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ギルド社畜の転職日記  作者: 森永 ロン
第五章 社畜、偉業を成す
129/180

39: 第二次ドラゴン討伐(12)

*2024/05/13 誤字脱字修正

///

 オレたちは皆それぞれ何かしらの特性を持っている。足が速い者、武器の操作に長けている者、即座に最適解を導き出すことの出来る優れた頭脳を持っている者、肌の乾燥具合から明日の天気を推測できる者など、様々な特性が存在し、中にはその特性を所有しているということを自身でも認識できていないようなものもあるのだろう。

 それらの特性の中で、他者から見てもその凄さが分かりやすいものや莫大な利益を生み出すものなどは、多くの者の称賛と畏怖の対象となり高い評価を受ける。

 しかしながら、オレはそのような特性に評価基準を設ける社会は間違っていると思う。特性自体には何の優劣もなく、それも上手に用いることが出来ているか。つまりは適材適所と言う訳だ。

///




「――オレたちの役割を確認する」


 日の光が穏やかに大地を温め、爽やかな朝を演出している一方、オレの後方に広がる広大で深い森は日の光の侵入を許すことなくその不気味さを保ち続けていた。


 オレは背中に冷や汗をかきながらも、目の前の仲間に真剣な面持ちで視線を送る。


 ここには未だ野営地で遊び惚けている馬鹿な奴らのような者はいない。ルナリア、リーフィア、フレイヤ、そしてベニニタスを始めとする奴隷兵士たち。ドラゴン調査隊と呼ぶには隊としての経験が浅く、奴隷兵士たちの身に纏う装備もみすぼらしい。しかしながら、オレたち皆の心の中はある思いで統一されており、そのことは他のどんな隊よりも勝っている事だろう。


 ――絶対に生きて戻ってくる。


 これからオレたちが行わなければならない事を考えれば、誰もがオレたちを現実が見えていない者たちだとあざ笑うだろう。オレ隊の掲げている思いなど所詮は絵空事だと、到底達成することの出来ない目標だと。


 しかしながら、そんなことはどうでも良い。笑いたければ笑えば良い。


 どんなに他者から否定されようと、オレたちの共有しているそれを揺るがすことは出来ない。


「オレたちに課された役割はドラゴンが今どこにいて、どのような状態なのかを調査することであり、決してドラゴンの討伐ではない。そのため、調査終了すれば少しでも早くこの森から脱出する。オレやルナリアたちは以前に一度ドラゴンをこの目で見たが、あれは今のオレたちでどうにかできる相手じゃない」


 オレの話を一言も聞き逃すまいとしている奴隷兵士たちの喉が鳴る。


「次に隊列だが、オレが先頭でルナリアとリーフィアが左右、リーフィアが後方でみんなの周りを固める。みんなの中では狩りの経験がある者を前方に配置してくれ」


 昨日戦闘訓練を行ったとはいえ、さすがに奴隷兵士たちを先頭に立たせることは出来ない。そのやり方は彼らを捨て駒として扱う貴族のものであり、オレたちが最も嫌悪するものだ。


「みんなも何か異変を感じたらすぐに教えてくれ。どんなに些細なことでも関係ない。少しでもみんなの生存率を上げるために協力してくれ」


 獣人族の中にはヒト族には無い特性を持っている種族がいる。その特性の代表的なものは彼らに備わった鋭敏な聴覚や嗅覚だろう。


 フレイヤのように明らかに常軌を逸している者などは、そのような特性を有していなくとも迫る異変を直感的に感じ取ることが出来る。しかしながら、他の者がそのようになる為にはかなりの経験と才能が必要だ。


 一方、種族にもよるが、獣人族の多くの種族は特有の性質を生まれ持っており、その感覚はオレたちヒト族が到底手に入れることの出来ない程のものだ。


 そんな彼らが今回オレたちの仲間であるという事はかなりありがたかった。自身の実力を過信している冒険者や、自身の爵位を理由にふん反りかえり周囲を見下す貴族たち。そんな奴らよりも明らかに彼らの方が有能であり、求められるべき逸材だと思う。


「任せてください! 何か感じ取ればすぐに報告します」


 奴隷兵士たちの中で特に感覚に優れた者たちが頷く。彼らの表情はとても使命感に満ち溢れており、出会った当初よりも明らかに活力がみなぎっていた。おそらくは何かしらの役割を担ったことによる影響だろう。今まで誰からも期待されず、ただの捨て駒として扱われていた彼らにとって、今回の様なことは初めての経験であり、自身の生きる意味を見出すことだ出来たのだろう。


「最後に大切なことだからもう一度確認だ」


 やる気に満ちたみんなの顔を見渡す。


 これは昨日も野営地で何度も確認したことだ。しかしながら、決して忘れないようにみんなの魂に刻み込む。


「――生きて戻るぞ!」


「「「うぉぉ――!!!」」」


 奴隷兵士たちの魂の叫びが森の中へと駆け巡る。彼らの迫力にドラゴンですら尻込みするのではないだろうか。それぐらい彼らの叫びには気迫が込められていた。


「それではこれより調査を開始する!」


 オレたちはとうとうドラゴンの待つ森の中へと足を踏み入れた。




 場面は変わり、ここは森の最深部。木々が密集し陽の光がほとんど差し込むことのない暗く閉ざされた世界。


 そんな場所の中心部にて、ドラゴンは悠然と鎮座していた。ドラゴンの周囲にはおびただしいほどの血が染み込んだのであろう赤く染まった地面が広がっている。所々にドラゴンのエサとなったモンスターや獣人族の残骸が転がっており、そこに放置されてある程度時間が経過しているため強烈な腐敗臭を放っていた。


 誰もが鼻を覆いたくなるような臭いをドラゴンは全く気にすることなく、口の中に入っているモンスターを骨ごとかみ砕いていく。バキバキという音が森に鳴り響いていたが、次第にその音は聞こえなくなっていく。


 ドラゴンの口の中からモンスターの肉片すらも消え去り、腹の中へと納まった。


 しかしながら、未だドラゴンの空腹を満たすことは出来なかった。


 ドラゴンは周囲に転がる腐敗した肉をも口に入れるが、それでも満足できない。


 空腹を満たす為に新しいエサを求めて行動を開始しなければならない。ただ、今いる場所の周囲にいるモンスターは狩り尽してしまった為、近場にエサになるような生き物はいない。少し前に大量の獣人族というエサが飛び込んできたが、それ以降同じようにエサが自らドラゴンの下へと来ることは無かった。


 ――少々面倒ではあるが、自らが動かなければならない。


 そのような状況に直面し、重い腰をゆっくりと持ち上げた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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