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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
新たな同胞との出会い
28/33

2ー10

近衛局訓練所は現在貸し切り状態である。



理由は治安部隊隊長の夜神が新人と試合を行う為である。



夜神はほとんどの経歴が不明で唯一わかっているのは軍治安当局局長である本条将軍自身がスカウトして来たことと戦闘に於いては"近衛局最強"であるということだ。



故に彼女が戦闘する際には上層部の許可が必要である。



「さぁさぁ、始めようかふたりともぉ?」



「「…………………………」」



不気味な笑みを浮かべながら優雅に歩く夜神隊長に対して、対戦相手の燐と小鈴は無表情で殺気を昂らせている。



燐は自身の異能により訓練所の床に焦げた足跡が付くほど熱を発しており、夜烏色の髪も白熱化している。殺気も燃え盛る焔の様である。



小鈴は周囲に金属片を浮かべ、尾の纏め紐を解き九本ある尾に金属を纏わせて刃尾に変えている。その殺気は極冬の如く冷たい物。



2人は無言で《魂武具(ソウルウェポン)》を構え、今にも切りかかる勢いである。



「まずは準備運動だね。さあ――来い、私の愛する玩具達」



夜神隊長がそう言うと同時に夜神隊長の背後に巨大な"穴"が現れて人外の生物が現れた。



それは鳥の様な見た目をしているが、体長は10メートルを超え顔の部分には能面に似た仮面が張り付いており、脚は3本で翼は4枚ある不気味な見た目である。



「この子は私が捕まえて調教したヴィランだよ。手始めにどうぞ」



そうして夜神隊長が命令するとヴィランは甲高い声をあげて2人に襲いかかる。



ヴィランの中にもランクが存在する。



まずは犬や猫といった小型のC級。これはその気になれば一般人でも倒すことができるが群を成して来る為、ある意味厄介だ。



次に虎や熊といった中〜大型のB級。基本的に単体かC級ヴィランを従えてやって来るゲームでいうところの中ボスにあたる。



次にキメラなど異形系のA級。出現すれば小さな街に甚大な被害が出るレベルの脅威であり、今回夜神隊長が出したヴィランはこれにあたる。



最後に超大型のS級。街や国家を揺るがす歩く天災であり、確認され次第各国の軍が総力を上げて討伐にかかる。



そんなひとたび都市に出現すれば甚大な被害を生み出すA級ヴィランを小鈴と燐は一瞬目配せした後、小鈴は一歩後ろに引いて、燐は興味無さげに見つめて正面から片手で受け止めた。



燐を中心に突進による衝撃波が背後に流れ、頑丈である筈の訓練所の床に僅かな亀裂を生み出す。



『ーールアアアア!?ーー』



対するヴィランはまさか自身の突進が自身よりも遥かに小さい女にそれも片手で受け止められるとは思いもしなかっただろう。数百キロはある巨体を身を捻り大暴れしているというのに微動だにしない燐にある種の恐怖を抱いた。



「失せろ」



燐は低くそう言うともう片方の手でヴィランの首を掴み力任せに引き千切った。肉と骨が砕けて引き裂かれる音にヴィランの絶叫が訓練所に響き渡り、赤黒い液体へと変わり絶命した。



A級ヴィランが絶命した直後、四方八方から鴉の様なヴィランが数百匹2人に向かって襲いかかってきた。そのヴィランは"弾鴉"と呼ばれるC級ヴィランで名前の如く弾丸の様に飛び、対象を蜂の巣にする。故に軍では要注意ヴィランに区分されている。



銃弾にも等しい嵐にあわや2人は呑まれようとした時、弾鴉達は何故か飛行制御を失いぼたぼたと地面に落ちていく。それらは総じてもがき苦しむようにして暴れており、盛大に血反吐を吐いている。



そして、弾鴉達の身体は先程のA級ヴィラン……名前はルル鳥………と同じく赤黒い液体へとなり絶命した。そのあとに残されていたのは剃刀や釘といった金属製の凶器だ。



そう、一連の流れは小鈴が生み出したものだ。空気中に超微小の金属粉を撒き散らして弾鴉の体内に剃刀などを生成したのだ。生物というのはどれだけ固い甲羅や外皮を持とうと内部はどうしようもない。それはヴィランも同じだ。



