11: 仲間
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マーサさん、ついにオレにも仲間ができました。オレを信用してくれる本当の仲間が。
これからいろいろなトラブルがあるかもしれないけど、一人だったころよりも絶対に楽しい生活が待っていると思う。
オレは二人のお荷物にならないように、精一杯頑張ってみるよ。
だから、心配せずに待っていてください。また会う日まで。
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「二人ともこれからどうするんだ?
今から依頼を受けるのか? それとも今日は休むのか?」
オレはようやくセレナさんとの会話を終えて戻ってきた二人に、今後の方針を聞いた。ギルドでの用事も終えたし、オレと一緒に行動する理由がなくなった以上、彼女たちは二人組パーティーとして冒険者活動を再開するのだろう。オレは彼女たちと一時的ではあったけれど一緒に活動して、とてもいい経験ができた。二人とは今後、そんな経験を共に積んでいくことができないと思うと悲しいが、それもしょうがないことだ。それに二人とはもう一生会えないというわけではない。彼女たちは王都を拠点に冒険者活動をしているのだから、このギルド内で会うこともあるだろうし、もしかしたら、一緒に依頼を受けることがあるかもしれない。
そう思い、オレはできるだけ悲しそうな声色が出ないように、自然に話しかける。「今までありがとう、またどこかで会おうな」という意味合いを込めて。しかし、彼女たちの反応はオレの想像したものとは違った。
「……え? 何で別行動するみたいなのよ」
「そうですよ。
アレンさん、どこか行く用事があるんですか?」
「いや、ほら、王都まで無事についたんだし、行動を共にする理由がなくなっただろう?」
「いやいや、何言ってんのよ。
私たち十日も一緒に行動してたんだし、パーティーとして良い感じだったじゃない。
今更、理由なんてどうでもよくない?」
「そうですよ、私たちはアレンさんと一緒に活動したいです。
それに、まだ、魔法について全然教えてないですよ? 一度教え始めたんですから、最後まで責任もって教えさせてくださいよ」
二人ともうれしいことを言ってくれる。その二人の言葉に流されそうになるが、この申し出を受けてはだめだと思う。オレは二人の今後を考えると邪魔にしかならないだろうから。
少々勝気なところはあるが、いつも明るくみんなを引っ張てくれるルナリア。落ち着いた雰囲気で魔法の才能にあふれたリーフィア。そんな二人のパーティー、リアトリスは今後いろんな他の高ランクパーティーに勧誘されるだろう。彼女たちはそんな逸材だと思う。それに、何といっても彼女たちは女冒険者において圧倒的に美人だ。それだけで、彼女たちを自分のパーティーに入れて、あわよくばと考えている者も多いと思う。逆に、それを利用すれば、彼女たちはどんな高ランクのパーティーでも入ることができる。そんなチャンスをオレみたいな初心者冒険者のせいで無駄にしてほしくない。
「いやいやいや、そう言ってもらえるのはうれしいけど。
オレが入るとFランクの依頼しか受けられなくなるし、メリットがないだろう?」
「はあー、あんた人と付き合うのにメリットがないとだめなの?
それに、強いて言えばメリットならいろいろあるでしょ。あんたはギルドで働いてたんだし、その時の知識が役に立つんじゃない?」
「私たちがアレンさんと一緒にいたいという気持ちだけじゃ、ダメなんですか?」
オレは二人の言葉に衝撃を受けていた。確かにそうだ、オレはいつからメリットやデメリットだけで、人と付き合うかどうかを決めていたんだろうか。これではまるで、オレをものとしてしか見ていなかったアイツらと同じではないだろうか。
そんな思いがオレの心の中を駆け巡る。正直、オレの気持ちは彼女たちと一緒に活動したいと思っている。でも、でも、どうしても聞かなければならない問題がある。
「でもさ、ほら……オレは男だし……いいのか?
その……身の危険を感じたり……しないか?」
「「……」」
オレの言葉に二人は黙り込む。ほらな、やっぱり。そのことに頭が回っていなかったらしい。女冒険者が最も注意しなければならないこと――男に襲われる危険性についてまで考えが至らなかったようだ。確かに、オレは弱そうに見えるが、酒に酔わせたり、薬を飲ませたりなど、彼女たちを襲うためにできることは何でもある。その危険性に気付いて、オレとパーティーを組むことに抵抗を感じているんだろう。でも、それが妥当な考えだ。女冒険者は自分の身を守ることが最重要事項だ。オレがギルド職員だった時も、幼馴染や夫婦などよっぽどの信頼関係が構築されていない限り、男女がパーティーを組むことはなかった。
「な、わかっただろ。
オレも男なんだから何するかわからない……」
「――ねぇ、リーフィア! アレンったら笑わせてくれるわ。
メッチャ決め顔で忠告してきてるんですけど」
「ル、ルナリア、ダメですよ、笑っちゃ。
せっかくカッコよく決めてるんですから」
「だって、アレンったら、『オレも男なんだから』ですって」
――笑われただと! オレがせっかく紳士的にカッコよく決めたつもりが、彼女たちには笑いの種にしかならなかったようだ。なぜだ? 何が悪かったんだ?
