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最終楽章 「鎮魂曲~死闘の行く末」

 領事館とマンションの狭間の路地は、凝縮した殺気が渦巻く修羅の巷へと変わり果てて仕舞いました。

 突き、打撃、払い。

 狭隘な路地を物ともしない攻撃の応酬に、(わたくし)の闘争本能も昂るばかりです。

 肥大発達した脳松果体を核にして発現される身体強化能力も、静脈投与された生体強化ナノマシンも、いずれも好調。

 個人兵装のレーザーランスも、まるで四肢の延長の如く自由自在に取り回せるのでした。

 しかしながら「楽勝」と申せる程の余裕は、(わたくし)には御座いません。

 それも申しますのも、我が敵の底知れぬ力強さにあるのでした。

「何故このような狭い路地を、戦場に選んだのです?決闘に水を差されたくないとはいえ、槍使いの貴方には不利の筈…」

 集中力を削ぐ意図もあった問い掛けは、あまり役には立ちませんでした。

「それは貴殿も同じ事…槍使いとして、条件は五分と五分で御座る!」

 (わたくし)に応じる由利鎌之助の槍捌きは、それまで通りの冴えを見せたのですから。

 破邪のエネルギーが堺県全域に満ちている以上、怨霊武者達は弱体化されている筈。

 邪気の感じられない鎌之助が疲弊しない理由は、果たして何なのでしょうか。

「うっ!」

 サッと身を翻した刹那、(わたくし)の頬を鎌之助の槍が掠めたのです。

 空を切った槍の穂が起こした衝撃は、回避が遅れた私の髪を数本捉え、ライトブラウンの断片を宙に巻き上げたのでした。

「御覧下され、幸村公…見ていてくれ、小助…貴殿等のためにも、拙者は!」

 その声に邪念はなく、あるのは純粋たる決意のみ。

 この時、(わたくし)は漸く気付いたのでした。

 由利鎌之助が怨念の代わりに、何を糧にして戦っていたのかを。

「幸村公…貴殿が拙者に微笑んで下さる限りは…」

 主君への忠義と、仲間への友情。

 この二つが、怨霊武者となった鎌之助を戦わせていたのでした。

「何という同胞愛…貴方を始めとする十勇士と幸村公の絆は、それ程までに強く…」

 鎌之助が示した忠義と友情に、(わたくし)と致しましても感動を禁じえません。

 だからこそ私は、彼との決闘に勝たねばならないのです。

 鎌之助のように主君や友を愛する武人が、「怨霊武者」という呪われた生に囚われ続けるなど、あってはなりません。

 そして何より(わたくし)は、人類社会の平和と自由の為に戦う特命遊撃士。

 (わたくし)もまた、戦友達と共に戦っているのですから!


 忠義心と友情に厚い鎌之助を、今の呪われた生の呪縛から解放するためにも。

 そして何より、(わたくし)が戦友達と共に誓った正義を為すためにも。

 この膠着した状況は、何としても打破しなくてはなりません!

「たあっ!」

 一計を案じた(わたくし)は、幅の狭い路地で可能な限りでランスを払い、鎌之助から間合いを取ったのです。

「ふん、引いたか…良い判断だ!」

「はああっ!」

 そして間合いを詰めようとする鎌之助の声を聞きながら、レーザーランスのエッジを路面に突き刺したのでした。

「レーザーランス・地裂衝!」

 ランスの柄を握る両手に力を込めると、瞬く間にアスファルトの路面に亀裂が走り、バラバラに砕けていきます。

 そうして砕けたアスファルトが瓦礫と化して、鎌之助に襲い掛かったのでした。

「むうっ、土遁の術か…猿飛や霧隠も同じような術を使ったが…」

 飛来する瓦礫に辟易してはいるものの、鎌之助に動揺は見られません。

 直ちに次の一手を考えなければ…

「むっ、これは?!」

 ところが次の瞬間、鎌之助は突如として動揺し、(わたくし)から視線を逸らしてしまったのです。

 彼らしからぬ失態ですが、絶好の隙である事に変わりは御座いませんね。

「やっ!」

 好機到来と判断した(わたくし)は、両手で構えたレーザーランスにピッタリ身を寄せ、大地を蹴り上げたのです。

「レーザーランス・弾丸突!」

 そうして勢いを付けて宙に舞い、鎌之助の身体目掛けて突進。

 これぞ正しく、肉弾攻撃で御座います。

「ぐおおっ!」

 充分に加速したレーザーランスのエッジは鎌之助の胸板にグッサリと突き刺さり、そのままの勢いで彼の身体をビルの壁面に叩き付けたのでした。

「たあっ!」

 鎌之助の身体がビルの壁面に叩き付けられたのを確認した(わたくし)は、磔状態となった彼の身体を蹴り上げ、レーザーランスごと方向転換を試みたのです。

「むっ…!」

 そうして放物線を描いた後に音もなく地面に降り立った次の瞬間、鎌之助の身体は俯せに大地へ倒れ込んでしまったのです。

「何故なのです…貴方程の武人が、戦いの最中に隙を作るなど…」

「ハハハ…これが咄嗟に、目に入ったので御座るよ…」

 腹部に大穴を穿たれた無惨な姿と化した若侍は、力無く右の掌を開いたのでした。

「これは…真田紐…」

 絹糸と木綿糸で織られた、黄色と黒のニ色使いのネックストラップ。

 その特徴的な織り方は、和歌山県九度山町の名産品として珍重されている真田紐に相違ありませんでした。

 (わたくし)と鎌之助が槍の応酬をしているうちに、表通りから風に吹かれて来たのでしょうか。

「きっと幸村公が、拙者の事をお呼びなのだ…『戦いは止めて自分の元へ来い』と…幸村公、拙者も直ちに君公の元へ…」

 愛おしげに真田紐を握り締めた鎌之助の身体がボロボロと崩れ、みるみる塵へと変わっていきます。

 全ての心残りが解消された事で、鎌之助の魂は主君と仲間の待つ冥府への旅を望んだのでしょう。

「英里奈殿と仰ったか…拙者と立ち合ってくれて、礼を申すぞ…」

「鎌之助殿…(わたくし)も貴方に御手合わせ頂けて、長道具を操る特命遊撃士として光栄で御座います。」

 そうして一礼した(わたくし)が頭を上げた頃には、鎌之助の姿は路地から消えていました。

 そこには古びた真田紐のネックストラップが、塵に塗れて虚しく転がっているばかり。

 望まぬ形で現世に蘇った真田十勇士の槍使いは、愛する主君や仲間達の元へと帰って行ったのでしょうね。

「全ての怨霊武者を駆逐したら…九度山へ行かせて頂きますね。貴方と御仲間達に、花を手向けさせて頂きます。」

 こうして死闘が繰り広げられた路地を最後に一瞥した(わたくし)は、新たな戦場を目指して大小路を駆けるのでした。

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