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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第二章 社畜、冒険者になる
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8: 王都到着

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 来た! ついに王都にオレは到着した! 

 ここがオレの物語の始まりの場所であり、いろいろな経験ができるだろう場所。そんな明るい未来に満ちた場所。ここでオレは冒険者アレンとして生まれ変わる。

 そんな喜びのほかに、悲しみもある。「二人ともっと冒険がしてみたい」と。


///




「……なので、それはこんな感じです」


 ルナリアとリーフィアの二人と王都へ向けて旅を始めてから今日で十日目。彼女たちと出会ってからの旅は、雨も降ることなく快適なものだった。


 今日も空一面に青色が広がっており、チラホラと浮かんでいる真っ白な雲がゆっくりと流れている。心地よい風が草木を揺らし、爽やかな香りを運んでくる。地表では小動物がエサを探しているのだろう、右へ左へと匂い嗅ぎながら、蠢いていた。


 そんな心地よい天候の中、オレたちはかなり王都近辺まで来たらしく、あと半日程度で王都へ到着するころらしい。それを証明するように、今まで人の姿が全く見えなかったのが、今では商人らしき人の馬車とすれ違ったり、モンスター討伐に向かうのだろう冒険者のパーティーがいたりと、頻繁に人の姿を確認することができるようになってきた。


 オレが今何をしているかというと、休憩がてらにリーフィアと約束した魔法習得のためのレクチャーを受けているところ。この十日間、毎日欠かさずリーフィアに教えてもらっている。当たり前だが、まだ魔法を放つという段階ではなく、魔法とは何なのか、魔法を放つ感覚とはどういうものなのかなど、魔法に関する基礎的な知識を一方的に学んでいる段階だ。


 人によっては退屈だと感じるかもしれないそんな時間も、オレにとっては楽しい時間だった。というのは、オレは魔法に関して全く知らなかった状態から、少しばかり詳しくなり、まさに魔法士に近づいていることを実感できていたからだ。リーフィアの語る魔法の知識を全て習得することができたら、オレは魔法を使うという新しい体験をすることができるし、生活の幅を圧倒的に広げることができるだろう。そう思えば、この時間はオレにとって始まりの時間であり、未来の幸せの基礎を構築している時間だ。


 そんな重要な時間を誰が苦に思うだろうか? オレはリーフィアのレクチャーを熱心に聞きながら、わからないことや疑問に思ったことをその都度質問するなど、真面目に取り組んでいた。


 そんなオレの熱意が伝わったのか、リーフィアもオレの質問に丁寧に答えてくれる。ルナリアが言っていたけど、リーフィアは本当に優秀だと思う。オレの質問に対して初心者でもわかりやすいように答えてくれるし、質問には関係ないが知っていて得する豆知識も一緒に教えてくれる。そのおかげで、オレも様々な情報をサクサクと覚えることができるし、全く気を緩めることもなく集中して楽しく学ぶことができている。


「――ふぅ、じゃあ、今日はこの辺にしときましょうか。

 あんまり根を詰めすぎても良くないでしょうし。

 この続きはまた今度にしましょう」


「ああ、そうだな。

 リーフィア、今日もありがとう」


 今日も充実した時間を過ごすことができた。オレは状態を後ろに反らしながら、両腕を空に向け大きく伸びをした。リーフィアの方を見ると、リーフィアの横に座っているルナリアが前かがみの状態で眠っている。多分、リーフィアのレクチャーが彼女にとっては退屈なものだったんだろう。


「ルナリア、寝ちゃったな」


「そうですね、昔からルナリアは勉強が苦手でしたから。

 私たちの村で魔法を教わっていた時も、よく寝てしまって怒られていましたよ」


「はは、簡単に想像できるな。

 ルナリアは頭よりも身体を使う方が性に合ってそうだからな」


「そうですね。

 身体能力は誰もルナリアに勝てなかったんですよ。

 それこそ男の子だって従えていました」


「それは……」


 オレはたくさんの男の子たちを従え、元気よく先頭を歩く幼い頃のルナリアを想像して、笑ってしまう。同じような光景を思い出していたのか、リーフィアもオレと同じように微笑んでいた。


 オレたちの間に、穏やかで心地よい時間が流れていた。こんなの時間は一人で旅をしていた時には経験したことがない幸せな時間。二人と旅をすることにして良かったなと思いながらも、この時間がもうすぐ終わりに近づいていることに、どこか寂しさも感じてしまう。王都に着けば、彼女たち――リアトリスとは別れることになってしまうんだろう。さすがに、いくらお人よしの彼女たちでさえ、王都で初めて冒険者登録をする初心者冒険者のオレと一緒に活動することはない。なぜなら、初心者冒険者が受けることができる依頼は制限されているし、簡単な依頼が多いため、三人で分けても十分な報酬を受け取ることができない。オレと一緒にいるよりも、彼女たちだけで活動した方がより高額な報酬をもらえる依頼を受けることができる。


