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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
新たな同胞との出会い
29/33

2ー11

〜side日暮 燐〜



どうも私は日暮 燐



孤児で第5世代として本条将軍に保護され、直属の軍人候補となり先日近衛局治安部隊に配属された。パートナーの小鈴はそれはもう長い付き合いで今ではなくてはならない存在だ。



………………そして、今私は物凄く機嫌が悪い。



「はあぁぁぁぁ〜〜〜〜………………いいねぇ〜〜、ふかふかだよぉ〜〜」



「そ、それはよかったです………。あの、ボス?あまり、動かないでくださいっお願いですからっ!」



あの試合は散々な目にあった。…………いや、あれは試合だったのか?



気合い入れてさぁ行くぞと意気込んだ直後にあの化け物との熾烈な鬼ごっこだったし。あの空間、逃げても逃げても出口が見つからなくて小鈴なんか途中から涙目になってたし。



まぁ、結構私たちは負けた。



小鈴へのペナルティはどうだか知らないけど、私へのペナルティは今現在進行形で始まっている。



それは小鈴の尻尾をもふもふすることだ。抱きかかえる様に尻尾に包まり、ニヤニヤとして随分とご満悦の様だ。



………………。



「小鈴の尾っぽの毛量凄いね………。やっぱり冬毛?」



といつの間にか側に行っていた葛葉と彩芽がボスと同じく小鈴の尻尾をもふもふし始めた。



「そうだよ。昔はこんなにならなかったけど、あの山岳地帯に住み始めてからこうなっちゃって………」



「なるほどのぉ〜……。地域によって毛並みが違うのはビースト系の特徴かの。………燐はどうなんじゃ?」



「…………私は毛量が少ないからそんなに変わらない」



彩芽に聞かれた私はそう返す。



「ほらほら〜、そんなムスッとしない。別に毎日触っているんだから今日くらいいいじゃないか燐?」



とニンマリとした笑みでボスは私にそう言う。その間、ずっと手は止めてない。



「………………………」



あれ絶対わかっててやってるでしょ。



別にペナルティに関してはいい。私も了承したことだし。しかし、感情は別だ。



なんというか、小鈴が私ではない誰かに盗られたみたいで嫌な気分になる。胸のうちがざわざわとしてそのまま奪い返したくなる。



そう思ったその時、



「ーーーはい、ココア。これ飲んで落ち着け」



と私の机に先日貰ったマグカップが置かれた。中には仄かに湯気たつココアが入っていた。



見上げて見るとそこには時雨さんがいた。



「まぁ、気持ちはわからなくもない。ずっと一緒に過ごした相方が取られたからな。そりゃあ、嫌な気持ちになる。ただ、これからはずっとべったりというわけにもいかんからな。こういう事には慣れていけ」



慣れていけ………か。確かにここはあの山岳とは違う。ここに居るみんなと協力する事が大事だ。仕事で離れることもあるし、どこか妥協も必要………と時雨さんは言いたいのかな?



「……………そういうものですか?」



「そういうもん。ただまぁ、あぁしてくれると夜神の仕事の効率が上がる。なにぶん、夜神の書類整理はナメクジレベルに遅いからな」



そう言う時雨さんの視線の先にはダンボールを机代わりにして凄まじい勢いで書類の山を片付けているボスがいる。



ここ最近見た限りだと書類関連になるとボスはふら〜とどこかに行き、時雨さんに捕まって無理矢理させられていた。その為、ボスの机にはいつも書類が山積みになっていた。



「…………今まではどうしてたんですか」



「そこは保全課唯一のもふもふの葛葉に頼んでいた。ただ、彼女の尾は夜神曰く少し固く煙いらしい。しかし、もふもふが変わるとあぁも変わるものか?」



「まぁ…………、小鈴のはいい匂いで柔らかいですからねー」



私はそう言って貰ったココアに口をつける。ココアは随分と甘かった。




***




仕事が終わり、私たちは寮に帰って来た。



近衛局の敷地内には遠方から勤める人の為に寮がいくつかある。私たちというか第5世代はまだわからない事が多い為、何かあった場合を想定して軍所属の第5世代は寮住まいが義務付けられている。



そして第5世代用の寮には今のところ保全課のメンバーしかいない為、かなり閑散としている。



1人1部屋割り振れられている部屋の中、私はする事なくただベッドに寝そべっている。



「………………はぁ」



別に疲れているわけではない。ただ、こうしていたいから。昼間の出来事でずっとモヤモヤして気分があまり良くならない。



3年間ずっと一緒に過ごしてきて、私の中で小鈴は特別な存在になっていた。



最初はただの直感だった。『この子となら上手くやれる』という感じだった。それがいつしか『側に居るのが当たり前』に変わった。



彼女は私と違い、綺麗な見た目をしている。



表情は薄いが優しくふんわりとした顔立ちに絹の様なさらさらとした銀髪、名前の通りころころと鈴がなる様な心地よい声に全体的に線が細い身体、ふわふわとした新雪の様に白い綿毛に包まれた尾と耳。



私とは殆ど正反対だ。それでも私たちは仲が良いと自負している。



…………だから怖いんだ。小鈴が離れて行くのが。あの孤児院でのことがあるから怖いんだ。



と思いに耽ていると入り口からノック音が聞こえて来た。



「…………誰?」



『私だよ燐。入っていいかな?』



今しがた考えていた本人がやって来たことと少し鼓動が早くなったがそれを無理矢理抑えつけて私は扉を開けた。



扉の先には雑に髪を後ろに纏めたジャージ姿の小鈴がいた。



「……………小鈴。その髪の縛り方、傷みやすいからやめた方がいいって前にも言わなかったけ?」



「そうだっけ?これ楽だからついしちゃうんだよ」



小鈴はなんというか自分の容姿には無頓着で身だしなみとかそういうのは全く興味がない。そんなのに割く暇があるなら鍛錬するっていうくらい。



「ほら、結ってあげるからこっち来て」



私は小鈴を椅子………は無いからベッドに腰掛けさせる。



「ん、ありがとう」



そうして私は小鈴の髪を結い始める。といっても寝やすい様に少し纏めるだけだが。



「というかどうしたの?こっち来るなんて」



「…………別に理由なんてないよ。ただ、こっちに来たかっただけ」



「ふーん………」



まぁ、これはいつも通りだ。小鈴の普段の行動は「なんとなく気になったから」から始まる。故に3年一緒にいる私でもわからないことがある。



私はゆらゆらと揺れる小鈴の尾を抱き寄せて寝っ転がる。



「…………昼間、機嫌悪かったね」



小鈴は私が彼女の尾を抱き寄せたことに驚いた様子は無く、代わりにそう言った。



「っ別にそんなことじゃないよ。あれは正当なものだよ」



「はいはい、そうだね」



私は図星を突かれて動揺を隠す様にいうと小鈴は優しい声でそう言った。



小鈴の側は凄く安心する。あの花の様な匂いに包まれると荒れた心が収まっていく。



「…………………ねぇ、小鈴」



「……なに?」



「…………………なんでもない」



「ふふっ、なにそれ?」



この気持ちは胸のうちに仕舞っておこう。



これは歪んだ私には抱いちゃいけない気持ちだから。



この気持ちを伝えれば、きっと私は小鈴を不幸にしてしまうから。小鈴には幸せになって欲しいから心の奥底に仕舞い込む。





私は…………小鈴のことが友達的な意味じゃなくて性的な意味で好きだ。

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