「……いや、そんなに笑わなくても……」
オレは苦笑しつつも、少しばかり責めるような口調でルナリアに語り掛ける。
「ごめんごめん。
でもさ、アレン、あんたは私たちをナメすぎよ。
ねぇ、リーフィア」
「そうですね。
でも、私たちのことを心配してくれるのはうれしいです」
「アレン、私たちはアレンと出会うまでずっと二人でやってきたのよ?
もちろん、いろんな男たちが寄ってきたけど、断ってきたのよ。
なんでかわかる?」
「いや……二人の趣味に合うやつがいなかったとかか?」
「――違うわよ。
生まれてこの方ずっと女をやってきたのよ。男の下心丸出しな視線なんて嫌というほど浴びてきたわ。
そんな奴らとはアレンは違うってことぐらい、すぐにわかるわよ!」
「そうですよ。
今まで何とか私たちをどうにかしようと、いろんな甘い言葉をかけられましたけど、そんな人たちの目の奥には下品で暴力的なものがありました。
でも、アレンさんは今までの人とは違って、目の奥にそんな感情が透けて見えないですよ」
……なるほど、オレは彼女たちを侮っていたらしい。彼女たちは警戒心がない、危うい存在だと思っていたが、それこそがオレの驕りだったか。彼女たちはオレが思っていた以上に強かで自立していたんだ。そんな彼女たちに対して、オレが守ってあげなければなんてことを思うこと自体、彼女たちに対する侮辱だ。
「……」
そう思うと、今までの俺の言動がとても恥ずかしくなってしまい、何も反論することができない。
「――それにさ、アレン、あんたが私たちのことをそういう目で見てるのは知ってるわよ。
あんたは必死に隠そうとはしていたみたいだけど」
「そうですね、紳士的に見せようとしているのが可愛いかったです」
――バ、バレていたのか! オレは絶対に隠せていたと思っていたのに。
「い、いや、それは……ゴメン」
「別に謝ってほしいわけじゃないわよ。
それに、他の奴らとは違って、アレンは無理やりそんなことをしないと確信してたし」
「そうですよ、男の子なんだからある意味仕方がないと思いますけど、他の人とは違ってアレンさんの視線は嫌じゃなかったです」
そんなにオレは信用されていたのか。そこまで言ってもらえると、オレという存在が肯定されているようでうれしいが、どこかくすぐったい。オレの心の中からはもうすでに彼女たちの申し出を断る材料はきれいさっぱり無くなってしまっていた。そんなオレから次に出た言葉は、今までに言ったことないものだったが、オレの人生において確実に意味のある言葉だったと思う。
「オレも二人と冒険がしたい……だから、一緒にパーティーを組まないか?」
「「――はい」」
この瞬間、オレは一人ではなくなった。
「それで、パーティーを組むんだから申請に行きましょうよ」
通常、冒険者がパーティーを組むことになった場合、そのことをギルドに申請しなければならない。これは、誰と誰が一緒に行動しているかをギルド側が把握することにより、余計なトラブルを避けることを目的としている。
「そうだな、パーティー名はどうする?
オレは何でもいいけど」
「そうですね、今のままでもいいとは思いますけど。
でも、せっかくなら新しくしたいですね」
オレたちはとりあえずパーティー結成の申請を出すために、もう一度セレナさんの前に行く。
「あれ、アレンさんにリアトリスのみなさん、どうしました?」
「すみません、セレナさん、彼女たちとパーティーを組むことになったのでその申請をしたいのですが」
「まぁ、そうなんですね! おめでとうございます。
いやー、心配していたんですよ。リアトリスの二人は何かと注目の的だったので。
でも、アレンさんだったら大丈夫そうですね」
「ありがとうございます」
「では、こちらの申請書にご記入ください。
ところで、リーダーは誰にされますか?」
「ええっと……どうする?」
オレは二人の方を振り返る。
「アレンでいいわよ。
アレンが一番頼りになりそうだし」
「私もアレンさんで大丈夫です」
彼女たちの申し出に少し動揺する。今まで一人だったオレにリーダーが務まるのか。一瞬断ろうかと思ったが、オレよりも経験豊富な彼女たちが言っているんだ、彼女たちを信じよう。
「……わかった。
じゃあリーダーはオレでお願いします」
「かしこまりました、ではパーティー名はどうされますか?」
「パーティー名はどうする?」
「アレンが決めていいわよ」
「私もアレンさんが決めてください」
「……じゃあ、これでお願いします」
「はい、わかりました……じゃあこれで申請終了です。
みなさん頑張ってくださいね」
こうして、オレたち――『自由の光』の新しい物語が始まった。
読んでいただき、ありがとうございました。