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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
銀狐と炎猫の出会い
9/33

09

祖父の話を聞いた後、私は叔母と一緒に少し外に出ていた。理由は叔母が気分転換にと言った為だ。



「……………ねぇ、小鈴ちゃん。ほんとに良かったの?」



と後ろからそう聞かれた。



「私の異能力は戦闘向きだから、これしかない」



「そうじゃなくて、貴女は本当にそれで良かったのって聞いているの」



「なにを言っているの?私が選んだ事だからいいに決まってる。それに、この身体じゃあ、今まで通りの生活なんて出来っこないよ」



外に出る前、私は廊下にあった鏡に写った自分の姿を思い出してそう言った。



黒かった髪の毛は色が抜けた様に真っ白になっていて、狐耳や尻尾は先端部分が僅かに灰色になっているだけであとは髪と同じだった。あとは右手だけじゃなくて、肩や太ももとかにも金属質の欠片が生えていた。幸い、尖ったりはしていないけど、少し気になる。



(寝る時とか布団を破いちゃいそうだなぁ。あと、尻尾も邪魔だし……………)



そう今後の生活の苦労を考えていると……



「ーーーーーー小鈴ッ!」



悲鳴の様な私を呼ぶ声と慌ただしく走る音、そしてそれを制止させようとする複数の声と足音が聞こえてきた。



視線を上げると切羽詰まった表情をして息を切らしている姉が私の前に転げ落ちる様に走ってきた。



「良かったっ!目が覚めて本当に良かった!身体は大丈夫?」



姉はその目に涙を浮かべて私の顔に手を添えて、私の顔を覗き込む様に座り込んで………それがあの日の構図と重なって見えてーーーーッ



「ーーーーッ」



気づくと私は姉を力いっぱい突き飛ばしていた。胸の中心、あの日姉に刺された場所がジクジクと熱を持ったみたいに痛くなった。



「え、こ、小鈴?」



姉は突き飛ばされた理由がわからない様で呆然としたまま、再度私に近づこうとした。



「ーー来ないでッ!!」



熱を持って痛む胸の傷を抱く様に抑えながら、自然と私は姉に向かって叫んでいた。頭の中もまるで中身をひっくり返したみたいにぐちゃぐちゃになって気持ち悪い。



「まって小鈴、大丈夫だから、ほら!なにも持ってないし、貴女を傷つけたりなんか」



「嫌だ!来ないでッ!嫌だッ!聞きたくないッ!近寄らないでッ!」



私は感情のまま叫んだ。



カシャン、カシャン……………



遠くなっていく耳にはっきりとあの音が聞こえてきた。それと同時に私の周りに沢山の剣や斧が現れた。



嫌だ『イヤダ』嫌だ『イヤダ』嫌だ嫌だ『イヤダ』嫌だ『イヤダ』嫌だ嫌だッ!!!!



ただそれだけが頭の中を埋め尽くしていく。何が嫌だなんてわからないのに。



「小鈴ちゃんッ!!」



叔母の呼ぶ声が聞こえて、首元に何か入った感覚を最後に私の意識はブツリッと途切れた。




***




〜side本条 美也子〜



"あの日"から生きた心地がしなかった。



1週間前、小鈴が倒れてすぐに軍隊の人達と衛生兵の人達が来てくれたおかげで、あの子はなんとか一命を取り留めた。



小鈴はすぐさま国が運営している軍属病院へ運ばれて1週間の間、ずっと眠り続けていた。



せめて側にいようとしたが、事件の現場検証として呼び出しを受けて昨日まで身柄を拘束されていた。



祖父がやってきた事で解放された後、家族揃って小鈴が入院している軍属病院に向かった。その間の車内はなんとも言えない重い空気に包まれていた。



そうして到着して、祖父が職員の方と何やら確認を取っていると病院内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。



どうやら小鈴が目を覚まして、暴走を引き起こした様だった。祖父は私たちにそこで待っている様にと言うと慌ただしく走り去って行った。



しばらくして戻ってきた祖父から小鈴に合わせると言われた。けど、直接会ってはならないと言われてしまった。



何故かと聞いても祖父ははぐらかすばかりで訳がわからなかった。



そして、病院の中庭に叔母に連れられたあの子がいた。



黒かった髪の毛は雪の様に真っ白になっていて、尻尾も9本に増えていた。そして、右手を中心に金属質で荒々しいものになって、肩や太ももとかに金属質の欠片が生えていた。



「ーーーーーー小鈴ッ!」



その時私は祖父の言い付けを忘れて、小鈴に向かって走り出していた。



「良かったっ!目が覚めて本当に良かった!身体は大丈夫?」



目が覚めたとは聞かされていたけれど、やはり自分で確かめなければ信じられなかった。"あの日"の事を鮮明に思い出してしまい、もしこのまま目が覚めなかったらと思うと胸が張り裂けそうになった。



私は少し俯いた状態の小鈴と目線を合わせる為に屈んで覗き込むと小鈴はぼんやりとした眼差しで私を捉えて……



「ーーーーッ」



気づいたら私は小鈴に突き飛ばされていた。



「え、こ、小鈴?」



私は何がなんだかわからなかった。だから、私は理由を聞こうとして近づいて、



「ーー来ないでッ!!」



小鈴は胸を掻き抱きながら叫んだ。それは明らかに拒絶が籠った声だった。



「まって小鈴、大丈夫だから、ほら!なにも持ってないし、貴女を傷つけたりなんか」



私は小鈴を安心させようと出来るだけ優しい声でそう声をかけた。やけに心臓の鼓動がうるさく感じて、背中からは嫌な汗が出ていた。



「嫌だ!来ないでッ!嫌だッ!聞きたくないッ!近寄らないでッ!」



小鈴は身体を縮こまらせて感情のまま叫んだ。



待って、話を聞いてっ。お願いだから



そう声に出そうとしたが、小鈴が叫んだ直後、"あの日"に感じたあの強烈な悪寒がやってきて声が出なかった。



そして、小鈴の周りに大量の武器が現れて、それが粉々に崩れて、金属でできた巨大な化け物の頭部に変化した。



『ギィヤヤヤヤヤヤッ!!!』



その化け物は金属同士が擦れ合う様な咆哮を発して、私に向かってその顎を広げ、私を捕食しようとした。



やけに遅く感じるその顎が迫り来る時間の中、私は納得した。



"あの日"、気を失う間際に言った小鈴の言葉。あの子は私を信頼してくれていたんだ。いつも冷たい態度だったけど、心の底から私を信頼してくれていたんだ。だから、あの時私を助けて使いたくもなかった筈の異能力を使ったんだ。



……………今思えば、あの血塗れの手を開いて私に近づけてきた行為は私に手を差し伸べてくれていたんだ。心配して私の顔を覗き込んで、大丈夫だったと安心して手を差し伸べたのだろう。



けれど、私は最悪な形で裏切ってしまった。



だから、これは罰なんだ。私が、あの子を裏切ってしまった罰なんだ。そう考えると自然と身体の力が抜けた。



そして、私は金属の濁流に呑み込まれて意識を失った。


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