15: 勝負(1)
更新が止まってしまい申し訳ございません。
今週から通常運転です。
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勝負をする上で最も重要なことは、勝つことではないと思う。
もちろん勝ちたいという気持ちがないわけではない。出来ることなら、一度も負けること無く生涯を終えてみたいものだ。
だけれど、勝ち続けることによって得られる達成感よりも、負けたことによる学びの方が意味のあるものだと思うのだが、皆はどうなのだろうか?
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「よし、それでは一番隊と二番隊の勝負を始める」
ボルゴラムの宣言が青空の下に響く。
「ルールは簡単、明日の御夕暮れまでにより多くのモンスターを討伐した方が勝者とする」
一番隊と二番隊の双方がバチバチと火花をちらつかせ、お互いの闘気をぶつけあっている。
「双方、貴族の誉れを汚さぬよう全力で取り組むように」
そんな中、王国軍に所属していない場違いな者が一人――そう、オレである。
「それでは、始め!」
ボルゴラムの開始の合図を聞いて一番隊は意気揚々とモンスターの討伐に向かった。
今回の勝負の見届け人であるボルゴラムはオレたちの方へと一瞬視線を向けると、嘲笑を浮かべて、用意されていた馬車の中に入り、そのまま王都へと戻って行った。
「以前から一番隊は我らを目の敵にしていたからな。
今回の勝負で徹底的に叩きのめして今後の憂いを断っておこう」
二番隊の面々を見ながらウォルターがこぶしを握りしめる。
その言葉に呼応して、皆の顔に先ほど以上の気迫が浮かんでくる。
「……ええっと、オレ帰りたいんだけど?」
そんな様子の中、一人置いてけぼりのオレはおずおずと手を上げる。
「何を言っている!
今回の主役は貴公と言っても過言ではないのに、その当人に抜けられては我らの士気が下るであろう」
ウォルターがオレの肩をバシバシと叩く。
周囲の皆はうんうんと頷いていた。シュタイナーとジョイスはオレの不幸を面白がっており、少し離れた所で笑い声を上げないようにと必死にこらえていた。
訓練所にて呼び止められた数日前、二番隊ではないオレを置き去りにあれよあれよと話が進行してしまい、こうして無関係なオレも強制的に参加せざるを得ない状況になってしまった。
一番隊の奴らが告げ口をしたのか、王国軍内の問題に元帥のボルゴラムも出てきてしまう始末。オレとしてはその場だけで勝負が完結されるのかと思っていたのだが、まさか王都外に出て、尚且つ一日そのまま野宿することになるとは。
そのせいで、話を聞いたステラの機嫌がかなり悪くなってしまった。プクーと頬を膨らませて不満を伝えてくるステラの様子はかなり可愛らしく、フレイヤなんかは心臓を撃ち抜かれていた。どうにかステラの説得には成功したが、最近はステラにあまりかまってやることが出来ていないので、今回の勝負が終わったら存分に甘やかしてやろう。
オレがステラとの時間を作ると心に誓った時、二番隊の面々は準備を終えていた。
「二番隊も作戦を開始する。
各々日頃の鍛錬の成果を遺憾なく発揮せよ!」
ウォルターの掛け声とともに勢い良く行動を開始する皆。
二番隊の作戦は簡単、陽が落ちるまで各々が個別に行動し、遭遇したモンスターを討伐するというかなりシンプルなもの。仮にも王国軍なのだからある程度頭を使った作戦の方が良いのではないかと思うのだが、二番隊ではこれが一番効率的な作戦とのこと。確かに、今回は討伐数で競ってはいるので遭遇機会を上げるという意味では理に適っている作戦だろう。
まあ、なぜ二番隊がドラゴン討伐への参加が認められなかったのか分かった気がする。
「どうした? あまり乗り気ではないようだが」
皆が散開していく中、その場で立ち呆けているオレを見てウォルターが話しかけてくる。
