13.5: 奴隷紋
「ご主人さま、大変です! 奴隷紋が消えています!」
ステラの驚いた表情。メイドモードのステラは常におすまし顔を維持しようと努力しているため、今浮かべている表情はかなり貴重だ。
「一大事です! これでは私はご主人さまと常に一緒にいられません!」
ステラは服をめくると、自身の腕を空気にさらす。真っ白なステラの腕から以前まではそこに刻まれていた赤黒い奴隷紋が綺麗さっぱり無くなっていた。
ドラゴンとの戦闘で右腕をなくしたオレ。その影響で右腕に刻まれていた奴隷紋もオレの身体から失われてしまった。おそらくはオレの身体から奴隷紋が無くなったことにより、ステラの奴隷紋も消えたのだろう。
「いやいや、奴隷紋が消えて良かったじゃないか。せっかくのステラの白い肌にあんな気色の悪い紋章なんて似合わないよ」
今まで奴隷紋を使用したことはないし、これからも使用することは無いだろうと思っているため、奴隷紋がなくても問題ないと考えていた。むしろ、ステラに奴隷紋が刻まれていることに対してそうせざるを得ない王国に対して憤りを感じていたぐらいだ。そんなオレにとってみれば、ステラの腕から奴隷紋が無くなったことは嬉しい以外の感情は思い浮かばない。
「あれは私とご主人さまの繋がりの証なんです!」
しかしながら、どうやらステラは違うようで、奴隷紋に並々ならぬ思い入れがあるらしく、瞳に涙を浮かべながらオレに訴えてきた。
奴隷の義務である首輪はステラの可愛らしい首に装着されているので、それではダメかと聞いてみたのだけれど、オレの胸に顔をうずめたステラは首を横に振る。
「では、私が新しく奴隷紋を入れてあげましょうか?
師匠なら奴隷紋の魔法を知っているでしょうから教わってきますよ」
「リーフィアお姉ちゃん!」
オレの胸から顔を上げたステラは、今度はリーフィアの柔らかな胸へと嬉しそうに飛び込んだ。
「これ程喜んでいるのですから、アレンさんも良いですよね?」
リーフィアに頭を撫でられているステラの表情を見ると、もはや応えは一つ。拒むことはオレの選択肢の中から消えていた。
「――ご主人さま、またこれでお揃いですね!」
嬉しそうな表情でオレを見上げてくるステラ。少しの痛みでこの表情を見ることが出来たのだから良しとしよう。
お揃いの奴隷紋がオレとステラの左腕に刻まれ、再び主人と奴隷という関係を主張している。
試しにステラに対して『頭を撫でさせろ』と命令したのだが、ステラは喜んでオレの膝の上に座り、早く撫でろと頭をオレの胸に押し付けてきた。ステラの様子に本当に奴隷紋の効力の影響かと疑問を抱いてしまったが、ステラ曰く、オレに命令されたことによっていつもよりも幸せ度がかなり高かったらしい。恍惚の表情を浮かべながらそのように語ってくれたステラの今後の成長が少しだけ心配になる。
「まあ、ステラが良いなら良いか」
オレは左腕に刻まれた奴隷紋を見ながら、上機嫌でオレの膝の上に座るステラの頭を撫でた。
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