04
「ーーーーハァッ!セイッ!」
私は橋の下で"日課"である《魂武具》の素振りをしている。
私の"日課"とは自主トレだ。ランニングから始まり、ランニングが終われば人目のつかない場所で《魂武具》の素振りをする。
小太刀や手斧タイプならよかったけど、私の《魂武具》はかなり大きい。
《魂武具》はその人の内側の具現化といわれていて、人によって形が違う。
姉の《魂武具》は見ていて惚れ惚れする様な美しい刀だ。それだけ姉の内面が優れているというわけだ。
一方で私の《魂武具》は物語の死神が持っている様な禍々しい大鎌だ。全体を鎖と杭で雁字搦めにされており、柄と刃の継ぎ目部分には邪竜の髑髏の如く禍々しい意匠が施されている。そして、刀身は血の様に真っ赤である。
……………………なんでこんな厨二病チックなんだか。
いや、こうなっている理由は私にだってわかる。
だって私がそうしてるから。
「今日も鍛錬とは真面目じゃなぁ」
と黙々と自主トレをしていたら声をかけられた。
「………………また来たの?お爺ちゃん」
振り返らなくても誰だかわかる。私の祖父だ。
祖父は軍隊のお偉いさんで所属はわからないが、どこかの隊を取り纏めているらしい。ちなみに第2世代で切れ味良さそうなほどツンツンの狐耳と尾を生やしている。
「そりゃあ、年若い娘がこんな夜更けに1人でおるのは感心せんからなぁ。もう少し、明るい場所でやったらどうじゃ?」
「…………明るい場所は嫌だ。薄暗い場所がなんだか落ち着く」
「家庭の賑やかな灯りから逃げたいからかの?」
「…………………………」
「もう少し、家族と話したりしたらどうじゃ?ごく一般的な家族にはならなくても、少しはマシになるじゃろ」
「今更、何をしたって遅いよ。あそこはお姉ちゃんの居場所だから。私が居ていい場所じゃない」
「そうか………………」
私が毎日夜遅く自主トレをしている理由はあの息苦しい場所から逃げたかったからだ。
1人なら気楽でいいし。
それに、今更何を話せばいいの?もう全てが遅いんだよ。
「お爺ちゃん。まだ見ているなら離れていて」
「………わかった」
私は祖父にそう忠告して首にしてあるチョーカーを外す。
ーーーードクンッ
私の中にいる何かが活動を始めた。
ざわざわと全身の毛が逆立つ。周りの空気がキリキリと鳴り出した。
『サミシイ』
………………始まった。
『サミシイ、ダレカ』
私は1人でも平気だ。
『ダレモミテクレナイ』
誰かに頼ろうとするな。自分だけを信じろ。
『ガンバッテルノニナンデミテクレナイノ』
それは私の努力が足りない所為だ。そして、努力したところで誰も褒めてはくれないのは知っているだろ。
『ーーそうやって、また逃げるんだね。"私"』
「ーーーーッ!!」
凄まじい悪寒に乗っ取られると感じて、私は慌ててチョーカーを付け直す。すると私の周りには私の"異能"で作られた鉄片が音を立てて落ちた。
「ーーーーハァッーーーーハァッ」
やっぱり駄目だった。
日に日に強くなって来ている気がする。
………私の異能を一言で表すなら"危険"だ。
能力は至ってシンプル。『自身の知識の中にある武器を具現化する』というのだ。剣や斧、金槌、鎌といった凶器を自分の手元に具現化させる異能。幸い、銃とか構造が複雑な物は具現化できない。
能力はそれだけ。けれど、この異能には気づいた時から"何か"がいた。
私ではない私が存在していて異能を使えば使う程、それは表に出ようとしてくる。それは、酷く攻撃的で出てきたら最後、破壊の限りを尽くす。
以前、風邪をひいて制御が甘くなって少し出てしまった。あの時、祖父が間に合わなかったら、私は家族を殺めていただろう。それだけ危険だ。
毎日こうして制御下に置こうとしているが、一向に成果は得られていない。
「ーーーーはぁ」
私はまた憂鬱な気持ちとなる。