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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第六章 社畜、貴族になる
171/180

25: 盗賊狩り

///

 後ろ盾があると急に粋がる奴がいる。

 己の力ではないのに、なぜかそれを勝ち誇り、あたかも己の力であるかのように他者へと突きつける。

 まあ、大概は本当にしょうもない輩たちなので気にするだけ無駄なのだろう。

///




「――お頭、見てくだせえ!

 あいつらの装備かなりの価値がありそうですよ」


「馬鹿野郎! そんな事よりもあの女たちを見ろ!

 どの女も上物だ。こんな奴らとなんてなかなかヤレないぞ」


「へへっ、オレはあの魔法士が良いな。あのふくよかな身体を滅茶苦茶にしてやるんだ」


「いやいや、どう見てもあの金髪ボブの女だろ。ああいう気の強そうな女を泣かすのが最高なんだろうが」


「お前こそよく見ろよ。それならあの赤髪の女一択だろ。

 確かに胸は一番小さいが、それも乙ってもんだ。奴隷にしてボロボロになるまで使ってやるんだよ」


 盗賊たちが三人を見て下卑た思いを口に出す。盗賊たちは、まさか自分たちが負けるとは思っておらず、これから三人が自分たちの欲望の発散相手になるという事が確定しているようだった。


「おい、うるせえぞ!

 お楽しみは邪魔な男を殺してからだ。どうやらあの男は片腕だ。冒険者として大した腕はないだろうよ」


 ――うまい!


 お頭らと呼ばれた男の小粋なジョークに思わず関心してしまう。


「……誰が」


 確かに、オレの姿は到底有能な冒険者としては見えないだろう。自身の力量を過信し、その結果モンスターに腕を奪われた哀れな負け犬というところだろうか。


 そんな男に自分たちが負けるはずがなく、女たちに関しては元より負けるという言葉すら思い浮かんでいない。


「……誰が」


 しかしながら、もうこの時には盗賊たちの哀れな未来は決定していた。盗賊たちにもう少しでも相手を見極めることが出来る力量があったならば、多少なりとも未来は違っていただろう。


「あーあ、私は知らないわよ」


「まあ、盗賊は捕まったら良くて奴隷落ちですからね。彼らは商人を殺していますし、これまでも同じことをしてきたみたいですから、その報いですよ」


 盗賊たちは怒らせてはならない相手を怒らせたのだ。オレの横でプルプルと揺れている相手の逆鱗に触れてしまう愚行に未だに気が付いていないとは、なんと哀れな奴らだろう。


 リーフィアの言う様に、盗賊たちのこれまでの行いを考えれば同情することは出来ないけれど、それでも「あーあ」っと思ってしまう。


「オイ、早いとこやっちまうぞ!」


『へい!!!』


 盗賊たちが意気揚々とオレたちの方へと向かってくる。その姿はさながらドラゴンに挑む無謀なゴブリンの様であった。


「誰が貧乳だ――ッ!!!」


 オレたちのドラゴン――フレイヤが一太刀で盗賊数人を切り捨てる。


「なッ!?」


 いつの間にか血しぶきを上げながら倒れていく仲間に驚き、手が止まる盗賊たち。


 しかしながら、そんな事ではフレイヤの怒りは治まることは無い。


「貴様だったな、私の胸が小さいと言ったのは!」


 盗賊の一人が大きく踏み込んだフレイヤを迎え撃つために武器を構えようとするが、その努力虚しく武器を持った腕が宙に舞うだけであった。


「うわ――」


 あまりの速さに自身に起こった事を頭が即座に理解することが出来ず、数秒経って理解したことで訪れた激痛に絶叫しようとするも、フレイヤの攻撃がそれをも許さない。肩から腰の辺りに一直線の痕が刻まれたかと思うと、そのまま後ろへゆっくりと倒れて行った。