「ん〜〜、やっぱり相手にならないねぇ。これは大変だ」



と夜神隊長は言うがその不気味な笑みは崩していない。



その夜神隊長に向かって小鈴と燐は同時に切り掛かった。それは明らかに殺気を乗せて殺しにかかるものであったが、夜神隊長に届く寸前に彼女の周りに赤黒い結界がその攻撃を防ぎ、弾き返す。



「………かなりの力だねぇ。私の"断絶"に少しだけヒビが入ったよ?」



「「………………」」



夜神隊長のひゅうひゅうとした言い方に対して2人は無言で返し、小鈴が大鎌を振りかぶり斬りつける。それを夜神隊長は受け流す様に同時に別方向から斬りかかって来た燐に向けて小鈴を投げ飛ばす。



燐は急に死に体を晒して飛んで来た小鈴を慌てて受け止めた。その瞬間、夜神隊長は容赦なく小鈴の腹に蹴りをいれて燐諸共壁まで吹き飛ばす。



「ゴフッ!?」



「ーーぐッ!?」



小鈴は夜神隊長の豪脚から放たれた蹴りにより吐血し、燐は壁に衝突した衝撃により全身に激痛が走った。



幸いにも燐は小鈴がクッションになったおかげで夜神隊長の豪脚を受けずに済んだが、直に受けた小鈴は内臓に傷を負った状態だ。



「こ、小鈴ッ、無事!?」



「ゴフッ…ゲホッ……、だ、大丈夫。問題、ないッゲホッゲホッ!!」



「ーーーん?なんだい、もうリタイアかい?」



とニヤニヤとしながら夜神隊長はそう言う。



「……………いいえ、問題ないです」



小鈴はそう言って少しふらつきながら立ち上がる。そして再度大鎌を構えて斬りかかろうと足に力を込めた。



「小鈴、無理しないでね」



「わかってる」



2人の頭の中にはすでにペナルティの事など無かった。あるのは目の前の敵にどうやって勝つかどうかだ。2人の目にはギラギラとした闘志が灯った。



夜神隊長はその2人の様子を見て、今日1番の笑みを浮かべた。



「いいねぇ………いいねぇ!やっと乗って来たみたいだねぇ!……でも、そろそろ時間だから終わらせるよ」



夜神隊長がそう言い切った瞬間、彼女の足元の影が爆発して訓練所を包み込んだ。



そして、影が晴れるとそこは別世界だった。



空は血の様に赤く染まり、世界が凍りついたような静寂に満たされており、辺り一帯には枯れて細くなった木々が乱立している。



そして、辺りを満たすじっとりとした殺気。



小鈴と燐の乱れた呼吸音だけが時の流れを告げるその場で唯一つ、蠢くものがいる。



『ーーーさぁ、準備運動はおしまいだよーーー』



真っ黒な外套から出る闇を切り抜いた様な漆黒の翼を広げて宙に浮く夜神隊長はやけに響く声でそう告げる。



蠢く影が炎のようにゆらめき、足元から夜神隊長の体を覆ってゆく。



黒く、深く、果て無く。



漆黒の影が夜神隊長の顔を覆いつくす刹那、その唇がいびつな三日月めいた弧を描くのがはっきりとわかった。



そしてーーーーー。



『ーーーーさぁ、どこまで耐えられるかな?ーーーー』



その口調の軽快さとは真逆の、殺気に満ちた化け物の咆哮が轟き、蠢く漆黒の影は6対の漆黒の翼を持つ怪鳥へと変貌した。



いや、それは鳥と呼ぶにはあまりにもかけ離れた姿をしていた。



全身は赤く黒ずんだ包帯に巻かれており、6対の漆黒の翼には金色の瞳が無数に取り付いている。4つの巨大かつ歪な腕を持ち、頭に当たる部分は鳥の頭蓋骨を無数に纏めた物だった。



『『『アッハハハハハハハハ!!!!』』』



何重にも重なって響く夜神隊長の笑い声。



「「ーーーーーー」」



対する小鈴と燐は両者共に顔を真っ青にして見合わせている。



『ーーーーさぁ、サぁ、サァ!!私ヲ楽しマせてくれヨ!アはハハハハハハハッ!!!ーーーー』



「「無理に決まってるでしょうがぁーーーー!!」」



ーーそうして2時間にも及ぶ鬼ごっこは始まり、2人揃ってしばらくの間、今日の出来事が悪夢として出て来るのであった。

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