表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
幕間〜銀狐の姉は未だ晴れず
32/33

2.5ー3

「………………」



仕事が終わり、暗い夜道を歩いて帰宅している時、いつもならその日の振り返りをするが、この1週間はずっとあの子について考えてしまう。



保全課に配属された新人2人についてかなり噂になっている。



2人揃って美人だというのがもっぱらで、猫耳の方の女性は非常に明るくスタイルは抜群。顔に傷があるが、それが気にならない程の美人出そうだ。



小鈴の方は表情は薄いがふんわりとした優しい雰囲気に守ってやりたいと思う様な線の細さと可憐な見た目の姫的な存在だそうだ。



2人にお近づきになりたいと男衆が動いているみたいだが、彼女達が"保全課所属"という事が二の足を踏んでいる結果みたいだ。



特に小鈴に近づこうとするといつも側にいる相方が人を殺す様な眼力で睨みつけて追い払うそうだが。



そして今日、彼女達の力の一端が見る事ができた。



その日、保全課が訓練所を貸し切りにして『試合』が行われた。普通なら通らない要請だが、保全課に限っては例外だ。ただでさえ戦闘力の高い保全課が他の課の者と同じ場所で行えば被害が出るそうだ。



そうして多くの見物人が観ている中で始まった試合は凄まじかった。



いつもに増して不気味な夜神隊長に対して、殺気により身体の一部が異能により変質している2人。そうして起こった殺し合いさながらの試合。



異能を使うのを躊躇っていたあの時とは違い、完全に使いこなして、しかも応用まで出来ている。ピンポイントで相手の体内にそれも数百以上の対象に対して同時に凶器を生成するのは普通はできない。



そんなこと出来るのは精鋭が集まっている近衛局の中でもひと握りだ。



小鈴は随分と遠くに行ってしまった。



私の手が届かないくらいに声が届かないくらい遠くに行ってしまった。



あの子の側には既に気の許せる存在がいた。



遠くから見えたのだが、小鈴はいつも一緒にいる猫耳の方の女性……名前は日暮 燐に自分の尾を差し出していた。そして日暮 燐があの子の尾に抱きつくと小鈴はまるで布団をかける様にその人を自分の尾で包んでいた。



何も知らない人から見ると仲が良い2人と思えるが、私……というかビースト系の外見異能を持つ者からすると違って見える。



私たちビースト系の外見異能を持つ者にとって、自身の尾や耳は急所にあたる。理由は神経が他の外見異能の者よりも集まっており、加減を間違えれば激痛が走り、酷い時には気絶してしまう。



そのため、耳や尾は他人には不用意に触らせない。もし触らせるとしたら家族か恋人くらいだ。けれど、やはり自己防衛が働くのか滅多に触らせようとはしない。



小鈴も似た様な感じというか触ろうとすると睨みつけて来たから、自分から触らせようとする光景には自分の目を疑った。それだけあの日暮 燐を信用しているのだろう。



10年近く過ごしていた私よりも3年ちょっと過ごしただけの人の方が信用できるというのに私は自身の内側に少し黒い感情が湧き出るのを感じた。



………………いや、私がそんな感情は持っちゃいけない。



私が全部壊してしまったから。あるべき家族の在り方を幼い頃の自分の願望で歪めてしまったから。



小鈴はあの頃よりもずっと明るくなっている。まだ表情は薄いけれど、笑ったり怒ったりと感情を表に出している。



小鈴の幸せのためにも私はもう関わるべきでは無い…………



「ーーーーーん?」



とここまで来て異変に気づいた。



まず周りの景色が霧に覆われた林になっている。首都ではまず見ない光景だ。地面もアスファルトではなく落ち葉が積もった腐葉土になっている。



「………………」



明らかに異常な光景に私は警戒して《魂武具(ソウルウェポン)》を出す。



風も無く、生き物の気配が無い林にはじっとりとした嫌な湿気が立ち込めている。



(…確かヴィランの中には異空間を作り出す種類のものもいた筈。そいつ叩けばーーーッ!?)



そこまで思考して頭上から殺気を感じて慌てて転がって回避する。



そして地響きと共に現れたのは巨大な鳥型のヴィランだった。



体長5メートルほどのフクロウの様な見た目をしたヴィランで翼は目が痛くなる様なギラギラとした光沢があり翼の縁には刃物の様になっている。そして目は赤色で3つあった。



『ルアアアアアアァァァァ!!!!』



フクロウ型のヴィランは甲高い声で叫び、両脚を広げ、獲物を捕らえる様に私に向かって飛んでくる。私はそれを回避してそのまま右翼を斬りつける。しかし、私の刀はガキンッと音と共に弾かれる。



「っ硬い………」



下級のヴィランならば今のである程度傷を負う。しかし、このヴィランの翼に生えている羽根はまるで鉄の様に硬かった。



(…………大きさからしてC級、いやB級?どちらにせよ早く対処しなきゃ!)



このまま放置すれば更に被害が拡大する。応援を呼ぼうにも通信が完全に途切れているからここは私1人で対処しなければならない。



と攻撃を避けられたヴィランはフクロウの威嚇の様に嘴を鳴らし体を膨らませて前かがみになって、翼を大きく広げて見せた。そして、



『ルアアアアァァァァ!!!!』



空気を引き裂く様な非常に不快な叫びをあげた。



「ーーうぐッ!」



即座に戦闘態勢に入ろうとしたが、足に力を入れた瞬間強烈な眩暈と吐き気に襲われた。立つ事も儘ならない状態に陥り、私は膝をついてしまう。



おそらくこれはあのヴィランの能力だろう。あれの叫びには脳に何かしらの影響を与えて獲物を行動不能にする音波か何かが含まれているのだろう。



でなければ私のこの状態に説明がつかない。



動悸も激しくなり、呼吸も乱れていく。危険なヴィランの前なのに身体がいう事を聞いてくれない。



ヴィランは不快な叫びを止めようとはせずにゆっくりと私に向かって歩き出した。



…………………あぁ、私は殺されるんだ。



頭の中の冷静な部分がそう言った気がした。ヴィランは理由は定かではないが人間を優先的に襲い、ただ殺していく。そう、捕食ではなく殺すのだ。



…………私は次の日にはどんな姿で発見されるのだろうか。



ズタズタに引き裂かれて原型を留めていないかもしれないし、そもそも見つからない可能性だってある。



遂に目の前まできたヴィランはその鋭利な鉤爪が生えた脚で私を切り裂くべく高くあげた。



私はただそれを呆然と見ている事しか出来なかった。もう助からない。だから、最後に誰にも届かないけれど、ずっと言いたかった言葉を言う。



「ーーーーごめんね、小鈴」



そしてヴィランはその高く上げた脚を私に向かって振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