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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
新たな同胞との出会い
27/33

2ー9

そこは別世界だった。



空は血の様に赤く染まり、世界が凍りついたような静寂に満たされており、辺り一帯には枯れて細くなった木々が乱立している。



私と燐の乱れた呼吸音だけが時の流れを告げるその場で唯一つ、蠢くものがいる。



『ーーーさぁ、準備運動はおしまいだよーーー』



真っ黒な外套から出る闇を切り抜いた様な漆黒の翼を広げて宙に浮く夜神隊長はやけに響く声でそう告げる。



蠢く影が炎のようにゆらめき、足元から夜神隊長の体を覆ってゆく。



黒く、深く、果て無く。



漆黒の影が夜神隊長の顔を覆いつくす刹那、その唇がいびつな三日月めいた弧を描くのがはっきりとわかった。



そしてーーーーー。




***




〜時は少し遡り〜



「燐、小鈴。今から私と試合をしようか」



冬も中盤に差し掛かり、より肌寒くなってきたある日、夜神隊長が私たちにそんな事を言い出した。



保全課に来てから1週間。私たちは近衛局のあれこれを覚えたり、必要な備品を集めたりして色々と慌ただしかった。そうして、ようやく落ち着いて来た時に夜神隊長のそんな言い出しだ。



「………試合ですか?」



「そう、試合。君たちのことは資料でわかっているけど、やっぱり実際に体験してみないとねぇ?ほら、今後の作戦遂行にも影響あるからね」



夜神隊長の言い分はわかる。



燐とはパートナーだが、常に一緒に任務に当たるわけではない。その場所その都度適正な編成を組んで行動する。



資料で能力とかわかっても癖や対処法などどうしてもわからない部分がある為、夜神隊長はそう言った訳だ。



「でもボス?それなら私たちと誰かが試合してそれを見学するのでは駄目なの?」



「いや何言ってるんだい?こんな楽しそうな事を端から見てるだけなんて私にとっては拷問だよ?」



燐が聞くと夜神隊長はさも当然と言わんばかりにそう言った。



………………この人は楽しいか楽しくないかという事でしか行動しないと時雨副隊長が言っていた。



流石に書類関係はやるそうだが、見る限り非常に遅い。逆に調査や戦闘訓練などは生き生きしている。



「それで隊長。試合ってどこでやるのですか?」



「ここの訓練所さ。上には連絡してあるから早く行こうじゃないか」



夜神隊長はそう言って私と燐を小脇に抱えてスタスタと部屋を出た。それに続いて部屋にいる全員が夜神隊長の後をついて行った。




***




近衛局の訓練所は広い。



流石に山岳支部よりかは狭いが、適度な訓練をするにはちょうどいい広さだ。



普段なら大勢の人がいる訓練所だが、今は誰もおらず静かだ。理由は訓練所の中央に立つ夜神隊長だ。ただ突っ立っている様にしか見えないが、ずっとこちらをニマニマと不気味な笑みを浮かべている。



ちなみに私たちは柔軟運動をしている。



「やばいよやばいよ………、ボス絶対ハメ外すよ………。2人とも生き残る事だけを考えてね?でなきゃ、マジでやばいから!!」



と青い顔して慌てる葛葉。



「そんなに?なら、私たちも久しぶりにハメ外そうよ小鈴!」



「………はいはい、わかったよ」



「…………なんかやる気ないね小鈴。やっぱり乗り気じゃない?」



「……………そんなところ」



正直言ってあまり乗り気ではない。昔の様な拒否反応は無いけど、戦闘は出来るだけ避けたいという気持ちは変わらない。



「ーーーどうやら小鈴は乗り気じゃないねぇ?」



「ーーぴっ!?」



といつの間にか目の前に不気味な笑みの夜神隊長が居て思わず変な声が出た。



「困るねぇ?本気になってもらわないと正確な数値は出せないよぉ?」



「いや、そう言われましても………。癖というかなんというか………」



「んん〜〜〜…………、よしこうしよう。君たちが私の攻撃に耐え切ったら、私が1つ願いを聞こうじゃないか。なぁに、食べ物でも物でもなんでもね。ただし、耐え切れなかったらペナルティを与えるよ?」



と夜神隊長はそんな風に提案して来た。



「ペナルティ?一体なんなんですかボス?」



ペナルティに疑問に思ったのか燐は夜神隊長にそう聞いた。



「そうだねぇ………。燐の場合は小鈴を私の好きにするよ。尻尾をもふったり弄ったりね。どうだい?」



「ーーーーーーーは?」



夜神隊長がそう言った瞬間、隣の燐から一気に凄まじい熱量が放出された。顔を見て見ると表情は抜け落ちて完全に目が据わっている。ブチギレ案件だこれ。



「いやボス。なんで私が景品なんですか」



「ん〜?いや、燐は君に執着しているみたいだからねぇ。どうやら正解だったみたいだ。それで小鈴に対しては……………君、確かお姉さんが1人いたね。名前は本条 美也子だったかな?彼女は今この近衛局に勤めているんだけど………ちょっとちょっかいでもかけようかなぁ?」



「ーーーーーーーー」



カシャン、カシャン……………



久しぶりに"あの音"が私の中で木霊する。"獣《私》"が出てこようとしている。身体が氷の様に冷たくなっているのに頭が心臓が炎を纏った様に熱くなっていく…………



「やる気になった様だねぇ。さぁ、始めようか」



そうして試合は始まった。

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