表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第六章 社畜、貴族になる
173/180

27: メイドとは?

///

 多才であることに越したことは無い。一つの事に没頭し、それだけを極めることも大切なことだけれど、多くの事に精通していることで見えてくる景色もあるだろう。

 ただ、要らない事は覚えなくても良いと思う。

///




「――また面倒事を持ち込んできたのか」


 盗賊たちを無事に捕縛し、屋敷の地下牢へとぶち込んだ後、ゴルギアスに事情を説明したのだが、事の顛末を聞き終えたゴルギアスは顔をしかめながら呟いた。


 ちなみに、碌に身体を洗っておらず悪臭をまき散らしているのに加え、失禁した者もいたことによりかなりの不快感を抱かせる盗賊たちをここまでどのように運ぶか、誰に押し付けるかというかなり醜い争いがオレたちの中で勃発したのだが、長い議論の末、万が一盗賊たちが逃げないようにと盗賊たちを縛り上げている縄に、もう一本の長い縄でそれぞれ繋げ合わせ、その先をオレが持つという事になった。かなり長めの縄を用意したので、悪臭が薄まるくらいの距離を取ることができた。道中、特に王都内では周囲の者たちからかなりの視線を集めてしまったが、明らかに悪党だと分かる盗賊たちのいで立ちと悪臭のおかげで、何とか大きな騒ぎが起こることなく無事に屋敷まで連れ帰ることに成功した。


「そうはいっても、貴族が後ろで盗賊たちに指示を出して商人等を襲わせていたのも事実のようです。そのことを知ってしまった以上、その場で処分してしまう訳にもいかず」


「いや、お前の選択は間違ってはいない。おそらくそれが最良の対応だろう」


 言葉とは裏腹に、ゴルギアスの顔を晴れず、大きなため息を吐き出す。


「しかしだ、絶対に面倒なことになるのは確定だろうな。お前たちが堂々とこの屋敷に盗賊を連れて来たのはもうすでに知れ渡っているだろう。そうなれば盗賊を操っていた貴族が直接手を下してくることは無いだろうが、盗賊たちを消そうとあれやこれやと策を打ってくるのは明らかだ」


 ゴルギアスはイザベルさんから水を受け取ると、ゆっくりと喉を潤す。


「ただでさえうちは嫌われているからな。あらぬ言いがかりをつけてくるかもしれんな」


「我が家が嫌われているのは今更でしょう。それにここにはアレンもいるのですから」


 おっと、フレイヤからの唐突の悪口がこちらへと飛んで来た。まあ、その通りなので反論しないのだが。


「繋がっている貴族を知ったところで、我々の様な下級貴族では何もできない。むしろ相手によっては、こちらが害を被ることになる」


「そんなことは分かっています。が、捨ておく訳にもいかなかったので」


 フレイヤの真っ直ぐな視線を受け止めたゴルギアスは嬉しそうに微笑む。


「……貴族としては不器用すぎるな」


「父上の娘ですので」


「どうせやるなら徹底的にだ。

 どんな些細なことでも構わん。貴族の使者の特徴を洗いざらい吐かせろ」


 ゴルギアスの獰猛な笑みに答えたのはイザベルさんだった。


「それについては抜かりございませんので心配無用です」


「そ、そうか、イザベルがそう言うのであれば大丈夫だな」


「ええ、私の手に掛かれば聞き出すことの出来ない情報などございません。それこそ幼少期の恥ずかしい失敗や、他の者には決していう事の出来ない歪んだ性癖まですべてを聞き出してごらんにいれましょう」


「い、いやそこまではしないで良いから」


 イザベルさんの『私、やる気に満ちています』アピールに対して、頬をヒクつかせながら突っ込むゴルギアス。今のイザベルさんの発言はおそらく冗談だとは思うのだけれど、なぜだか冗談とは思えない。


「えっ、イザベルさんはその手の事に精通しているのか?」


「メイドですので」


 オレの疑問に対して、イザベルさんはいつもの無表情で応えるのみ。


「一つ確認したいのだけれど、ステラにもそんな教育をしているなんて言わないよな?」


「メイドですので」


「……」


 これは絶対にステラにも教え込んでいるやつだ。


 うちの可愛いステラに余計なことを教えないでくれとの叫びをどうにか飲み込んだオレであったが、非難の視線をイザベルさんに向けてしまう事は止めることが出来なかった。でも、これぐらいは許して欲しい。なんせ、うちのステラがメイドの修行と称して到底メイドとは関係ないことを教えていたのだから。


 ただ、イザベルさんはオレの視線など気にするそぶりもなく『メイドなのだから当たり前だ』と言わんばかりの態度だ。


 ステラの方に視線をかえると、ニッコリと可愛らしい笑みを返してくるだけ。今ここでステラに言葉を掛けようものなら、『メイドですから』との師匠と似た言葉がかえってきそうだ。そんなところまで師匠と似なくとも良かったのに。これは本格的に将来の心配をしなければならないのだろうか。


「とにかくだ、盗賊の事は一旦イザベルに任せることにしよう」


 ゴルギアスはイスに深々と座りなおし、ステラの今後の心配をしているオレとステラの成長を喜んでいるフレイヤへ視線を向ける。


「何かあるとすれば、確実にお前たちだろう。

 分かっているとは思うが、どこかの貴族がお前たちに何かしらの行動を起こしてくるだろうから気を付けるように」


「心得ています」


「幸いなことに、貴様は王女様と仲が良いとの噂が流れているからな。権力に傾倒している貴族の様で心苦しいが、その権力を十分に利用させてもらうことにしろ。ただ、知っての通り王女様の影響力はさほどではないので、階級の高い貴族の行動を押さえることは出来ないだろうがな」


「えーっ、王女がそのことを知ったら、絶対に何かしらの対価を要求してきますよ。ただでさえ毎日呼びつけられて迷惑しているというのに、これ以上増えるなんてオレは嫌ですよ」


「その程度の事で王女という権力の威を借ることが出来るのだから我慢しろ」


「まあ、それはそうなんですけど、でもオレの身にもなってくださいよ。あの表向きだけは良い王女にあれやこれやと言われるのはなかなか苦痛なんですから」


「……お前、絶対に外では王女様について口にするなよ」


「大丈夫ですよ。本人にも直接言っていますから」


「……」


 王女に対するオレのあまりの態度に開いた口が塞がらない様子のゴルギアス。確かに、オレのような下級貴族が、影響力がないとはいえどスレイブ王国の王族にかなりの無礼を働いているのだ。普通であれば、口すらきくことも許されない程の存在なのだろうが、オレとしては毎日無理やりお茶に誘ってくる面倒くさい女性という認識でしかない。あまりにも毎日誘ってくるので、『王女って仕事とかしないのか』と本人に聞いたこともある。その時はいつも通りニコリと笑みを浮かべるだけで流されてしまったのだが。


「まあ、なんとかなるでしょ」


 ゴルギアスの他にも、ルナリアやリーフィアもオレの態度に呆れているようなので、この話題を終わらせるために、オレはあえて楽観的な言葉を口に出すのであった。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