると思ったのだけれど。もしかしたらオレが知らない何かしらの魔法で王都から情報を得たのかもしれない。それかただ単純に王都から手紙を受け取ったというだけという単純な事かもしれないが。
「お父様、もうその辺りで良いのではないでしょうか?
王女様たちも長旅で疲れているでしょうから、いつまでも堅苦しい雰囲気では気が休まりませんわ」
唐突に客間の扉が開けられ、ドレスを着た女性が入ってくる。
「まあ、久しぶりねアイラ。
元気そうで何よりだわ」
「お久しゅうございますわ王女様」
どうやら彼女――アイラが王女の目的の人物のようだ。
アイラはドレスを軽く持ち上げると、綺麗な貴族令嬢の挨拶をした。
なるほど、さすがは海都マリネの令嬢の様だ。伯爵家であるマリネ家に相応しい気品さを窺うことが出来る。
「急にお願いして悪かったわね。でも久しぶりにあなたの顔が見たくなったのだから許してね」
「王女様の性格はしっかりと把握しておりますから問題ございませんわ」
王女のあざとい仕草を伴った謝罪にも全く動じずに淡々と対応するアイラ。彼女の素晴らしい王女の受け流し方に感嘆してしまう。今度ぜひともオレにその作法を教えて欲しいものだ。
「ふふ、素直じゃないあなたも素敵よ」
「……」
先ほどからのやり取りを見ていると、アイラは別に王女の事を友人とは思っていないのではないかと思えてしまう。これは絶対に王女が一方的に友情を関しているだけなのではないだろうか。それが真実であれば王女は何と可哀そうなことだろうか。これを王女に伝えても良いものだろうか。隣に座るフレイヤたちに視線を送ると静かに頭を横に振った。
「王女様、長旅でお疲れでしょうから本日はお早めにお休みになられてはいかがでしょうか?
しばらくはこちらの滞在なされるのでしょう? つもるお話はいつでもできますわよ」
「それもそうね。
じゃあ本日はこの辺りでお暇しましょうかしら」
「オススメの宿はすでに手配しておりますので、そちらでごゆっくりお休みになられてください」
「あら、ありがとう」
かなり厄介者扱いされているが、王女の精神衛生を守るのも近衛騎士の役目だろう。
オレたちは久しぶりに友人と会話をすることができご機嫌な王女を連れて、アイラが手配してくれた宿へと向かうのであった。
読んでいただき、ありがとうございました。