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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
幕間〜銀狐の姉は未だ晴れず
30/33

2.5ー1

〜side本条 美也子〜




またあの夢だ。



暗い場所を私は走っている。



何かから逃げている。



何かは耳障りな音を立てて周りをザリザリと削りながら迫ってくる。



『ギィヤヤヤヤヤヤッ!!!』



またあの咆哮だ。金属同士が擦れ合う様なやけに耳に残る咆哮だ。あの子の拒絶の叫びだ。



その叫びに私の身体はまるで石になってみたいに動かなくなり、転んでしまう。



後ろには剣や斧といった武器で身体が構成され金属の巨大な化け物がゆっくりと私に向かって歩いてくる。



声を上げようにも喉がひりついて声が出なくて、逃げようにも腰が抜けて足がもつれてしまう。



『ギィヤヤヤヤヤヤヤヤヤッ!!!』



そして、あの日と同じ様に化け物は金属同士が擦れ合う様な咆哮を発して、私に向かってその顎を広げて喰らい付き、そこで意識が途切れる。




***




「ーーーーーッ!!ーーハァ、ーーハァ、…………………はぁぁ」



飛び起きて周りを見渡してそこが自分の自室である事にひどく安心感を覚えた。



カーテンの隙間から僅かに見える光から朝とわかり、時計を見ると4時を指していた。



全身が悪夢による寝汗でぐっしょりと濡れていて気持ちが悪い。



とりあえず私は嫌な寝汗を流す為にシャワー浴びに浴室に行く。



「……………………はぁ」



私は小さくため息を吐いて項垂れる。



あの化け物に襲われる夢を見る様になったのは3年前の"あの日"からだ。小鈴に拒絶されて、あの子が創り出した金属の化け物に襲われたあの日からだ。



はじめのうちは毎日の様に見たけど、ここ最近はふと気を抜いた時に現れる。まるで、忘れるなと言わんばかりに……………。



……………………忘れるわけがないのに。



ーーーあの日。



私は死んだかと思った。済んでの所で叔母が小鈴に即効性の鎮静剤を投与した事で異能の効果が切れて化け物を模した武器の塊は消えた。



けど、あの量の金属の塊が私目掛けて降ってきたから私も無事では済まなかった。私は意識不明の重体に陥り、回復した頃には全身傷跡だらけ更には左目が失明した。



助かったことに両親は喜んでいたが、私はあのまま死んでいれば良かったと思った。死んで償いたかった。私のせいでこんなことになってしまったから。私がいなければ小鈴も笑って過ごせただろうから。



けど、それはただ逃げているだけだと思い至った。



確かに死んで償う事は出来るけど、それきりだ。たった一度だけでは意味がない。



私は最悪な形で小鈴のことをあの子の信頼を裏切ってしまった。



この身体の傷跡と左目はあの子を裏切ってしまったことによる罰の1つ。小鈴にはもう二度と会えないけれど、私は生きて償おうと決めた。



それから私は必死になって鍛錬や勉学に励んだ。それ以外はいらないと言わんばかりに。もし、もしまた会えたとしたらちゃんと前を見て謝りたいから。許されないとしてもちゃんと謝りたいから。



そのおかげと言ってもいいのか私は炎帝国軍近衛局に入隊することができた。炎帝国軍近衛局はこの国の中枢といっても過言ではないほどの重要な場所であり、炎帝国の治安維持の為の優秀な人材が数多く務めている。



警備課、消防課、交通課、医療課、技術課、保全課の6つに別れており、私は警備課に配属されている。



警備課は都市の人々に1番近い軍警で都市の警備や事件の解決、災害対策、雑踏警備などを担当している。



シャワーを浴び終えて、着替え終わった後私は朝食を食べて仕事に向かった。




***




警備課の仕事は事件がない時は基本的には解決した事件の資料整理や都市の見回りだ。



私は去年配属されたばかりで資料整理ばかりだ。



「………おはようございます」



私は慣れてきた職場である資料室入り、挨拶する。



事件を纏めたファイルが所狭しと収められた棚が大量に鎮座する資料室には先客がいた。



ひょろりとした体格にいかにも穏和と言える容姿の灰色の犬耳と尾を生やした男性。彼はこの職場での同期である御上(みかみ) (さとる)だ。



「あ、おはよう本条。……………なんか顔色悪いね、どうしたの?」



「………いつもの寝不足。心配しなくていいから」



実際にはちゃんと寝れているが悪夢のせいで寝た気に慣れていない。



「そっか………。あ、そうだ。本条は聞いたかな?保全課に新しい人が来るみたいだよ。それも2人」



「2人も?あそこって確かあの不気味な隊長がスカウトしなきゃ配属できないんでしょ?一体誰が………」



近衛局には暗黙の了解がいくつかある。



その中の1つに『保全課には極力近づくな』というものだ。



近衛局保全課は別名治安課と呼ばれる完全武闘派勢の巣窟となっており、危険度の高い事件や敵対勢力の鎮圧、ヴィランの殲滅などを行っており、構成員は全員"第5世代"というのも特徴の1つである。



存在自体が危険度が高い為、不用意に近づくと痛い目に遭うというのが近衛局全体の常識だ。



その中でも特に危険なのは治安部隊隊長の夜神という人物だ。



ほとんどの経歴が不明で唯一わかっているのは軍治安当局局長である本条将軍、つまりは私の祖父がスカウトして来たことと戦闘に於いては"近衛局最強"であるということだけ。



ひとたび戦場に出ればあるのは蹂躙のみと言われている。



「そうそう。あの保全課に配属されるなんて一体どんな第5世代なんだろう。できれば大人しい子が良いなぁ………」



悟がそう言うのも無理はない。この資料室には保全課も利用するから厄介事の塊でもある保全課を悟はよく思っていない。



…………とその時、近衛局全域にサイレンが響き渡った。



そしてタイミング同じく警備課の同期が慌てた様子でやって来た。



「おいお前たち!保全課の新人達が長距離人材輸送砲でやってくるぞ!」



「え、今!?」



「そうだ、お前たちも来い!どんな奴が見に行くぞ!」



そうして悟は飛び出していった。私もそれについて行くことにした。

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