05
日常というのは唐突に変わってしまう。
これは必然的なことだ。今ある日常はこれからもずっと続くとは限らないというわけだ。
***
「今から生徒会選挙の候補者と応援の生徒会長の演説があるので、みんなまだ席を立たないように」
先生が先走る生徒たちに言った。
今日は全校生徒が集まって生徒会の役員決めの為の演説をする日だ。
正直言って退屈だ。
と思いながら欠伸を噛み殺していると教室の扉が開いて二人の女生徒が入ってきた。入れ替わりで先生が出ていく。
そのうちの1人は姉だった。
いつ見ても様になっている。腰には《魂武具》である刀を帯刀している。ちなみにこのご時世、一般市民が武器を所有する場合、きちんと役場に届出を出せば持ち運びができる。
年々、異能力絡みの犯罪やテロが増えているし、『ヴィラン』というよくわからない化け物が現れたりする。軍隊が来るまでの間に少しでも無事でいられる様にと学校でも訓練は行われている。
「えっと、本日は先生に貴重な時間をいただきまして、生徒会選挙の……」
まだ慣れていない感じの1年の女の子が、少し硬い声で話し出す。
こういう演説が頭の中をスルーしていくのは私だけなのだろうか?いや、多分半分くらいの者が話半分に聞いているだろう。特に低学年は。
ちなみに私は高校1年生である。
なんとも言えない時間が過ぎていく中、ふと私は外から嫌な気配が現れたのを感じた。
(…………なに?)
この感覚は昨日の夜に異能の制御特訓をしていた時と同じ悪寒だ。
そんなことを考えていると、何かが体育館に近づいてくる気配を感じた。
そして次の瞬間。
突然、凄まじい爆音が轟いた。
体育館の扉が吹き飛び、生徒達は騒然とする。
その直後、抜剣した黒ずくめの男たちが乗り込んできた。
「そのまま席を立つな、全員手を上げろ!この学園は我々が占拠した!無駄な抵抗はするな。命が惜しくばな!」
………………………さてさて、面倒なことだ。
***
突然のテロリストの襲撃に教師達はなす術なく拘束されて、《魂武具》も奪われた。
私?私の大鎌は身体の中にあるからバレてない。まぁ、使わないけど。
そして、テロリスト達は生徒の名簿を持っているのか1人1人確認して無害な異能持ちと危険な異能持ちと分けて拘束していった。
そこになんだか違和感を抱いた。
テロリストにしては………というか偏見でそういうのは大雑把な気がするのだが、彼らの動きは統一されていて、まるで軍隊の様な………
「おい、間違いないか?」
と私の番になった時に名簿を見ていた男が私を見てそう言った。
「はい。例の"第5世代"です。まだ未覚醒の様ですが」
"第5世代"?世代は第4までしかない筈なのに、なにを言っているんだ?
「よし連れて行け。それと各員に告げろ。"剣は見つかった"と」
「了解しました」
男達はそう言って状況が理解できない私を担いでどこかに行こうとした。
「ちょっ、離して!どこに連れてくの!?」
「静かにしろ」
暴れる私に男は思いっきり頭を殴り付けた。
「ガフッ!ーーーー」
視界が歪んで耳も遠くなった。体が思う様に動けないし、なんだか頭が生暖かく感じる。
『ーーーー!』
誰かが叫んで、私を引き上げた。ぼやける視界の中、だんだんと私を抱えている人が見えてきた。
流れる様な艶のある黒髪に私と同じ狐耳、そして、少し大人びいた私によく似た顔立ち。それは姉だった。
「…………お姉、ちゃん?」
「その呼ばれ方は久しぶりだね。大丈夫、小鈴は私が守るから」
姉はそう優しく言った後、私を降ろして男達に向き合い剣を構えた。
「貴様……………どうやら早死にしたい様だな」
「大事な家族が目の前で傷つけられて誘拐されそうになっていたら、何がなんでも助けるのが当たり前でしょ!」
姉はそう言って男に斬りかかった。姉の《魂武具》は取り上げられているからあの剣は異能で作った即席の剣だろう。
姉は確かに凄い人だ。けれど、それは一般人の中においてだ。現に………
「…………さっきまでの威勢はどうした?」
「ーーーうぐッ」
姉は男に圧されている。相手は実戦を重ねている者だ。さっきまで戦いとは無縁だった姉には敵うはずが無い。
そして、
「ーーーーはぐッ!」
姉は肩口から斬られた。幸いにも剣が盾になってくれたおかげで傷は浅いけど、衝撃で倒れ込んでしまった。
男はそのまま姉を蹴り上げて、腹を踏みしめた。
………………やめろ
「まったく手間取らせやがって。中途半端に技術があるからやりずらいにも程があるぞ」
男はそう言って、姉の腹に乗せている足に力を入れる『やめろ』姉はそれで悲痛な叫びをあげる『ヤメロ』
「まぁ、見せしめにはいいか。……全員よく聞け!俺たちに歯向かえばどうなるか、今見せてやるからな!」
そう言って男は剣を逆手に持ち、姉に突き立てる体勢を『ヤメロッ!』
その瞬間、私は自分の《魂武具》を顕現させて、一気に間合いを詰めて横凪に斬った。すると姉の上に乗っていた男の上半身が喰われた。
「ーーーーえ」
目の前で起きた人の死に姉は呆けた様子になり、少し遅れて悲鳴が体育館内に響き渡った。
姉が返り血で汚れない様に鎌の腹で私の方へと流したおかげで、私は血塗れだ。
(…………鉄臭くて、生暖かくて、生臭い。嫌な匂いだ)
私は頭でそう考えながらテロリスト達を見る。どうやら彼らは私がここまでやるとは思っていなかった様で、困惑と焦りの念が伝わってきた。
……………彼奴らの目的は私だ。正確に言えば私の異能だろう。あまりにも危険過ぎるから、私も自主トレ以外では使った事がない。
「貴方達、私が欲しいんでしょ?だったら、あげるよ。ただし、ーーーー生き残れればね」
私はそう言ってチョーカーを外す。
………………やっぱり私は現金だ。
お姉ちゃんが傷つけられて、はじめてお姉ちゃんが大切だったんだと気づいた。
別に私自身、どうなろうがどうでもいい。家族さえ無事ならば。けれど、彼奴らは私の家族を傷つけた。
そんなことまでして欲しいなら、ソノミデアジワエバイイ。
さぁ、おきろよ、"私"
 