「いや、確かに面倒ごとに巻き込まれたなと思ってはいるけれど、確かにオレがまいた種だけどオレ抜きでやってくれないかなとは思っているけれど、ここまで来たのだからもう腹は括っているよ」
「その割にはかなり愚痴を吐くではないか」
「聞いたところによると、モンスターが王都に出入りする商人たちを襲っている事案が多数発生しているらしいじゃないか。それを少しでも軽減する手伝いができると思うとさほど苦ではないしな」
ドラゴンが出現した影響により、森から追い出されたモンスターたちが悪さをしているそうだ。まだ大きな被害は出ていない様ではあるが、何があるか分からないのでここらで芽を摘んでおこう。
「ウォルターはどうするんだ?」
「私は貴公と共に行動させてもらおう。
私も久しぶりにモンスターと戦いたいのだが、貴公の戦い方を観察するのも悪くない」
「そんな大したことは出来ないけどな。
それじゃあ、オレたちも行動を開始しますか」
オレたちはモンスターの居そうな方へと足を進める。
道中、二番隊の皆がゴブリンやオークなどを嬉々とした表情で狩っているのを目撃し、その有様がまるで旅商人を襲う悪人のようであったのだが、そっと目を瞑っておこう。もし部外者が彼らを目にしたら間違いなく一目散に逃げていくことだろう。
「それにしても、何で一番隊は二番隊を目の敵にしているんだ?」
オレが今回の勝負の原因の一端であるということは隅に置いておいて、一番隊の二番隊に対する侮蔑を孕んだ態度が気になる。同じ王国軍なのだから、仲良くてを取り合えとは言わないが、問題が可視化されるようなことはやるべきではないと思うのだが。
「それは一番隊と二番隊の性質の違いであろう」
「性質?」
ウォルターが遭遇したゴブリンの頭をいとも簡単にはね飛ばしながらオレの疑問に答える。
「一番隊は王国軍の中では最もその地位が高く、発言力もあるのだ。そのため、王国軍に入隊した兵士達は一番隊に配属されるように日々己の技を磨いておる」
「と言うことは、一番隊の連中が王国軍のなかで最も実力が上なのか?
オレにはそうは思えないんだけど」
「今のはただの表向きであり、実状はそうではない」
「・・・・・・だろうな」
「一番隊に配属されるために最も重視される点、それはその者が貴族に連なる者であり、なおかつある程度影響力のある地位を有しているということだ」
大体予想はついていたが、改めて聞いてしまうとため息がでてくる。
「もう気がついていると思うが、我々二番隊の多くは下級貴族家の者だ。それも、嫡男ではなく四男五男の者が多い。そのため、貴族社会においてはかなり地位の低い部類だろう。そのせいで、どんなに修練を積もうとも、一番隊には上がることは出来ない。実質、我等のような者にとっては、この二番隊が終着点と言うことだ」
下級貴族の四男五男が二番隊に配属されるだけでもかなりの出世らしい。まあ、二番隊の皆はあまりそのことには興味がなさそうだけれども。
「一方で、一番隊の面々の多くは王国内で影響力のある貴族家の者たちが多く、王国内での権力拡大や将来に備えて箔付けのために所属している者が殆どだろう。
その者達にとっては、我等のような地位の低い者は存在自体が嫌悪の対象であろうし、その者達が自分達よりも実力が上であるということは認めることが出来ないのだろう」
「目の敵にして嫌がらせをする前に、もっとやるべきことがあるだろうに」
ウォルターは苦笑しながら、慣れた手付きでゴブリンの血抜きを終わらせた。
オレはウォルターの処理したゴブリンの死骸を『魔法の鞄』へ収める。
今回の勝負において『魔法の鞄』を持っているのは、二番隊の中ではオレだけだ。そのため、皆が倒したモンスターを後から回収する手筈になっている。
周囲に視線を向けると、緑の上に無造作に横たわっているモンスターの死骸が多数。
「・・・・・・何事もなく終われば良いんだけれど」
オレは恐らく叶えられない願いを呟き、回収作業を進めるのであった。
読んでいただき、ありがとうございました。