 深々と刻まれたフレイヤの斬撃を固唾を飲んで見つめる盗賊たち。


「さあ、次は誰だ?」


 一歩、また一歩と盗賊に近づくフレイヤ。


 盗賊たちは今更ながら決して怒らせてはならない相手の逆鱗に触れてしまった事を悟ったのだろうが、もうすでに遅すぎた。


「ま、待て! 俺たちの後ろに誰がいるか分かっているのか!」


 次々と斬り倒されていく仲間の様子に強い恐怖を抱いた盗賊のお頭は、命乞いのためにでたらめなことを口走る。それは悪党がよくやる手段で、己ではなく他者の力に縋るというひどく醜いものだった。


「知らん! 貴様どものような盗賊風情の戯言に惑わされると思ったか」


 しかしながら、お頭の目論見は外れ、迫りくる死神を一瞬たりとも怯ませることなどできなかった。逆に、そのような振る舞いが更なる怒りをかってしまったようで、フレイヤの手に力が入る。


「ほ、ほら、俺たちにもう戦闘意志はないんだ! だから命だけは助けてくれ」


 このままでは大地の養分となることを頭に思い浮かべた盗賊たちは、次々に武器をその場に捨てると、もうこれ以上反抗の意志がないことを示す。この場で殺されるよりかは捕まって奴隷落ちする方がマシだと考えたのだろう。圧倒的な実力差の前に完全に戦士喪失しているようだ。


 そんな哀れな姿をさらそうとも、フレイヤの歩みを止めることは出来ない。瞳の光が一切なくなったフレイヤは、一言も発することなく歩みを続ける。その姿は、オレたちでさえ身震いをしてしまうほどだ。


「ま、まて、まってくれ、俺たちを殺すと本当に大変なことになるぞ!」


 ゆっくりと迫りくるフレイヤの様子に怯えながら後ずさりする盗賊たち。走って逃げたくとも目の前にいるフレイヤの凍てつくような視線がそれを許さない。


 ジワリジワリと間の距離が縮まっていく。


 盗賊たちは恐怖で足が竦んでしまい、その場で尻もちをついてしまう。


「覚悟はできたか?」


 とうとうフレイヤと盗賊たちとの距離が縮まり、フレイヤの差し出した切先がお頭の首元へと添えられる。


「お、俺たちを殺すと貴族を怒らせることになるぞ!」


「……なに?」


 フレイヤが盗賊たちを屠ろうと振りかぶったその時、お頭の口から予想していなかった単語が聞こえて来た。そのせいで、フレイヤもその腕を振り下ろすことを止めざるを得ない。


 ――貴族


 確かに目の前で震えるお頭はそう言った。


 この王国にて貴族とは絶対的権力の象徴であるため、その貴族と関係があると言われてしまうと躊躇ってしまう。しかしながら、そのような後ろ盾が小汚い盗賊風情にあるはずもないと考えるのが当然であるため、普通の冒険者たちは盗賊の戯言として聞き流す。


「それは本当か?」


 だが、お頭の言葉が本当だった場合、どこかの貴族が故意に盗賊を使って商人などを襲わせていたことになる。もしそうだとするならば、ここで盗賊たちを殺してしまうとその腐った貴族の名前を聞き出すことが出来ず、その貴族をこのままのさばらせてしまうことになる。


 それは明らかに不利益なことだろう。その考えが頭に浮かんでしまった以上、ここで盗賊たちを殺すことは出来なくなってしまった。当然、お頭の言葉が嘘であるという可能性の方が高いのではあるけれど、その真偽は目の前で震えている盗賊たちに聞き出せば良い事だろう。


「……今のは聞かなかったことにしない? 絶対に面倒事に巻き込まれるわよ」


 ルナリアの言う様にしたいけれど、そうもいかないのが辛いところだ。


「それもこれも、こいつらに真偽を確かめてからだな」


 冷静になったフレイヤは溜息を吐きながら武器を鞘へと納めると、どうにか命をつなぐことができて安心している盗賊たちへと視線を送った。

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