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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第五章 社畜、偉業を成す
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幕間 見習いメイドの成長日記(4)

「――それじゃあステラ、メイドの仕事を頑張るんだぞ」


 ご主人さまが不安げに見つめる私の頭を優しくなでる。


「……本当に行かれるのですか?」


 今更こんなことを尋ねてもご主人さまを困らせてしまうだけだろう。それはご主人さまのメイドとしてあるまじき行為だと思うけれど、それでも口に出さずにはいられなかった。


「大丈夫、オレは必ず帰ってくるから。

 それまで寂しいだろうけれど、イザベルさんたちと一緒に待っていてくれよ」


 少し困った顔をしたご主人さまが私を安心させようと、ポンポンと私の頭を軽くたたく。


 そんな顔をさせてしまった事への罪悪感から、真っ直ぐにご主人さまの事を見ることが出来ない。


 今からご主人さまたちは世間を騒がせているドラゴンの討伐に向かうらしい。ゴブリンとすら戦ったことのない私からすると、ドラゴンがどれほど恐ろしいのかなんて分からない。それでも、屋敷の先輩のメイドさんたちの話を聞くに、とっても強いフレイヤさんでも対峙したら無事では済まないだろうと言っていた。そんな相手の下にご主人さまを向かわせるなんて。どうしてご主人さまのような優しい方が王様にならないのかな。ご主人さまが王様なら、きっとすごく良い国になると思うのだけれど。


「ステラ、主人を信じて帰りを待つのもメイドとしての務めですよ」


 いつまでもご主人さまから離れることが出来ない私を見かねて、イザベルさんが私を窘める。


「……分かりました」


 これ以上ご主人さまを困らせたくはない。私はご主人様の温かな感触を惜しみつつ、一歩後ろに下がると顔をご主人様の方へと向ける。


「……いってらっしゃいませご主人さま」


 私は今できる最大限の笑顔を作るが、どうしても心の陰りが表情の端に浮かび上がってきてしまう。


「ああ、いってくるよ」


 ご主人さまが私を優しく抱きしめてくれた。


 ご主人さまの温かな胸に耳を当てると、穏やかな心臓の音が聞こえてくる。その音が私の中にある不安や寂しさを少しの間だけ吹き飛ばしてくれた。


「絶対に帰って来て下さい」


 ドラゴンの討伐のために王都の外に向かうご主人さまの後ろ姿に小さく語り掛ける。私の思いがご主人さまを縛り付けることを願いつつ、その背中が見えなくなるまで見送り続けた。


「……私が少しでもご主人さまの力になれたらな」


 こんな時に見送ることしかできない自分の不甲斐なさが堪らなく悔しい。


「ステラ、あなたの気持ちは理解しますが、今はメイドとして一人前になることだけを考えなさい」


 どうやら、私の独り言をイザベルさんに聞かれていたみたい。


「目標を掲げてそれに向かって頑張るのは良い事ですが、その目標が多すぎるとどれも中途半端になってしまいますよ」


「……はい」


 イザベルさんの言う通りだ。メイドとして半人前でまだまだ学ぶことが多い今の私がやるべきことは、メイドとして早く一人前になること。


「まあ、この頃はミスもかなり減ってきていますからね。

 その内それについても教えてあげますよ」


「本当ですか!?」


「ええ、それもメイドに求められる能力ですから」


「ありがとうございます!」


 こんなところでいつまでも落ち込んでなんかいられない。少しでも早くご主人さまの力になるために早く成長しなくちゃ。


「やっと元気になりましたね。

 それでは今日も厳しく指導しますよ」


「はい!」


 挑発的な笑みを浮かべるイザベルさん。


 私は一人前のメイドになるために、今日も一生懸命頑張っています。


読んでいただき、ありがとうございました。

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