 そんなこんなで、彼女たちがオレと一緒に活動することにデメリットはあっても、メリットは全くない。明日死んでしまうかもしれない冒険者という仕事において、オレという存在は今のところお荷物でしかない。お荷物を背負いこむほどの余裕は彼女たちにはないだろう。


 それに、ここまでオレに良くしてくれる二人の邪魔はしたくない。彼女たちは優しいから、オレが誠心誠意彼女たちに頼めば、一緒に行動してくれるかもしれない。


 でも、それは嫌だ。彼女たちに頼りっきりで、まるで寄生虫のように生きていくのは嫌だ。大丈夫、オレは長らく一人で頑張ってきたんだ。これからも、一人でやっていける。


 オレは今後必ず訪れる別れの時のことを考えて決意を固めながら、王都に向かうためにルナリアを起こすということを試みる。


「ルナリア、おい、そろそろ起きろ。

 王都に向かおうぜ」


「……うぁ……まだ……」


「ルナリア、そろそろ行きましょうよ」


「……」


 オレたちの呼びかけも虚しく、ルナリアは全然起きなかった。この様子ではもう少しここで休憩することになりそうだ。


「はぁ……リーフィア、もう少しここにいよう。

 王都まではもうちょっとなんだろ?」


「そうですね、もう少しお話ししていましょうか……」


 オレはルナリアに少し呆れつつも、どこか感謝していた。この旅を少しでも長引かせてくれて。もう少しこの幸せな時間を体験させてくれて。




 ――数時間後。


「……うん……あれ」


「ようやく起きたか。

 そろそろ行くぞ」


「――ごめん、ごめん」


 オレたちは立ち上がり、出立の準備を手早く終わらせる。まだ日は高いところにあり、今からならば明るいうちに王都に到着することができるだろう。かといって、余裕をもって王都に入りたいのも事実。というのは、王都への出入りには制限があり、暗くなってしまうと出入りができなくなって、門の周辺で野宿するはめになる。その制限のせいで、夕方頃は多くの入場希望者で門前はごった返しており、入場が許可されるまで相当な時間を有するらしい。


 それに加え、泊まる宿が確保できないかもしれないという問題も生じるだろう。当たり前だが、王都はスレイブ王国内で一番栄えている場所だ。そのため、多くの人々が王都で暮らしているし、職を求めて王国内の全ての村や町から訪れている者も多い。そのため、王都の宿屋は常に満員な状態であり、なかなか空きが出ないとのこと。そんな状況においても空いている宿屋はあるにはあるらしいが、そんな宿屋の多くは何らかの問題を抱えており、普通はそんな宿屋に泊まる者はいないらしい。そのため、客をどうにか確保するために比較的に安く泊まることが出来るらしいが、宿としての品質は最低らしい。オレもそんな宿屋はいくら安かろうが泊まるのは遠慮したい。


 何といっても宿はオレにとって唯一の安息の地だといっても過言ではなかった。マーサさんのような温もりまでは求めないにしても、ある程度は安心してゆっくりと過ごすことができる環境が欲しい。宿にいて気を抜くことができないならば、野宿と変わらない。いや、むしろ隣人に気を遣わなくて済む野宿の方がまだましかもしれない。


 そんな理由から、オレたちは王都へと向けて、今までよりも少しだけ早く歩いていた。


「アレン、あれを見て!

 あれが王都よ!」


 リーフィアが指し示す方を見ると、そこには大きな外壁がそびえ立っていた。それは今まで見たことがないくらい高く、いかにも丈夫そうなつくりをしている。モンスターに外側を攻撃されたとしても、何ら影響を受けることはないだろう。そんな王都に住む民を守る立派な外壁。


 そんな外壁の一か所に向けて人々がごった返している。おそらくあそこに正門があるのだろう。その集団に近づいていくと、段々人々の罵声や怒声が聞こえてくる。みんな早く王都に入りたくて必死らしい。入場のために設けられていた列は半ば崩壊してしまっている。


 オレたちはその騒がしい集団に加わるために、最後方に並び、オレたちの番が来るのを今か今かと待った。


 この中に入れば、オレの冒険者としての暮らしが待っている。オレが待ち望んだ生活が。


「遂にオレの物語の始まりだ……」


 オレは徐々に近づいてくる正門を見つめながら、オレの明るく希望に満ちた将来を思い描いていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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